町を経由して
夜───……ガイストは一人、焚火の前で茶を啜っていた。
ハイセ、ヒジリは完全に熟睡。先ほど見張りを交代したサーシャ、プレセアも熟睡している。ミイナは最初からグースカ寝ており、起きているのはガイストだけ。
S級冒険者とはいえ、まだ十代の子供たちだ。
大人であるガイストは、彼らの強さなど関係なしに守りたいと思う。
「さて……」
ガイストは立ち上がり、右手を握り締めた。
「すまんが、そちらに行く。声を出さず待っててくれないか」
囲まれていた。
数は二十人ほど。
野営地から百メートル以上離れており、じりじりと囲んで一気に襲いかかる作戦のようだ。だが……ガイストは気配を察知し、十メートルほど離れた木の上にいた密偵に向け、小石を投げた。
「っコ」
喉に命中した小石。密偵は声を上げることもできず木から落下し、ガイストが受け止める。
そして、首にあるツボを親指で刺激すると、密偵は雷に打たれたように痙攣し気を失った。
そして、風の如く駆け出し───……包囲網を完成させつつあった盗賊たちの群れに突っ込んだ。
「な、ジジィ、テメェッぶあ!?」
「静かにしてくれ。可愛い弟子たちが寝ているんだ」
ガイストは、盗賊の喉を潰した。
そして、流れるような動きで盗賊たちを狩る。
喉突き、目つぶし、当身───二十以上いた盗賊たちは、あっという間にボスだけになった。
ガイストは、息一つ切らさずに言う。
「お前には二つ、選択肢がある……」
「こ、この野郎ォォッ!!」
大斧を両手に一本ずつ持った盗賊のボスは、ガイストに斬りかかる。
だが、ガイストは半歩ずれただけで振り下ろしを躱し、盗賊の右手首を掴み関節を外した。そして、喉を潰して叫び声を出せないようにする。
「ッカヘ、ッカヘァ!!」
「一つは、このままワシに殺されるか。実はこれが一番簡単なんだ。死体は魔獣が処理するだろうし、お前に懸賞金が付いていても興味がない。討伐報告だけをすればいいからな」
盗賊は、左の斧で横薙ぎ。
だがガイストは、右の親指と人差し指で、斧の刃を掴んで止めた。
間もなく還暦を迎える老人が、三十代半ばで筋骨隆々の盗賊ボスが振る斧を、指二本で止めたのだ。
ギョッとするボス。全力で斧を引くが、ピクリとも動かない。
「もう一つは、出頭するか……死刑か、強制労働が待っているだろうが、ここでワシに殺されることはない。もし出頭するなら、死刑は回避するようワシが口添えしてもいい」
「ッカ……」
「選べ」
ギロリと、殺気を込めた眼でボスを睨むと、ボスは真っ蒼になりガタガタ震え、斧を落としウンウン頷いた。
ガイストはにっこり笑い、ボスの首に指を突き刺し気絶させた。
◇◇◇◇◇
「ふあ……」
サーシャは起床。テントから出ると、すでにハイセが朝食の支度をしていた。
ガイストは茶を啜っている。サーシャはハイセの元へ。
「おはよう、ハイセ」
「ああ」
「朝食か?」
「武器の手入れしてるように見えるか? いいから、顔でも洗ってこい」
「ふ、わかった」
ヒジリとミイナのテントではイビキが、プレセアのテントからは小さな寝息が聞こえた。サーシャは顔を洗い、髪を軽く整えて再びハイセの元へ。
ハイセは、コッペパンを軽く炙って切りこみを入れ、焼いたソーセージを挟んでいる。そして、トマトと香辛料を合わせたソースを混ぜていた。
「サーシャ、寝坊助連中を叩き起こしてくれ。起きないなら朝飯ナシな」
「ああ、わかった……ふふ」
「……なんだよ」
「いや、何も言ってないのに、全員分を用意してくれたのだな」
「……っ」
ハイセは何も言わず、カップに玉子スープを注ぎ、ガイストにお茶のお代わりを注いでいた。
サーシャはクスっと笑い、まずはプレセアのテントへ向かった。
◇◇◇◇◇
その日の午後、最初の街に到着した。
王都の半分以下の敷地しかない町だ。冒険者ギルドや各種商店などがある、ありふれた町。
宿を取り、馬の世話を宿屋に任せる。
部屋は三部屋確保した。ハイセとガイスト、ミイナにプレセア、ヒジリとサーシャだ。
部屋に入るなり、ミイナがハイセたちの部屋へ突撃する。
「ハイセさん、ギルマスっ!! ご飯行きましょご飯!!」
「お前な、まだ夕方だぞ。ってか行くならサーシャたちと行けよ。あとノックしろ」
ごもっともなハイセの意見。だがガイストは笑った。
「ははは、まぁいいじゃないか。どうだハイセ、メシに行かんか?」
「メシはいいですけど……さすがに、一人の時間が欲しいっすね」
「そうか。なら、ゆっくりしてから来るといい。ミイナ、行くぞ」
「はーいっ!! あ、ヒジリさんが『お腹空いた肉っ!!』って言ってたんで、お肉にしましょう!!」
「……お前も食いたいだけだろう」
ガイストは、ミイナとヒジリを連れて行ってしまった。
ハイセはベッドに横になり、久しぶりに古文書を開く。
◇◇◇◇◇
『メシ食いすぎて気持ち悪い……でも、アイビスが心配して手を握ってくれるの可愛い。バルガンは俺より食ってんのに平然としてるし、クロスファルドは野菜しか食わねぇし、メリーアベルは酒しか飲んでねぇ……うちのチーム、どうなってんだ』
◇◇◇◇◇
どうでもいいことが書かれている時もあれば、武器に関するヒントもある。
ノブナガの日記。
もう、だいぶ読み込んでいるのだが、不思議とページが終わることがない。
「ふぁ……」
「ハイセ」
「うおっ!? お、おま……ノックくらいしろよ」
「そうね。そろそろ夕飯の時間」
プレセアだった。
古文書を読んでいたのだが、けっこうな時間が経過していた。
本を閉じると、ドアがノックされた。
「ハイセ、いるか?」
「サーシャ?」
「その、夕食の時間だ。宿屋の主人に聞いたのだが、近くに食事も提供してくれるバーがあるらしい……その、行かないか?」
「あら、いいわね」
プレセアがドアを開けると、サーシャは驚いていた。
「ぷ、プレセア? 食事に行ったんじゃ」
「ええ。ハイセを誘って行こうと思ったの。ふふ、あなたも?」
「い、いや私は」
「じゃ、三人で行きましょ」
「……お前ら、俺の意見は?」
結局、バーで食事をしてついでに軽く酒も飲んだ。
ヒジリが『メシの次はお酒よね!!』と言って乱入したり、ガイストがミイナを連れて来店したりと……結局は、全員でお酒を楽しむことになった。
ハイセは、フルーツカクテルを飲みながら呟いた。
「……こんなのが、あと十日以上続くのか」
「あっはっは!! まぁまぁハイセさん、楽しく飲みましょうよ!!」
ミイナに抱きつかれ、ハイセは深い溜息を吐くのだった。





