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テイル・ブレイク・ストーリー  作者: 松プリン
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生点ーLIFE POINT

10年前の10月10日、俺の日常は音を立てて崩れ去った。空からやってくる超常の者達が建物を人を焼いていく。そいつらが手をかざすと何も無い場所に火柱が立ち、周囲が凍りつく。周りの人達はなす術も無く蹂躙されその日だけで幾つもの街が滅びた。


 俺の住んでいた街も巨大な火の玉に焼き尽くされた。家は跡形も無く灰になり、目を覚ました俺の隣には背中を焼かれて生き絶えた両親、俺を庇ったせいで二人とも死んだ。


 生き延びた俺はある人に保護されて奴らの事と今の状況を聞いた。奴らが物語の中の住人で現実の人々を滅ぼそうとしている事、それに対して世界中の国々が協力して連合軍を立ち上げた事、そして俺を保護した自分は連合軍の暫定大尉だと言う事。幼いながらに何となく状況を理解した俺は泣く事しか出来なかった。両親が死んだショックと未来への不安、色んな感情が頭を渦巻いて気づくと俺はその大尉に抱かれて赤子の様に泣いた。


 それからしばらくは連合軍の施設で暮らしていたが数週間が経ったある日。あの時の大尉、笹塚 飛鳥が俺を引き取ると申し出てきた。どうするか聞かれてすぐ様首を縦に振ったのを今でも覚えてる。自分を助けてくれた人に少しでも恩返しがしたかったからだ。


 大尉に手を引かれて施設を出ると外の景色は酷いものだった。前線から遠いとは言えここも中継基地、怪我人が運び込まれ周りの大人達の表情も暗い者ばかりだった。


 笹塚家に引き取られて7年が経ったある日、飛鳥に前線への召集命令がかかった。本人は今まで無かった事の方がおかしいくらいだと言っていたがその頃の俺にはただ、一人になりたく無いと言う思いしか無くて必死に飛鳥を引き留めた。


 それでも飛鳥が軍の命令に逆らえるはずもなく別れの日はやってくる。


「帰跡、私はお前とお前の生きる未来を守らなければならない。どうか、許して欲しい」


 その言葉を残して飛鳥は前線に向かった。



 それから更に三年の月日が流れ、俺も18歳。高校を卒業して直ぐに連合軍に志願兵として入隊し、今日が初出撃の日だった。


「笹塚二等兵、発進どうぞ」


「機体骨格正常、エンジン、武装共に異常無し。システムオールグリーン。笹塚 帰跡(きせき)、アイ・シャリス。でます」


 地面を走る大きな輸送車から巨大な鉄の兵士に乗って発進する。初出撃にしては上手く出来たと思いたい。


「アイ・シャリス3号機、笹塚二等兵聞こえるか?」


「こちら3号機。問題無く聞こえます」


「中々良い発進だった、初めてだとつまずいて機体を転倒させるやつがたまにいるからな」


「ありがとうございます」


 この人は俺の所属するD107小隊の隊長で原 真吾伍長。俺ともう一人の新人の事をいつも気にかけてくれる。


「アイ・シャリス2号機。新町二等兵、そちらも大丈夫か?」


「はい!問題ありません!」


 新町 唯香。俺の幼馴染で俺が連合軍に志願すると言ったらついて来た。最初は止めたのだがいくら言っても意思は変わらず渋々許したがまさか同じ部隊に配属されるとは思わなかったな。


「ではこれより我々D107小隊はD級テイル・ジェネレーターの討伐作戦を開始する。各員、気を引き締めろ!」


「「了解!」」


 アイ・シャリスの脚部、その底につけられた車輪を走らせる事数分俺たちの前方に火柱が映る。


「笹塚二等兵、新町二等兵のためにテイル・ジェネレーターの基本情報の説明を」


「了解」


「えー、何でですかー?」


「お前が忘れてるからだ」


「帰跡ひどーい!」


 ぐだぐだ喚く幼馴染を無視して説明を始める。テイル・ジェネレーターとは七年前に突如発生した物語の中の住人達。小説、漫画など創作物のキャラクターが現実世界に現れたもので、俺たち人類に戦線布告を宣言。地球には自分達が住むから滅びろと言うのが奴らの言い分だ。それに対し国家間で連合軍を立ち上げ徹底抗戦を開始。そこで始まった戦争が今もまだ続いている。連合軍はテイル・ジェネレーター達をランク分けしており、下からE、D、C、B、Aとあり、それに合わせた同ランクの小隊が派遣される。


「それで、俺たちはDランクの小隊だからD級のテイル・ジェネレーターを討伐に向かう訳だが、敵がどれくらいの強さか分かってるか?」


「わたしだってそれくらいはね。D級はE級10体分の強さでしょ?」


「バカ、100体分だ」


「え……ああ、そう言えばそうだったね!」


 こいつは昔からこうだ……


「新人ども、そろそろ目標と接触する。臨戦態勢を整えろ!」


「了解……」


「りょ、了解!」


「新町。緊張するなとは言わないが、もう少しリラックスしろ」


「はい!」


 全くこいつは。


「隊長、前方から高熱原体!」


「各自散開!!」


「うわわわわわわ!!」


 敵は一体どこから?レーダーには何も……


『ほう、転移魔法と炎魔法の合わせ技を避けるとは少しは遊ばせてくれるのか?』


 アイツがさっきの攻撃を?見たところ普通の人間、では無いんだろう。なんと言っても物語の住人、空想上の生き物だ。さっきから生身で空に浮いてるのも魔法という物語の中の力だ。そんな物を現実世界に持ってこないで欲しいと切に思う。


「隊長、指示を」


「俺が的になって気を引く。二人は接近戦と射撃で様子を見ながら敵の攻撃手段の把握を頼む」


「了解、唯香。接近戦を頼めるな」


「もっちろん!それしか出来ないしねー!」


「援護は任せろ」


「うん!」


 唯香の接近戦闘技術には目を見張るものがある。Dランクの敵にも十分通用するはずだから、俺は援護射撃に徹する。


「各自、行動開始!」


 隊長の声に合わせて各々が動き始める。隊長は敵へと正面から突撃して敵の攻撃を引き出しては建物などの遮蔽物を利用して回避する。ここら一体はビルがたくさんあるし遮蔽物には困らないだろう。


「いっくよー、えい!」


 連合軍主力量産型テイル・ブレイカー、アイ・シャリスは機動性とクセの無さに重点を置いた機体だ。通常時の武装は戦車の装甲すら撃ち抜く貫通弾を無数に打ち出す巨大なアサルトライフルに鉄ですら安易と切り裂く特殊金属のアイアンブレードなのだが、俺の幼馴染事、新町 唯香は射撃系の武装を一切持たずアイアンブレードを肩に二本、腰に二本の計四本で出撃していた。本人に聞いたら整備班のリーダーに射撃が一切当たらないと伝えたところ、代わりにアイアンブレードを多くつけてくれたらしい。果たしてそれで良いのだろうか。


「帰跡!アイツの周りに見えない壁があって切れない!」


「講習で習ったろ、魔法障壁だ。テイル・ジェネレーターの大半が使用可能だ」


「これどうすれば良いの?」


「新町二等兵は一旦下がれ!他にどんな攻撃手段があるか分からない。笹塚二等兵は貫通弾による射撃を続行、俺が前に出る」


「「了解」」


 流石は隊長。敵の攻撃を自分に集めながらアイアンブレードで障壁に負荷を与えてる。


「ごめんなさい……わたしが射撃できないせいで」


「新町二等兵、落ち込んでる暇はないぞ。障壁を破ったら死ぬほど頑張ってもらうからな」


「隊長……はい!」


 隊員のケアも怠らないと。本当にこの人の部隊に配属されて良かったな。


『小賢しいな。貴族のこの俺の魔法を避け続けるとは……ならば少し趣向を変えてみよう』


 瞬間、俺たちの目の前を小粒の炎が覆い尽くす。


「各自、ビルなどの遮蔽物を利用し回避しろ!」


 そうは言ってもこの数じゃ、ってこの炎!


「隊長この炎ビルを貫通します!」


「クソ!アイ・シャリスの装甲でも持つか分からない!極力被弾を減らせ!」


「キャァァァッ!!」


 唯香が被弾した?!2号機の装甲は?右の肩部装甲に穴が空いて……まずいこれはまずい。数発であの威力、長引けばジリ貧だ。


「新町二等兵!後退できるか?!」


「は、はい!」


「作戦失敗だ!撤退す———」


「隊長!?」


 なんだよ、あの数は……


 俺の視界に映るのは先程よりも数の増えた小粒の炎と機体の至る所を撃ち抜かれた原隊長のアイ・シャリス1号機。


「隊長ォォォォッ!!」


 そんな、原隊長が……


「帰跡!」


「クソッ!」


 百を超える無数の炎を何とか避け続ける。なんで……Dランクの強さじゃ無いだろあいつ、このままじゃッ、どう足掻いても——ここはビルの密集地体…………そうか!


「唯香、今から言う事を良く聞いてくれ」


「う、うん!」


 これは一か八かの作戦だ。失敗すれば俺だけじゃ無くて唯香も死ぬ。この状況で撤退は不可能、正攻法で戦っても勝ち目は薄い。だからこその賭け。


「行くぞ!」


「えい!」


 唯香に作戦を伝えると俺たちは一斉に動き出す。まずは俺が貫通弾で気を引く。


『本当に小賢しい、さっさと滅びろ。貴族に殺されるなんて名誉な事だぞ?』


 よし、こっちについて来てるな。後はできる限り障壁の耐久値を削りつつ目標まで誘い込む。


「唯香、行けそうか?」


「何とかね!」


『魔力の残量が気になり始めた。そろそろ終わりにさせてもらうぞ』


 くそ、アイ・シャリスの脚部が悲鳴を上げてる。だけどあと少し、あのビルまで走れば……


『雑魚の分際でそこまで耐えた事は誉めてやる。だが、これで終いだ』


「お前がな……唯香!」


「おっけー!!!」


『な?!転移は……魔力が足りないだと!』


 危ない危ない、さっきまで俺の後ろにあった高層ビルの一階部分を唯香のアイアンブレードが切り裂くとその巨体が崩れ出し俺を追いかけていたテイル・ジェネレーターを押しつぶす。魔力障壁の耐久値も少ないはずだ、あの重量には耐えられまい。魔力の残量も気にしていたようだし炎を転移させたように自分を転移させる事もできない、はず。それができれば俺は賭けに負けたって事だ。


「大丈夫、、みたいだね!」


「ああ、なんとかな……相手が馬鹿の自信家で助かったよ」


 貴族とか何とか言ってたが本部の情報によれば貴族には馬鹿が多いらしいしラッキーだったな


 よし、後は目標のテイル・クリスタルを回収して……


「唯香、テイル・クリスタルの回収頼めるか?」


「良いけど、何かする事あるの?」


「隊長機の確認をしてくる」


「あ……うん。お願いね」


「機体も見ててくれるか?」


「任せて!敵が来ても傷一つ付けさせないから!」


「敵はもう居ないはずだから大丈夫だとは思うけどな」


 このビル街の周辺にはあのテイル・ジェネレーター以外の敵は居ない。どうやらプライドが高い個体だったらしく単独で行動していたらしい。流石は本部からの情報と言いたいところだが、今回ばかりはそうも言ってられない。


「アイツの強さはD級なんかじゃない。魔法障壁の強度はまだしも、あんな高等な攻撃手段がD級ごときにあるはず無い。なら、やはり……」


「笹塚二等兵、考察も良いがそろそろ助けてくれないか?」


「え……隊、長」


「早くしてくれーコックピット内がめちゃくちゃなんだ」


「隊長!無事だったんですか?!」


「これを無事と言って良いのか分からないが、生きてはいるぞ。だから早く助けてくれ」


「今コックピットを開けます!」


 俺は直ぐに隊長のアイ・シャリス1号機をよじ登り緊急開錠ボタンを押す。中には頭から血を流した隊長がいた。機体に備え付けられた救急キッドを使って応急処置を済ませると唯香のアイ・シャリスの手のひらに隊長を乗せてそっと地面に降ろす。


「新町二等兵、テイル・クリスタルの回収は?」


「は、はい!死体の消失も確認、テイル・クリスタルも回収しました!」


「しかしどう言う原理なんだろうな、死亡すると死体が消えてこの石だけが残るなんて」


 そう言う隊長の手には赤い輝きを放つ拳大の石ころが握られている。


「隊長、物語の住人の事なんて考えてもどうしようもないですよ」


「それもそうか!よし、帰投するぞ。笹塚二等兵悪いが乗せてもらえるか?ああ、それと俺の機体の回収を依頼しておいてくれ」


「了解しました」


「新町も良くやった。あれ程の敵を倒したんだ、次の給料でボーナスが出るかも知れないな!」


 確かに賞与が出てもおかしくない働きをしたと思う。


 原隊長をアイ・シャリスに乗せて走らせる事数分、俺たちのホームである万能輸送艦フロインレヴンが見えてきた。状況に合わせて装甲車にも戦艦にも変形できる物で連合軍の主力艦である。


「D107部隊帰還しました」


 帰還した俺は医務室にいる原隊長の代わりにこの艦の艦長である人物に敵の異常性について報告しに来ていた。


「ご苦労、それで重要な報告と言うのは?」


「は!今回討伐しましたD級テイル・ジェネレーターですが、攻撃手段のレベルから見てD級の強さでは無いと感じました。本部の情報を疑うわけでありませんが、もしもの事があってはと思い報告を」


「成る程、あの噂の信憑性がますます高まったか……帰跡、息子としてのお前に母として個人的に聞く」


「笹塚中佐、軍規に違反する様なこ———」


「私に口答えする気か?」


「何なりとお聞きクダサイお母様」


 この艦に配属されてはや二週間フロインレヴン三番艦、艦長事俺の義母である笹塚 飛鳥のこう言ったわがままには事欠かない。


「よろしい、では聞くが。本部に裏切り者が居たとして嘘の情報を私たちに流したとする。それが出来るのは誰だ?」


「出来そうやつの中でそんな事しそうなのは情報本部、副長の針河大佐しかいないだろ」


 お望み通り家に居る時と同じ口調で話す。


「流石は私の息子だ」


「そりゃどうも」


「この件については内密に。私の方で全てやっておく」


「言える訳無いだろ、下手したら反逆罪だ」


「だろうな」


 飛鳥との話が終わると俺の足は自然と医務室に向かっていた。


「原隊長、お加減の方は?」


「ああ。3日後には復帰できるそうだ」


「それは良かったです」


 原隊長はふと息を吐き口を開く。


「それでだな、笹塚。あの敵についてはどう思う?」


 この人もそれを聞くのか。


「Dランクにしては少し強いぐらいでしょうか」


「本当にそれだけか?」


 原隊長も飛鳥と同じく本部を疑っている訳だ。口には出さないが、俺を見る訝しげな目がそう言ってる。


「自分にはそうとしか言えません」


 ここで下手なことを言ってもしもの事があったら全て終わりだ。


「それは残念だ」


言葉とは裏腹に満足気な表情をしている。俺の本心には気づいているのだろう。


「時間を取らせてすまなかった。笹塚二等、及びに新町二等は本日の任務を終了せよ。ああ、それと明日からの三日間については休暇とする旨が本部から伝えられた」


「了解しました」


 医務室を出ると扉の前には唯香が立っていた。


「遅いよー!」


「悪い、少し隊長と話がな」


「早くしないと寝る時間になっちゃうよ!」


「安心しろ、なんせ明日から3連休だ。この艦の搭乗部隊の任務も全て終わっているから街で休暇を過ごせるぞ」


「やったぁぁ!!!帰跡!帰跡!どこにいこっか!」


 こいつの無邪気な笑顔を見ていると自然と顔が緩んでしまうな。


 翌日の朝。


「帰跡!帰跡!早く起きて!!」


 騒々しく自室のドアを叩く音で目を覚ます。


「なんだ?唯香か?」


「帰跡!街が見えて来たよ!」


 もうそんな時間か。どうやら思ったよりも寝てしまっていたらしい。


「顔を洗ったら行くから先に上に上がっててくれ」


 顔を洗い終え、フロインレヴン(装甲車形態)の最上部デッキに上がると唯香が遠くを眺めていた。


「帰ってこれたね」


 俺の方へ振り向きそう言うこいつの声音は少しだけ震えている。


「次も帰って来れるかな?」


 唯香だってまだ高校を卒業したばかりの18歳だ。いつもは明るく振る舞っていたがはじめての戦闘を経て少しブルーになってしまったんだろう。


「俺が生きている限りは死なせないさ」


 そうだ。唯香は死なせないし、敵は全て討伐する。俺から両親を奪ったあいつらにこれ以上奪わせてたまるか。


「そっか……そうだよね!帰跡がいれば大丈夫だもんね!」


「ああ。だから勝手な行動はするなよ」


「もう!そうやって直ぐ子供扱いする!」


 そんな事を話している内に俺たち家がある城塞都市エヴァンスが見えてくる。


「ほら唯香。街が目と鼻の先だぞ」


「相変わらずすっごい壁だねぇ」


「そうじゃなきゃ街を守れないからな」


 分厚い壁に囲まれた俺たちの街。城壁都市、エヴァンス。テイル・ジェネレーターから人々を守る城壁には以前と変わらず沢山の宝石が設置されている。あの宝石が設置されている周辺にテイル・ジェネレーターは近づけない。あの宝石、テイル・ジャマークリスタルが開発されるまではいくつもの街が破壊され、何人もの人が死んだ。その結果地球上で人が住める土地はテイル・ジェネレーター出現前の半分に。人類の総数も半分まで減らされた。


 この街から南には人が住める土地は無く。テイル・ジェネレーターが闊歩している。エヴァンスは日本エリア北地区最大の街であり、日本エリア防衛の重要地点だ。この街を突破されれば北地区は敵の手に落ちるだろう。だからこそ、俺たちもエヴァンス付近の敵を少しでも多く倒さなきゃ行けないのに……情報本部が変な動きをしているなんてな。こんな窮地でも人の意思は一つになれないらしい。


「帰跡?怖い顔してるよ」


「悪い、少し考え事してた」


「そう?なら早く降りる準備しちゃお!」


「そう、だな」


 準備を終える頃フロインレヴンも連合軍の格納庫へと到着した。艦を降りて最初に目に入るのは九隻のフロインレヴン。連合の主力艦とは言え九隻も目の前にすると壮観だ。


「取り敢えず今日はどこも寄らず家に帰ろうか」


「分かった!じゃあ家の掃除終わったらご飯作りに行くね!」


「ああ、いつもありがとうな」


「私が好きでやってるから良いの!それより早く早く!」


 格納庫のある軍用エリアからモノレールで数分、住宅地エリアが見えてくる。ここへは引っ越してきたばかりだが、煉瓦作りの道が続く西洋風な雰囲気がとても気に入っている。


「それじゃまた後でねー」


「ああ」


 そう言って唯香は自分の家に入っていく。俺と唯香の家は隣同士で昔から家族ぐるみの付き合いをしているのだが、まさか引っ越して来たこの街でも隣同士になるとは思わなかった。唯香いわく偶然らしいが一人暮らしが寂しくて俺たちの家の隣のアパートを借りたのだろうと俺も飛鳥も気づいていた。


「暇だしシュミレーターでもやってるか」


 シュミレーターとは連合軍が開発したテイル・ジェネレーターとの戦闘を疑似体験できるカプセル状のマシーンのことだ。これには既に昨日俺たちが戦ったやつのデータも入っている。連合軍のテイル・ブレイカーの戦闘データは一つのサーバーから枝分かれ状に繋がっており、全ての部隊が戦った敵のデータが逐一追加され共有されている。シュミレーターにもテイル・ブレイカーと同じシステムが積まれていて昨日戦った敵とも直ぐに擬似的な戦闘ができるわけだ。この家に来た初日、リビングの隅に置いてあるコイツを見て驚いたものだ。なんでも飛鳥の知り合いに製造部の人間がいて俺の入隊祝いに送ってきたらしい。


「搭乗機はアイ・シャリス。仮想目標はB級テイル・ジェネレーター、煉獄の滝姫を指定。」


『承認完了、疑似的戦闘を開始します』


 シュミレーターの音声認識に向けて喋りかけるとカプセル内の全方位モニターに電源が入り俺の目の前にとある街の景色が展開される。


「本物みたいだよな……」


 俺の目に映るのは懐かしい風景。俺が生まれ育った場所。テイル・ジェネレーターが日本で一番最初に現れたカンナギと言う街。


「そろそろか……」


 平和なカンナギの街、その上空に太陽と見紛う巨大な火の玉が現れる。


「来たか」


 真っ黒な髪に真っ赤なドレスを着た物語の住人。両親の仇にして日本エリア北地区を侵略するテイル・ジェネレーターの大将。煉獄の滝姫、ミゼルティア・フランチェスタ。


「今度こそ勝つ」


 街を燃やしながらこちらへ近づいてくる奴に向けてアイ・シャリスの基本武装である巨大なアサルトライフルを発砲する。


「本物じゃ無いとはいえ、怖いものだな」


 先程から手の震えが止まらない。両親を故郷を奪ったアイツが怖い。


「それでも両親を奪われた憎しみには到底及ばない」


 そう。俺は奴を殺さなくてはならない。その為に少しでもアイツの特性を理解する必要がある。奴の基本的な攻撃手段は炎。巨大な火球から強力な火炎放射。だがそのどれよりも厄介なのが煉獄の滝姫の代名詞とも言える――


「煉獄の滝壺」


 奴が手をかざすと何もない所からありえない量のマグマが出現する。滝の様なそのマグマは地面を溶かして大穴を開け滝壺を作るとその滝壺からはマグマの飛沫が街中に飛び散り続ける。


「くそ、回避が追いつかない!」


 飛び散る無数のマグマを避け続けるが一向に止む気配が無い。前回はここで撃破されてしまったが今回はなんとか回避を続けられている。やはり実際の戦闘を経験したのが大きいか。


「ならば!」


 アイ・シャリスの背部ブースターを最大出力にして強行突破を図る。機体の装甲が少しずつ溶けるがそんなのは気にしない。


「喰らえ!」


 一定の距離まで近づいたところで肩に取り付けられていたアイアンブレードを奴の顔向けて投擲する。


「当たった――――――が……」


 喜びも束の間マグマに耐えかねた機体がダウンする。どうやら今日はここまでのようだ。


「やっぱり凄いなこれ。本当の戦闘と殆ど変わらないじゃないか」


 飛鳥の知り合いには感謝しなくてはな。こんな代物中々手入れられる物じゃ無い。


「帰跡!来たよー!」


 鳴り響くインターホンと同時に唯香が入って来る。毎度思うがこれではインターホンの意味がない。


「掃除は終わったのか?」


「うん!バッチリ」


「そうか。じゃあ今日は何を作ってくれるんだ?」


「今日はねー帰跡の好きなバターチキンカレーだよ!」


「それは嬉しいな」


 その後完成したカレーを二人で食べた。バターのコクが効いていてとても美味かった。こんな日常が続いてほしいと切実に思う。


 2日後の朝。昨日は唯香とショッピングモールへ出かけた。前線とは言えこれだけ大きな街だ品揃えには目を見張るものがある。俺は趣味の食器集めに没頭し、唯香はこれといって欲しいものが無く立ち寄った店で良さげな物を買っていた。


 今日は休みの最終日。明日からはまた任務をこなす日々だ。だと言うのに俺は早朝から何故か連合軍日本エリア北地区前線基地へと招集をくらっていた。


「笹塚 帰跡二等兵であります!」


「入れ」


 俺を呼び出した張本人である我が義母の声に従い司令官室へ入室する。


「さて笹塚二等兵。君を呼び出したのは他でも無い。こちらの笹塚中将が君から話を聞きたいらしい」


 笹塚 現竜(げんりゅう)中将。旧日本軍に数々の佐官、将官を輩出した名家である笹塚、その本家の現当主であり飛鳥の父親だ。


「笹塚二等兵。先日君達D107部隊が撃破したテイル・ジェネレーターのテイル・クリスタルを解析したところ、B級という結果が出た。」


「なっ……」


B級?確かにあの攻撃手段を見るに攻撃力はB級クラスだ。だが、あの程度の魔法障壁しか張れないやつがB級?C級なら分かるが流石に……


「笹塚二等兵君の言いたいことはわかる。どうやらあの個体は君達との交戦前に魔力を大量に消費している事がわかった」


「他の部隊との交戦記録は?」


「データベースを確認したところ無い。そこから推測できるのはテイル・ジェネレーター同士にも派閥があり争っているのか、または魔力を使う何らかの理由があったのかだ」


 テイル・ジェネレーター同士に派閥があると言うのは前々から推測されていたが、魔力を使う他の理由?なんだか嫌な予感がする。


「ここまでの話を踏まえた上で聞くが君は針河大佐を疑っていると聞いた」


 なぜ今その話題を?何かの意図があるのは確かだが……まぁ飛鳥の父親だし正直に答えても大丈夫だろう。


「はい。ですが今までの話となんの関係が……」


 まさか……そう言う事か?頭の中でパズルのピースがはまっていくような感覚がする。


「気づいたようだな。我々も当初は針河大佐が他のエリアのスパイだと思っていたよ。連合軍も一枚岩ではないしな。だが、いくら情報を洗ってもそんな事実はなかった。そして代わりに見つかったのがこれだよ」


 笹塚中将が俺の前に出したのは一枚の写真。そう、針河大佐が人間には使えないはずのテイル・ジェネレーター達が使う魔法陣を展開してる様子だった。


「そう。針河大佐はテイル・ジェネレーターのスパイだ」


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