S級冒険者の指導②
徒手空拳はヒジリ、武器持ちの生徒はハイセが担当することになった。
徒手空拳は男子が多い。だが、小柄な同年代の少女と侮った男子生徒は、全力で放った拳を片手で受け止められ、「お、なかなかじゃん」と言われ愕然としていた。
ヒジリは『メタルマスター』の能力を使わず、生徒と戦っている。
「アンタは隙が多い。パワー自慢なのはわかるけど、アタシに止められるようじゃ魔獣になんか通用しないわよ。手数増やして、もっと細かく丁寧に動きなさい!!」
「は、はい!! あ、あざっす!!」
「いい返事!! はい次!!」
ニカッと生徒に微笑みかけると、男子生徒は顔を真っ赤にして縮こまる。
見てくれはとんでもない美少女だ。同世代の女子に微笑みかけられる経験とかあまりないのだろう。意外にもヒジリの指導は丁寧で、ハイセも驚いていた。
一方、ハイセは。
「ちぇぇりゅあぁぁぁぁぁ!!」
「おっと」
奇声を上げながら斧を振り回す少年の攻撃を回避、自分に当たりそうになる時、ゴム弾で斧の側面を撃って軌道を変え攻撃を反らした。
この少年は『斧士』の能力を持つ。能力に頼れば、どんな人間でもある程度は強くなれる。
だが、あくまで『ある程度』だ。能力も万能ではない。
ハイセは斧の少年と数分闘い、最後にゴム弾で少年の指を打ち、武器を落とす。そして、大型拳銃を少年に突きつける。
「はいここまで。まず、奇声上げるのはやめとけ。気合入れて叫んでるんだろうけど、それだけで疲れるぞ。あと、能力に依存した攻撃が多い。いい体格してるし、もっと身体を鍛えるところからだな」
「は、はい……」
少年は斧を拾って下がる。
次の相手は───木製の大剣を手にしたミコだった。
「ハイセさん、よろしくお願いします!!」
「あ、ああ……その剣、木製か?」
「はい。カカの木っていう素材で作った木刀です」
カカの木。薪や小屋などの素材に使われる軽木だ。軽く頑丈で、簡素な物置小屋を作るのに重宝されている。しかも安く、平民の間ではポピュラーな木材だ。
ミコの能力は『聖騎士』……普通に見れば、恵まれた能力だろう。
「では、行きますっ!!」
「ああ」
ハイセは弾薬を交換し、スライドを引く。
ミコは木剣を構え、真正面から向かってきた
『聖騎士』の力は、大剣の扱いが向上する。そしてもう一つ……。
「……やっぱり、盾は持てないのか」
盾である。
聖騎士は片手に大剣、もう片手に盾を持つ、攻防優れた能力だ。
だが、小柄なミコは木剣の大剣で精一杯。
「はぁぁぁぁっ!!」
大剣を両手で持ち、斬りかかってくる。
だが、剣は鋭くても速度がない。身体能力に合っていない能力であるのは明白だ。
もったいない───ハイセはそう思い、何度かミコの攻撃を躱して武器を撃ち落とした。
「はい、ここまで」
「うう……手も足も出ませんでした」
「…………」
「ハイセさん?」
「あ、いや……」
何を言えばいいのか、ハイセは迷った。
はっきり言って、冒険者に向いていない。周りは全員ちゃんとした武器で戦っているのに、木剣で挑むというのもおかしかった。ミコは鉄製の武器が持てないので仕方ないだろうが。
ミコは「ああ、そういうことですか」と言う。
「わかってます。あたしの体格では『聖騎士』の能力をフルに活かせませんよね。大剣も、盾も持てない『聖騎士』なんて……」
「…………」
なんといえばいいのか、ハイセは迷う。
そうしている間に、ミコは頭を下げて下がってしまう。
「…………」
ハイセは申し訳ないことをしたと思いつつ、次の相手に意識を切り替えた。
◇◇◇◇◇
ガイストの授業は、実にわかりやすかった。
「つまり、能力を持っているからと言って、万能というわけではない。自分の能力が『剣士』であったとして、すぐに剣を持っても素人に毛が生えたような強さしか手に入らない。能力は使い続け、鍛えて初めて使えるようになる……とある研究者が言うには、能力には『レベル』が存在するという」
ガイストが言うと、生徒が挙手。
「質問はいつ、どんなタイミングでも自由にしていい」とガイストは授業前に言った。なので、生徒は疑問点をすぐに質問する。そしてガイストも、全ての質問に丁寧に答えていた。
「『レベル』は、机上の空論だと言われていますが……」
「確かにそういう意見もある。だが、ワシは個人的には信じている。ある一定の『レベル』に到達した能力は『覚醒』し、更なる能力を身に付けるという説もな」
ガイストは知っている。
例えば、サーシャの『闘気』だ。
サーシャは『ソードマスター』の力で訓練を続け、ある日『闘気』が覚醒した。初めは銀色、そしてスタンピード戦で金色に覚醒……精神的な成長と、実戦経験が覚醒につながったと、ガイストは思っている。
「これに関しては明確な答えはない。自分が信じる答えを信じればいい」
アシスタントのミイナはウンウン頷いていた。
そして、ガイストは言う。
「さて、次は……現役ギルド職員による、ギルドの話を聞かせてもらおうか」
「は、はは、はいっ!!」
唐突に振られ、ミイナは緊張したまま喋り出すのだった。
◇◇◇◇◇
「───……というわけで、禁忌六迷宮の最奥にいた『ショゴス』と戦い、勝利した。というわけだ」
サーシャは、禁忌六迷宮の最奥で戦った『ショゴス・ノワールウーズ』の話をした。もちろん魔族のことはボカし、ショゴスのことだけを伝えたのだ。
機密もあるので詳しくは言えないが、戦った経験だけなら話しても構わないとガイストは言った。
とりあえず、生徒は真面目に聞いているのだが……少し、問題もあった。
「あの、質問です。サーシャさんのクランに入るにはどうしたら」
「……チームを組み、ある程度の実績を上げたら申請してくれ」
そう、あまり授業と関係のない、個人的な質問が多かった。
最初は舐められているのかと思った。が……違った。純粋に、サーシャに興味があるようだ。
サーシャだけじゃない。プレセアにも興味があるのか、男子生徒の多くがサーシャとプレセアを見て、デレデレしているようだった。
プレセアは無表情。サーシャも小さくため息を吐く。
「……とりあえず、私に関しての質問は後程受けることにする」
サーシャは決めた。
午後の模擬戦で、ここの男子生徒たちに『気合』を入れてやろうと。