ロボット葬
「ロボットの葬式を行いたいのだけれど、どこかやってくれるところはないだろうか?」
ある日、家の近所に一人で住んでいる友人がやってきてこんなことを言い出した。
「ロボットの葬式?」
聞き返すと、知り合いはうなずいた。
「おれがeロボットと暮らしていたのは知っているだろう? もう10年になる。そのeロボットがついに動かなくなってしまったのだよ。壊れたらしい」
eロボットとは某企業が作った家事手伝いロボットのことだ。サラリーマンの一ヶ月分の値段で、料理や掃除、洗濯をやってくれる。非常に優秀なロボットでその仕事ぶりが当時話題になり、購入するものが跡を立たないくらいのブームになった。
知り合いがeロボットを買ったのもその頃だった。
もう10年になるのか。おれは時の早さを実感した。
「しかしロボットの葬式なんて聞いたことがないな」
「そうだろう。でも、壊れたからって粗大ゴミにして捨てるっていうのも、なんだか薄情な気がしてならないんだ。もう10年も一緒に暮らしてきて、身の回りのことは全部やってもらった。おれにとっては家族みたいなものだったからさ」
「自分で調べたりはしたのか?」
「一応ネットでロボットの葬式をしてくれそうなところを探したんだが、パソコンやスマホの供養をしてくれるところはあっても、流石にロボットの供養までしてくれるところはなかったよ」
「人形供養とかは聞いたことがあるけど、そんな供養してくれるところもあるんだな」
「方向性としては同じなんだろうけど、どうやらロボットは大きすぎて駄目らしい」
「市役所にでも行ってみたらどうだ? もしかしたらそういったサービスをやっているかもしれないぞ」
「市役所か。そうだな。ちょっと相談に行ってみるのもアリかもしれない」
おれと友人は、仕事が休みになる日曜日に二人で市役所を訪れた。
「うちで使っていたロボットの葬式をやりたいのだけれど、どうにかなりませんか?」
相談窓口の職員は驚いた顔一つせずに、
「ロボットというとどんな類の?」
「テレビを見ていないんですか? 少し前に流行った家事手伝い用ロボットですよ」
「ああ、あれですか」
「つい先日になって壊れてしまって、ただ捨てるのじゃ忍びないから葬式ぐらいはできないかと思ったんだけれど」
知り合いは職員に自分のeロボットへの思いを身振り手振りで教えようとした。しかし、職員は同情の眼差しを向けてはきたが、葬式についてはけんもほろろな返答しかしなかった。
要するに、ロボットの葬式は市として取り扱っていない。粗大ゴミに出してくれとのことだった。
「もしかしたらおれと同じようにロボットの葬式をしてくれるところを探している同士がいるかもしれない。ネットで相談してみよう」
知り合いは帰り際そんなことを言っていた。
数週間後、おれは知り合いの家を尋ねた。
「どうだった? ネットでは同士は見つかったか?」
「どうやらeロボットの寿命が一斉に訪れているようで、それなりに同じ感情を持っている人はいるみたいだよ。そういう人たちは
泣く泣く粗大ゴミに出して諦めているようだった」
「君はまだeロボットを捨ててはいないんだね」
おれは部屋の隅に置かれたeロボットを哀れみの眼差しで眺めた。
人型二足歩行。白いボディにうっすらとホコリが積りかけている。丸いかわいらしげな瞳は、動いていれば青く光っているはずだが、今ではなんの輝きもない。
「これがロボットの末路ってやつか」
「この10年よく働いてくれたよ。かわいそうだが、やっぱり粗大ゴミに出すしかないな」
おれと友人はロボットを見ながら酒を交わしたのだった。
粗大ゴミの日は一週間後だった。
仕事に追われ、ロボットの話題も忘れそうになっていたそんなある日、友人から連絡があった。
「葬式をしてくれるところが見つかったぞ」
友人の声は弾んでいた。
「どこにそんなサービスをしてくれるところがあったんだ?」
「S N Sで試しにハッシュタグをつけて探してみたんだ。そしたら、連絡があって、そこが新しくロボット葬を請け負う会社だったんだよ」
まさかそんな会社が存在していたとは。おそらく、ネット上で彼と同じような悩みを持った人が多くいて、そこに目をつけたのだろう。何はともあれ胸の重荷がすっと消えた気分だった。
葬式の日はすぐにやってきた。
おれは葬式を見物しに友人の家まで行ってきた。
どうやら葬儀場は使わずに、家で行うらしい。友人宅の前には軽ワゴンが止まっていた。
インターホンを鳴らすと、友人が出てきた。
「どんな様子?」
「会社のスタッフと供養をしてくれるお坊さんが来てる。10分ほどで終わるって」
居間には黒い服に身を包んだ二人のスタッフと、お坊さんが来ていた。友人とおれの他には誰も参列した人はいないようだが、まあそこは予想通りといったところか。
葬式は簡素なものだった。ロボットは棺の中に入れられ、周りには花が添えられていた。
スタッフと一緒におれと友人は正座をしながらお坊さんのお経を聞いた。葬儀というより、これは供養といった方がいいのかもしれない。
お坊さんがお経を唱え終わるまでだいたい10分ほどだった。
「このサービスは最近始めたものなんですか?」
おれは棺が軽ワゴンに乗せられていくのを見届けた後、スタッフの一人に話しかけてみた。
「はい。この頃、SNSでeロボットを供養してほしいという声がいくつも上がっていることに気が付きまして、当社としてはこのご要望にお応えできるようなサービスが存在していなかったようなので、ご要望を持つ人たちのために事業を新たに開拓したのです」
おれと友人は、葬式が終わった後、友人宅で酒を飲むことにした。
部屋の隅に置かれていたロボットがいなくなり、少し広々とした室内は心なしか明るくなったように思える。
「しかし、よくまあニッチな需要を見つけ出したものだ」と、おれ。
「ネットでも同じようなサービスを探していた人がそれなりにいたんだろう。実際、おれの呟きに賛同してくる人の数も多かったしな」
「eロボット・ブームから10年で、どんどん壊れていくから食いっぱぐれることもなさそうだし、いやはやうまいところに目をつけたものだ」
「それはそれとして、eロボットの製造会社ってどこだっけ?」
突然の問いにおれは頭にはてなを浮かべた。
「どこの会社かって・・? 確かJテクノロジーだろ?」
eロボットを発売する前からJテクノロジーは有名企業だった。もともとパソコンやスマホのソフトウェアの製造をしていたが、eロボットの発売後はアンドロイドやAI事業にも手を出し、今では巨大企業だ。
「それがどうかしたのか?」
「葬式サービスをしてくれた会社の名刺なんだけれど・・」
友人はテーブルに一枚の名刺を置いた。
そこにはJテクノロジー・葬式サービス課と書いてあった。
「ゆりかごから墓場まで・・か。本当にしたたかな企業だこと」




