ゴバタ国王暗殺
キューン・カキュン・キューン
ジルがどれだけ打ち込んでも、
まったくゴバタ王に剣は届かない。
余裕。本人もあくびのマネをする。
「おうおう、汗までかいてあの女のようだのう。
ほっほっほ!
昨夜も可愛がってやったわ」
「クソぅ」
後からもマーティ・ランバード近衛隊長が、
ガンガン剣を撃ち込んでいるが全て弾かれている。
王様がマーティの後に控えている
近衛兵二人にも声を掛ける。
「そういえば、お前たちも朕に
恨みを持っておったの」
少年の様な者には
「確かお前の母親は、一晩だけ相手してやった」
痩せて目ばかりギラギラさせた男には
「そっちは……、そうじゃ。
領地を公爵家へ譲渡させた男爵の息子だったか」
二人は目だけで射殺さんほど王様を睨見つける。
「隊長!我等も……」
「ならん!理由はどうあれ死罪は免れない
お前たちは手を出すな」
「なにを言っておる。
見ているだけで、朕を助けなんだだけで、
死罪じゃ」
「きさま、絶対に殺してやる」
「フン!世迷い言も飽いたわ、
家の兵士は何をしておるか出あえ!
衛兵!衛兵!コッチじゃ」
どこからか、ざわめきが聞こえる。
もはや時間がない。
……と、ここで王様の胸からわずかに
血しぶきが上がった。
「うぎゃ~!」
先程の余裕はどこへやら、赤子のごとく
泣き叫ぶ。
「痛い痛い、なぜじゃええい止めよ」
次々とレイピアの先が王様の胸を刺していく。
「なぜじゃ?ええーぃ!
早ようこんか!」王様も脇差しを抜いて振り回すが、
二人には当たらない。
ざわめきが近づいてくる。
「王様!どちらに」
公爵家の私兵だ。
俺はヒナの頭の上に置いた手に力を込める。
プラムの作戦通りヒナが指を絡めた聖剣を王様の前に投げた後、ゆっくりと引き戻す。
この時、王様の足元まで来たら指を王様の靴に取り付かせて、指に向かって腕を伸ばし手で掴む。
後はヒナの頭から腕先に向かって、
俺が魔力を吸いあげればいい。
が、これが中々上手くいかなかった。
小さな穴のストローで目一杯吸っているようなもので、
わずかずつしか吸い取れない。
しかし王様が、油断してくれたお陰で間に合った。
もう少しで無力化できる。
俺は更に力を込める。
マーティ近衛隊長は、両手で剣を王様の首に宛てがう。
徐々にではあるが、剣が首に食い込んでいく。
「うごがごが……」
言葉にもならない声を漏らす。
ジルのレイピアが1センチ、
2センチと深く刺さってゆく。
その剣先が心臓を貫くと同時にマーティの剣が
王様の首を飛ばした。
大量の血飛沫を撒き散らし、
王様であったものは膝を折ったままの姿勢で死んだ。
復讐は終わった。
俺は吹っ飛んだ王様の首からヒナへと視線を移した。
と、その瞬間の事を俺は一生忘れない。
魔力を早く吸い上げる為に力を入れた。
……結果。
俺の指が、鼻フックをかけた状態に
なっている事をヒナの殺気を込めた両眼を見るまで
気づかないなんて。
咄嗟に腰に差してあるロッドを引き抜き、
魔力を込める。
ヒナの手はすでに王様の足から離れ、
聖剣を掴んでいる。
ものすごい勢いで戻ってくる聖剣を横目に
出た魔法は?
「なんだコレ」
思いっきり風魔法で横に逃げるつもりが、
そう言えばジルに貸してたんだっけ?
イカ墨の様な黒く細かな霧が辺りを包んだ。
兎に角逃げねば、身を低くして……っと
ブオーン
頭スレスレを聖剣が通り過ぎる。
「く、じ、ょー!」
怖いよ。
俺は何発もイカ墨を連発した。
「王様!どちらに。
ご無事ですか」
公爵家の私兵がやって来たが、辺りは黒一色。
この隙に外まで逃げよう。
俺は兵士達の中に潜り込んだ。
うぎゃ~!
「敵襲!敵襲!王様の安全を第一に」
「団長。何も見えません」
うぎゃ~!
「おのれー!」
うぎゃ~!
怖い怖い、誰彼なしに薙ぎ払ってらっしゃる。
ただ、九条本人も知らなかった。
同じ魔核で作られた二人は、なんとなくでも
相手の位置が分かることを。




