真相とこれから
※申し訳ございません。前話でケイオスの能力が『毒』となっています。36話では『ナイフ操作』となっていますが、正しくは『毒』でお願いします。近いうちに36話を修正します……とんでもない勘違いでした。申し訳ございませんでした。
クラン『ジャッジメント』のマスター、ケイオスの軽犯罪は、秘密裏に処理された。
『濃霧の森』にある柵を故意に傷付け、冒険者が怪我をするように仕向けた罪。その仕掛けにハマったのが、今をときめくS級冒険者サーシャであるということも伏せられた。
なので、ケイオスは冒険者等級をD級まで降格、クランは解散というバツを受けた。
サーシャは、加入したばかりの『ジャッジメント』が解散となったことに驚いたが、所属チームたちを全員引き取り、クラン『セイクリッド』所属とした。
ケイオスの降格の理由は、表向きには『軽犯罪』を冒したということになっている。サーシャは、自分の『ドジ』で怪我をしたと思っているので、ケイオスが犯した犯罪のことはよく知らないようだ。
「で……あいつは?」
「王都を出た。さすがに、ここでは冒険者活動できないだろう」
ハイセは、ギルマス部屋でガイストから顛末を聞いた。
紅茶を啜り、ケイオスが冒険者等級を降格させられたことを聞く。
「サーシャは、何も知らないんですね」
「あんな小物のことで頭を悩ます必要はあるまい。それに、ケイオスはワシが仕置きしておいた。仕置きの途中でアポロンが遊びに来てな……あいつ『いいケツしてる』なんて言い出して、その……すまん、これ以上は」
「う……は、はい」
アポロン。
『教会』の枢機卿が何をしたのか、ハイセは気にしないことにした。
ガイストも咳払いして話を変える。
「とりあえず、新しい柵も設置した。これからは定期的な巡回もする予定だ。これでこの件は終わりとしよう……ハイセ、お前も気を付けろ。有名になると、嫉妬をする者も出てくる」
「俺はソロだし問題ないですよ。それより、今回の件はクラン側にも多少問題あるんじゃないですかね」
「む……」
今回の騒ぎは、『クランの引き抜きにより運営が困難になったクランが、引き抜いた側のクランに対する報復』のようなものだ。
まあ、正確には引き抜きではない。クラン『ジャッジメント』よりクラン『セイクリッド』のが魅力的に感じたからチームが鞍替えをしただけなのだが。
そして、嫉妬したケイオスがサーシャに嫌がらせをした。
「俺はよくわかりませんけど、サーシャのクランに鞍替えするチームは多いんですよね。それで、運営が維持できなくなって、解散したクランとか多いんじゃないですか?」
「……まあ、それはある」
確認しただけで、十以上の小規模クランが解散している。
解散せず、クラン『セイクリッド』の下に付いて依頼を回してもらうチームもあるようだ。
「そういや、バーでプレセアが言ってたな。森国ユグドラにはクランが殆どないって。『神聖大樹』がメインで、その下に大きなクランがいくつか『子』として所属して、ソロの冒険者は冒険者ギルドの依頼を受けているって。ソロ、チーム、クランの役割がきっちり決まってるみたいです」
「確かにな。アイビスだけじゃない、他の四大クランも同じように、四大クランという巨大クランが認められているからこそ、ほぼ全てのクランが傘下となっている」
「サーシャの場合、まだそこまで信用されていないから、依頼やチームの奪い合いや脱退に繋がってるんですね……」
「こればかりは、どうしようもない。どのクランに所属するかはチームの意向だからな。四大クランのように上手く運営するには、経験も、時間も、信用も足りん」
サーシャを慕い、クラン『セイクリッド』の子として参入するクランも少なくはない。だが現状では、『セイクリッド』に負けじと頑張っているクランの方が多い。
ただでさえ、ハイベルグ王国には大小合わせ数百以上のクラン、数千のチームが存在する。
依頼も、これだけのクランやチームがありながら、一日で持ち込まれる依頼が消化されるのは二割か三割程度だ。それほどこの世界には困りごとや討伐系が多い。
すると、ガイストが引き出しから一通の手紙を取り出した。
「ハイセ。『破滅のグレイブヤード』へはまだ行かないのか?」
「行かない、というか……行けないですね。なんだっけ、『聖十字アドラメレク神国』のお偉いさんが、破滅のグレイブヤードに入る許可を出さないとかで、ハイベルグ王国と揉めてるとか」
「うむ。あそこは一応、墓地だからな。神を信仰する者たちにとっては、踏み入れて欲しい場所ではないようだ」
「ってか、そういう依頼って普通、全ての準備が整ってから出すモンじゃないですか? 準備もできてないのに、『破滅のグレイブヤードから禁忌六迷宮の情報手に入れて来い』とか、情報の先出しされてウズウズしますよ……未だに王都にいるし、先を越されないかと心配で。こんなことなら情報なんか聞かなきゃよかった」
「ははは、そう言うな。バルバロスも、これほど交渉に難儀すると思っていなかったのだろう」
「はあ……」
「で、もうしばらく時間がかかる。だったら……先乗りしてみないか?」
「え?」
ガイストが出した封筒には、剣が十字に交差した紋章が刻まれていた。
ハイセは首を傾げる。
「ハイセ。『冒険者教育制度』は知っているか?」
「ええ。『エリートアドベンチャラー』でしたっけ」
「そうだ。聖十字アドラメルク神国にある、冒険者養成学園。『アドラメレク・アドベンチャラー・スクール』通称アドアドだ」
「っぷ……あ、アドアドって間抜けな略称っすね」
「そう言うな。で、こいつは臨時講師の依頼書だ。毎年、冒険者ギルドからS級冒険者を数名、臨時講師として手配している」
「……………………なんか、ヤな予感」
「ハイセ、ワシとサーシャ、あとヒジリも連れて四人で行くぞ」
「……………………やっぱり」
「ふ、それに悪いことだけじゃないぞ? 現在、『破滅のグレイブヤード』へ入る交渉が進められているが、向こうの王……ああ、あっちは王政ではなかったな、神の代弁者だったか? それと交渉が進んでいるが、ワシらが先乗りして、向こうの冒険者のためになることをすれば、心証が良くなるかもしれんぞ」
「でも俺、講師とか」
「まあ何とかなるだろう」
「えええ~……」
こうして、ハイセは『臨時講師』として、破滅のグレイブヤードがある『聖十字アドラメルク神国』へ向かうことになった。
◇◇◇◇◇
冒険者教育制度。
聖十字アドラメルク神国は『冒険者を育成する学園』があり、『能力』に覚醒した少年少女たちを入学させ、冒険者の在り方を学ぶ場所を提供している。
十二歳で入学し、五年間の勉強と実戦を経験させ、十七歳で卒業。
学園を卒業した生徒は『C級冒険者』として登録される。
ハイベルグ王国では、十二歳から冒険者資格を得て『F級』から始まる。ベテラン冒険者チームに加入して下積みから始め、少しずつ等級を上げるのが一般的。C級まで上がるのに、早くて四年、遅くて七年ほどだ。五年間通いC級というのは普通だろう。
学園を卒業した冒険者は『エリートアドベンチャラー』と呼ばれている。
実際、『能力』の使い方や戦術、戦闘技能など、並みのC級以上の強さを持ち、下手をすればA級冒険者以上の強さを持つ。
「聞いたことあるぜ。エリート冒険者は、下積み冒険者を見下してるって」
レイノルドがそんなことを言い、樽型のジョッキにたっぷり入ったエールをグイッと飲む。
タイクーンは、チーズをモグモグ食べながら言う。
「だが、エリート冒険者の『能力』は強い。我々のような下積みから始まった冒険者とは経験値がまるで違う。入学してから五年間ずっと、能力の使用と戦術を叩きこまれ、実戦を豊富に経験するそうだからな。荷物持ち、食事の支度のような雑務などしたことがない」
現在、チーム『セイクリッド』は、馴染みの酒場で食事中。
サーシャがガイストから『アドアド』の臨時講師を頼まれたことを話していた。
ピアソラが、イカの足をガツガツ喰らい、エールをグイッと飲む。
「っぶはぁ……納得いきませんわ!! サーシャが行くなら私も、私も行くのにぃぃぃ……い、一緒がダメなんてぇ!!」
「仕方ない。これはS級冒険者への依頼だ。お前たちは王都で仕事を頼む。破滅のグレイブヤード攻略の手筈が整ったら、来てほしい」
サーシャがそう言い、ピアソラを慰める。
だがピアソラはムスッとする。
「ぐぬぅぅ……まさか、あの男と一緒に行くなんて!! サーシャに不埒な真似をしたら、その喉噛み千切ってやるァァァァァァァァァァ!!」
「お、落ち着けピアソラ。ガイストさんも、ヒジリも一緒だぞ」
「むぅ……」
「いいなぁ。あたしも行きたいー」
ロビンは、デザートの果物をモグモグ食べていた。
サーシャはエールを飲み、レイノルドが言う。
「あーあ。オレのS級昇格が確定してんのに、一緒には行けないのかぁ」
「お前の昇格は破滅のグレイブヤード攻略後になりそうだな」
「おう……まぁ、仕方ないぜ」
レイノルドは肩をすくめる。
サーシャはジョッキを置き、小さく息を吐いた。
「聖十字アドラメルク神国か……『剣聖』クロスファルド様に、ご挨拶できるかな」
サーシャは、憧れの剣士を思い出し、顔を赤らめるのだった。





