ハズレ能力者
とりあえず、助けた二人を連れてバーに入った。
ミイナが「え、どうしたんです」と言うが、それを聞きたいのはハイセだ。
そのまま帰せばいいのに、サーシャが二人を連れて入ってしまったのだ。
学生服、さらに聞けば十五歳……あまり、長時間の滞在はできない。
店に入り、適当に注文すると、サーシャが言う。
「で……きみたちは、なぜあんな場所で絡まれていた?」
「え、えっと……」
眼鏡の少年ことセインが、ポニーテールの少女ミコを見た。
ミコはそっぽ向き、ボソボソ言う。
「その、お腹空いたので夜食を買いに出たんです。門限過ぎてるからセインはダメだって……でもでも、《ハコネ堂》のエクレア食べたくなっちゃって、こっそり学園を出たら、あいつらに絡まれて……」
「……あいつら、成績がどうこう言ってたな。そもそも、お前らの関係は?」
「ボクとミコは、幼馴染です……」
セインとミコが俯く。ミイナがハイセを軽く小突いた。
「ぼ、ボクたち……学園では成績最下位なんです。能力も大したことがないし、実技も座学も低くて、馬鹿にされて……」
「あ、あたしは実技はそこそこだし。『聖騎士』の能力を持ってるし……」
「でも、大剣なんて使えないだろ」
「う……」
「……なるほどな」
サーシャは、すぐにわかった。
ミコの能力は『聖騎士』……一般的に見れば、『剣士』の上位能力に当たる。だが、『剣士』と違い、上位能力の力は固定されるパターンが多い。
例えば『剣士』なら、一般的な剣から大剣、双剣、レイピアなど多岐に渡り武器を使えるが、『剣士』の上位能力である『双剣士』は双剣に、『大剣士』は大剣に特化した能力となる。
『聖騎士』の能力は、『大剣士』の上位能力。使える剣は大剣に固定される。
ミコは、ミイナと同じくらいの身長、体格だ。サーシャよりも低い身長では大剣を振り回すことはできないだろう。
能力が覚醒した時、身体が作り替わり特殊な能力を得ることはあるが……ミコは特に変化なく、『聖騎士』の能力を得たのだろう。
たまにいる。こういう恵まれた能力を持ちながら、身体に合っていないことが。
「『ハズレ能力者』か……」
「……ぅ」
「ハイセ、その名は侮辱に当たるぞ」
「あ……悪い」
ハイセは素直に謝った。
ミコは気にしていないとばかりに手を振る。
「え、えっと……ま、まったく使えないわけじゃないんですよ? 『付与士』の力で身体能力を底上げすれば、振り回せますし」
「ふむ、そうか……そちらの彼は?」
「ぼ、ボクは……『入替』の能力を持っています」
「ほえ? チェンジって……聞いたことありませんねー」
「あはは……図鑑の片隅に乗ってる、マイナーな能力ですから」
ミイナが首を傾げる。
セインは、飲み干した水のグラスに触れ、おつまみとして出されたナッツを一粒掴む。すると、一瞬でナッツとグラスの位置が入れ替わった。
「……これだけです。ボクは『ボクが触れた物』と、『ボクが触れている物』の位置を入れ替えることができます。でも、大きさは最大でグラス程度、交換できるのは『ボクの手のひらで包める大きさの物』だけで……なんの役にも立たない能力です」
セインは苦笑していた。
確かに、これで戦闘はできない。
ハイセは、ワインを飲みながら言う。
「じゃあ、なんでアドアドにいるんだ? さすがに、冒険者には向かない能力だってわかるだろ」
「……その、実家が代々、冒険者の家系でして。父がS級冒険者で、大きなクランを運営していまして……兄妹もみんな、アドアドに通っています。ボクだけ通わない、ってわけにはいかなくて」
「なるほどな。でも、その能力で冒険者になるなんて自殺行為だぞ」
「……退学するなら、親子の縁を切ると言われています。さすがに、一人では生きていけないので……せめて学園を卒業して、自立できるまでは、どんなに馬鹿にされても通おうかと」
「……お、重いですねー」
さすがに不憫だった。
サーシャも不憫と思ったのか、セインに言う。
「ほかに、できることはないのか?」
「……いちおう、計算とかは得意ですけど」
「確かに、がり勉っぽいですよねー」
「お前、失礼だぞ」
「むぅ、ハイセさんだってさっきはー」
「まぁ待て。喧嘩する……む? けっこうな時間だ。二人とも、そろそろ帰らないとな。私たちが送ろう」
「「は、はい……」」
と、ミコがいきなりハイセに迫って来た。
「お兄さん!!」
「な、なんだ」
「お兄さん、すっごく強くて感動しました。あたし、卒業したらお兄さんの弟子になりたいです!!」
「却下」
「即答!? うう、諦めませんからね!!」
そして、セインはサーシャに迫る。
「お姉さん、いえサーシャさん!!」
「な、なんだ?」
「ボク、大したことない能力ですけど……お姉さんみたいに強くなりたいです!! お姉さんは名高い冒険者とお見受けしました。荷物持ちでも何でもしますので、卒業時に弟子に!!」
「す、すまない。弟子は取っていないんだ」
「ふっふっふ。お二方、この二人がどれだけすごいお方かご存知ないようですね」
と、ミイナが胸を張って言いそうだったので、ハイセが頭をぺしっと叩いて黙らせた。
支払いをして、ハイセとサーシャとミイナは二人を学園傍まで送る。
二人が帰ったのを確認すると、ミイナが言う。
「ハイセさん……なーんでS級だってこと隠すんですか?」
「あのテンションで知られたらうっとおしいから」
それだけ言い、ハイセは宿に戻るために歩きだした。
サーシャは、一度だけ学園を振り返る。
「幼馴染、か……」
なんとなく、昔の自分とハイセを思い出し、全く似ていないのに境遇を重ねていた。
◇◇◇◇◇
ハイセとサーシャは、珍しく並んで会話をしながら歩いていた。
数歩前にはミイナがいるが、キョロキョロと町並みを見るのに忙しいようだ。
「ハズレ能力者、か」
「……ハイセ」
「わかってるよ。ま、俺も自分のことそう思ってたし」
「…………」
「なあ、あのメガネ、計算得意とか言ってたよな。お前のクランで会計士として雇えば?」
「……あの子の意志によるな。あの目は、冒険者に憧れ、諦めない目だ」
「ふーん……あと、系統は違くても同じ刀剣系能力者だろ、あの女の子も鍛えてやれよ」
「……武器が持てなければ、意味がない。あ」
と、サーシャは思い出したように言う。
「セブンスターライト。あの鉱石を加工した大剣なら、持てるかもな」
「セブンスターライト……ああ、禁忌六迷宮にあった宝石か」
「ああ。あれで作った剣は軽い。そして頑丈だ……が、セブンスターライトは国宝石に指定された。さすがにデビュー前の冒険者に渡せる素材ではない」
「ほれ」
「……は?」
ハイセはアイテムボックスから、セブンスターライトを出した。
虹色に輝く透き通った宝石が、サーシャの手にある。
「こ、これは」
「禁忌六迷宮の最奥で拾った。俺が持ってても意味ないし、やるよ」
「まま、待て待て!! 貴重な素材と言っただろう!? デビュー前の冒険者に持たせていい素材じゃ……嫉妬や誤解の元になる」
「そうか… まぁ、それはお前にやるから好きにしろよ」
「~~~……全く、お前という奴は」
サーシャは呆れつつ、セブンスターライトをアイテムボックスに入れた。





