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S級冒険者が歩む道~パーティーを追放された少年は真の能力『武器マスター』に覚醒し、やがて世界最強へ至る~  作者: さとう
第六章 金剛の拳ヒジリ

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金剛の拳③

 ガイストと別れたハイセは、宿に向かって歩いていた。

 すると……帰り道にある大衆食堂の中から、満足そうにお腹をさするヒジリが出てきた。

 ポニーテールを揺らし、「ふぁ~満足!」と言い、ハイセに気付く。


「あ、ハイセ」

「……」


 ハイセは、無視して歩きだした。

 するとやはり、ヒジリがついてくる。


「無視しないでよ。ね、そろそろ戦う気になった?」

「ならな……」


『───お前がガス抜きしてやったらどうだ?』


「…………むぅ」

「お、悩んでるね。むふふ、いろいろ噂聴いてるでしょ? アタシ、もう挑戦者いなくて暇なのよ。依頼報酬の金貨五千枚も、四千九百枚になっちゃったし」

「お前、報酬使い込んでるのかよ」

「仕方ないじゃん。生活費も含めて金貨五千枚って言っちゃったし」

「というか……この短期間に金貨百枚も?」

「うん。王都のご飯、おいしいんだもん」


 ニコッと笑うヒジリ。

 そして、ハイセの腕を取る。


「ね、戦お? アンタが勝ったらアタシを好きにしていいよ。まぁその、そういう経験ないけど……えっと、みんなアタシのこと『美少女』とか『いい身体してる』とか言うし」

「お前、恥ずかしいならそういうセリフ言うなよ」

「う、うっさい!! とにかく───……うん、ちょっと飲まない? アタシけっこうお酒好きなのよ」

「…………」


 少し、気になった。

 ヒジリは『最強』を目指している。その理由が少しだけ気になった。


 ◇◇◇◇◇


 向かったのは、ヘルミネのバー。


「あら、いらっしゃい。ふふ……今日は違う女の子連れてるのね」

「え、そうなの? ふーん」

「勘違いするな。それとヘルミネさん、そういう誤解招くようなのは……」

「ふふ、ごめんなさいね」


 ヘルミネは妖艶に微笑み、ハイセとヒジリはカウンター席へ。

 ウェルカムドリンクで、甘いリンゴジュースが二人の前へ。

 ヒジリはニコニコしながらグラスをハイセに向ける。だが、ハイセは一気に飲み干した。


「むぅ、乾杯くらいしてもいいじゃん」

「お前に聞きたいことがある。お前が最強を目指すわけは?」

「あ、マスター、辛いのある? お酒はシュワっとするやつで!!」


 ヒジリは聞いていない。

 ハイセは特に注文しない。ヘルミネのすごいところは、ハイセの気分に合った食事やお酒を、何も言わずに的確に出してくれるところだ。

 今日も、少し飲んだ後とわかったのか、酒精の弱いカクテルを出してくれる。


「アタシが最強を目指す理由だっけ。そりゃ、アタシが強いからよ」


 ヒジリがそう言うと、ヒジリの前に小さな魔石が埋め込まれたプレートが置かれた。ヘルミネが指で軽く触れると、魔石が赤くなり熱を帯びる……簡易的なホットプレートである。

 その上に、小さな鍋を置く。鍋には赤い野菜や香辛料が入っており、肉なども多く入っていた。

 鍋が熱せられると、ふわりといい香りが漂う。


「わぉ、おいしそう!」

「ドワーフ族が考案した鍋料理よ。レッドチリ、レッドペッパーを入れて、オーク肉を入れてあるわ。少し煮込むとと~っても辛い味になるわ」

「ん~最高。アタシここ通うっ」

「あら、ありがと」


 ヘルミネはクスっと笑う。

 そして、鍋が煮えるまでの間、ヒジリは言う。


「アタシ、捨て子だったの」

「───!」

「知ってる? 西国ウーロンは海沿いにあって、武術が盛んな国なの。アタシが捨てられてたのは、西国で最もオンボロで最弱って呼ばれてた『ウィングー流』の道場前……アタシのおばあちゃんが創設した武術の道場なの」

「……ウィングー、流?」

「うん。コンセプトは『女だって拳を握る!』って。あはは、おばあちゃんって若いころモテモテでさ、いろんな男の人に言い寄られて、けっこう苦労したみたい。だから襲われないようにいろんな武術学んで、自己流にアレンジして作ったんだって。でも、女の創設者とか馬鹿にされて、弟子どころか後継者もいない……おばあちゃん、若いころはモテモテだったけど、四十超えたらもう誰も寄ってこなくなったとかで、生涯独身だったわ」

「…………」

「で、捨て子だったアタシは後継者として育てられました、って感じ。いやー……地獄の日々だったわ。アタシの『能力』があってもおかまいなし。とにかく鍛えて、技を叩きこまれたわ。おばあちゃん、すっごく楽しそうでさ、アタシも楽しかった」

「…………」

「おばあちゃん、いつも言ってた。『女だって拳を握っていい。男に勝つ女がいてもいい。女が最強になってもいい』って……最強は、おばあちゃんの夢で、それを聞いて育ったアタシの夢」

「…………」

「アタシが冒険者登録をした日、おばあちゃんは言ったわ。『売られた喧嘩は買え。自分から売ったら何が起きても逃げずに戦え』って。そして『もう教えることはない。頑張りな』って。その話聞いて、ちょっと外に出て日課のトレーニングして帰ったら……おばあちゃん、死んでた。アタシにもう教えることないって満足したみたいに。椅子に座ったまま、満足そうに微笑んでた」

「…………」

「アタシ、おばあちゃんに見せるんだ。おばあちゃんの技と、アタシの能力。どんな魔獣にも、どんな相手にも負けないって。だからアタシは戦うの。最強を目指してね」

「…………」

「お、いい感じに煮えたかも」


 ヒジリは鍋を食べ始め、「か、辛ッ!? 水水みずっ!!」と叫んで水を一気飲みした。

 ハイセはカクテルを飲み、考えた。


「最強、か」


 自分とは全然違う。

 まっすぐで、眩しい『最強』だ。

 

「あっちちち……これがアタシの理由。納得できた?」

「……ああ」

「で、どう? 戦ってくれる?」

「…………」


 ハイセはグラスを置き、ヒジリを見た。

 鍋はすでに完食していた。身体ごとハイセに向き、不敵な笑みを浮かべている。


「ハイベルグ王国では、あんたが一番強い。サーシャとかいうのも期待したけど、あれはダメね」

「サーシャに会ったのか?」

「うん。余裕なさそうな感じで、突けば破裂しそうな子だった。あれ、ほっとけば破裂して自滅しそうだし、興味ないわ」

「…………」

「ま、そんな奴のことより」

「……いいぜ、戦ってやる」

「!!」


 ヒジリは笑顔を浮かべる。


「ただし、サーシャと戦って勝ったらな」

「……はぁ?」

「一つ言っておく。サーシャは強い……舐めると、やられるぞ?」

「…………」


 ヒジリは首を傾げた。

 ハイセは前を向き、おかわりのカクテルを注文した。

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〇S級冒険者が歩む道 追放された少年は真の能力『武器マスター』で世界最強に至る 2巻
レーベル:GAコミック
著者:カネツキマサト
原著:さとう
その他:ひたきゆう
発売日:2025年 10月 11日
定価 748円(税込み)

【↓情報はこちらのリンクから↓】
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お読みいただき有難うございます!
月を斬る剣聖の神刃~剣は時代遅れと言われた剣聖、月を斬る夢を追い続ける~
連載中です!
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― 新着の感想 ―
[一言] ハイセは、サーシャが悪く言われれば受けるかなぁと思ったけど・・・・・ ガス抜きの優先順位もサーシャなのね。 サーシャが宿に突撃してきて『ハイセ!どういうことだ!』と詰め寄る絵が浮かぶ〜何…
[一言] 直情・脳筋・単純 サーシャとヒジリって似たもの同士だよな。 ただサーシャは我慢する事で仲間を作り、 ヒジリは我慢しない事で自由を手にした。 異なる選択をした自分に近しい存在に、同族嫌悪を覚え…
[気になる点] ヒジリが言ってるのは、サーシャの性格とか気質とかの話で、ハイセの言う冒険者としての強さではないと思うんだけど・・・・・・? このすれ違いが痛恨だなぁ、と。 [一言] サーシャに勝ったら…
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