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S級冒険者が歩む道~パーティーを追放された少年は真の能力『武器マスター』に覚醒し、やがて世界最強へ至る~  作者: さとう
第六章 金剛の拳ヒジリ

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ガイストの拳

「悪いな、ハイセ。年寄りの散歩に付き合わせて」

「いや……」


 ある日。

 ハイセはガイストに誘われ、王都郊外にある『南の森』に来ていた。

 いつものようにギルドへ行くと、ガイストが「少し、付き合わんか?」というので一緒に散歩……だったのだが、なぜかフル装備で、危険度の高い魔獣が多く出る森に来たのだ。


「あの、ガイストさん。この森……初めて来るんですけど、確か危険地域じゃ」

「うむ。実はここで新しいダンジョンが発見されてな。若いチームに調査を任せてもいいと思ったのだが、最近運動不足だからな。ワシが受けたのだ」

「ワシが受けたのだ、って……ガイストさん、もう引退したんじゃ」

「一応な。だが、冒険者カードは返納しておらん。ギルドマスター用以外にも、ほれ」


 ガイストは、S級冒険者カードを見せた。

 ハイセは、ガイストのフル装備を久しぶりに見た。


「久しぶりに見ました。ガイストさんの装備」

「そうか? お、いたいた。おーい」


 と……ガイストが声をかけた先にいたのは、なんとサーシャだった。

 これにはハイセも、サーシャも驚いていた。


「ガイストさん、あの……どうしてハイセが? 依頼では、この森に現れたダンジョンの調査では」

「まぁそれもある。が……久しぶりに、弟子の成長を見たくてな」

「「…………」」


 ハイセとサーシャは顔を見合わせる。

 この二人は、ガイスト最後の弟子であった。

 ハイセは聞く。


「……一人、なのか?」

「ああ。ガイストさんの指名依頼でな……私一人、という条件だった。大事な話でもあるのかと思い、疑いもせず受けたが……」

「はっはっは。さて、行こうか」


 ハイセとサーシャの間を通り、ガイストは歩きだした。


 ◇◇◇◇◇


 ガイスト。

 年齢五十九歳。武器は拳で、『ファイティングマスター』の能力を持つ徒手格闘技最強と呼ばれた冒険者だ。二つ名は『武の極(コンバット)』……とてもそうは見えない、穏やかな初老男性だ。

 ガイストを先頭に、ハイセとサーシャは並んで歩く。


「懐かしいな」

「「え?」」

「お前たちを連れ、危険区域をよく歩いたものだ」

「……あの時は滅茶苦茶怖かったっすよ」

「同感だ」


 ガイストは「ははは」と笑う。

 そして、到着した。

 森の中にある、遺跡風のダンジョンだ。どこかの民族が作った祭壇のような場所で、地下へ続く階段がある。


「さて、ハイセにサーシャ。久しぶりに、実戦形式の修業といくか」

「「はい!!」」


 と、ガイストに言われ思わず返事をしてしまう二人。

 ついつい、弟子だった頃を思い出してしまい、互いに顔を見合わせる。すると、サーシャが笑った。


「っぷ……ふふ、まだ弟子の気分が抜けてないな」

「……先に行くぞ」

「あ、待て!!」


 先に入ったハイセ、その後を追うサーシャ。

 ガイストは、懐かしさに微笑み、今度は最後尾を歩く。

 階段を下りると───ただの広い空間だった。

 半円形のドームで、部屋の中央には巨大な牛のバケモノがいる。


「ふむ。ミノケンタウロスか……討伐レートはB、どうやらここは『階層討伐系』のようだ」


 階層討伐系とは。

 階層が迷路のようになっているダンジョンではなく、一階層ごとにダンジョンボスが存在し、討伐することで次の階層へ進めるダンジョンだ。

 この形式のダンジョンは総じて、最下層まで近い。

 現在、階層討伐系ダンジョンの最大階層は、二十階層だ。


「さて、ハイセにサーシャ。どちらが行く?」

「「じゃあ……」」


 同時に声を出す二人。そして、互いに顔を見合わせる。

 それを見て、ガイストは笑った。


「では、ワシが行こう」

「「えっ」」


 ガイストは、スタスタとミノケンタウロスに近づく。

 すると、ミノケンタウロスは立ち上がり、雄叫びを上げる。


『ブモォォォォォォォォォ!!』


 両手に斧を持ち、上半身は牛、下半身は馬の魔獣だ。

 馬の機敏さ、牛の力強さを持つ強敵だ。

 ハイセは銃を、サーシャは剣を抜く。が……ガイストは手で制する。


「手出し無用。さて、久しぶりに運動するか。」


 首をコキコキ鳴らし、ガイストは右手をゆらりと前に出す。

 ハイセとサーシャは、ゾワリと震える。


「っすげぇ……」

「ああ。まるで隙がない構えだ……」

『ブモォォォォォォォォォ!!』


 ミノケンタウロスは前脚を上げて威嚇し、ガイストに突っ込む。

 ガイストの右手がゆらゆら揺れ、ほんの少し身をかがめ、左手を胸の位置へ。

 力強さも、派手さもない。

 その気になれば……『腕力』でブチのめすこともできるだろう。

 だが、ガイストはそうしない。

 突っ込んでくるミノケンタウロス。

 ガイストは軽く跳躍すると───ミノケンタウロスの懐に入り、右手を胸に添えていた。


「『冥王拳(めいおうけん)』」


 右手が胸を軽く押す。

 すると、力が波紋となりミノケンタウロスの全身に広がり、背中が膨張した。


「『木端微塵』」


 そして───ボン!! と、背中が爆ぜ内臓が後方に吹き飛んだ。

 ガイストは音もなく着地。ミノケンタウロスは即死だった。


「ふむ……やはり、鈍っているな」

「「……ど、どこが?」」


 右手を開き、閉じを繰り返し、やや不満そうにするガイスト。

 そんなガイストに、ハイセとサーシャは戦慄するのだった。


 ◇◇◇◇◇


 十階層まで進み、ガイストは「うむ」と頷いた。


「ここまでだな。今日は帰ろうか」

「え? まだ十階層ですが……」

「いいんだよ。あまり調査しすぎても面白くないからな」

「そういうものか?」

「ああ。そういやお前、討伐系ばかりで調査依頼ほとんど受けなかったよな」

「む……」


 サーシャは、少しムッとする。だがハイセは無視。

 ガイストは拳をハンカチでぬぐう。結局、ここまで全ての魔獣を、ガイストが一人で倒した。

 サーシャは言う。


「ガイストさん。本当にお強いですね……驚きました」

「ははは。最近、デスク仕事ばかりで鈍っているがな。少しは調子を取り戻せた」

「……あの、私とハイセを同行っさせたのは、なぜですか? ハイセはともかく……私には、ギルドマスターの権限まで使って」


 サーシャはクランマスターだが、冒険者であることに変わりはない。

 クランマスターといえど、ギルドマスターの直接命令を受ければ、よっぽどのことがない限りは受けなければならないのだ。

 すると、ガイストは言う。


「別に、大した理由じゃない。久しぶりに、お前とハイセが並んで歩く姿を見たかっただけだ」

「……え」

「昔のように……というのは、もう無理だろうな。だが……ワシには見える。お前とハイセが並んで歩き、武器を持ち、ゴブリン相手に戦う光景が、昨日のことのようにな……」

「ガイストさん……」

「ふふ……まぁ、年寄りの戯言だ。さぁ、帰ろうか」

「「…………」」


 ガイストは歩きだす。

 ダンジョンを出て、ハイセはサーシャに言う。


「な、覚えてるか? いつも、外で訓練した後のこと」

「……ああ、覚えている。ガイストさんが、飯屋に連れてってくれたことだろう?」

「ああ。なぁ、せっかくだし、久しぶりに行かないか?」

「……いいのか?」

「ま、たまにはな。ガイストさんじゃないけど……やっぱり、懐かしいし」

「……ふ」


 サーシャは微笑み、ガイストの腕を取る。


「む?」

「ガイストさん、お腹が空きました。ハイセが奢るそうなので、久しぶりに『あそこ』で食事しませんか?」

「は!? おい、俺の奢りって」

「お前が言い出したことだろう? ふふん、男なら言葉に責任を持て」

「グッ……サーシャ、お前性格悪くなりすぎだろ」

「ふふ、それは光栄」

「……ふふっ」


 ハイセはガイストの隣に並び、サーシャを睨んで抗議する。

 だがサーシャは、ガイストの腕を盾にしてクスクス笑っていた。

 昔も、こんなことがよくあった。

 進む道は違えても、行きつく先は同じ者同士。

 ハイセとサーシャ。ガイスト最後の弟子二人は、今だけ子供のようなやり取りで、ガイストを笑わせてくれた。

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〇S級冒険者が歩む道 追放された少年は真の能力『武器マスター』で世界最強に至る 2巻
レーベル:GAコミック
著者:カネツキマサト
原著:さとう
その他:ひたきゆう
発売日:2025年 10月 11日
定価 748円(税込み)

【↓情報はこちらのリンクから↓】
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お読みいただき有難うございます!
月を斬る剣聖の神刃~剣は時代遅れと言われた剣聖、月を斬る夢を追い続ける~
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― 新着の感想 ―
[良い点] ハイセから誘った点、変化が見えたってとこすかね これまで基本的にサーシャからしかアクション起こしてなかったはず(スタンピードの救援除く)「まて」とか(笑) [一言] ハイセ気絶後の顛末が…
[一言] ハイセがサーシャに未練たらたらだからガイストも二人を会わす機会を作ったんでしょうね
[気になる点] んー、ハイセの方から誘うのは違和感あるね 昔の気持ちに戻ってるから…ってことかもしれないけど、それでもキャラがブレてるようにしか見えないんだよね サーシャの方から誘ってハイセが応じる…
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