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S級冒険者が歩む道~パーティーを追放された少年は真の能力『武器マスター』に覚醒し、やがて世界最強へ至る~  作者: さとう
第七章 聖十字アドラメルク神国とはずれ能力者

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成長の代償③

 ハイセは、サーシャを追って『濃霧の森』にやって来た。


「ったく……あいつ、頭に血が上ってんのかよ」


 常に霧で覆われた森は真っ白で、先が見通しにくい。

 確かに、時間帯で霧が薄くなる。地図もあるのでベテランなら迷うことはないだろう。だが……頭に血が上ったサーシャ一人で進むのは、やや危険だ。

 もしかしたら、という場合もある。

 ハイセは、同行者に言った。


「サーシャの位置、わかるか?」

「ええ。というか、あなたが私に依頼するなんてね」


 プレセア。

 プレセアの『精霊使役』なら、真っ暗な暗闇でも迷うことがないそうだ。精霊とやらが道案内をしてくれるので、目を瞑っても細い一本橋を渡れるとか。ハイセにはよく理解できなかったが、探し人などもお手の物らしい。

 一足早く森に踏み込んだサーシャを探すため、二人は森を進む。


「ね、ハイセ……これ、依頼なの?」

「え?」

「サーシャは遭難者を探しに霧の森へ入った。これはサーシャが受けた依頼……でも、あなたは? ギルドマスターに『サーシャを助けろ』って言われただけで、依頼でも何でもないでしょ?」

「…………」


 確かに、その通りだった。

 ガイストの元へ遊びに行ったら、サーシャが部屋を飛び出した。ガイストに話を聞くと、サーシャのクランに所属する冒険者が、濃霧の森で迷子になったらしい。それを聞いてサーシャは飛び出した。

 ハイセは、ガイストに事情を聞いた。ガイストは『サーシャを助けてやってくれないか』と確かに言った……普段のハイセなら『報酬があれば』と返すが、その話だけ聞いてギルドを出たのだ。

 たまたま出会ったプレセアに『報酬やるから手伝え』と誘い、この濃霧の森へ。

 すでにサーシャはいなかった。恐らく、森へ踏み込んだのだろう。


「なんとなくだよ。レイノルドたちがいるなら、俺もここまではしなかった。でも……あいつは、一人で飛び出した。たぶん、まだレイノルドたちは何も知らないはずだ」


 その通りだった。

 王都では、それぞれ別の仕事をしているレイノルドたち。

 レイノルドは盾士たちを鍛え、タイクーンはクラン経営や素材売買、クランへの報酬などを事務員と話し合い、ピアソラは『教会』からの呼び出し、ロビンは新人弓士たちの訓練だ。

 もし、遭難の話を聞いて全員が集まってから動くとなったら、半日以上時間がかかる。

 なので、すぐに動けるサーシャが先行して遭難者を確保……という風にしたのだろう。


「タイクーン辺りが怒りそうだ」

「あの陰険眼鏡くんね」

「……っぶ」


 陰険眼鏡に、ハイセは思わず吹き出してしまった。


 ◇◇◇◇◇


「───……ぅ」


 気が付くと、全身に激痛が走った。


「っぐ、ぁ……」


 しくじった。

 うっすら目を開けると、白い霧に包まれていた。

 仰向けになっており、右足に激痛が走る。右腕も動かず、脇腹も痛い。

 落ちた、というのはわかった。

 そして思う。


「…………なぜ」


 濃霧の森。

 ここは何度か来た。地図も頭に入っている。

 サーシャが歩いた場所は崖になっており、柵が設けられていたはず。地面もしっかり踏み固められていたはずで、そう簡単に足場が崩れるなんてことにはならないはず。

 だが、現実はこうだ。


「くっ……」


 サーシャは、痛む身体を無理やり起こし、這いずって近くの岩にもたれかかる。

 砂利の地面。川の音が聞こえ、霧がかなり深い。

 右腕は折れ、右足も折れている。脇腹をぶつけたのか、咳き込むと少量の血を吐いた。

 鎧、剣には傷一つない。だが落下の衝撃が酷く身体を痛めつけたようだ。


「けほっ……まずい、な」


 声があまり出ない。

 このまま遭難すれば、魔獣の餌になるかもしれない。今でこそ魔獣は近くにいないが、夜になるとこの濃霧の森は討伐レートA以上の魔獣がウヨウヨ現れる。

 サーシャがこの森に踏み込んだことは知られている。助けは来るだろう。


「それ、まで……私が耐えられれば、だが」


 少し、熱も出てきたようだ。

 まずい───……そう思いつつも、サーシャは動けなかった。


 ◇◇◇◇◇


 ハイセとプレセアが森を進むこと一時間。


「止まって」

「え」

「その手すり、危ないわ」


 濃霧の森は、森の中だが断層があり、崖のようになっている場所がいくつかある。

 冒険者が設置した頑丈な柵があるので大丈夫だが、いくつか劣化した柵があるようだ。

 プレセアが柵を軽く蹴ると、鉄製の柵がグジャッと折れた。


「……腐食してる」

「見て。これ、ただの腐食じゃないわ。柵に何か塗られている……毒、みたいな」

「毒?」

「ええ。私の精霊が嫌がってる」

「…………」


 ハイセは柵をアイテムボックスに入れる。


「とりあえず持っていくか。ガイストさんに頼んで、新しい柵を設置してもらおう」

「そうね───……あら」

「ん、どうした」

「あっち」


 プレセアが指さしたのは、霧に包まれた藪。

 ハイセは大型拳銃を持ち、藪を掻き分けて進む……すると、そこにいたのは気を失っている少年、ロランだった。

 

「おい、しっかりしろ……おい」

「うぅ……ぁ、あれ」

「おい、大丈夫か?」

「あいてて……え、ええ。あれ、みんなは? って、っハイセさん!?」

「落ち着け。事情を説明してやる」


 ハイセは事情を説明すると、ロランが「そんな……」と項垂れた。

 どうやら、仲間に迷惑をかけたことで落ち込んだようだ。

 プレセアが言う。


「どうして道から外れてこんな藪の中に?」

「えっと……森の入口付近を探索してたんですけど、もう少し奥まで行けるかなと思いまして……仲間たちと相談して踏み込んだんです。で、帰ろうとしたら……ええと」


 ロランが後頭部をさする。


「なんだろう。いきなり頭を殴られたような? 霧が深くて、みんなが先に行っちゃって……で、ハイセさんが起こしてくれたんです」

「……殴られた、ね」


 きな臭い。

 なんとなくハイセは嫌な予感を感じていた。

 すると、プレセアが気付く。


「───ハイセ、精霊が教えてくれた。この先にある柵が壊れて、地面が崩れた場所があるみたい」

「……サーシャの可能性は?」

「高いわね。滑り落ちたのかしら」

「よし。俺が行く。お前は、こいつを連れて先に出ろ」

「……帰りはどうするの?」

「マーキングしてある。報酬は帰ったら支払うからな」

「……わかった。いちおう、精霊をくっつけておく。ちょっといい?」

「ああ」


 プレセアは、ハイセの手に口づけをする。


「なっ」

「……はい、おしまい。私の精霊があなたにくっついたわ」

「く、口を付ける必要はあったのかよ」

「ええ。じゃ、気を付けてね」


 プレセアは、困惑するロランを連れてさっさと行ってしまった。

 少し耳が赤かったのは、気のせいだろう。


 ◇◇◇◇◇


 温かな腕に包まれていた。

 身体が軽くなり、ぬるま湯に浸かっているような気さえする。


『意識は……あるのか、ないのか。頭でも打ったのか』


 どこか、懐かしい匂いもした。

 サーシャは、甘えたくなった。でも、ぼんやりしてよくわからない。


『口、開けろ。回復薬だ。とりあえず応急処置はする……ピアソラが合流したら治してもらえ』


 うん、と言いたいが声が出ない。

 口に指が突っ込まれ無理やり開けられ、甘いシロップのような液体が流れ込んでいく。

 不思議と、痛みが薄らいだ。

 腕と足に何か巻かれているような感覚がする。

 身体がふわりと浮き上がり、聞こえてくる声が言った。


『夜になると凶暴な魔獣が徘徊する。その前にここから出よう』


 サーシャは、懐かしい声を聞きながら、そのまま意識を手放した。

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〇S級冒険者が歩む道 追放された少年は真の能力『武器マスター』で世界最強に至る 2巻
レーベル:GAコミック
著者:カネツキマサト
原著:さとう
その他:ひたきゆう
発売日:2025年 10月 11日
定価 748円(税込み)

【↓情報はこちらのリンクから↓】
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お読みいただき有難うございます!
月を斬る剣聖の神刃~剣は時代遅れと言われた剣聖、月を斬る夢を追い続ける~
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― 新着の感想 ―
[良い点] サーシャのためだと、一人に拘らないで助けに動くほどには赦しちゃってる。「なんとなく」とか言いながら。 [一言] 医療用資材はアイテムボックスにたんまり有るから安心だ。 あと、ハイセ君、そこ…
[気になる点] え?結局生餌撒いて手すり腐食させただけ? 手口までしょぼいとは小物すぎて“混沌”の名が泣くわ せめてマッチポンプ的に助けて好感度上げて篭絡をだな… …と思ったが主語出てないし助けたの…
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