S級冒険者の指導④
ハイセは困っていた。
「うーん……」
非殺傷性の弾丸である、暴徒鎮圧用のゴム弾。
今回、生徒と戦うに辺り、実弾を使うわけにはいかない。なので、このゴム弾を使っているのだが……思った以上に威力が低く、生徒の手足に当たった程度ではダウンしないのである。
なので、ゴム弾でけん制しつつ、体術で生徒の意識を刈り取るという二度手間だ。
それだけじゃない。
思った以上に、生徒が強い。
「さて、どうすっかな「ハイセどいてっ!!」えっ」
次の瞬間、ヒジリがぶん投げた巨漢の生徒がハイセの方へ飛んできた。
ギョッとして慌てて回避。すると、生徒の放った矢がハイセの腕章に掠り、腕章が千切れた。
「しまっ……」
「ゲットぉぉぉぉぉ!!」
「あー……」
少年が腕章をキャッチ……ハイセは負けてしまった。
「やったぜ!! S級冒険者に勝った!!」
「うぉぉぉ!!」「勝利ィィィィィィィィィ!!」
生徒たちは大興奮。
ハイセに向かってきた人数は約二十名。全員が喜んでいた。
ハイセは両手を上げて言う。
「俺の負けだな。全員、おつかれさん」
「「「「「ありがとうございましたァァァァァ!!」」」」」
ハイセは悔しさすら感じさせない微笑を浮かべる。
すると、プレセアがタオルを持ってハイセの元へ。
「お疲れ様」
「ああ、悪いな」
タオルで汗を拭き、飲み物をもらう。
すると、女生徒が数名ハイセとプレセアをジーッと見ていた。
そして、女子の一人が言う。
「あ、あの……もしかして、プレセアさんとハイセさん、お付き合いしているんですか!?」
「は?」
「だって、プレセアさん、すごく自然にタオルと飲み物……」
「すっごい慣れた感じだよねー?」
「付き合ってないわ。付き合う必要ないくらい通じ合ってるだけ」
「「「きゃーっ!!」」」
「おい、適当言うな」
ハイセはプレセアをじろっと睨み、残るS級冒険者の戦いを観戦することにした。
◇◇◇◇◇
ヒジリは大暴れ、ガイストは静かに戦っていた。
対照的……と、サーシャは思いつつ、自分に向かってくる二十五名の生徒の攻撃を捌く。
サーシャは思った。
(面白いな……)
生徒は総勢百名。五名ずつ二十チームで、一人のS級冒険者に対し五チームで戦っている。この五チームのどれかが、腕章を奪えばクリアとなる。
大抵は、自分たちのチームが腕章を奪う! みたいな感じで襲い掛かってくるのだが……サーシャに向かって来るチームは、五チームの二十五名が一丸となり、連携して向かってきた。
サーシャは、最奥で指示を出している少年……セインを見た。
「盾チーム前へ、狙撃チームは左右に分散、前衛チームはサーシャさんを包囲して、後衛チームは補佐……うん、そう、頼む」
誰かの『能力』で、チームに連絡を取りながら指示していた。
サーシャを包囲する前衛チーム。後ろにはサポートが付き、サーシャの死角に狙撃チーム、さらにどこかに腕章狙いの生徒が数名いる。
即席チームで大したものだと、サーシャは感心した。
すると、サーシャの前に木製大剣を持つミコが。
「サーシャさん、いきます!!」
ミコが、仲間の付与士から肉体強化の魔法を受け、身体が光る。
タイクーンの能力『賢者』の下位能力者だ。サーシャは、少しだけ身体を黄金に包み、ミコの剣を真正面から受ける。
「くっ……」
「いい力だ。だが───まだ足りん」
「うっ……!?」
木剣を剣の腹で弾いた。
そして、ミコの腹に掌底を入れ、大剣を両断した。
「あっ……」
「『聖騎士』か……いい能力だ。だが」
「……あたしじゃ、無理ですよね。チビで、補助がないと剣も振れないなんて」
「ミコ。お前……自分の『能力』について、どれだけ理解している」
「え?」
「『聖騎士』は複合能力。『剣士』系能力を複数合わせた能力だ。『聖騎士』といえば大剣と盾で戦うスタイルが最も知られているが……ミコ、お前は自分の能力をもっと理解したほうがいい」
「……え?」
そう言い、サーシャは飛び出した。
指示を出す女子生徒。盾を構える生徒をサーシャは切り離した、魔獣使いの生徒は馬のような魔獣に乗ってサポートに回っている。
ミコは、自分がどうすべきか考えた。
「…………『聖騎士』」
ミコは、『聖騎士』の能力と知った時……両親から『聖騎士はカッコいいぞ。大剣と盾を装備して戦う、騎士の能力だ』と聞き、自分もそんな風になりたいと思っていた。
だから、大剣と盾を手にした……でも、二つは持てなかった。
だから、大剣だけを手にした。でも……重すぎて、振り回せなかった。
「待って」
少し、考えた。
一度、『能力説明書』で読んだことがある。
刀剣系最強は『ソードマスター』だ。そこは揺るがない。
刀剣系で最も弱いのは『剣士』だ。だが『剣士』は、あらゆる刀剣……いや、『刃の付いた武器』に対応する能力。
『聖騎士』は、大剣と盾に特化した能力。
だが、それだけじゃない。
「───……あ」
ふと、思い出した。
見かけのカッコよさだけで、大剣と盾を使っていた。
でも……『聖騎士』は、それだけじゃない。
「ぐぁぁ!?」
魔獣使いの少年が、サーシャの闘気に弾き飛ばされた。
そして、接近戦をしていた槍使い、斧使いの少年少女が武器を弾き飛ばされた。
ミコは、自分の直感を信じ───走り出した。
そして、落ちていた『槍』を手にし、魔獣使いの少年が乗っていた『馬の魔獣』に飛び乗った。
それを見て、サーシャはフッと笑った。
「───いける!!」
「正解だ」
能力『聖騎士』は、大剣と盾だけじゃない。
馬上戦技───馬術、槍技にも適性のある能力だ。
槍ならば、大剣と違ってそこまで重くない。鉄の槍はミコでも持てた。
馬魔獣は、驚くほどミコの言うことを聞いた。手綱を握ると嬉しそうに鳴いた。
「よぉぉぉぉぉっし!!」
ミコは確信した。槍と馬、これこそが自分のスタイルだと。
手綱を強く握り、馬を走らせサーシャに突っ込んで行った。





