かげろう石の秘密
ワープ航法が発明され人類はついに太陽系から外の世界へと飛び出すことが可能になった。系外惑星探査の1番の目的は人類以外の知的生命体を発見すること。
そのために宇宙船は有望な可能性のある恒星系へと向かった。
一番怪しいと思われた系外惑星は97光年先にあった。ハビタブルゾーンにあり、宇宙望遠鏡によるスペクトル分析により大気には酸素と水が確認されている。
その惑星を間近に見て宇宙船の船員たちは大きな感動に包まれた。
全球の7割ほどを青い海が覆っており、白い雲が流れているのが見えた。
「これは生命の発見が期待されますね」
船員が言った。しかし船長は何か釈然としない表情だった。
「陸地を見ろ。植物が全くない」
指摘されて船員たちは初めてそのことに気づいた。雲の切れ間から覗く大地は赤茶けており、緑はまるでなかった。
宇宙船は陸地の端、海岸線のすぐ近くに着陸した。
宇宙から見た景色で察していたが陸地は荒凉として生命の予感はまるでない。一面岩と砂の世界だ。
しかし、海岸には何やらドーム状の物体が波の隙間からたくさん顔を覗かせているのが見えた。
「これはストロマトライトじゃないのか?」
ストロマトライトは地球でも見られる緑藻細菌が作り出した生物由来の物だ。
「これが酸素の供給源か・・。地球以外でも同じような進化が起こっていたのか」
「大発見ですよ。早速地球に報告しないと」
しかしストロマトライトがあるということは、すなわちそれを作り出す緑藻細菌を食べるような生物がいないことを示していた。
地球にあるストロマトライトで有名なのはシャーク湾だが、ストロマトライトがある場所は塩分濃度が高く、緑藻細菌を削り取って食べるような生き物が存在していない。そういう場所でないと、ストロマトライトは形成されないのだ。
「これは知的生命体はおろか、多細胞生物の存在すら期待できそうにないな」
船長の期待はあっけなく失望に終わった。
しかし宇宙船は星をくまなく調べた。
知的生命体の存在が見つからなかったとしても船員たちにはやることがたくさんあった。
そのうちの一つが地質調査だった。
岩石を採取するため船員たちは地層が露出している崖を掘り出すことにした。すると奇妙なものが見つかった。
「船長、これは何でしょう?」
「ふむ。何らかの鉱物だな。しかしこれはどういうことだ」
その鉱物は一見石英のように透明だったが、その中が虹色に輝いており、まさに真夏のかげろうのようにその輝きが揺らめいて見えた。
「見つかったのはこれだけか?」
「いえ、掘れば掘るほど湧いて出てきます」
「なら割って調べてみよう。何か分かるかもしれない」
船長は宇宙船の中でその鉱物を割ってみた。
すると綺麗に二つに分かれ、その内部を見てみると不思議なことにかげろうの煌めきはすっかりなくなり、そこにあるのは透明な鉱物でしかなかった。
「奇妙な鉱物だが、とても美しいな。地球に持ち帰れば高く売れるかもしれない」
「この鉱物の名前はどうしましょうか?」
「とりあえず『かげろう石』とでもしておこう。君たち、もっとこのかげろう石を見つけてくるんだ。地球への土産にしよう」
たくさんのかげろう石を載せて宇宙船は地球に帰還した。
その鉱物に目をつけたのは商人たちだった。
いくつかの民間企業の宇宙船がかげろう石のある惑星へ行き、たくさんのかげろう石を持ち帰ってきた。そしてそれらは随分な値をつけられ売られていった。
それらは高い値段にもかかわらず大いに売れた。
さらにたくさんの宇宙船が惑星へ行き、さらにたくさんのかげろう石が持ち帰られてきた。
おかしなことにかげろう石は地球に持ち帰って1ヶ月もすると、内部の輝きが消えていくのだった。残された石英のような鉱物もやがて割れてバラバラになっていく。
そんなかげろう石ブームが続いていた地球に巨大な円盤がやってきた。人類は大混乱に包まれた。何とかして円盤に乗る宇宙人と交信しようと政府や科学者は尽力したが、結果虚しく、やがて円盤からビーム光線が発せられ地球の都市は片っ端から攻撃を受け、壊滅していった。
やがて円盤たちは去っていった。
円盤に乗った宇宙人は攻撃計画がうまくいったことに気を良くしていた。
「あんな野蛮な宇宙人がいる星は初めてだ」
「その通りです。攻撃がうまくいって国民の怒りも落ち着くことでしょう」
「まさか、保育惑星から子供たちを大量に誘拐して、人身売買をした上に餓死させていくなんて、そんな野蛮な宇宙人がいるとは思いもしなかったよ」
円盤の中にいたのは鉱物でできた体を持つ、かげろう石星人だった。




