4、リズと王女様
そのころ、王宮内ではあることが、しきりに話題になっていた。
今度ある王国の建国記念式典で第三王女が初めて公務を行うということで、その王女様についてみな興味津々、噂話がさかんにされた。
「王女様は僕より三つ年下なんだって」
ウィリアムも噂話を耳にして、興味津々な一人だった。ウィリアムは誰かとその話をしたくて、飼育小屋にやってきたリズにその話をしたのだった。
「知ってるわ。私と同い年だもの」
「リズはもしかして、王女様と会ったことあるの?」
リズはその質問に少し考えてから、
「ええ、もちろんよ。ずっと王宮暮らしなんだもの。たいていの人は知り合いよ」と言った。
「王女様、どんな人なんだろう。すごくかわいらしい人って噂だけど」
リズは頭を強く振って言った。
「それは嘘よ。幻想。そんなに大したものじゃないわ」
「へー。まあ噂っていうのは誇張されるものだからね。実際に見知っている人が言うのならそうなんだろうな。別に……期待しているわけでもなかったからいいんだけどね」
「あ、でも、ちょっとはかわいいわ。ちょっとはね」
リズは少し焦った様子でそう言った。言い過ぎたと思ったのだろう。
「なにそれ」
「私くらいかな。かわいさは」
「じゃあ、かわいいじゃん」
ウィリアムはそう言ってから、口を押さえた。思いがけず出た言葉に恥ずかしくなったのだ。しかしリズはそれ以上に顔を赤くしていた。
「急に変なこと言わないでよ」
「ごめん。でもリズは王女様と仲が良いんだね」
「なんで?」
「だって『大したことない』だなんて仲がよくないといえないでしょ」
「たしかにそうかも」
「じゃあ式典が楽しみだなあ。王女様を見てみたくなった。リズのお友達だというならなおさら」
「そう。でも王女様は式典があまり楽しみじゃなかったみたい」
「そうなの?」とウィリアムは驚いて言った。
「うん。王女様、ちょっと自分に自信がないから。でもウィリアムが『かわいい』とか言ってたと伝えたら、気持ちが変わるかもね」
ウィリアムはリズの言葉を聞いて笑った。
「そんなわけないでしょ。僕なんかが言ったところで」
「そうかしら?」
ウィリアムは第三王女の出席する記念式典の日が楽しみになった。リズから話を聞いて、王女様のことをいろいろ思い浮かべると、一度も会ったことがないのに、よく知っている友達のように思えてくるのだった。