成長の代償①
四大クラン、改め五大クラン。
人間界最高のクランであり、冒険者や冒険者チームが憧れる、今を生きる伝説のクラン。
最近、四大クランに新たに加入したクラン『セイクリッド』のマスターは、まだ十代の女の子だという。
一つは、異種族たちが多く在籍するクラン『神聖大樹』
クランマスターは、S級冒険者『無限老樹』アイビス。
メンバーの八割が異種族で形成されるクランであり、加入条件は『チームに異種族がいる』こと。
異種族とは、人間ではない種族。エルフ、ドワーフ、サキュバス、インキュバス、ナーガ、獣人など、この世界に多く住む、魔族とは違う種族のことだ。
かつて、『人間至上主義』という、異種族排斥運動があった。
異種族たちを守るべく立ち上がり、戦った一人の若いエルフ。それがクランマスター、アイビスだ。
外見は十二~十四歳程度の少女。だが、エルフの上位種であるハイエルフよりもさらに希少な『エルダーエルフ』であり、エルフ族の始祖ともいうべき存在だ。
昔、一人の人間に惚れて共に行動をしていた過去もあるとかないとか。
一つは、ドワーフたちが集まってできたクラン『巌窟王』
クランマスターは、S級冒険者『巌窟王』バルガン
メンバーはドワーフのみ。昔は荒くれ集団だったらしいが、バルガンがとある青年剣士との戦いに引き分け、真っ当な道を歩み始めたとか。禁忌六迷宮へ挑戦したこともあるらしい。
南の砂漠のど真ん中に『巌窟王』たちドワーフが工房を構え鍛冶を始め、冒険者たちのために武器を作り始めると、とある行商人が店を始め、多くのドワーフや人間、異種族たちが集まり『町』となり、砂漠最大の王国ディザーラが誕生したという経緯がある……が、実はバルガンは『騒がしいからこっちへ来るな』と言い、『巌窟王』の工房から少し離れた場所に町が作られ、本来なら町の中心にあるはずの工房が町の区画の一つとしてある、妙なクランでもあった。
バルガンはドワーフだ。
ドワーフは、低身長で髭モジャ、酒好きという特徴がある。だがバルガンは突然変異なのか、身長は二メートルを超え、並のドワーフ以上の腕力を持っていたそうだ。
昔、一人の人間と喧嘩をしてから、その人間と行動を共にしていた時期があったようだ。
一つは、人間のみ、そして刀剣に関する攻撃系能力者だけが集まるクラン『セイファート騎士団』
クランマスターは、S級冒険者『剣聖』クロスファルド。
人間主義たちの最終兵器とも呼ばれた、人間最強の刀剣能力者たちが集まった騎士団。実は冒険者でもなんでもない戦闘集団で、異種族排斥運動の要と呼ばれる部隊だった。
だが……とある冒険者や異種族たちと戦い、その考えを改め改心。異種族たちと手を取り合い、人間主義者たちに反旗を翻したという。
クランマスターであるクロスファルドは、『絶世の美青年』と呼ばれた『竜人』という希少種族。普段は人間と変わらぬ容姿だが、本気で戦う時に『変身』し、竜人となるそうだ。
クロスファルドの『竜人形態』を見て生き残ったのは、五人しかいないという。
とある突然変異のドワーフと戦い引き分け、とある人間に完膚なきまで叩きのめされ、そのドワーフや人間と行動を共にしたこともあるらしい。
一つは、女性のみ加入可能なクラン『夢と希望と愛の楽園』
クランマスターは、S級冒険者『愛美性女』メリーアベル。
人間界最大の歓楽街『夢と希望と愛の楽園』を経営するサキュバスの美女。
人間主義、異種族排斥運動なんのその。全ての種族たちをお客として迎え楽しませる中立存在。
『夢と希望と愛の楽園』内では、人間も異種族たちも平等に客としてもてなされ、愛されるという。
だが───……迷惑行為や、主義主張、揉め事などを起こしたら即退場。かつて人間主義者と異種族が『夢と希望と愛の楽園』内で揉め事を起こした時、メリーアベルが両方に《おしおき》したらしい……どうなったかは、語られていないが、両陣営に『あそこで揉め事を起こすな』と徹底されたらしい。
メリーアベルは、クロスファルドと並んで『絶世の美女』と呼ばれていた。
だが、客としてやってきたとある人間に惚れこみ、行動を共にしたという。
そして、新たに加入した一つ、クラン『セイクリッド』
クランマスターは、S級冒険者『銀の戦乙女』サーシャ。
十七歳の少女にして、五百の冒険者チームを束ねる若き女傑。
指揮能力、カリスマ、人望が厚い。そしてその容姿……十七歳とは思えない美貌に、多くの冒険者たちが引きつけられ、今も多くのチームが加入申請しているらしい。
その偉業で語るべきは、禁忌六迷宮の一つ『ディロロマンズ大塩湖』の踏破だろう。
誰にも攻略できないと言われた禁忌六迷宮の一つを、サーシャたちは踏破したのだ。この偉業は長らく、歴史の教科書にも載って語り継がれるだろう。
これが、五大クラン。
冒険者たちが憧れる、最高のクラン。
だが、やはり……その偉業に嫉妬する者は、現れる。
◇◇◇◇◇◇
王都の中心からやや外れた場所にある大きな三階建ての建物。
クラン『ジャッジメント』の本部であり、S級冒険者『毒蛇』ケイオスは、自身の執務室でイライラしていた。
「クッソが……またチーム離脱かよ」
以前は、二百のチームが在籍していた大型クランだが、現在は八十まで減ってしまった。
その原因は……クラン『セイクリッド』である。
クランの脱退、そして別クランへの移籍は自由である。チームの取り合いなどに発展し、揉め事も起きることがあるが、今の『冒険者法律』では、明確なルールが存在しなかった。
チーム『ジャッジメント』だけではない、他のクランでも、同じようなことは起きていた。
すると、ケイオスの側近であるB級冒険者キントがドアをノックし入って来た。
「頭、その、報告が」
「あ?」
「クラン『共働き』が、『セイクリッド』に加入するみたいで……その、解散する形になったみたいっス」
「あぁ? ママチャのババァ、サーシャのガキの下に付くことにしたのか!?」
「下、というか……『冒険者指導』って形で、郊外にあるクラン『セイクリッド』本部で、冒険者育成やるみたいっス。まぁ、事実上の引退……っス」
「……クソが」
つまり、もうS級冒険者としての依頼は受けない。
セイクリッドのために働く馬車馬となったのだ。と、ケイオスは舌打ちした。
「あのガキ、禁忌六迷宮を踏破したとかで、チョーシ乗りやがって」
「でも、もっとも勢いあるクランであることに間違いないっスよ。うちだけじゃなくて、他の小規模クランからも脱退チーム続出、クラン『セイクリッド』や、サーシャに忠誠を誓ったクランに加入したり……」
「このままじゃ、王都にあるクランはサーシャが管理することになりそうだな」
「……っス」
「チッ……いけ好かないガキだ。攫ってヤッちまいてぇところだが……」
「いい身体してますもんねぇ。出すとこ出せば、白金貨が百、二百とか付くんじゃないっスか?」
「かもな。でも……あのガキは強い。以前、エルフの女とメシ食ってるの見たが、チラッと見ただけで視線に気づき警戒しやがった。あれはバケモンだな」
「は、はあ……」
「……そんな顔すんじゃねぇよ。あいつを襲ったら返り討ち、んで冒険者資格の停止は免れねぇ。ヤりたいところだが、な」
「…………で、ですよね!!」
「だが、少し調子に乗ってるガキに、おしおきくらいはしねぇとな」
「え?」
「あのガキは、まだガキだ。経験が浅いって弱点はある……ま、見てな。すこ~しだけ、大人のおしおきをしてやるよ」
「さっすが頭!! 陰険!! 狡猾!!」
「うるせぇ!!」
ケイオスが投げた灰皿が、キントの顔面に命中した。





