廃墟の地球儀
Aたちは地元では有名な不良だった。
仲間とつるんで色々と褒められたことじゃないこともいくつか起こしてきた。
ある日、Aの仲間の一人が近所にある廃墟のアパートに肝試しに行こうと誘ってきた。
面白そうなので直ぐにAたちはその提案に乗り、バイクでその廃墟に向かった。
夜の12時ごろにその廃墟に着き、早速探索を開始する。廃墟のアパートは4階建てでかなり荒れていて、窓という窓はわれて、壁には蔦が巻きつき酷い有様だ。
ただ、落書きなどはなく、どうやら人の出入りもあまりないようだった。
それをいいことに、Aたちはアパートの壁にスプレーで落書きをして、思う存分楽しんでいたが、そんなことをしつつアパートの中を一通り見て周り、一階のある部屋に来た時だった。
友人の一人があるものを発見した。
「ここ地下室があるんじゃねーか?」
部屋の隅に下に降りる階段があった。
その部屋はどうやら居住のためのものではなく、物置のような場所でこじんまりとしていたのだが、何故そんなところに地下に降りる階段があるのか。
そんなことは頭にも浮かばず、Aたちはとてもワクワクして、早速降りてみることにした。
「なんだこりゃ。見てみろよ、でっかい地球儀だ!」
先頭の友人が声をあげた。
そこには直径2mはあるかという大きな地球儀が置かれてあった。
大きいだけではない。
その地球儀は自転をしていた。その表面には雲の流れも見え、北極の方ではオーロラが揺れていた。地球儀の裏は夜のように暗くなっており、大陸の所々に光の広がりが見て取れた。
地球儀というよりも立体ホログラムのようだ。
友人がその表面に少し手を触れる。すると、手を触れた地球儀の表面が鮮やかなオレンジ色に変わった。そのオレンジは触れたところから徐々に広がっていき、20cmくらいのところまで広がり止まった。
「おい、おもしれーぞ。お前らもやってみろよ」
Aも友人と地球儀を触ってみた。すると、なんと手が地球儀に沈み込んでいったのだ。
未知の体験に3人はとても興奮して、何故こんなところにこんなものがあるのかという疑問も忘れ、地球儀を殴りまくってその表面をオレンジにしていった。
しばらくして、地球儀の表面が一面オレンジになり、面白味も無くなった頃に突然階段の方から声がした。
「そこにいるのは誰だ!」
びっくりして振り仰ぐと、懐中電灯を持った男の人が階段を降りてくるところだった。
その男はオレンジに染まった地球儀を見るなり、
「なんてことをしてくれたんだ!」
と叫んで地球儀に走り寄ってきた。しばらく地球儀の前で男は呆然としていたが、厳しい表情でAたちに向き直ると言った。
「君たちはとんでもないことをしてくれた。一つの世界を終わらしてしまったんだぞ」
「おっさん何を言ってるんだよ? まさかここの管理人さん?」
「私はこの廃墟の管理人だ。せっかく誰にも見つからない安全な場所で世界を作り上げたというのに、君たちのせいで今までの苦労が水の泡だ。君たちはこの世界がシミュレーションだという仮説を知っていないのか?」
「シミュレーション?」
「なんのことだっての」
「まあ無理もないか。君たちのような粗暴な連中には分かるまい」
男はAたちの風貌を一瞥してため息をついた。
その一言にAは頭に血が上り、次の瞬間には男の顔をぶん殴っていた。
「なめた口聞いてんじゃねえぞ!」
友人たちも加勢し男は袋叩きにされ、完全に意識を失ったところでAたちは気が晴れて廃墟を去った。
「結局シミュレーション仮説ってなんだったんだ?」
バイクに乗り帰宅する途中、信号待ちの時に友人が尋ねてきた。
「知らねえ。別にどうでもいいじゃんそんなこと」
「あの男何者だったんやろうな。俺たちもしかしてやばいことしちゃったか?」
「大したことじゃねーよ。簡単にボコボコにされるような奴がやばい奴なわけないって」
談笑をしながら、目の前の信号が青になるのを待つ。
夜は暗く、街は静かな眠りについていた。
と、突然夜空に明るい肌色をした物体が突如現れた。
唖然としているAたちの前でその物体は、夜の底に突き刺さって地面をえぐりオレンジ色の溶岩がそこから吹き上がった。
その物体は夜空に戻り、いったん中空で動きを止めてから再び地面に向かって降ってきた。Aたちはその物体が何か、やっと理解した。
それは手の形をしていたのだった。