S級冒険者の指導①
休みが終わり、ハイセたちは『アドラメルク・アドベンチャラー・スクール』通称アドアドへやってきた。挨拶を終え、今日からいよいよ授業が始まる。
ハイセ、ガイスト、サーシャ、ミイナ、プレセア、ヒジリの六人は、学園内にある冒険者専用控室で、最終確認をしていた。
「まず、今日の講義はワシとミイナ、サーシャとプレセアが担当。実技はハイセとヒジリが担当だ。そこの二人……特にヒジリ、やりすぎるなよ」
「殺さなきゃいいんでしょ?」
「……ハイセ、いざとなったらヒジリを気絶させろ」
「わかりました」
「ちょっと、アタシが問題児みたいじゃない」
「問題児なんだろ」
「ちょっとハイセ!! あんまアタシを馬鹿にしないでよね。分別くらいわきまえてるし!!」
ヒジリはプンプンしながらハイセを肘で小突く。
ガイストはため息を吐き、ハイセに言う。
「ハイセ、何度も言ったが……」
「わかってます。実技は生徒の力を引き出すように戦うこと、ですね」
「ああ。いちおう、治療系の能力者は待機している。気を付けろよ」
「はい」
「はーいっ、ふふふ……なんかワクワクしてきたかも」
ヒジリは拳をパシッと打ち、ニヤニヤしながら準備運動をする。
ハイセも、大型拳銃のマガジンを確認し、スライドを引いた。
暴徒鎮圧用のゴム弾を確認し、腰のホルスターに入れる。
「では、そろそろ授業が始まる。各自移動開始だ」
「「はい!!」」
「はい!!」
「ええ」
「よぉーっし!!」
ハイセとサーシャはビシッと声を揃え、遅れてミイナ、プレセア、ヒジリの順に返事をした。
◇◇◇◇◇
サーシャは、いつもの冒険者装備でプレセアと教室へ向かう。
「あなた、座学なのにフル装備なのね」
「そういうお前もだろう」
「そうね。でも、武器はアイテムボックスに入れてるわ。あなたは腰に下げてるけど」
「まぁ……なんとなくだ」
「そう」
相変わらず、どこか素っ気ない……というか、これがプレセアの素だ。
サーシャも慣れたようだ。
プレセアは、サーシャに聞く。
「あなた、授業なんてできるの?」
「さぁな。学がないから難しい話はできない。それに、授業というよりは体験談を聞かせるよう言われている。これまで戦った魔獣、禁忌六迷宮のことなどだ。冒険者の経験談も、生徒には学ぶことがあるらしいぞ」
「へえ……私の出番、なさそうね」
「かもな。だが、いてくれるだけで心強いぞ。その……やはり、講師という立場は少し緊張する」
「そ。じゃあ、おまじないしてあげる」
「え?」
プレセアは立ち止まり、サーシャの手を取った。
そして、その手を自分の口元へ近づけ、ボソボソと何かを呟いている。
「ぷ、プレセア?」
そして、サーシャの手に軽く口づけ、サーシャの手を開き手のひらを指でなぞる。そしてサーシャの手を閉じ、ギュッと握り締めた。
「はい、おしまい」
「な、何を?」
「エルフの言葉で緊張をほぐす言霊を込めて、手のひらに自信を書いて、しっかり握り締めることで身体を巡らせるの。効いてきた?」
「……えっと」
正直、ドキドキしてよくわからない。
同性だが、プレセアのような美少女が手にキスをして、さらにギュッと握り締めてくれたのだ。緊張とは違うドキドキが止まらないサーシャだった。
「き、効いてるのかな……」
「そ、よかった。じゃあ行くわ」
「あ、ああ」
プレセアは何事もなかったように歩きだし、サーシャも後を追った。
◇◇◇◇◇
ハイセとヒジリは、学園にある『演習場』に来た。
ここは、生徒たちが訓練したり模擬戦を行う場所で、現在、ハイセたちの目の前に二十名ほどの冒険者見習いが並び、教師から今日の模擬戦や対戦相手であるハイセたちの話を聞いている。
「えー、お一人はS級冒険者『金剛の拳』ヒジリさん。皆さん知っての通り、西国ウーロン出身の徒手格闘家です。格闘系能力者の皆さん、彼女の強さをその身で感じることで、さらなる成長に繋がることでしょう」
べた褒めだ。
ヒジリをチラッと見ると、なぜか胸を張って腕組みしていた。
「もう一人はなんと、S級冒険者『闇の化身』ハイセさんです。かの禁忌六迷宮、『デルマドロームの大迷宮』をたった一人で踏破した最強のソロ冒険者です。皆さん、ハイセさんに挑むこと自体が貴重な体験です。勝つか負けるかではなく、ハイセさんの全てを学ぶように」
こちらもべた褒めだ。
なんとなくむずがゆく、ハイセは空を見上げる。
「ふふふん。アンタ、緊張してんの?」
「緊張というか、あんな風に紹介されたことないからな、むずがゆいんだよ」
「アンタも普通の人間なのね……意外」
ヒジリが驚いていた。
すると、教師がハイセとヒジリを呼ぶ。
教師の前に出ると、教師は「では一言お願いします」と言い、ヒジリが拳をビシッと突きつけた。
「自信あるやつは相手してあげる!! その自信、粉々にブチ砕いてやるから!!」
「いや砕くなよ……お前、趣旨わかってんのか?」
「う、うるさいわね。それくらい本気でブチのめすってこと!!」
生徒がクスクス笑った。ハイセは思わずツッコんでしまったことを後悔する。
教師は「ささ、ハイセさん」というので、仕方なく言う。
「えーと……」
生徒を見る。
男子六割、女子四割ほど。全員白を基調にした制服で、剣を持っていたり、杖を持っていたり、斧やハンマーなどの武器を持ってる生徒も多い。
そして気付いた。木製の大剣を背負うミコの姿を。ミコは鼻息荒くハイセを見てウンウン頷いていた。
ハイセは言う。
「とりあえず、依頼を受けたからには全力で指導する……まぁその、よろしく」
ペコっと頭を下げた。
ヒジリがハイセを肘で小突く。
「なにそれ。照れてるし、ガキっぽいんだけどー」
「うるさい。お前よりマシだ」
「はぁぁぁぁっ!? アンタみたいにモジモジしてるよりマシなんだけど!!」
「してねーよ。適当なこと言うな」
「なんですってー!?」
「ど、どうもどうも!! ありがとうございました!! で、では……班に分かれて、それぞれ模擬戦を行いたいと思います」
こうして、S級冒険者たちによる、アドアドでの指導が始まった。