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1、動物飼育係

「ウィリアム・レッドベリーを動物小屋の飼育係に命じる」

「はっ」


 王宮のある部屋で、レッドベリー男爵の一人息子ウィリアムが大臣から役職を拝命すると、その場にいた他の者たちから失笑が漏れた。

 この時期、王宮にはこの国の貴族の子弟たちが各地から送り込まれて、経験を積むために仕事を割り振られる。そしてここでどんな仕事が割り振られるかによって、将来が左右されるとも言われている。


 貴族の子弟立ちに割り振られる仕事の中で、動物飼育係という役職は一番人気のない仕事だ。この仕事に出世の望みはまったくない。そのうえ動物小屋はまったく掃除されておらず、汚く臭いも酷いので、一番のハズレの役職だと言われている。


「お似合いですね」

 そんな陰口も聞こえるのは、ウィリアムが同期の子弟たちから見下されているからだ。

 王宮にやってきてそれほど日にちが経っていないのに、彼は田舎貴族だとか貧乏貴族だとか馬鹿にされている。

 ウィリアムが王宮で着ている服が流行遅れのもので、数も少ないためいつも同じ服を着ている。他の貴族たちはそれを見て、彼を馬鹿にするようになったのだ。


 残念ながら、田舎貴族というのも、貧乏貴族というのは本当だった。両親がお金を貯めて、どうにかウィリアムを王宮に送り出してくれた。その際、王宮で服も親が用意してくれたのだが、残念だがら一昔前のセンスで選ばれたもので、今の感覚で言うと絶望的にダサい服装だ。


 同期の貴族の子弟たちは、飼育係になったウィリアムをからかいにやってきた。いつもウィリアムを馬鹿にして面白がっているやつらだ。

「ちゃんと召使いに掃除とか動物の世話とかをさせろよ」

「あ、でも君、召使いを雇うお金がないか。ぷぷぷ。じゃあ自分でやれよ」

「掃除とかしたらちゃんと体洗えよ。小屋はめちゃくちゃ臭いらしいからな」

「考えただけで臭くなってきたな。こいつから離れようぜ」

「そうだな」

 そう言って、彼らは大笑いしながらウィリアムのもとから去って行った。しかし、悔しいがウィリアムが何かを言い返したりやり返したりすることはできない。ここでのウィリアムは家の格も財力も、すべてが劣っている、何の力もない人間なのだ。



 動物小屋は王宮の中でも最も奥まった場所にあって、人通りのまったくない場所にあった。

 うわさ通り小屋は、動物の糞やら、放置した様々なものの匂いで超絶に臭かった。中にいる動物たちも、(すす)でも被ったようにうす汚れてみすぼらしく、元気のない様子だ。

 ウィリアムは、からかわれた通り召使いを雇うお金はない。だから自分で掃除やら動物の世話をすることにした。

 ウィリアムは田舎で育ったので、他の貴族とは違い、自分が汚れても平気だった。野原や森のなかで遊んだり狩りをしたりすれば汚れるのもあたり前のことなのだ。

 

 ウィリアムが掃除を終えると、動物小屋は見違えたように綺麗で清潔になった。

 中に飼われている動物たち、馬と犬と蛇も汚れていた体がきれいになって、馬は美しい白い毛並みを、蛇は銀色の(うろこ)に覆われた皮を取り戻した。掃除して気持ちよくなったのか、動物たちは元気になった。立派な体格の茶色の犬は、嬉しそうに一度吠えると、ウィリアムに懐いて、その周りをぐるぐると回った。

 こうしてみると、三匹の動物は、ウィリアムが見たこともないほど見事だった。

 王宮で飼われている動物は流石、他とは違う。そうウィリアムは感心したのだった。


 ただ、いくら動物小屋を綺麗にしたところで、評価されない。それどころか、小屋は人の来ない奥まった場所にあるので、そもそも小屋が綺麗になったことを誰も気づかないのだった。


 ウィリアムは、自分は王宮に何をしに来たのだろう?と思った。

 両親は、子どもを王宮に送れば、立派になって戻ってくると信じている。

 実際には、到着して数日で、出世の望みもない役職が割り振られた。


 貴族の子供たちに、王宮内で割り振られる役職は、財力(王家への寄付額)や家の格で決まっているのだ。よく考えれば当然なのだけれど。

 だから男爵家であり田舎の貧乏貴族の財力では、ウィリアムが出世ルートに乗ることは難しい。ただウィリアムは簡単に諦められない気持ちもあった。

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