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第10話 勉強会編その5 誰だって心の拠り所が欲しいに決まってる

ぢゅらおです。

最近深夜にラーメンを食べに行く習慣がついて、顔が浮腫んできました…

「ところで来人くると様。私はどこからお教えすればいいでしょうか?」

「あの...その前に1つ」

「はい? なんでしょうか?」

時雨しぐれさんは高校1年生という認識でいいんだよな?」

「はい。同じ学校でもあります」

「じゃあさ──────」


 目の前にいる時雨の顔を見た後、天を見上げ声を上げる。


「高校1年生の時点で高校3年生の範囲まで勉強終わってる時雨さんと俺の違いはなんだよ!?」


 机の上に勉強道具を広げていた時雨は頬杖をつきながら来人からの無駄な質問に対し真剣に考える。


「そうですね...強いて言えば私に趣味がないことでしょうかね」

「しゅ、趣味?」

「はい。来人様は聞いた事によると美少女ろ、ロリ? ゲームが好きだと聞きまして」

「─────誰から聞いた」

「と言われましてもその方から『俺の名前は出してはダメだからな』ときつく言伝されてまして」

「大丈夫。理解した」

「あ、趣味についてですか?」

「晃太郎についてだ」

「・・・」

「時雨さんには迷惑をかけない。ただ少し友達から犯罪者が2人生まれるだけだ」

「・・・1人では?」

「─────とにかく! 俺別にそういうの好...大好きではないから!」

「なんで言い直したんですか...」


 別に隠す必要も無いのにと微笑んだ時雨は来人が持ってきたバッグの中身をチラリと見た。


 そこには筆箱、ノート、そしておやつだけ入っていた。


「あ、あの!? 来人様?」

「はい! 急にどうした!?」


 急に転調した声を出した時雨に来人はドキドキしたが、時雨の目線の動きから咄嗟に判断し額を地面に擦り付けた。


「面目ねぇ...面目ねぇよ─────」

「あの。まだ何も言ってないですし、怒るとかじゃないですよ?」

「違うんだ。俺全部置き勉してるタイプの人間だからさ...引き出しの中に入ってるやつ全部持ってくれば勉強道具揃ってると思ってたのに...さっきバッグ開いたら全教科のノートしか入ってなかったんだよ───」


 自分に頭を下げながら号泣していて何も言っていないのに謝ってくる。そんな男子高校生(16才)を見て誰もが嫌悪感を抱くだろう。しかしここに例外が1人。


「大丈夫です。来人様。私はあなたの全ての過ちを許します」

「あ、あなたは聖母!?」


 そんなはずはない。目の前にいるのは時雨という一般女子高生なのだが、現在の来人の反省フィルターを通して見ると時雨が聖母に見えている。聖母シグレリアの誕生である。


「いえ。私はあなただけが認識できるあなたのことを全肯定する者です」

「あぁ。お父さんお母さん。俺はやっと神という者を信じることができそうです...」

「さぁ。あなたの罪私にも背負わせて─────この私の胸に飛び込みなさい」


 最後がもはやお告げではなく命令になっていた事に信徒状態の来人が気付く訳がなく、1歩1歩ゆっくりとしかし着実に時雨に近付いて行った。


(ふふふ。さぁ来人様。これであとは私に抱きつけばもう私の勝ちです。既成事実を作ってしまえば逃げられませんよ?)

 と神も恐れる作戦を実行している時雨。


 顔は冷静に。しかし内心は自分の好きな人が近付いて来る事に鼓動が収まることは無く、手には汗が少し滲み出ていた。


「さぁ来人様。私のところへ!」

「なーにしてるの!!」


 ぴょーんと飛んだ来人を手に持っていた枕でボールのように打ち返したのは余程急いできたのか髪が荒れている紗奈花さなかだった。


「・・・ちっ」

「え? 誰か舌打ちした?」

「いや? 誰も。それよりお姉ちゃん」


 自分の願いが叶うまであとちょっとという状態だったのに姉によってお預けを食らった時雨は頬を膨らませてジト目で姉を睨んでいる。


「なんで私の部屋に入って来れたの...」

「なんでって。別に鍵が開いたから」


(開いたから?)

 少し違和感があり、扉の方に目を向けるとそこにはドアノブを持ったはなが舌を出して「てへっ」と反省の気持ちなんて微塵もない謝罪をしていた。


「...要するに花ちゃんがドアノブを引っ張ったら開いちゃったってことだよね?」

「けどね! 私だって壊したくてやった訳じゃないんだよ? ただ中からほんの少しまずい雰囲気が流れ出てから思わず力込めすぎたっていうか...」

「まぁ鍵閉めた私が悪いしね。気にしなくていいよ────花ちゃんは」

「『は』って? 『も』じゃなくて?」


 襟を掴んでうっすら涙を含んだ目で謝っている紗奈花の首を少し強引にベットの方向へと向けた。


「とりあえず来人様を起こしてよ」

「...これを?」


 先程までの涙はどこへ行ったのか...目を細めそこに倒れている来人を見下しながら答える。


「2人っきりになった瞬間私の可愛い妹を襲おうとしてたこの犯罪者を起こせと?」

「・・・」

「あ、あれ? なんで返事しないのー?」


 時雨の顔の目の前で手を振ってみたが、その視線は手ではなくどこか遠くを見ていることに気付く。


 そして紗奈花は時雨の手元に目線を落とすと『催眠術〜入門編〜』と書かれている本を見つけた。


「・・・時雨」

「・・・」

「もしかして、襲おうとしてたの来人じゃなくてあなた?」

「────黙秘で」

「時雨分かりやすいんだから。目が泳いでるよ?」


 言葉通り視線が落ち着かない様子の時雨を見て花は優しく声をかける。


「時雨ちゃんは悪くないよね? 来人が催眠にかかりやすいのが悪いんだもんね?」

「・・・! そうだよ! 来人様が悪いんだもん!」

「むむむ。言われてみればかかりやすい来人が悪いのも一理あるなぁ」


 眉間にしわを寄せ来人のことを見つめる紗奈花と言葉では来人を責めつつ目線は向けることが出来ない時雨。それにおもちゃを見つけた様な目で見つめる花。


 三者三様の景色を薄目で見ていた来人は決心する。


(こいつら絶対許さん)

 怒りを溜め込んだ来人は寝るつもりはなかったのだが、様々な疲れが一気に流れ込んで来てそのまま意識が遠くなっていった。







(あれ俺、何してたんだっけ)

 暗闇で視覚が奪われている中、来人は手の感覚でズボンに入れたままのはずの自分のスマホを探した。そしてスマホの画面を見ると時間はおよそ3時。覚めていなかった意識もだんだん覚醒し、自分の状況を確認し始めた。


(あ、俺。紗奈花に枕で殴られてそれから...)

 ポスッと不意に自分の横に下ろした手から何やら柔らかい感触を感じる。


「ん、なんだこれ」

 ボソッと呟き手で確認してみるがよく分からない。もう一度触ってみようとしたところでいきなり聞こえた声に反射的に寝たフリをしてしまう。


「ん...」


(あ、これ...もしや!?)

 反対側の手に持っていたスマホの画面の光で逆側の手の先を照らしてみる──────そこには時雨がすやすやと横になっていた。


「(おい! 俺はじゃあ今添い寝してたのか!?)」


 口では言葉に出したつもりだが、無意識の来人の制御装置がそれを許さなかった。結果他人の目から見たらただの口パクになっていた。


「(思い出した! 紗奈花に殴られて後で仕返ししようと思ってたらそのまま寝たのか!)」


「んん...」


 時雨がこぼした声に来人は出してもいない声を塞ぐために口に手を当てる。


 今は起こさないことが最善の策だ。と考えた来人は元のようにベットに横になる。かろうじて顔の向きを反対側に向けることには成功したが意識は常に後頭部に注がれていた。


「...ゆる、むにゃむにゃ」


(え? 何言おうとしてたの!?)

 服が汗を受け入れられる範囲を越えようとしていた時、部屋の扉がキィッとゆっくり開き1つの人影が声を細くしつつ来人に声をかける。


「...来人起きてる?」

「はい?」


 隣にいる時雨を起こさないように体を起こした来人はその姿を見て声の正体を知る。


「こっちこっち」

「花さん? どうしたんだよ急に。というかこんな夜遅くに」

「いいから1回こっち来て...」


 手招きする花に疑問がひらっとしたが、すぐに隣にいる時雨を指さして伝える。


「そっち行くにも何も...時雨さんがここにいるから無理だって」

「大丈夫。時雨ちゃんは1度寝たらしばらく起きないらしいから」


(・・・起きたらとりあえず花さんのせいにしよ)

 観念して少し無理やりにベットから出た来人だったが花の言った通り時雨が目を覚ます事はなかった。


 ※※※※※※


「でここまで呼び出して何の用だよ...」

「んー。暇だったから?」


 無事花と合流できた来人は庭にある腰掛けに花と2人で座っていた。


「暇って...そもそも寝てないのかよ」

「寝たけどねー私枕が変わるとあんまりよく寝れないタイプなんだ〜」


 ケラケラと笑う花に「なんだそれ」と思いつつ、花につられて来人も愛想笑いをうかべる。


「実際はちょっと聞きたい事があってね〜」

「聞きたい事?」

「そ。あ、これ結構冗談抜きの質問だからね」


 花らしい楽しさの感情を含まないその顔に来人は先程感じた疑問を思い出す。


(そっか。さっき声だけで花さんってわかんなかったんだ)

 花とは高校入学以来の付き合いである来人が花とそれ以外の声を判別出来ないなんて事は決してなかった。


「俺と花さんの付き合いだしな。たまには本音で語りたい時もあるだろ。・・・まぁなんでも聞いてくれ」

「じゃあ言うけどさ...」

「─────」

「・・・? 俺、耳遠くなったのかなぁ。ごめんだけどもう少し大きな声で」

「いや声聞こえないようにする事に私が意識し過ぎたかも」


 深く息を吸いそして吐いた花の顔には言葉で言い表せないような複雑な感情が浮かんでいた。


「・・・好きn」

「は?」


 花が言い終わる前に声を出してしまったせいで最後まで聞き取れなかったが来人にはその2文字だけで十分な意味を持っていた。

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