追及
目を覚ますと、大きな背中だった。
「お、起きたか」
「…………レイノルド?」
「おう。グースカ寝てたな。大丈夫か?」
「え、あ……」
現在、サーシャはレイノルドにおんぶされている。
慌てて下りると、ピアソラが抱きついてきた。
「あぁぁん!! サーシャ、平気? かすり傷も完璧に治したわ!! 痛くない? 大丈夫?」
「ピアソラ……お前が? というか、タイクーン、ロビンも」
「全く、心配をかけさせないでくれ」
「えへへ。みんなお仕事中断して、サーシャのところに駆けつけたの」
「みんな……」
レイノルドたちは、『サーシャがロランを助けに一人で濃霧の森に入った』と報告を聞いて、すぐに動き出した。
レイノルドは言う。
「クランになろうとも、オレたちはチーム『セイクリッド』だ。リーダーが動くんなら、オレたちも動くさ。それが仲間だろ?」
「レイノルド……」
「へへ、カッケェだろ?」
「ああ。ふふ……お前が助けてくれたんだな? ありがとう」
「気にすんな。運んだだけさ」
サーシャは、自分を助けた大きな背中がレイノルドと知り、嬉しくなった。
そして、ハッとなる。
「待て、ロランは!? まさか、まだ森に」
「ううん。ロランはプレセアが助けたよ。森の入口近くでサーシャと一緒にロランも倒れてたの」
「そう、なのか? プレセアは?」
「帰っちゃった。たまたま近くにいただけみたい」
「……そうか」
もしかすると、ハイセもいたのだろうか?
サーシャはそんなことを考え、濃霧の森がある方角を見た。
◇◇◇◇◇
「ね、いいの?」
「何が」
「サーシャを助けたの、ハイセだって言わないの? 気を失っちゃったロランと一緒にして、私が引き渡すだけなんて」
「いいんだよ。いちいち言うことでもないし、余計に感謝されるの面倒くさい」
「そ。まぁいいけど」
ハイセは一足早く、王都へ戻ってきた。
サーシャを助けた後プレセアの元へ戻ると、緊張の糸が切れて気を失ったロランがいた。ハイセはサーシャをプレセアに任せ、一足先に王都へ。すると、二人を引き渡したプレセアも合流した。
向かっているのは、冒険者ギルド。
ガイストに、サーシャを助けたこととレイノルドたちに任せたことを説明する。
「そうか、無事だったか……よかった」
ガイストは安心していた。
そして、ハイセはアイテムボックスからいくつか回収した『モノ』を出す。
「ガイストさん、ちょっと気になったことが」
「む?」
「これを。あと、以前俺に教えてくれた、S級冒険者の『能力』について何ですけど……」
「…………」
ハイセはガイストから話を聞き、回収した『モノ』と照らし合わせ、確信。
その確信をガイストに説明すると、ガイストは頭を押さえた。
「…………そう、か」
「ガイストさん、そいつを呼びだせますか?」
「……可能だ」
「お願いします」
「…………」
ガイストは無言でうなずき、ベテラン受付嬢を呼んで手紙を書き始めた。
◇◇◇◇◇
「……チッ、来たか」
「頭?」
「ギルドの出頭命令だ。場所は……あぁん? なんで郊外の森?」
「行くんですかい?」
「ああ。ギルドの呼び出しは無視できねえ。まあぁ、大したことねぇだろ」
「へい。じゃあ、気を付けて」
呼びだされたS級冒険者ことケイオスは、軽い気持ちで呼びだし場所へ向かった。
そこで待っていたのは、ガイストではない。
漆黒のコート、眼帯を付けたS級冒険者ハイセ。
ハイセはアイテムボックスから『モノ』を出して投げる。
カランと、ケイオスの目の前に『柵』が投げられ、転がった。
「この柵、腐食毒が塗られてるそうだ」
ケイオスの前に立つのはハイセ。
わざわざケイオスをハイベルグ王国郊外にある森に呼んだ。
来る方も来る方だが、ケイオスは何も言わずにハイセを見る。
「お前の能力は『毒』……毒の体液を出せるんだったな。ガイストさんから聞いたよ。それをナイフや武器に付与して戦うのが戦闘スタイル、だったか?」
「……で?」
「ロランは言ってた。誰かに殴られたって……そもそも、ロランたちが受けた依頼もおかしい。あいつらは薬草採取がメインで、危険度が高い濃霧の森に来るなんてあり得ないんだよ。濃霧の森には薬草なんて生えていないしな。誰かが情報を操作し、あいつらが受けるように仕向けて、ロランを置き去りにするよう、森で潜んでいた誰かがロランを陥れた」
「…………」
「サーシャだけが自由に動ける状況でだ。レイノルドたちがクランに不在である時間帯を狙って、サーシャだけが森に行くように仕向けた。で……サーシャが腐った手すりを掴んで谷底に落下するように仕向けた」
「…………まさか、それがオレだとでも?」
ケイオスはニヤニヤしながら首を傾げた。
認めるには、証拠が弱い。
「手すりに毒が付いてたからってオレが犯人だとでも? 戦闘中、飛び散った毒がたまたま手すりにくっついいただけだろ? だったら、手すりのチェックを怠った冒険者ギルドに非があるだろうよ。しかも、腐った手すりを掴んで谷底に落ちたのはサーシャだろう? 前方不注意もオレのせいかぁ?」
「…………」
「こんな郊外まで呼びだして、ドジ踏んだサーシャは陥れられた、その犯人はオレです……ってか? おいガキ、S級冒険者だからって、そんな言い掛かり付けていいのか?」
「言い掛かりじゃない。犯人はアンタだ」
「証拠もなしにンなこと言うのかねぇ? 随分と傲慢だなぁオイ。禁忌六迷宮を踏破した冒険者サマはよぉ?」
「…………」
「まぁいい。用事はそれだけなら、帰らせてもらうぜ」
ケイオスはニヤニヤしながら振り返ると、手を振った。
すると、ハイセはアイテムボックスから、別の『柵』を放り投げる。
ケイオスの頭上を通過し、ケイオスの目の前で転がった。
「チッ……ンだよガキ、まだあんのか?」
「その柵、よく見て見ろよ」
「あぁ?」
その柵は、やはり腐食毒が塗られていた。
最初の柵と同じ。
だが───ケイオスはギョッとした。
「な……ッ」
その柵には、『折れたナイフの先端』が突き刺さっていた。
「サーシャの傍に落ちてた柵だ。アンタのナイフ、先端部分が刺さってる。アンタ……自分の能力を使って柵に切りこみ入れたんだろ? その時、ナイフが折れたんだよ。安物使うからこうなるんだ、バカめ」
「う、嘘だ!! オレのナイフは折れちゃいねぇ!! 柵削って毒流し込んだ程度で折れる安物使うワケねえぇだろうが!! ちゃんと確認───……」
ケイオスはハッとなる口を押さえた……が、もう遅かった。
ハイセはニヤニヤする。
「ちゃんと確認、ね……ガイストさん、聞きました?」
「ッ!?」
「ああ、聞いた」
すると、ケイオスの背後からガイストが現れた。
ゾッとするような、冷たい殺気を放っている。
ハイセは続ける。
「ああ、その折れたナイフは俺がやった。安心しろよ、お前のナイフは折れちゃいない。まぁ……間抜けっぷりは晒したけどな」
「て、テメェ……!!」
「腐食毒って聞いて、すぐにアンタを連想したよ。でも、柵だけじゃ証拠が弱かった。だから……アンタを嵌めることにしたんだ。絶対にボロ出すと思ったよ」
「く、っく……」
「アンタが、濃霧の森の柵に細工して、ロランを餌にサーシャをおびき寄せて、罠に嵌めた犯人だ」
「───……っく、クソが!!」
ケイオスはナイフを抜くと、ハイセに向かって来た。
ハイセは大型拳銃を二丁構えるが、音もなくガイストがハイセとケイオスの間に割り込んだ。
そして、蛇のような腕の動きでケイオスの手首を掴んでねじり上げてナイフを落とし、股間、腹、首に高速の前蹴りを叩きこみ、最後に掌底を顎に叩きこんだ。
「大馬鹿者が」
冷たく言い放つと、ケイオスは地面に倒れた。
完全に気を失っていた。
何もできなかったハイセは、唖然としてガイストの背中を見つめていた。





