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異世界転移?

 日もまだ昇らない早朝、パン屋のジョゼフは生地を釜に叩き込むと裏口の戸を

開けて一服しに外へと出た。


パン屋の裏手には勇者の丘と呼ばれる小高い丘がある。

春はタンポポ、秋にはコスモスが咲き誇り家族づれやカップルがシートを広げて

お茶を楽しんだりする。

憩いの場だ。


 ジョゼフがぼぉーっと朝靄が立つ丘を見ていると、

気のせいか丘の上に何かあるような気がする。

咥えたばこのまま丘を登っていくと、そこには剣が刺さっていた。

「どれ」

と、引っこ抜こうするがビクともしない。

たばこを投げ捨てて、両手で引っ張るもダメだ。


 それを通りかかった農家のフレミング夫妻が見ていた。

ジョゼフの必死さに嫁のパプリカは笑いだし、夫のズッキーニは嫁に良いところを見せようと

丘へと登っていった。


「選手交代だ」なかばジョゼフを押しのけるようにして

ズッキーニは両手でその剣をシッカと掴むと、

丸太のような腕を真っ赤にして引っ張る。

……も、やはりビクともしない。


「あんた。しっかりしなよ」

くっ、嫁の叱咤激励に全力をつくすも結果は同じだ。

それどころか真っ赤に浮き上がった血管が紫がかってきている。

「がっはぁ~」っと声にならない呻きと共に後ろへ倒れた。


「おい、あんた大丈夫かい」ズッキーニはジョゼフの声に反応がない。

「あんた~」パプリカも駆け寄る。


と、それを丘を挟んで反対側の城壁沿いを

ジョギングしていたマルデモンド男爵が気付いた。

 

マルデモンド男爵は丘へと駆け上がり、三人を無視してしげしげと剣を見ている。


意識を取り戻したズッキーニと嫁、それにパン屋のジョゼフはもちろん次は

貴族様がチャレンジするものと黙って見ていたが彼はなにもせずに慌てて

城門の方へと走っていった。


 城では朝食会の準備が進められていた。

王都に居る貴族はそれほど多くはない。

平和な日々、定例議会の内容も大したものはない。

政治は宰相に任せっきりでやることがない。

なので、会議とは名ばかりの朝食会が毎朝ひらかれている。

ほぼ、おしゃべりするだけの場である。


そこに、ぜいぜいと息をきらせたマルデモンド男爵が駆け込んできた。


「た、大変ですぞ~。たいへんで~」


「騒々しい、何事か」シュナイデル公爵が邪魔くさそうに顔を向ける。

この男公爵であり、尚且つ王様の弟である。

態度がでかい。

その声も聞こえないのかマルデモンド男爵は、王様の前まで来ると


「王様。一大事にございます」

その様子に周りの貴族たちもざわめき出す。


「何事か、早う用件を述べよ」

「はっ、勇者の丘に聖剣が顕現致しました!」

ざわざわと色めき立つ場内、なんのイベントもない田舎の小国において

近年まれに見るビッグイベント。


「魔王復活の時、魔素があふれだし世界は暗黒の時代を迎えるであろう。

しかし、あんずるなかれ召喚されし勇者が聖剣を取り魔王を打ち倒さん。

……古文書に記載されし聖剣に間違いな、がはっごほ」

マルデモンドが咳き込むと

そこへ横からメイドが水を差しだしてくれた。


「おおっ、気の利くメイドではないか」

グビグビとあおるように飲み干すと、話を続ける。


「つ、つまりですなぁ……」

顔を上げた先には王様はおろか、周りの貴族たちもほとんど居ない。

残っているのは王妃をはじめ数人のご婦人方だけだ。


「なっなんと」

「皆様、出て行かれましたが」

コップをお盆にのせてメイドが説明してくれた。




10日ほどは、騒ぎになったが結局誰も聖剣を抜くことが出来ず。

祭りも終演を迎えようとした。

が、ここで王様がごねた。


「勇者はいつ来るのじゃ」

一人しかいない魔法学の教授ジェームズ・ヴォルホードが呼ばれている。

「はっ、魔素が国を覆うときその力によって魔方陣が反応し

勇者様が召喚されると思われますじゃ」

「ふん。そんなことは聞いておらん。いつかと聞いておるのだ」

「ですから、魔素が国を覆った時に……」

「だ・か・ら、それはいつなのだ」

「おおよそですが、2~3年後には……。あくまでも予想ですじゃ」


王様は苦虫をかみしめるように教授を睨む。

われはあの剣が本当に抜けるのか知りたい。異世界から召喚されるというものがいるのなら見たい。早う見たい」

「とおっしゃいましても、魔素が……」


教授は斜め後ろで控えているマルデモンド男爵を見る。

目が合った瞬間マルデモンド男爵は、 

キョロキョロと眼球をどことはなしに彷徨わせている。

師弟関係にある二人だが、ここで師を助けてくれるような弟子ではないことを

改めて知る。

深くため息を付いていると


「兎に角早うせい。王命じゃ2~3ヶ月の内に異世界人を召喚せよ」


「えっ、しばしお待ちを。王様」

教授の声を背中で聞きつつ王様は玉座を後にした。


教授はその場にへたり込んだ。

「どうすればいいんじゃろうか。もう国外へ逃げよっかなぁ」

その横にマルデモンド男爵がしゃがみ込む。

「教授。折角のチャンスではありませんか、魔素のない世界では

無用の長物だった魔法学がやっと日の目をみるのです」


教授はマルデモンドの顔を見る。

こやつたま~には良いことを言いよる。

「よかろう、魔法学の講座を取っていたものを全員集めるのじゃ。

どうにかしてやようじゃないか」


「全員たって、人気のない学部でしたからねぇ。何人集まる事やら……そうだ。

プラムが帰国したみたいですから、声をかけてみます」

「おおっ、あやつなら必ずやくになってくれるはずじゃ。

今は亡き魔法工学科の主席。

……そうじゃあやつなら、なにかしら良い依り代を持っているやもしれん」


「教授。依り代っていったら、ご神木を使ったりするのですか」

「あほ。この国には神社と呼ばれる社はないじゃろう。

どこからその発想がででくるのやら。

まずは研究室へ皆を集めよ。忙しくなるぞ~!」


 うーん……おもい目を開けるとそこには。

「うわぁ!」むさくるしいおっさんが3人こちらをのぞき込んでいる。

丸めがねをかけたチャラそうな兄ちゃんと丸顔の貴族のコスプレした年齢不詳のたぶんおっさん。それにいかにも学者と言う風な髭をはやした教授っぽいじいさん。

この3人が頭の上でツバを飛ばしながら喋っているが、何語だ?

なんだか聞いたことが有るような無いような言語で喋っているぞ。


俺は久城崇(くじょうたかし)弱小ラノベ出版社の営業兼販売促進兼本当の部署は編集で入社したはずの31歳。

なんだかんだと忙しさにかまけてずるずると年ばかりくってきたけど、仕事柄この状況は即座に理解できる。

異世界転生。

なぜなら俺はさっきまで、ハンドルを握っていた。

国道沿にある大手ショッピングモール内の本屋へ新刊の販売促進へ行く途中、突然右車線を走っているトラックが蛇行。

追い出されるかたちで左のガードレールを破って国道下の農道へ転落、その後から記憶が無い……それってつまり。

ここは異世界。

どう見ても医者ではない3人、見たこともない天井のあるベッド。

でもなにか違和感が、俺は異世界転生したのではないのか?

……はっ!転生ならば母親はどこだ、ここは美人のおかあさんが添い寝をしているはずなのに上を向いたまま首さえ動かすのがままならない。


全身ギブスでもはめているのか、この状況なんか腹立ってきた。

イラっとしたせいか体中の節々に熱がこもる。

手が、頭が、足が動いた。

そこで見たのは俺自身の体。


なにー、赤ん坊じゃない?

手はでかいし、足なんてベッドから出ている。

俺の身体こんなにでっかくないし、異世界転移でもないとすると……

サイボーグパターン?



         豪商の息子 プラム・イージス 



訳のわからないまま目覚めてから2年が過ぎた。


言葉もほとんど分かるようになり、現状もおおよそは把握できた。

やはりというかテンプレの魔王討伐の勇者召喚。

俺の身体は、魔素を含んだ土塊(つちくれ)をベースに造られたホムンクルスらしい。

またこの世界は、布が希少らしくほとんど皮で服がつくられている。

俺はというと焦げ茶のロングコート[これ、前の世界ならウン百万はする皮のコートだ]を着込み、靴も革のロングブーツだ。

ちなみに何の動物かは知らない。

顔は色白で鼻筋は通り腰迄ある長髪と切れ長の目、小デブの前世と違い腹筋割れているじゃないか。


「勇者様、中庭で魔法の練習をしているところ申し訳ありません」

リアルメイドさんが声をかけてくれる。

「なに」わざとイケメン風に首をかしげて答える。

「あぁ、……っとプラム様がおいでです。」メイドさんがフッと目まいを覚えるほどの美しさ。

ナルシストの気持ちが今はわからんでもない。

もちろんめちゃめちゃモテる。

元31歳の男子としては、据え膳食わぬは……ではあるが。

この体は、ホムンクルス。

性欲は有ってもナニがついていない。

お股はつるつるでおしりは割れているが肛門もない。

中性的な美しさって、そりゃそうでしょうよ。

宦官として後宮にでも入りますか。

召喚時に女神にでも会えたなら文句言ってやりたかったぜ!


メイドさんの後について客間へ向かう。 

「よう、クジョウ。調子はどうよ」


俺をクジョウと呼んだプラムは、俺が目覚めた時にいた丸メガネのチャラ男だ。

見た目通りチャラい。


「まずまずだな。で、今日は何しに来やがった。」

「そう身構えんなよ。この前は、ダシに使って悪かったって」 

この男2~3年旅に出ていたらしく、

帰って来たら幼馴染みの女の子が冷たかったそうだ。

そこで俺もつれて来るからってダシにして、幼馴染みを呼び出したんだが、彼女以外にも

召喚された勇者見たさ珍しいもの見たさで

店がパンクするほどのおおにぎわいになってしまった。

結果、王宮に各方面から苦情が殺到したそうだ。

まもちろん、俺も説教された。


ちなみに幼馴染みは、彼氏から(あまりプラムと二人でいるなよなぁ)

って言われていたらしく。

彼氏が出来たことを知らなかったプラムはこのあと凹んでいた。


「この前は悪かったよ。僕も久々に国に帰ったら、急に呼び出されて召喚の儀が終わるまでって何ヶ月も缶詰状態だったんだ。

ちぃ~っと遊びたい気持ちもわかるだろう」語尾が多少暗い。

「俺を巻き込むな」

「だからさぁ、今日はおわびといっちゃあなんだが家へ来いよ。

もうすぐ魔王城へ発つんだろう。好きなの持って行って良いからよ」


「おっマジか、さすが御曹司」


プラムはただのチャラ男ではなく、この大陸で1・2を争う大商会の御曹司。

曾祖父が趣味どうらくで集めた魔導具(ガラクタ)に興味を示し、大学では家業とは関係の無い魔法工学を選択する。

卒業後は全国を旅して魔導具(ガラクタ)を集める放蕩息子。


さすがにこれでは店を潰しかねないと親が家督を次男に譲った。

しかしそれをいいことに、前にもまして好き勝手ヤッている。

もちろん自由になる金は減ったが、

そこは、弟に泣きついて工面している。

ダメな大人の見本のようなヤツだが、魔法学の知識はずば抜けているため俺の身体を創るのに一役かっているそうだ。



二人して城内の俺の部屋をあとに、イージス家の馬車に乗ってプラムの家へむかう。

小さな王国だから大したことないと言われていたが、城下町はなかなか賑わっている。

城下の繁華街。

その一ブロック約50メーター角いっぱいにでっかい建物がある。

基本二階建てしかない町並みに、煉瓦造りの五階建ては目立つ。

1階は一般向け店舗、2階は貴族用店舗、3.4階は事務所で5階が従業員の居住スペース兼プラムの倉庫ものおきである。

もちろん本物かいしゃの倉庫や社長宅は別にある。


俺がプラムについてって階段を上ろうとしたとき、袖を引っ張られて従業員の青年に拝まれた。


「おい、店の人に部屋スペースを空けるように頼まれたのだが」

個室を物置にしないでくれと、切実に従業員から頼まれた。

「ああ、それは大丈夫だ。個室を2人部屋にしたら倉庫ものおきが増えたので魔道具たからを詰め込んでいるだけだから。新人は初めからこうだと思わせておけば心配ない」

「いやいや、個室と相部屋じゃ全然違うだろう」

それにさっきの人どう見てもアラサーで新人には見えんぞ。

それならお前の部屋を倉庫にしろよ。と思っていたら

「遠慮しないで良いから入れよ。ここが僕のへやだ」

なんてことはない。こいつ魔道具ガラクタに埋もれて暮らしてやがる。


「声も出ないか、すごいだろう」

何だろうこんなごった返した品々の中にいると頭の中に懐かしのフレーズが流れてくる。

[ドンドンドン○ードン○ホーテー]……はさておき

剣やら、杖やらを当てにして来たのに

なんというか南米アマゾン奥地に住むなんちゃら族のお土産。

じゃないか、アフリカ中央の古代民族槍槍とか……なんに使うのか用途のはっきりしない(ゴミ)が溢れかえっている。

右手に異能力キャンセラ―を持っている奴の親父みたいだ。


それに両手を引っ張られて連れて行かれた宇宙人(グレイ)人形?

がなぜかここに居るし、なんでもありか。

そのなかでも

「何だこのマスクは?」とても気になった魔導具(ガラクタ)が一つ……石仮面にしか思えん。

これ以上は、パクリ疑惑が起こるのでやめてほしいのだが。


俺が手にとって眺めていると「いいだろう、僕のとっておきだぜ」

とプラムはおもむろに俺の手からマスクをとると、俺の顔にマスクをはめた。


「これを手に入れた店主の話によれば人を超えた力を得る事が出来る、

さらに永遠の命さえ手に入るそうだ」

と言っても僕が何度やってもなにも起きないけどな。


しかし今回は予想通り石仮面からにょきにょきと爪のようなものが伸びて、

俺の頭に食い込んで行く。


「なんだこりゃ」

買ってから何度もかぶったけどこんな事起こらなかったぞ。


「ふふふふぅプラムよ、よくやった。

我は魔王軍のハベル。もはやこの者の体は我の物。

魔王様に忠誠を誓うのならば貴様(プラム)だけは生かせてやろうではないか」


「そんなバカな、マママスクが喋っているのか?

クジョウ!どうしちまったんだよ」腰を抜かしたのか尻餅をつくプラム。


「無駄だよ。この者の意識は完全に……」


俺はマスクから伸びている爪に指をかける。

分かりやすく動揺してくれるマスク


「ありえん。なぜ動くのだ」


「なぜって、完全もなにも全く意識はハッキリしているし体も……ほれこのとおり」トレイントレインを軽く踊ってみせる。


「その変わった踊りは、間違いない。クジョウ!お前なんだな。

……もう、声色まで変えてふざけんなよ」


こいつ俺かどうかの基準が変わった踊りなのか。

本物は超カッコいいんだぞ。


ググっと爪がより深く刺さっていく。

「バカな脳みそがないだと」


たぶんそうじゃかいかなぁ、とは思っていたけど

「……なんか、ムカつく」


俺は爪に指を引っ掛けて力を入れる。

ベキッっと、爪が割れててマスクが外れる。

外れたマスクを近くにあった宇宙人(グレイ)の人形に被せる。


「ふふふふふふふ愚か者め、ならばこの体をいただけばすむこと」

折れた爪が宇宙人(グレイ)の頭へと食い込んで行く。


こいつ人形でもなんでもよかったのか


「えっ、やっぱりさっきからこのマスクが喋っているの?」プラムがマスクに顔を近づけて観察している。


「プラム、お前」さっきからマジでボケてんのか。


「そんなことよりも、それ人形ですよ~」と、俺は優しくマスクに話しかける。


「ふふふふぅ、……む。むむぅこ、これはまさか」

なんだかマスクの様子がおかしい。

やはり人形だと、気づいたか。


「む、なんだ?」プラムがマスクを小突く。


「そんなこと、あるはずが……これは伝説の……」

伝説?ん?どこへ向かっているの、まさかそれって……。


「うわぁ!やっぱり喋ってるよ。

なに、なんなの。

伝説ってなんの?ねぇ」


プラムうるさい。

なんか喋っているのが、全く聞き取れん。


ウギャっと断末魔のような声を発してマスクが完全に黙った。

ヤッパリ肝心な事はよくわからないパターンのやつだ。


その後プラムはマスクに向かって忙しそうなので、

転がっていた黒いロッドを勝手にもらって俺は一人で帰ることにした。


従業員には期待に沿えないことを告げて。 



          もうひとりの勇者 涼水陽菜



顎から側頭葉にかけて穴を空けて王城へ帰った俺は、スグにベットに寝かされ教授の診察を受けることになった。

俺の心配をしてくれるメイドさんとはちがい教授は、たぶん一晩眠れば大丈夫じゃろう。

と、いいかげんな事を言う。


教授と呼ばれている爺さんは俺が起きた時にいたひとりだ。

名前をジェームズ・ヴォルホードというらしい。

教授と言うより探偵っぽい名前だ。

魔法学は人気がないらしい。

元々は魔法力学、魔法工学 魔法考古学、魔法化学、量子魔素学、

魔方陣幾何学、魔法生物学、魔物学の八つあったけど

千年近く前に魔王が倒され、世界から魔素が減っていった。

と共に魔法も衰退、今では全部まとめて魔法学になり

それも風前の灯火だったとか。


「コイツのことはマルデモンドの方が詳しいはずじゃ。彼奴を呼べ」

マルデモンドというのは、もう一人の貴族服を着たトッチャン坊や。


「じゃがこれはこれで面白い。」とふほふほ笑いながら、きったない袋から

なにか取り出して俺のコメカミに落す。

「コレ、誰ぞ水を」もらった水差しから数滴コメカミに水を垂らすと

あら不思議、花が咲きましたとさ。


「ふざけんな」俺がベットから起き上がり、花をへし折ると


「イヤ〜ん」と言って花が落ちた。


「喋った?!」メイドさんが両手で口をおさえて驚く。


「ふおふおふぉ、この花喋べりおったぞ」

この爺さんこの花が何なのか、わかっていて人の頭に

植えたんとちゃうのかい。つーか植えんなよ。

俺は○春じゃねぇぞ!


「出て行けじしぃ!俺は寝る」一晩で治るならほっといてくれ、この体は何も食べなくても魔素さえあれば動く。

俺はそのまま朝までふて寝した。


次の日は、昼まで惰眠を貪ってやろうかと思っていたのに

近衛隊長様より直々に稽古を付けていただける。

という大変有難迷惑な誘いを受けた。

近衛隊長マーティ・ランバード。

剣の腕は王国一・二らしいが見た目は気の良い青年にしか見えない。

まだ25歳と若く仕事中は全身を鈍色のフルプレートで覆っている。


俺は、剣よりも魔法の方をのばしたいのですが。

と、俺の気持ちはおいといて

メイドさん達はせっせと着る服の準備をしてくれている。


シブシブ起きると、メイドさん達は頭の穴が塞がっていることを確認してくれた。

ただ一人だけ、首をひねっているメイドさんがいたことにこの時は気づけなかった。


城門の東側木々を抜けた先にある兵士達の訓練場。

そこへ出ると、近衛隊長ともう一人金髪の美少女がいた。


涼水陽向[享年33歳]、もう一人の勇者だ。

こいつは皮の服の上から銀色の鎧を着ている。素材は知らん。

一回聞いたが、オリハルコンとかミスリルとかはたまたジュラルミンやプラチナなど聞いたことのある素材ではなかった。ので忘れた。

ティアラのような模様が入った額当てに高めの襟

肩当てと下から胸を支えるように胴回りを、腰には前後左右に一枚ずつ細かい模様の入った4枚の銀板が腰のカーブに沿って覆っている。

見た目は、小学生(12さい)くらいに見える。

身長は160センチない位の小柄な体に、不釣り合いなオッパイ。

なんでも王様の趣味に合わせたそうで、

こいつも俺と同じホムンクルスだ。


「え〜っ、コイツの相手するのは勘弁してもらえませんか」

顔をしかめて近衛隊長をみる。


「まぁそう言わず、旅に出れば敵の選り好みなど出来ないのだから」

苦笑いのような顔で近衛隊長は、目をそむける。


陽向(ヒナ)は、背中に自分よりも大きな聖剣を持っている。

何故俺ではなく、陽向(ヒナ)が聖剣を持っているかといえば

あいつが先に抜いたから俺には回って来なかった。

からである。


陽向(ヒナ)に、剣の才能はないそうだ。

ただすごい力とスピードで振り回す。

普通の近衛兵(ザコ)では、刃が立たないのである。

なのでランバード隊長が相手をしているのだが、

いい加減休みたくなるとコッチへくる。

いい迷惑だ。


「行きますわよ〜」


聖剣を抜いて陽向(ヒナ)が迫って来る。

声が聞こえると同時に、後ろへステップしたのに

鼻先ギリギリで避ける。


陽菜ヒナは俺が避けることを見越して腕を少し伸ばしているのだ。


最初の頃、剣をめちゃくちゃ振り回した後で自分の腕が若干伸びていることに気づいた陽菜ヒナは「後でいくらでも戻せるわい」と言う教授じじぃ

の言葉を信じドンドン腕を伸ばしていく。

そして、一日寝たら元に戻っていた。


今では伸縮自由ゴムにんげんだ。


「殺される〜」


「大丈夫じゃ有りませんこと

貴方、刺しても突いても次の日には元どおりでしょ」


たしかに、致命傷をくらった俺も次の日にはくっついている。

最初こそみんな慌てたが、今では昨日の教授のようにどうせ一晩休めば治ると……。


「テメ〜、死なないと分か怖いんだよ怖いんだよ」


あらかじめ風魔法のカートリッジをセットしているロッドで避ける。

慣性の法則で少しジャンプすると発動した風の逆方向へ体が吹っ飛ぶ。

強制的に体が左右に移動する。


人間に魔法は使えない。


異世界に来てまずやったのが、どこぞの戦闘員よろしくエクス〇ロージョン!と叫んでやった。

周囲からの冷たい視線、当たり前のように何も起こらない現実。

悲しい。

次にそれらしい杖を教授からもらって、

基本のファイアボールから……と何も起こらない。

悲しい。

なぜ何も起きないのか、オッサン連中に聞いたところ

「なぜ、何か起こると思うのか」

と、問いかけられた。


魔法は魔族の専売特許らしい。

ただ前回の大戦末期、なんとか人が魔法を扱えないかと

魔導具が開発されたそうだ。


そして出来たのが、火・風・水・土などいろいろな魔法が使える様にしたカートリッジに魔力を込めて使う物である。

つまり魔族に頼んで魔力を込めてもらう……と、本末転倒の魔道具を

使える様にしてくれた変わった魔族がむかし一人いたそうだ。


なので本物は希少価値が高く、バッタものが出やすい。

プラムはその世界ではトップクラスの鑑定士らしい。

そして間違いなく一番のバッタものコレクターだ。


ただ今回は、魔力の流れを体で感じ取れる勇者。

俺がいる!


なので今回はあらかじめ風魔法のカートリッジに魔力を込めてプラムから貰った[勝手に取ってきた]ロッドにセット。

自らを吹っ飛ばして避けつつ、隙を見て地面に踏ん張る。

今度は陽向(ヒナ)を吹っ飛ばす。

……と、無茶苦茶怒って突っ込んで来る。


「喧嘩売ってますの」


いやいや、自分はいいけどこっちが反撃したら怒るってどうよ。

2~3度吹っ飛ばしらた向かって来なくなった。


ぶち当たった木の根元、なにやらぶつぶつ言っている。


「ふん、へたな考えは時間の無駄だよ。

今日のところはこのへんでーぇ!」


落ちていた小石を投げてきた。

殺人クラスの投擲だ。

が、コントロールは良くない。

俺をかすめて後ろの城壁を砕いた。


その威力に目をむいて振り返ると、陽菜ヒナが突っ込んできている。

右手を振りかぶって殴り殺すつもりだ。

素早くロッドを操作して?


ちょとまてよ、聖剣はどうした?


これってどこかの炭焼き屋の長男がやってたやつの劣化板か?


左手は前に見えているし、振りかぶった右手も見えている。

陽菜ヒナを吹っ飛ばした後、上から聖剣が振ってくるパターンと読んだ。


ロッドを左に向けて右側へ避けようとしたその時、陽菜ヒナが笑った様な気がした。

なにも考えずロッドを右上に向けて放つ。

俺の身体は左側の地面に叩きつけられた。


陽菜ヒナのパンチは空振り、足下の俺に躓いてすっころぶ。


ドスン!

俺が避けようとした右側には聖剣が刺さっていた。


直ぐさま起き上がり、刺さった聖剣を取りに行く陽菜ヒナ

上半身を起こしてロッドを聖剣に向ける俺。


その間に近衛隊長マーティ・ランバードが立つ。

「両者、そこまで」


刺さった聖剣を右手に握りしめ

うぬぬぬぅ、とバーサーカー状態の陽菜ヒナをなだめ

「では、騎士団まで出稽古へ行くか」と問う近衛隊長に

「行きますわ」と、即答の陽菜ヒナ


「では、ランバード隊長。俺はこのへんで」

「まぁそう言うなクジョウ、たまには一緒に行こう」

すこし困ったような顔で言われると断りづらい。

その目は俺を通り越して、壊れた城壁を見ていた。


仕方なしに3人で近衛兵の用意した馬車に乗って城門を出た。



          騎士団団長 ドノバン・ホー



一路外壁へ向かう。

その近くに騎士団の社屋があるからだ。


ガタガタと進む馬車中の空気は重い。

俺は奥に座るとのぞき穴の様な隙間からずっと外を見ている。

俺の前には近衛隊長マーティ・ランバード、その隣は聖剣だ。

つまり陽菜が俺の隣に座り、こいつもずーっと外を見ている。

ランバード隊長は苦虫を嚙み潰したような顔だ。



前回、陽菜と馬車に乗ったのは召喚されて2月ほどたったころ。

民衆へのお披露目と言うことで、ホロのない特注の

馬車に乗り城下を回った。



ラッパの音色が天高く響くとき城門が開かれ一団がぞろぞろと出て行く。

楽隊の後ろにダンサーのみなさん。

そのあとに馬に鎧を着けた近衛の兵隊さんが行列の真ん中を進む

悪趣味きんぴかな山車に乗っている王様を囲うように前後に続く

 

で、その後が俺たちだ。

俺はそこで初めて陽菜とまともに口を聞いた。

「どこに居るの」

バッ、と胸を覆い隠す陽菜。

「いやいや、それはないだろう」

「ごめん。実は……」

と、陽菜が言うには目覚めたときベッドに裸の王様が居たらしい。

もちろん夜這いが目的だ。

ただこいつも俺と同じらしく細部は等閑なおざりにされていた為、

王様に呼び出された教授が朝まで愚痴られたそうだ。

で、それを聞いていた王妃が不憫に思い大奥に匿ったらしい。

どうりで城の中で合わない訳だ。


俺たちは民衆に手を振って応えること小一時間、馬車は陽菜が聖剣を抜いたとされる勇者の丘へと到着した。

丘は地割れがひどくひどい有様だった。

抜けぬなら……っと巨大なテコを作ってひっこぬこうとするもの[プラム]。

土木作業用の器具を駆使してどうにか抜こうとするもの[プラム]。

それに多くの民衆が加勢して地面を掘り。

丘は砲撃があった戦場のような状態で、すこし平らになっていた。


パン屋の裏手に馬車を止めると、

陽菜は下りて後ろにまわる。

そこには聖剣用の荷車があり、

切っ先を天に向けた形で柄の部分が刺さっている。

ちょうど転生したら○でした。みたいな

ダメ元で、出発前に聖剣に話しかけてみたが聖剣からの返事はなかった。

かわりに悲しそうな顔をした陽菜から

「聖剣ほしかったよねぇ。男の子だもんねぇ」と、気遣われた。

そうじゃねぇんだよ。

やめろ、その顔。


荷車の後ろに回り聖剣を手にする陽菜。

この後、聖剣を手に丘を上る。

一番高いところで聖剣を掲げ、一言。

なのだが、こいつ両手で荷台の下から持ち上げてやがる。

どちらかの手を上に持って行かないと……。


ズドォーん!


重そうな音と共に丘の方へ聖剣が倒れた。

やっぱりそうなるよなぁ。

と思ったが、これがまさか陽菜の計算だとは。


落ちた聖剣を拾い上げると、重そうに引きずって聖剣を丘の上に運ぶ。

「えーい」っと

聞いたことのないかわいらしい声で、聖剣を掲げた。


民衆のほとんどは聖剣を抜こうと一度は挑戦しているから、

その重さは想像できる。

しかも持っているのは12歳くらいの小さな女の子だ。

その女の子が一生懸命に聖剣を掲げている。 ように見える。


ワァー!ウォー!

民衆の歓声で空気がゆらむ。


あまりの盛り上がりに危険を感じた近衛兵達は、

俺たちを早々に城内へ導いた。

後ろではなぜかご満悦な王様が民衆に手を振っている。

本当なら一番に避難させなければいけないのだが、

王様の乗っている山車は重くて大きいので小回りがきかないのだ。


王様がどうにか城門をくぐったところで門が閉められ、お披露目は終わる。


ただ避難する道すがら、陽菜は聖剣を片手で軽々と持っていたことに

何人が気付いただろう。

そうなのだ、こいつ非力な美少女を演じてやがった。

聖剣持った時点で非力ではないし、中身は33歳のおばさんだぞ。

みんな、ざまされるな-。


俺の願いもむなしく、この国は陽菜ちゃんヒナちゃんひなちゃん。

俺が店に居ただけで、ごったがえしたが。

こいつがいたら暴動が起きる。


で民衆がパニックになりかねない為、外出時はお忍び確定となる。

独房の扉の、のぞき穴くらいしかない窓から外を見つつ約1時間。

やっと、外壁近くの騎士団社屋に到着した。


さっと先にランバード隊長が降りて周りを確認の後、俺が外へ出た。

「ぷっはー、シャバの空気はうめぇぜ」

この体、息してないみたいだが気持ちの問題だ。

俺は大きく伸びをした。


そんな俺を押しのけるようにして、社屋からゾロゾロと野郎達が出てくる。


「うわぁなんだよ。こいつら、がさつだなぁ」

「まぁ、ほとんどが平民の力自慢が集まっているからな。お上品にとはいかんよ」

と、ランバード隊長。


そんな奴らはと見れば、馬車の前に集まり全員が手を差し出している。

「ありがとう」

馬車から小さな手が……。

よくやる。

多くの手の中からイケメン騎士の手をとり、

恭しく姿を現した陽菜は馬車のステップに足をかける。

あほらし、中身アラサーのおばさんだぞ。


俺が先に社屋の中へ入ろうとしたとき、扉の前で一団に加わらない美少年が

両腕を組んで佇んでいた。

まだ成熟仕切っていない細いからだに白い肌、金髪の少年が

「いらっしゃい」と道を空けてくれた。


俺は礼を言って横を通るとき、チラリともう一度横顔を見る。

男装の麗人というやつなのか、女の子にも見える。

あとで聞いてみよう。


扉から、俺が入るより前に色黒のでっかいおっさんが出てきた。

騎士団長ドノバン・ホーだ。


「おぉー、来たかマーティ」

「すまんが、また頼む」ランバード隊長が応える。

この二人は旧知の仲らしい。


中に入ると真っ直ぐな廊下が50メートルほどつづく、右手には受付台と奥に事務机のようなものがある。


その次は休憩室か、乱雑にテーブルと椅子がおかれている。

両方とも廊下側の壁がないので、中が丸見えだ。

テーブルの上にはコップが幾つか置かれている。

酒の臭いがしないので、だぶん水か果実水だろう。

先に調理場が見える。


じゃあここは食堂か、調理場とカウンターで仕切られている。

廊下との間には空になった酒樽を立てて何本もの木刀が刺さっている。


その正面、入り口からすこし行った左手に広い訓練場が広がっていた。

そこだけ壁じゃなく左右に開くよう引き戸になっている、訓練して疲れたらここで休憩するわけか。


俺はその辺の椅子の背に肘を掛けて座った。

程なくしたして、陽菜をつれた一団が入ってきた。



「どうぞ」陽菜に椅子を勧める。

「どうぞ」どこからともなくお茶がでてくる。


「あぁ、俺にもお茶を……」

はぁ~、なに言ってんだこの野郎。

ノドが乾いたのならその辺の泥水でも啜っていろや。


目は口ほどにものを言う

初めて実感しました。


「なぁあんた」

どう考えてもフレンドリーではないトーンで肩に手を置かれた。

「あんたも勇者なんだろう。一度も訓練に来ねぇとは、どういう了見なんだ」

「そうだ。そうだ」

ヤジがとぶ。


「ああ俺の場合、魔法の方を伸ばそうと思っているので」

とりあえず低姿勢をとっておこう。


「はぁ魔法だ?そんなもん役に立つのか」

「見せてみろや」

なんでこんなにアゥエーなんだ。


で、陽菜あいつときたら優雅にお茶ですか。

なんでそんなにホームみたいに。

まぁ、見たこともないのなら仕方がない。


俺はロッドに風魔法のカートリッジを差し込む。

馬車に乗っている間、暇だったのでずっと魔力を充填していた。

カートリッジはキットカット二本分くらいの大きさなので、いつもポケットに入れて充填出来るようにしている。


怪我をしないように団員の頭の上を狙う。

超弱小の風魔法を発動しようとしたところ、ちょっと漏れた。

ふわ~、っと全員の髪が後ろへなびいた。


どっと笑いがおこる。

「なんだそれ、夏の団扇代わりにしかならねぇぞ」

「陽菜が暑くならねぇ様に、きばりなよ」

「へへへ、陽菜ちゃんのスカートめくったりしてね」

と、静寂が室内を支配した。


みんなが俺を睨む。


おいおいウソだろぅ。誰が陽菜こいつの……。


「「表へでろ!」」

団員にかぶって俺も叫んだ。いろいろと腹が立つ。


ゾロゾロと団長と金髪の少年以外全員が訓練場へ出てきた。

けっこう……30人以上はいるなぁ。

まぁ、問題ない。


ガラガラと酒樽から木刀が減っていく、剣呑な。

俺は入り口近くの壁際のコーナーに陣取った。


「そこで良いのか?逃げらんねぇぜ」

ヘッヘッヘっと笑うこいつらは、どう見ても騎士様には見えない。


しかし、左右に逃げられないように上下中の構えの者が3人。

他にも癖のある構えの者から王道の者までごちゃごちゃだが、これはこれで

まとまっている。


実力主義っていうのは本当みたいだ。



「ごたくはいいから、かかってこいや」

俺はロッドを地面に刺す。

角度を2~30度にして、吹っ飛ばすというよりも吹き上げるイメージで。


顔を上げると、すぐそこに無数の木刀が迫って来ている。

そっちがその気なら遠慮はいらないなぁ。


パンパンに空気が入った風船のように、魔力パンパンの風魔法が

団員達を吹き上げる。


ブオふぅーっ


「ふぎゃ~」「うぉー」「ぎゃー」皆それぞれの断末魔をあげて、空中へ飛ばされていった。


予想以上に舞い上がり、その多くは外壁を越えてしまった。


「ああぁ、ちぃーっとやり過ぎました。大丈夫でしょうか」

流石に心配になりホー団長に、頭を掻きながらたずねるが。


「ああ、心配いりませんよ。壁の向こうは鬱蒼とした森ですから、

死にはせんでしょう。ガッハハハハー」

前世も含めてこんなに豪快な笑い方をする人は見たことがない。


「それにしても魔法とは大した物ですなぁ。初めて見ました」

「いやいやそれほどでも……」


バキバキっと壁の向こうで木々の折れる音がした。

と同時にフンギャーっと猫のしっぽを踏んだような声もする。


「なんですか今の?」


俺の問いかけにホー団長は聞こえなかったふりをしている。

なんだ、聞いちゃいけなかったのか。


「それよりも今の魔法に対して陽菜さんが普段どのように対抗されているのかが気になる」

「同じですよ。陽菜は吹っ飛ばされています」

ただ、ものすごいスピードで戻ってきますけどね。


「一度私にも打ってもらえませんか。

魔族は魔法を使うのでしょ。私も体験してみたい」


う~ん納得だ。じゃあ怪我しないよう半分くらいの威力で……。

頷いてロッドをホー団長にむける。


「あー、思いっきりお願いします。

魔族が手加減してはくれないでしょうから」

あら、気付いたのか。

ならお望みどおりに。


ブボォーっ


ホー団長が壁まで吹っ飛ぶが、そこで耐えた。


「すごいですよ。どうやって耐えたんですか」


「いやぁ、ただ踏ん張っただけです」


確かに足下には踏ん張った後が続いている。

これって簡単なようでなかなか出来ない。

よっぽど体の軸がしっかりしていなければ。


ズズズッとすり足でいつの間にかホー団長が近づいてくる。

間違いない、この人は強い。


陽菜を相手にしているようにロッドで左に避ける。


ブゥーン  


少し余裕をもって避けたつもりが間一髪だ。

陽菜のように腕を物理的に伸ばした訳じゃないのに、

どうやって間を縮めたんだ。


「ガッハッハッ、面白い避け方をする。まったくノーモーションからの

移動。今のも魔法ですかな」


左手で頭をポリポリ掻きながら応える。

もちろんロッドはホー団長へ向けたまま、ちょっとずーつ距離を広げて……。

「ええっそうですよ」気が抜けない。


三メートルはあろうかという距離を一歩で詰めてきた。


俺はロッドの向きが分からないように、背中にまわす。

除けの一手だ。魔法発動!


ホー団長がニヤリと笑った気がした。

低い体勢から左右どちらにも対応出来るように、大きく木刀がなぎ払われる。


俺は五メーターほど上空で俯瞰しているが、まったく剣スジが見えない。

切っ先に沿って土埃がおこるので後でわかるくらいで、そっちの方が

魔法じゃないのかと思えるほどだ。


ホー団長が首を捻って上空の俺を見上げる。

「飛び上がるのは、悪手ですよ」

着地点と思われる所に先回りされる。


が、落ちてこない。


冗談じゃ無い。

俺は、真下に向けて魔法を放ち続けているだらだ。


「ほっほほほほ、そういう男ですわ。

あなたも勇者と呼ばれる者ならば、降りて堂々と勝負しなさい」


左手の木刀で俺を刺しながら、陽菜がなぜか自慢気に言う。


「ガッハハハハハ、確かにこのままでは引き分けですかな」


俺は降りて両手を上げる。

「いやぁ~、完敗です。手も足も出ませんでした」


「またまたご謙遜を」

ホー団長が俺の腰のカートリッジに目をやる。


腰のカートリッジホルダーにはあと2つ入っている。

確かに本番ともなればだが、そこまで見ているとはなんとも恐ろしい人だ。


「陽菜さん、ボクたちもやりましょう」

場を流すように金髪の少年が、休憩室の脇にある酒樽から

木刀を一本抜く。

今のはアルト声の少女をおもわせるのだが、う~むどちらともとれる。



交代だ。


あのくっそ重い聖剣を高速で操る陽菜だ。

木刀なら超速いぞ。


カンカン、切っ先を二度あわせて試合開始だ。


一瞬、陽菜が間合いをつめる。

少年が左に回り込む、陽菜が左手一本で突きを繰り出す。

額に向けられた突きを、剣の腹と頭をずらしていなす。

少年は、陽菜の剣に沿って己が剣をすべらせ小手を狙う。

定石道理ならここで少年の勝ちなのだが、陽菜の腕はそこから

真っ直ぐには伸びずに90度折り曲がった。

滑らせていた剣が離れ、少年の右後ろから迫ってくる。

少年は見えているかのように、お辞儀をするかっこうで避ける。

空ぶった木刀が陽菜の頭にあたる。


「あたー」

陽菜の頭が文字道理凹む。


「ジルのやつ、やるでしょう」

俺の横でホー団長は得意げだ。


少年、ジルって言うのか。


「ホー団長、つかぬ事をうかがいますが。ジルは男ですか」

うかがうような目を向けられたあと

「男ですよ」

と応えてくれた。あの目とあの間、よけいわからなくなる。


「く・じょう~!」

なんで俺を睨むのか、陽菜が俺の名を呼ぶ。


へいへい、なぜかこいつの言いたいことがわかる。

同時に作られた双子みたいなものだからか、俺は酒樽から木刀をもう一本

抜いて陽菜へ投げ渡した。


「本番は、これからですわよ」

陽菜がジルを見据えると、

両手からものすごいスピードで突きを繰り出し始めた。


何だか分からないが凄いのはわかる。

カッカッと音だけは連続して響く、ジルが全ての突きをいなしているのだ。

陽菜にとっては、苦手なタイプだろう。

真っ向から向かってくる相手には強いが、こうやっていなしながらカウンターを狙ってくる相手には圧倒的に経験が足りない。

だが、一分もしないうちにジルの方が音を上げた。


「ひや~、もう勘弁です。団長よろしく」

陽菜のスタミナ勝ちだなぁ。


「ガッハハハー。だらしないぞ、もう俺の出番か」

ジルとホー団長が交代する。

ジルは俺の横をすり抜け外へと出て行く。

見ていかないのか、ちょっと話したかったなぁ。


後ろ髪引かれる思いで背中を見ていると、訓練所の方から景気の良い声が聞こえてきた。

「パリィ」


陽菜の剣がはじかれる。

「パリィ」


またはじかれる。これでは連続しての突きは繰り出せない。

面・胴どこを狙ってもはじき返される。

「パリィ」「パリィ」


攻撃全てをパリィするおっさん?

どっかで……、と思っていると。

陽菜の表情が険しいものになっている。


「うがっ~」

ヤバイ。絶対俺へとばっちりが来る。

とっとと退散しよう。


俺がドアを開けようとすると、先にランバード隊長が入ってきた。

「やぁ、どうでしたか」


「手も足も出ませんでした」


「それはよかった。彼は王国一の剣士なんです」


「そうなんですか。どうりで強いわけだ」

そこでふとした疑問。

「ところで騎士団というのは、なぜお城に居ないのですか」


「はははっ、元々は城にいたんですがねぇ。

ホー団長が実力主義の方で、国中から強者を募集したところ貴族はほとんど

残らずあらくれ者ばかりになってしまって。


貴族達の反感を買って追い出されたんです。

みんな知ってますが、一応ここだけの話でお願いします」


「了解です」

この世界もいろいろあるんだなぁ。

俺はお辞儀をして、ランバード隊長と別れた。


外へ出ると、まさかの二人が親密に話し込んでいた。


「……の日に決行するのですか」

「はい。ボクはよい機会だと思いますが」

「こちらの方はいつでも」

美少年のジルが俺たちの乗ってきた馬車の影に、その前に荷物を背負ったプラムがいた。


出あぐねていると、プラムがこっちに気づいた。

手をあげてあいさつしてくれたので、こちらも手をあげて近づいて行く。


ジルはこちらを向いて微笑んだ後、俺の横をすり抜けて社屋へ入って行く。

ちょっとお話したかったんだけど……、しかたない。

「おいプラム、ずいぶんと仲良さげじゃねぇ」


俺がプラムの首に手を回すと、ポンポンっとタップされる。


「かんべんしてよ。騎士団は大切なお客様だからねぇ。

御用聞きにくらいお伺いするよ」


「えぇー、お前が仕事してるところ初めて見たよ。

これ、お店の人に確かめても大丈夫なのかなぁ~」


「いやぁ~それはぁ~」


「はけ」


俺は首にまわした腕に少し力を込める。

「はははは、まいったなぁ。くわしい話は後日ちゃんとするからさ。

ただくわしい内容を知りたければ、それなりのお覚悟を。

あと、ジルさんの口から聞かれた方がいいと思うよ」


俺は腕を放してプラムに向き直る。

「なら、今は聞かないよ。ただひとつだけ教えてくれ」


「ジルは女の子じゃないのか。あんな華奢でかわいい男を俺は見たことがない。団長さんは男だと言っていたが、ジルは……」

「女性ですよ。クジョウさんの目に狂いはありません。

ただこれも訳ありでして、まとめて後日ジルさんから聞いて下さい」


なんだぁ、思った以上に込み入った話なのか。

軽いノリで聞いていい雰囲気じゃないけど、今宵出立のパーティが終わったら明日にでも魔王城へ行くことになるだろうし。

あやふやになっちまうパターンなのか。


ああぁ2年もこの国に居るのに、ほとんどひきこもりの生活だったせいか

世情に疎い。


どうにか簡単な字は読めるようになったけど、教授とマルデモンド男爵から

魔法学の講義ばかりで。

新聞もろくに読んでいない。

SNSがないんだから、そのくらいは……。

ああっ、社会人失格だ。

どこぞの作家先生に現世へ戻されちまう。



       ゴバタ国国王 ゴバタ・ティア・デンヒル



 夕暮れ前だというのに、もどるのが遅いと宰相に叱られた。

ランバード隊長はそそくさと何処かへ消え失せ。

陽菜も女性陣に囲まれて大奥へ引っ込んでしまった。

俺だけ怒られているのって、理不尽じゃね。


一通り説教し終わると、満足げに宰相はパーティ準備の視察に戻っていく。

まめなんだよな、あの宰相。


部屋へ戻ると、ニコニコ顔のメイドさんに脱がされて体を拭かれる。

当初、体が動かなかった時から拭いてくれているのでルーチンワークとしだろうが。

やっぱりはずかしい。


着るのは同じ皮のパンツとコート。

あと式典用にファーのようなストールを首に掛けておしまいだ。


最後にオーデコロンみたいなのを、耳のうしろと手の甲につけて

メイドさんが2~3歩下がる。


「うん。かっこいいです。素敵です」


ううっ……、正直うれしい。

前世でも、こんなに尽くしてくれた人は居ない。

もちろん仕事だろうし、こっちが勇者ってこともあるのだろうが

2年もずっと褒めてくれてとってもうれしい。


大好きだ!


けど、俺は男どころか人ですらない。


私みたいな女……っとメイドさんは言う。

顔は並だし胸も小さい、学は無いし生まれも平民。


そんなこと気にする男は碌なもんじゃない。

君の魅力は俺が良く知っている。

何度も名前を聞こうかと思ったけど、別れが辛くなりそうで聞かなかった。

俺じゃダメだけど、素敵な出会いがありますように。


黙ってメイドさんと見つめ合っていると、

コンコン 

ドアをノックしてお付きの近衛さんが入ってくる。


そういえばこの近衛さんも、ずっとドアの外に居たっけ。


「用意が出来ましたので、送迎会広間までどうぞ」


俺はカッコとつけてコートの裾を広げて廊下へ出る。

赤い顔を両手でかくして、メイドさんが後に従う。



パーティ会場は大盛況だ。

入って左手、2階テラスへ通じる大きなガラス扉の外からは満月が見える。

普段は節約のため蝋燭も制限されていたが、壁からシャンデリアまで

全ての燭台に蝋燭がともっている。

……がそれだけじゃ無い。

四隅にあるのは光の魔道具か、LEDみたいに光っている。

もちろん魔力充填は俺の仕事だ。

陽菜も一昨日一緒にやったが、あまり上手くないようで

あれやこれやとほとんど俺が充填した。


これだけ明るい夜も経験がないのか、貴族達もワクワクしているようだ。

女性陣も貴重な布をふんだんに使ったドレスを、

新品とまでは行かなくても着込んでいる。

宝石は装飾程度で美しい。

ただ下級貴族ともなると宝石の面積が増える。

前世と価値観が違いすぎて困惑するが、

瑪瑙を薄く加工したドレスなど、大事な部分以外見えている。

なかなかにセクシーだ。


そんな中、下卑た笑みを隠そうともしない王様が挨拶を受けに回っている。

王冠に宝石は無い。

代わりに欄間のような模様が左右に施されていて見事だ。

ちなみに男は皆、動物の皮を使った服を着ている。

王様はシロクマがベストを着たような出で立ちだ。


上座にある王様の席はもちろん空席だ。

となりの席に座っている王妃様が挨拶に並んでいる貴族連中の相手をしている。

王妃様だけはシルクのような服を着て、縦に長いおしゃれな金の王冠を拝していた。

この二人、冷め切った中年夫婦を見ているようだ。


メイドさんの話によるとこの王様は入り婿だそうだ。

前王の一人娘マリアンヌに、いとこの公爵シュナイデル家長男デンヒルをと

あの手この手を使い結婚して王様になった。

同時に婚儀に反対していた宰相のトーマス・ホーキンスを解任

まだ13歳の息子ジョナサン・ホーキンスに後を継がせる。


シュナイデル家の目論見としては、ジョナサンを傀儡として

この国の実権を万全にしたかったようだ。

ただジョナサンは若いが故に良い国にしようと夢を持ち、

納得できない事にはノーといえる。

ある意味青臭い男であった為に、うまくいかないようだ。


俺は王妃様の元へ向かい片膝を折って挨拶する。

袖で待機していた陽菜が並んで膝を折った。


「大儀である。

我がゴバタ王国の勇者として、見事魔王を倒して参れ」

俺たちはより深く頭を垂れる。

気持ちの問題だろうがこの人の言葉は重い。


と、ここで俺たちの存在に気付いた王様が慌てて席へ戻ろうとした。

テラスの扉がいつの間にか開いている。


キューン 

大した音では無かった筈なのに、会場を沈黙させるのには十分だった。


水着のような服に全身を覆う皮マント、甲で顔を隠した女騎士が

レイピアで王様の胸を刺したのだ。


俺はロッドを手に振り返ろうとした時、陽菜は背中の聖剣を鞘ごと

左にたおした。

邪魔なんですけど。

そう思った俺に、肩越しに陽菜の目が見えた。


グルなのか。

とはいえ、目の前で人が死ぬのは勘弁なのだが。



「良い胸をしておるのう。

さて、顔は見せてはくれぬのか」


静まりかえった会場の中、間の抜けた声が聞こえた。

レイピアは胸の手前で半透明のはんぺんみたいなもので防がれていた。


「おのれー!」

アルト声が響く。


キューン、キュキューン

何度刺しても、甲高い音と共に次々と半透明はんぺんがレイピアを遮る。


王様が来ているベストみたいな物。

あまりおしゃれに見えなかったあれって、魔道具だ。

プラムの家でも見たこと無いから、国宝ってやつか。

宝物庫にある物はなんでも持って行って良いなんて言って、

碌なもん無いわけだぜ。

チャッカリ良い物はガメていやがったな。


王様も剣を抜く。

女騎士が小手を狙っても半透明はんぺんが遮る。


王様が笑いながら剣を振り抜く、女騎士はその剣を絡めて頭上に

跳ね上げた。


無手になった右手を眺めて、王様は初めておどろいた顔をした。


ふぅーっと息をした女騎士が渾身とも思える一撃を繰り出す。

そこで初めて王様が大声で叫んだ。


「誰ぞ、われを助けんか」


一瞬の出来事に傍観者となっていた者達が動き出す。

シュナイデル家の傭兵が女騎士へ駆け寄る。

王妃様の隣にいたランバード近衛隊長はそれより速かった。


王様と女騎士の間に剣を突き刺し、王様を背中にかばった。


王様の両目、鼻、首、心臓には半透明はんぺんが浮かんでいる。

一瞬で五カ所同時攻撃。

まったく見えなかった。


女騎士はランバード隊長と剣を交えること無く。

踵をかえしテラスから階下へ飛び降りた。


「近衛は格貴族方の安全を第一に、衛兵。くせ者を捕らえよ」

ランバード隊長の指示のもと、各自動き出す。


一拍おいて「えーい。何をしておるのだ。王が暗殺されかけたのだ。

見つけ次第殺せ」

王様の弟、シュナイデル公爵は目をむいて叫ぶ。

怒っているというよりも、完全に怯えている。

私兵達が階下へ降りていく、テラスから飛び降りる者はいない。



[王よ。だいじょうぶですか」

後ろ手に庇い、誰よりも速く自分を助けてくれたランバードにむかい

値踏みするような目を王は向けた。

「随分と、遅かったのではないか。われが死ねば良いと思ったか」

「滅相もございません」


正面で膝をつき頭を垂れる。


「ふん」

王様はその横を通り過ぎ、窓際で怯えていた側室に手を伸ばした。

「興が冷めたわ。今宵はこの者を相手なぶってやろう

かのう」


黒髪ストレートの彼女は、

よく描かれる優等生でクラスのマドンナ的委員長雰囲気がした。

ただその表情は暗く沈んでいる。


奥に消えるまで、彼女はズッとランバード隊長を見ていた。

隊長の方は、頭を垂れたまま唇を噛んでいるようだった。



送迎階パーティはなし崩し的にお開きとなった。


廊下ではバタバタと廊下を走る公爵の私兵の姿が見受けられ、

貴族の多くは近衛兵に連れられ城を帰した。


俺もメイドさんと会場を出ようとした。

会場を出るとき、部屋付きの近衛さんを探したが見つからなかった。


ただ出口左手に教授とマルデモンド男爵のふたりが、

我関せずとテーブルに座り余り物の料理をかっ込んでいる。

二人ともいつもの格好に花を一輪、帽子と胸元に挿しているのが見えた。



部屋に戻るとプラムが出迎えてくれた。

「おかえり」


いやいや俺の部屋なんですけど。

後ろでメイドさんが扉を閉める。

右手奥のベッドには陽菜と金髪のジルが座っていた。

「どういうこと」


ベッドの脇には先ほど見た甲が見える。

みんなグルなのか、メイドさんも……と振り返る。

メイドさんは扉の前にたち、まっすぐ俺を見ている。


「私から話しますわ」

陽菜が俺に座るよう促す。

俺は枕元のいつも教授が座っている椅子に、プラムもそのドアよりの椅子に

メイドさんは相変わらず扉のまえで立っている。


「あなたは知らないでしょうが、これは多くの者が知る話」

「そこは、ボクの方から話すよ」

陽菜の膝に手を置いて、ジルが話のバトンをうけとる。


「ボクの本名はジュリー・サモトラ。サモトラ辺境泊の娘だ」


「なぜ男の真似を?」


「ああ、そこはおいおい話す。まず、コトの始まりから良いかなぁ」


聞きたいことは話を聞いてからってことだな。

「すみません。続けて下さい」



         辺境泊の姫 ジュリアナ

・サモトラ



「コトのはじまりは5年前、いままで記録したことの無いほど雨が

ボクがいた辺境領に降り続きました。

土砂崩れや鉄砲水、多くの命や田畑が失われました。

しかし家にはある程度まとまった資産があり、父上母上や二人の兄。

それに領民一丸となって、一時は復興し始めたのです。


しかし翌年動物たちの死骸を媒介に、他国で流行っていたという病気が蔓延したのです。

死体を焼いて処理しようとした上の兄は、すぐに病気が転移しました。


我が家に余剰金はありません。

今年の領民からの税は、復興を理由に免除されています。

そこで売れる物は全部売り払い、足らない部分は借金して治療に当たりましたが

上の兄は半年を待たずに死にました。


次に看病に疲れたのか、母上が倒れたのです。


父上は何度も王様へ援助を申し出ました。

返事はいつも早急に対処するでしたが、まったく来る気配もなんの連絡もありません。


そうこうするうちに母上が帰らぬ人となりました。


するとどうでしょう。

母上の死を待っていたかのように、城から何人もの医師や援助物資が届きました。

あと少し、あと少しで母上は助かったと言うのに。


父上は[これもジュリアンヌの運命だ]と、墓に抜かって泣いていました。

娘から見ても仲の良い夫婦だったと思います。

父上は少し老けたように見えました。


ただ国からの救済は一時的なもの復興復興されたわけではありません。

病気が治ったところで、物資が途切れれば元々困窮していた領民はまた飢えてしまいます。

年単位の援助を申し出ようとした。

そんなとき、公爵家から援助の申し出があったのです。

手立ての無い現状で、ありがたい申し出を断るすべはありません。

潤沢な資金、食べきれないほどの食料。

領民はよろこび、屋敷も以前よりきらびやかになりました。


もちろんこれには条件がありました。

父上の再婚相手に、バツ2の公爵令嬢をもらうコト。


王様の妹、シュナイデル家長女ヘルメスは父上と王立学園でクラスメイトだったそうです。

何度も父上に言い寄ってきたそうですが、彼女には他国の王子が許嫁としていた為に

「これは、お戯れを……」と父上には相手にされず。

卒業と同時に嫁いで行ったそうですが。


彼女、兎に角気が強いらしくて

友好関係を築く為の婚姻が、国家間に亀裂を請じさせるほど険悪になり

送りかえされたとのこと。


二度目は、年老いた小国の王を選んだが。

寿命が縮むと多くの金銀のしをつけて、もどされた。


公爵家でももてあまし王位を受け継いだ弟にとっても、姉の存在は目の上のたんこぶみたいで。

誰でも良いから相手を探しているところ。

以前からヘルメスが好意を寄せていた辺境泊の妻が病気だということを知った。



ここで膝におかれたジルのこぶしに力がはいる。

陽菜の手が優しくその手の上にのった。

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