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ようこそマクロ評議国へ

 馬車が揺れる。

ジルを拾ったプラムが、ワゴンタイプの荷馬車で

城を出ようとしている。

俺も後の荷台へ潜り込もうとした時、

足を斬られた。

倒れた俺は滅多刺しにされ、そして今。

散らばったパーツを拾い集めたプラムが、

シートで俺を繋ぎ合わせてくれている。

ちなみにヒナは、御者台で手綱を握っている。


「ヒナちゃん、無茶苦茶するなぁ〜。

普通の人間やったら死んでるで」


「大丈夫?」

荷台の隙間から、ジルが心配そうに覗いている。


……大丈夫。っと言いたいところだが、

まだ喉がつながっていないので喋られない。



どうにか人のカタチになったころ、

馬車は首都を囲む門までたどり着いていた。


門番の他にも騎士団長のドノバンが、人の出入りをチェックしていた。


「やぁ、生が出るね」

プラムが御者台のヒナの代わりに挨拶する。


「なんだ、勇者様はプラムの荷馬車でご出立か?」

中を覗くドノバンに、俺も顔だけ出す。


「王城に族が入ったそうだが、

お前らなんか知らないか?」


「ああ、確かに城でゴタゴタしていたような

してないような」


「プラム。なんで方言(なまって)ないんだ」


「なんや、そんなわけあらしまへんがな」


その時ドノバンは、モソモソする荷台に気が付いたが

隙間から覗いた細い足に全てを悟ったようだった。


ドノバンは怪訝な顔をしつつも、荷馬車をそのまま

外へ通した。

途中「行ってしまうのか」と、口をついた。

その一言は、独り言のようであり

荷台に向かってしゃべっているようでもあった。


荷台の中では手を合わせたジルが泣いていた。


門の外はすぐ森が広がっている。

森に入ると荷台からジルが出てきた。


「ほら九条、ジルが乗るんだから

あんた降りなさい」

御者台から、ヒナの声がする。


「いえ、私は大丈夫です」

そう言うとジルは「チッツチッツチッツチッツ」と、

森に向かって高い音を出す。

しばらくして、草むらからでっかい猫が現れた。


ヒナは、目を輝かせている。


「よしよし、いい子にしてた」

ジルが撫ぜると、目を瞑って嬉しそうに首を傾ける。


その背中にジルが乗ると「行きましょう」

と声を掛ける。


「いいなぁ」

「ヒナちゃん、声に出てっせ」

「私も乗せてくれないかしら」

「そら無理やろ。

あの大猫種は、子供の頃から一緒に暮らしてへんと

懐かへん」

「でも、ワンチャンありませんこと」



ゴバタ王国を出て二日がたった。

途中シュナイデル公爵家の私兵に絡まれたが、ほとんど俺が風魔法で遠くへ吹き飛ばした。

その他はヒナとジル、それにニケの活躍により殲滅している。

人の肉の臭いを嗅いでいるニケをジルが叱った以外は、おおむね良好だ。

……人の命の値段が安い。

人命がなにより優先されていた世界が、いとおしい。


隣のマクロ評議国まであと僅か、というところ。

ヒナはずっとニケに乗ろうとしている。

「もう諦めろよ。ニケ嫌がっているだろう」

「そんなはずありませんわ。私がこんなに愛おしく思っているのですもの、

ニケも私のこととおーっても好きに違いありませんわ」

ニケがフレミング反応を示す。


「ヒナ、もうすぐ門が見えるはずです」

そう言ったジルが首をひねる。


カラカラと荷馬車で後から付いてくるプラムが、立ち上がって「門番がおれへん」と、コレまた首をひねる。


「何かあったのか……」ロッドに力を込めて辺りを見回すが、コレといった気配はない。


全員が門の前までたどり着くと、ノソノソとくぐり戸から

門番が出てきた。

「ああ、これはこれは◯◯商会の若旦那。」


門番はくぐり戸の奥へ向い

「おおい、イージス商会の坊っちゃんだ。

門を開けろ」


「まァ、顔パスですのね」


「それにしてもなんで門番が立ってないんだ?」

自然と質問が浮かぶ。


「そんなの、こっちの門から入ってくるのなんか

ほとんどゴバタ国の人間じゃないか。

なら、来てから開けても問題ないだろう」


内側(こっち)でカードもできるしな」

「そうそう、ゴウイ的だっけ?今度、召喚された賢者様がおっしゃっていたよ」


「合理的って言いたいのかなぁ。

少し違う気がするけど」


「そうそう合理的、合理的。お前ら頭いいな」


なんだろう、この弛緩したような感覚は……。

漠然とした違和感が漂う中。


門番が、宰相の用意してくれたパスを確かめた。

「おお!お前らも勇者様か。

歓迎するぜ。ようこそマクロ評議国へ」


「なぁ、俺とヒナ以外にも勇者って」

また勇者が現れた。


「またもなにも、各国におるで」

馬車が門を潜って行く。


「ああ〜」

門を潜った瞬間、

何か言おうと思った事がどうでもよくなった。

なんの疑問を持つこともなく。

「まァいいか」





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