禁忌六迷宮・踏破おめでとうパーティー①
ハイセは宿に戻り、礼服に着替えた。
ボロ宿屋。ハイセは二部屋借りている。一つは道具や衣類置き場、もう一つはベッドだけの寝室だ。
着替え、姿見で自分の姿を見る。
眼帯に触れ、一応用意してある装飾が施されたパーティー用の眼帯にしようか迷った。
ガイストが買ってくれた物だが、そこまでしなくてもと思い、そのまま部屋を出る。
一階に降りると、店主がカウンターで新聞を読んでいた。
「夜飯はいらない。帰りは遅くなる」
「……はいよ」
ちなみに、店主は宿屋の裏にある母屋に住んでいる。夜は完全な無人となる宿屋だ。
ハイセは、宿の入口の鍵をもらい、宿を出た。
「ふぁぁ~あ……ねむ」
宿を出た途端、帰りたくなった。
気乗りしないまま歩き、王都の中央道へ出ると、一台の馬車が止まる。
狙い澄ましたようにハイセの前に止まり、御者が馬車のドアを開けると……そこにいたのは、プレセアとヒジリだった。
「乗って」
「……タイミング良すぎるだろ」
「あなたに付けた精霊から連絡もらっただけ」
「はぁ!? おま、まだ俺に変なモン付けてんのか!?」
「冗談よ」
「おーい、早く乗りなさいよ。美味しいご飯がアタシを待ってるんだから!!」
「…………」
ハイセは渋々、馬車に乗った。
プレセアとヒジリが向かい合うように座っている。どちらに座ろうか悩んだが、また精霊をくっつけられると嫌なのでヒジリの隣へ座った。
「はー、どんなご飯出てくるのかな。サーシャはご馳走出すって言ってたけど」
「飯のことしか考えてないのかよ」
「そりゃそうでしょ。こんなひらひらした格好とか、すっごくヤだし」
「……」
ヒジリは、肩が剥き出しのワンピースタイプのドレスだ。淡い紫色で、ネックレスやイヤリングを付け、長い灰銀色の髪はポニーテールにしている。ドレスの胸元をパタパタ引っ張るので、胸の谷間のさらに深くまで見えてしまい、ハイセは顔を背けた。
「……何見てるかバレバレだから」
「いや、俺は」
どこかムスッとしたプレセアだった。
こちらも、エルフ族の伝統的な衣装なのか、薄手のヴェールに肩が剥き出しのドレスだ。胸はヒジリよりやや小さめだが、きめ細かい白い肌がなんとも色っぽく見える。
すると、ヒジリがニヤッと笑った。
「ハイセ、えいっ」
「なっ!?」
なんと、ヒジリがハイセの腕にギュッと抱きついたのだ。
「ふむふむ。ハイセは女が苦手ね。これはいいデータが取れたかも!!」
「……ヒジリ、はしたないわ」
「ふふん。アタシ、別にそういうの気にしないし。ハイセは今のところ『最強』だから、いろいろヤッて調べたいのよねー」
「……む」
「おい、離せ」
「いいじゃん。アタシ、『いい身体してる』らしいし、男はこういうの嬉しいんでしょ?」
胸をグニグニと腕に押し付けるヒジリ。
ハイセは嫌そうな顔をして、ヒジリから離れた。そして、嫌々とプレセアの隣へ。
すると、今度はプレセアが腕にしがみつく。
「お、おい」
「……」
「おい、離せっての」
「ふん」
プレセアは、さらに力を込めた。
ヒジリが面白がり、ハイセの隣に座って反対側の腕を取る。ハイセは動けなくなり、そのまま嫌そうな顔をしながら、クラン『セイクリッド』のクランホームまで向かうことになった。
◇◇◇◇◇
クラン『セイクリッド』のクランホーム。
現在、王都郊外にて新たな本拠地を建設中。今、ハイセたちのいる王都の拠点は、ハイベルグ王都支部として利用される。
これから数年、数十年かけて、クラン『セイクリッド』はさらに大きくなるだろう。五大クランと呼ばれ、今も加入チームが増えているそうだ。
そのクランホーム入口に到着し、馬車から降りたハイセを出迎えたのは。
「よ、ハイセ」
「レイノルド……まさか、お前が出迎えとはな」
「ま、サーシャは忙しいからな。それにしても……」
レイノルドの視線は、ドレスを着たヒジリとプレセアへ向く。
「羨ましいじゃねぇか。なあ?」
「何考えてるか大体わかるけど、そういうんじゃないぞ。いいから、さっさと案内しろよ」
「はいはい」
レイノルドに案内され、クランホーム内へ。
案内されたのは、訓練場脇にある大きな建物だった。
中に入ると、大勢の人たちが楽しそうに会話している。
「パーティー会場だ。ボネット宰相閣下が、クランホーム建築時に『必要になるから』って作らせたんだけど……本当に必要になるとは思わなかったぜ」
レイノルドがそう言い、「あとは好きにしな。サーシャに挨拶だけしろよ」と言って去った。
レイノルドが一人になると、貴族令嬢や壮年の貴族、冒険者たちがすぐに取り囲む。
「よーし、食べまくるわ!!」
ヒジリは料理が並ぶテーブルへ向かう。
プレセアは、ハイセの隣で言う。
「私、あの子に付いてるわ。借り物のドレスをソースでベタベタにしそうだしね」
「ああ」
「ちゃんと挨拶しなさいね」
「うるさいな、さっさと行けよ」
プレセアは、クスっと笑ってヒジリの元へ。
ハイセは一人になり、給仕が運ぶグラスワインをもらい、壁際へ。
なんとなく会場を見渡すと、見知った顔がいくつかあった。
「あ、ガイストさん……っげ、アポロンさんも」
ガイストとアポロンが何やら会話しているのが見えた。
そこに、タイクーンが混ざり一礼する。
すると、アポロンが手招き……青い顔をしたピアソラが無理やり笑顔を作り、アポロンに向かってスカートをつまんでちょこんとお辞儀した。傍若無人なピアソラがあんなに怯えた表情をするのを、ハイセは初めて見た。どうやら、アポロンが苦手らしい。
ロビンは、いつの間にかプレセアたちに合流し、ヒジリと一緒に食事を開始していた。人なつっこいロビンなら、ヒジリともすぐ打ち解けるだろう。
すると、パーティー会場の扉が開く。
「おお、やっとるな。ははは、ワシが最後のようだ」
「父上、あまりはしゃがないで下さい」
「そうですわ。一国の王なのですから、もっと威厳を!!」
「はっはっは。すまんな、クレスにミュアネ」
国王、クレス、ミュアネの三人が、護衛騎士を連れてやってきた。
ハイセを含め、全員が一礼する。すると、サーシャが慌ててやって来た。
「国王陛下、クレス殿下、ミュアネ王女、ようこそお越しくださいました」
美しい、青と銀のドレスを着たサーシャだった。
身体にフィットするような美しいシルバーブルーのドレス。剝き出しの肩を隠すように薄手のヴェールを羽織っている。プレセアやヒジリも似たような姿なので、王都の女性で流行しているスタイルなのかもしれないとハイセは思った。
「ははは。今日を楽しみにしておった。なぁ、クレス」
「え、あ……はい」
「ん? はっはっは!! サーシャよ、息子はお前に見惚れているようだぞ?」
「え……」
「ち、父上!!」
「ふふ、お兄様ってば照れてるわ」
「~~~っ」
クレスは赤くなり、サーシャも照れているのか頬を染めていた。
すると、レイノルドが前に出て一礼する。
「陛下、あちらに席をご用意しております」
「む、そうか」
レイノルドが三人を案内する。
クレスに、「負けねーからな」と耳打ちし、クレスも「面白い」と呟いたのはハイセの気のせいではない。そして、国王陛下は全部聞こえているのか「くくっ」と笑っていたのも気のせいではないだろう。
ハイセは、壁際でぼんやりと眺めていた。
「…………少ししたら帰ろう」
ワイングラスが空になり、給仕を探す。
すると───サーシャと目が合った。
「……あ」
「……」
ハイセは軽く、手に持ったワイングラスを揺らした。
なぜか、サーシャは嬉しそうに微笑んでいた。