産声
目の前には赤いドラゴンがいた。俺たちは地に伏している。もう、どうすることもできないんだなってすぐに分かった。俺は左足を失った。仲間は全身に火傷を負ったり、目が爛れて視界不良になったり……死んだりしている。俺たち勇者パーティの旅はここで終わったんだ。目の前にいるドラゴンが雄たけびをあげる。勝利宣言といったところか……。意識が朦朧として目がかすんで、寒くなってきた。
(あぁ、今からお前たちのところに行くよ……)
こうして俺は、魔王を倒すという王様から与えられた貧乏くじを果たせないままに死んでいった……はずだったんだ。
ある日、目が覚めると俺は産声をあげていたんだ。
うるさいくらいに嬌声をあげたくもないのにあげていた。俺は勇者だった。だからなのか、なんとなく転生したんだって、生まれ変わったんだって理解した。そして、その日から6年が経ったころにようやく俺はりかいした。この世界は俺が元居た世界ではないことに。この世界には魔物はおろか魔王さえも巣くっていない人間にとってこれ以上ない幸福な世界だったんだ。考えてみれば建物は俺が旅の中で見てきたそのどれとも似ていない。確証を得るために俺は父親に故郷の名を出して聞いてみた。
「セイクリファイ?知らないな。どこの国だ?」
俺の故郷の国がこの世界にはなかったんだ。
「ううん、なんでもないよ」
それからすぐに俺は父親に駆り出されて剣の稽古が始まった。
「男たるもの強くなくてはな!アスメア」
「え……?」
この日、俺は父親にぼこぼこにされた。次の日も、その次の日も似たような日々が続いたある日俺はようやく自分の体に慣れてきた。父親の斬撃を右に、左に受け流す。目も慣れてきたようだ。隙が見える。決して弱くはないが、父親の癖なのだろう5~7回に一回大きく振りかぶるタイミングがある。そのタイミングをよく見極めて俺は父親の懐に忍び込み木製の切れ味のかけらもない剣を突き付ける。父親の驚愕した表情が印象に残った。
「ほんの数日で強くなったな、アスメア。正直こんなに早く負けるとは思ってもみなかったよ……合格だ!」
そういわれたとき、なんのことだか分らなかった。それからも毎日同じ日々を過ごした。やはり父親は強かった。俺が見抜いた隙を次の日には対応してきて、俺は負ける。その次の日には俺が父親の新しい癖を見抜て俺が勝つ。互いに研鑽を積んだ6年だった。
俺が13歳になるときある一通の手紙が届いた。宛先はエクド学園。その推薦状だった。
「アスメア、やはりお前は合格だった。子供のくせして俺を負かせてきたんだ。お前ならうまくやっていけるさ」
「はぁ?なんの話だよ親父」
「エクドに入学しなさい。ここは超一流の学校だ。天才しか集まらない。ここで研鑽を積みなさい、私以上の相手がやまほどいる。強くなれ」
母は反対しなかった。不安そうな顔をしていたけれど、どこか誇らしそうな母の顔を最後に俺は一人馬車に乗った。
初めての異世界バトル物ですどうも。戦闘描写甘いのは大目に見てくれると嬉しいです、はい。