核戦争なのにセールスマンがやってきた
今日、いろいろあって核戦争が始まった。
俺は最後の晩餐のカップラーメンを自宅アパートで食べながら、テレビの空襲アラートを見ていた。
俺が住んでいるのは東京都内の市街地だ。おそらく核攻撃の被害は免れないだろう。もっと田舎にでも住んでいたのならばよかったが、こっちの方が利便性があったから仕方がない。
しかし、俺の人生もここまでかと思うとむなしい気持ちにさせられる。
なんのために嫌な仕事をしていたのか、こうなるのが分かっていたら貯金などせず遊んで暮らしていただろう。
そんな時、インターホンが鳴った。
こんな時にいったい誰だろう。俺は応対することにした。
「こんばんは。セールスのものですが、核戦争になった今、素晴らしい商品があるんですが買ってみませんか?」
ドアを開けるとそこにはスーツ姿の若い男が立っていた。
なんとまあ商売根性たくましい人だ。こんな事態になってもセールスなんて。
いや、さすがに頭のおかしくなった人がセールスを名乗っているだけなのだろう。核戦争だぞ。もっと、焦れよ。
しかし、俺も話し相手がいた方が安心できる。
一人で死ぬのも嫌だから頭のおかしいこの人の相手でもしてやろう。
「こんなところで立ち話でもなんですから、どうぞあがってください」
普段なら言わないことでも人類が絶滅しそうな今なら言えた。
どうせ死ぬのだから多少の優しさくらい発揮してもいいだろう。
俺と男はテーブルを向かい合って、話始める。
「で、どんな商品のセールスですか?」
「じつは、この核戦争の時のために作っておいたとっておきの商品があるんです。その名もバリアー」
「バリアー? もしかしてそのままの意味じゃないよな?」
「そのままの意味です。このバリアーを使うとどんな核爆発が起きようとも自宅は安全です。今ならたったの100万円で提供可能ですよ!」
なかなか面白い設定の嘘だ。
話に乗ってやるとするか。
「いいですとも。100万円なんてもう何の役にも立たない。通帳ごと持って行ってください」
俺はタンスから通帳を取り出し、男に手渡した。
「ありがたくいただきます。バリアーは外でかけますので、少々お待ちを」
男は外に出て、しばらくして戻ってきた。
たった5分しかかかってない。
「これであなたの家は安心です。では、私はこれで失礼します」
「もう少しいてくれてもいいんですよ」
「いえ、他の家にもセールスにいかなければならないので」
男は去っていった。
部屋に一人残されると、急に寂しさがこみあげてきた。
「人類の終末も独り・・か。電話が使えたら親とでも話すんだけどなあ」
とっくのうちに電話回線は途絶えていた。やがてテレビも途絶え、ラジオも途絶えた。カップラーメンを食べ終わり、俺は布団にくるまって横になった。
きっと、寝ているうちに世界は終わるだろう。現実逃避をしながら俺は目を閉じた。
翌日、外は明るくなっていた。
いつの間にか眠っていたらしい。俺はすでに死んでいて幽霊になっているのではないかと思って、頬をつねった。
痛い。幽霊でも痛いのだろうか。
しかしよく考えると部屋は無事みたいだ。ということはもしかして奇跡的に俺の住んでいる場所には核爆弾は落ちてこなかったのか?
その時、外からノックの音が聞こえた。
「誰かいますか!? 生きてますか!?」
俺はのろのろと布団から這い出て、ドアを開けた。
そこにいたのはお隣の大学生だった。
そして、その大学生の背後に広がっている光景に俺は驚愕した。
何もない。この地域は住宅街が広がっていたはずだが、燃えてしまった瓦礫の山と化していた。少し遠くの丘陵地に作られた団地がよく見えるほどだった。
「見ての通り焼野原ですよ。夜の間に核で全部吹っ飛んだらしい」
「これはひどい。で、この建物はなんで無事なんですか?」
「そこなんですよ。なぜかこのアパートだけ、被害が全くないんです。バリアーで守られたみたいに」
俺は昨日のセールスマンを思い出して思わずため息を漏らした。
あのバカバカしい話は全部本当だった? 神か仏がセールスマンの形をもって現れたのだろうか。
もはや呆然とするほかない。
これからどうやって生きていこう。田舎の方なら被害を免れたところがあるかもしれない。
それにしても、どこまで歩けばいいのやら。
俺は思わずつぶやいた。
「せめて生存パッケージくらいつけてほしかったなあ」




