チーム『サウザンド』の現在
チーム『サウザンド』
クラン『セイクリッド』が発足し、最初期に加入した新人チーム。クランが発足して約半年で、チーム等級EからCまで上がり、新人を卒業したチームである。
今日も、『サウザンド』は冒険者ギルドではなく、クランに持ち込まれた依頼をクリアし、クラン内にある『依頼報告室』に報告。
リーダーであるロランは、カバンいっぱいに採取した『ネルゲの実』を受付に置いた。
「依頼品のネルゲの実です。確認お願いします!」
ネルゲの実。
すり潰すと、害虫駆除薬になる実だ。
飲食店などでよく使われる格安の駆除薬であり、どんな店でも売っている。
銅貨三枚で小瓶一つほどの値段だ。大したことがない。
クラン『セイクリッド』の受付嬢は、ネルゲの実をしっかり確認する。
「……はい!! 間違いなくネルゲの実ですね。これで依頼達成です」
「はい!!」
「では、報酬はこちらです」
報酬は銀貨四枚。
ロランのチームは四人。一人につき銀貨一枚の報酬である。
さっそくチームはクラン内にある『サウザンド』専用の部屋に向かい、報酬を分ける。
「はい、クーア、マッド、テナ。報酬だよ!」
「「「…………」」」
三人は無言で受け取り、サブリーダーであるクーアが言う。
「あのさ、ロラン……そろそろ、採取依頼やめない?」
「え?」
「あたしたちも全員、冒険者等級がDに上がって、チーム等級はCにまで上がったんだし……そろそろ、もっと稼げる依頼を受けないと」
「そ、そうかな……? マッドはどう思う?」
「……オレも同感だ」
「え……て、テナは?」
「ん~、私もちょっと、採取依頼ばかりじゃね」
どうやら、ロラン以外全員が『採取依頼に飽きた』ということだ。
ロランは「ううむ……」と唸る。
「確かに、サーシャさんたちが禁忌六迷宮行ってる時も、ボクたちは採取依頼しか受けてないよなあ。等級は上がったけど、実戦経験は微妙かも……そりゃあ、薬草採取でゴブリンとか、コボルトとかと戦うことは多かったけど」
「ゴブリン、コボルトって……E級の駆け出しが戦うザコじゃん。そりゃ魔獣だし、舐めたらヤバいのはわかるけど。あたしが言いたいのは、魔獣討伐依頼受けてもいいんじゃないか、ってこと」
クーアが杖をロランに突き付ける。
マッドもウンウン頷いた。
「オレ……盾士の実力、試してみたい」
マッドは、レイノルドに憧れて盾士になった少年だ。
レイノルドと違うのは、大盾と丸盾スタイルではなく、両手に丸盾を装備するスタイルだが。
レイノルドに稽古を付けてもらい、実力は並み以上はある……と、思っている。
「あたしも、ロビンさん直伝の弓使い、見せたいわぁ」
テナは、弓を引く構えをしてロランを射抜くフリをする。
クーアもウンウン頷き、杖をグッと握る。
「あたしだって、『雷魔法』を鍛えてる。そりゃSレートとかは無理だけど……あたしたちの等級なら、Bレート級の魔獣だって相手にできるわ。ロラン、覚悟決めて」
「……よ、よし。じゃあ、次の依頼は討伐依頼にしよう!!」
こうして、チーム『サウザンド』は、初の討伐依頼を受けることになった。
◇◇◇◇◇◇
翌日。
さっそくクランにある『討伐系』の掲示板を見るが……残念なことに、討伐系の依頼はなかった。
あるのは、採取系ばかり。
冒険者にとって討伐系の依頼は『稼げる依頼』であり、『強さを試せる依頼』でもあり、『わかりやすく力を示せる依頼』でもある。
クランでも、討伐系の依頼が人気なのは当たり前だった。
昨日、『討伐系を受けよう!』と意気込んだばかりなので、やや力が抜けてしまうロランたち。
「クラン掲示板には依頼がなさそうだね……だったら、冒険者ギルド行ってみる?」
ロランがそう言うと、三人は頷いた。
基本的に、クランに所属しても冒険者ギルドの依頼は受けられる。
四人は冒険者ギルドへ向かう。
だが、すでに早朝の『依頼争奪戦』が終わったのか、掲示板の前はガランとしていた。
「うぁぁ~……出遅れたね」
テナががっくり項垂れる。
とりあえず、掲示板の前に行くと……討伐系の依頼はあった。
「え、SSレート……『ブレイジング・コボルトキング』討伐だって。なにこれ、突然変異したコボルトが東の森にいるから討伐して、って……こういうの、王国の騎士団とかやる依頼じゃないの?」
「……Sレート。北のトレマン湖に住む『怪魚アルレジャ』の討伐か……無理だな」
「こっちはS+~レート。詳細不明のフクロウ魔獣『ネロオウル』が、西にある暗闇の森に潜んでるって……いやいや、無理ねぇ」
クーア、マッド、テナが掲示板にある依頼を見て渋い顔をする。
ロランも、Sレート級の依頼を見てため息を吐いた。
「ボクらの等級で受けられるのはB級まで……はぁぁ、見てよほら、採取系の依頼、B級の依頼いっぱいあるよ。まるでボクらが受けに来るのわかってたみたいだ」
採取系は相変わらずの多さだ。
四人は顔を見合わせ、仕方なく諦めようとすると……冒険者ギルドに誰かが来た。
「あ、ハイセさん。おはようございますー」
「ん」
「あれ? 一人ですか?」
「ああ」
「あ、そっか。プレセアさんは一人で採取依頼でしたっけ。ささ、ハイセさん好みの依頼、いっぱい入りましたよー」
「なんだよ、俺好みって」
「あのですねー……ハイセさんみたいな人がこのギルドに出入りしてるから、Sレート以上の依頼が他のギルドからも回されてくるんですよー」
「それ、俺のせいじゃないだろ……ったく」
ハイセはミイナとの会話を打ち切り、ロランたちの隣に立つ。
ロランたちは、ガチガチに緊張していた。
「…………」
ハイセは、無言で『ブレイジング・コボルトキング』討伐の依頼書を剥がす。
そして、ガチガチに緊張しているロランたちをチラリと見た。
「依頼、受けないのか」
「え!? あ、いや、ボクらはその、討伐系受けたいんですけど、等級が足りず、はい!!」
「ふーん」
それだけ言い、ハイセは受付カウンターへ向かった。
依頼を受けたハイセは、そのままギルドを出て行った。
「「「「ぶ、はぁぁ~……」」」」
そして、四人はため息を吐いた。
サーシャと同格のS級冒険者にして、禁忌六迷宮をたった一人で攻略した、現在『最強』と呼ばれる冒険者の一人、ハイセと会話をしてしまった。
クーアは言う。
「まさか、最強の冒険者の一人、ハイセさんが話しかけてくるなんて……なんか、すっごい怖かった」
「ぼ、ボクは緊張した。声裏返ってたよね? ね?」
「…………カッコいい」
「最強かぁ……あれ? そういえば『最強』って呼ばれてる冒険者、もう一人いなかったっけ」
テナが言う。
すると、クーアがため息を吐いた。
「それ、西の国でいろいろやらかしてる冒険者のことでしょ? そういや、サーシャさんたちが禁忌六迷宮に挑んでいるときだっけ……一人でA級ダンジョンを七つクリアした冒険者の話が出たのって」
「そういえば、そんな話あったなあ。すぐにサーシャさんたちが禁忌六迷宮を攻略して、すぐに噂が消えちゃったけど。なんだっけ……? 西の、えーと……」
「最西の国、ウーロン出身の冒険者でしょ。ハイセさんと同じく、ソロで活動してるS級冒険者。名前は、えっと……」
クーアが思い出そうとするが、名前が出てこない。
マッドが言う。
「S級冒険者、『金剛の拳』ヒジリ……最年少S級冒険者」
「ああ、そんな名前だったわね」
S級冒険者『金剛の拳』ヒジリ。
その名前が、ハイセやサーシャを巻き込んだ大騒動になるとは、この時は誰も予想できなかった。





