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引きこもり宇宙旅行3

 

 月が近づくとその表面の模様や地形が手にとるように分かるようになった。

 黒い平原と、大小いくつものクレーター。ウサギの形などと言われているが翠にはどうにもそうは見えなかった。


 再び人のいる場所に来ることができて、翠は少し安心していた。

 何せ3日間の星間飛行だ。宇宙のただ中を一人宇宙船に乗り、移動するのはいくら引きこもりといえども心細いものがあった。


 月面基地があるのは月の南極にあたる場所だ。

 宇宙船はそこへと向かって飛行していた。


「月では何をするんだ?」


 AIに尋ねる。


「月面基地のある宇宙港に着陸した後、すぐに地球に向けて出発します。宇宙船を降りることはありません」


「ここまで来てとんぼ返りかよ!」


「月面基地内での滞在が認められなかったので」


 せっかく月にまで来たのだから記念に何か持って帰ってやろうと思ったのだが、それはできないらしい。


 その時、突然宇宙船に大きな衝撃があった。

 

「なんだ! 何が起きた!?」


「何かが宇宙船にぶつかりました。姿勢制御装置が壊れたらしく制御ができません。不時着します!」


 宇宙船が不時着したのは広大な平原のど真ん中だった。

 周りには何もない。ちょっとした丘が遠くに見えるだけだ。


「ここはどこなんだ? 月面基地までどれくらいなんだ?」


「南極の近くだと思われます。月面基地まではだいたい20kmといったところです」


「遠いな。宇宙船はもう動けないのか?」


「姿勢の制御が困難なため、自律して動くことは難しいです。不時着は月の重力と非常操縦で上手く行きましたが、この状態で地球に帰ることは不可能です」


「冗談じゃねえよ・・。でもまあ、待ってれば助けが来るはず」


「残念ながら何かがぶつかった場所に通信装置もあり、SOSを送ることができません」


 翠は真っ青になった。さらにAIは続けた。


「付け加えて、損傷箇所から船内の空気が漏れ出ています。早く宇宙服を着用しなければ、後20分ほどで船内の空気が全て抜けてしまい、窒息することでしょう」


 宇宙進出初期の宇宙服は着る準備に丸一日かかると言われていたが、翠の時代には10分もあれば着用することができた。

 

 もこもこの宇宙服を着た翠は言う。


「これで大丈夫だ。きっと基地の人が気付いて助けに来てくれるはず」


 AIが言葉を返す。


「残念ながらこの宇宙服が供給できる酸素量は3時間が限度です」


「もうやめてくれ。俺はこれ以上何も聞きたくないぞ」



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