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S級冒険者が歩む道~パーティーを追放された少年は真の能力『武器マスター』に覚醒し、やがて世界最強へ至る~  作者: さとう
第六章 金剛の拳ヒジリ

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現れた『剣聖』

 サーシャは一人、クラン『セイクリッド』のハイベルグ支所にいた。

 レイノルドはチーム『サウザンド』を連れてダンジョンへ訓練。ピアソラは『教会』の新人『聖女』たちへ指導、ロビンは遊びに行き、タイクーンはどこかへ行った。

 今日は来客もない。

 いつもなら、サーシャに近づこうとする貴族や、クラン申請の冒険者チームの対応に追われるのだが……しばらくはクラン加入の申し込みを止め、来客もストップさせた。

 さすがに激務ということが、冒険者チームや貴族たちも、サーシャたちが対応に追われ大変だとわかったのだろう。

 特に文句も出ず、サーシャは溜まった仕事を処理している。


「ふぅ……」


 サーシャは、首を揉む。

 クラン加入の申請に関する書類、冒険者ギルドへの報告、ハイベルグ貴族への挨拶や手紙の返事など、やることは山積みだ。

 事務員を雇い、事務処理は楽になったが……サーシャが確認すべき書類は山ほどある。

 タイクーンと分けて処理しているが、それでも大変だった。

 禁忌六迷宮を攻略してから、あまりダンジョンに潜れていない。

 日々の訓練は続けているが……そろそろ、実戦が欲しかった。

 すると、事務員として雇った女性、ルリカがドアをノックし部屋へ。


「サーシャ様、お客様が」

「客? ふぅ……また貴族か、冒険者か? 悪いが、来客は全て断っている。予約簿を見て」

「い、いえ。その……」

「……?」


 ルリカの歯切れが悪い。

 すると、今度はノックもなくドアが開いた。


「邪魔するぞー」

「あ、アイビス様!? 来客と言うのは、あなたでしたか」

「……ふぅむ。だいぶ疲れた顔しとるのぉ。これだけデカくなったクランの運営にいっぱいいっぱい、といったところかの。まぁ仕方ないの……まだ十七の子供じゃ」

「……あの、要件は」


 ペンを置き、アイビスをソファへ。

 アイビスはソファにダイブし、横になった。


「ワシもそうじゃった。クランを作ったばかりの頃、毎日寝る暇を惜しんで仕事したものよ……デカくなりすぎたクランというのは、マスターにかかる負担も、またデカい」

「…………」

「さて。今日の用事はワシじゃない。ワシの……まぁ、古い付き合いがあるヤツが、おぬしに会いたいと、わざわざやって来たんじゃ」

「……私に、ですか?」

「うむ。そろそろ来ると思うんじゃが……お、来たの」


 サーシャにはわからないが、ソファに寝転がったままのアイビスがチラッとドアを見る。

 すると、ドアがノックされた。

 サーシャは、部屋の隅に待機していたルリカに目配せすると、ルリカはドアを開ける。

 ドアが開くと───入ってきたのは、一人の男性。


「失礼する」


 サーシャは、一瞬で悟った。

 剣士。

 圧倒的。

 そして───……最強、だと。


「遅いぞ、クロスファルド」

「時間通りだろう」


 そう言い、男性はサーシャを見た。

 一見すると、年齢は五十代に入ったばかりだろうか。だが髪は白く、髭も眉毛も睫毛も真っ白だ。

 薄汚れた外套、そして羽根つき帽子を脱ぎ、アイテムボックスに入れる。

 着ているのは、騎士服だろうか。腰にも剣が吊ってある。

 鍛え抜かれた肉体だと、服の上からでもわかった。

 そして、アイビスが言った名前。


「く、クロスファルド……? まさか……け、『剣聖』……クロスファルド、様!?」


 それは、四大クランの一つ『セイファート騎士団』のクランマスターにして……人間界最強であり、サーシャと同じ『ソードマスター』の能力を持つ、最強の名前だった。

 そして……サーシャの、憧れの剣士でもあった。


 ◇◇◇◇◇


 クロスファルドは剣を外し、ソファに立てかける。

 そして、寝転がっていたアイビスをジロッと睨むと、アイビスは渋々と座り直し、その隣に座った。

 

「初めまして、お嬢さん。我はクロスファルド・オルバ・セイファートだ」

「は、はは、はじめ、まして……さ、さーシャ、です」


 あのサーシャが、ガチガチに緊張していた。

 それはそうだ。『刀剣系』の能力を持つ者は誰もが憧れ、刀剣系の能力に目覚めた者は誰もが目指す『セイファート騎士団』のクランマスターが、目の前にいるのだ。

 確かに、サーシャは認められ、今は『五大クラン』などと呼ばれているが、同格と思ったことは一度もない。考えることすらおこがましいと思っていた。


「阿呆が。緊張でガチガチじゃ。手紙なり何なりして、来ることを事前に伝えておけばいいものを。ワシが遊びに行くからと、無理やりついて来おって」

「ふ……確かに、そうだったな」


 クロスファルドは苦笑し、チラリと部屋を見た。


「……ところで、ノブナガの文字が読める少年はいないのかね?」

「は、ハイセのこと、ですか? ええと……ハイセは、ソロで、チームではないのでここには……」

「そうか……」

「む。おいクロスファルド、ハイセはワシのじゃ。お前なんかに渡さんからな!!」


 プンプンするアイビス。

 サーシャがポカンとしているので、アイビスは言う。


「あー、すまんなサーシャ。コイツとワシは腐れ縁での。やあれやれ……不愛想の塊であるバラガンや、遊び人のメリーアベルと比べたら、まぁマシな方じゃ」

「ふ、ぐーたらナマケ者のお前に言われたら、終わりだな」

「あぁん!?」


 バラガンは『巌窟王』のクランマスター。メリーアベルは『夢と希望と愛の楽園ファンタスティック・ファンタジア』のクランマスターだ。四大クランのクランマスターの名前だ。

 サーシャの視線で気になったのか、クロスファルドが言う。


「我とアイビス、バラガンとメリーアベルは、元は同じ冒険者チームだったのだ。リーダーのノブナガが集めた、変わり者集団とも呼ばれていたがな」

「フン。懐かしいの……ノブナガ以外、みんな長寿種族というのが面白くない。一人くらいくたばって、ノブナガにワシらのこと報告しに行けばいいのにのぉ」

「……っ」


 サーシャは、ゴクリと唾を飲み込む。

 四大クランのクランマスターが、かつて同じチームに所属していたことは知っていた。

 伝説の冒険者チーム、『ヒノマルヤマト』。

 そのメンバー二人が、サーシャの目の前にいる。これは、大変なことだった。

 クロスファルドは、サーシャに言う。


「さて、要件は───……」

「……?」


 クロスファルドは、サーシャをジッと見た。

 そして、目を細め……小さく頷く。


「サーシャ、だったな? お前を『セイファート騎士団』に勧誘しに来た」

「え」

「は?」

「我がクランは、刀剣系の能力者のみ入ることができる。お前なら、我がクランの柱となれるだろう」

「……し、しかし、私は、このクランの代表で」

「だが、今のお前は未熟。フフ……遅かれ早かれ、潰れるのが見えている」

「……っ」

「我の元で学び、鍛えてやろう。その間、クランは我がクランで面倒を見てやる」

「…………」


 サーシャは黙り込む。

 アイビスも何か言おうとしたが、口を開けようとして黙り込む。


「……お断りします」

「ほう」

「ここは、私と、私の仲間のクランです。確かに……私は未熟です。でも、未熟だからこそ、人任せにせず、自分でしっかりやりたいんです」

「ふむ……」


 と───……次の瞬間、猛烈な闘気がサーシャを襲う。


「!?」


 白金色。プラチナの輝きがクロスファルドを包み込む。

 そして、いつの間にか握られていた剣がサーシャに向かって突き付けられた。

 サーシャも剣を抜き、黄金の闘気で身を守る。

 

「なら、決闘だな」

「っ……!?」

「我は、お前をここで潰したくない。力尽くで連れて行くのも悪くない」

「ほ、本気……ですか!?」

「うむ。表に出よ、相手をしてもらうぞ」


 クロスファルドは立ち上がる。

 立ち上がっただけなのに、サーシャにはクロスファルドが天まで届く巨人に見えた。


 ◇◇◇◇◇


 訓練場にて。

 サーシャとクロスファルドは向き合っていた。

 サーシャの手には『虹聖剣ナナツサヤ』が握られているが、柄が汗でびっしょりだった。

 ほんの数メートル先には、クロスファルドがいる。

 憧れの剣士が、プラチナの闘気を漲らせ、サーシャに向かい合っている。


「我に一撃でも入れたら、お前の勝ちだ。アイビス、頼むぞ」

「うむ。審判は任せろ。サーシャ、いいか?」

「……っは、はい」

「では、始め~」


 アイビスが適当に開始の宣言をすると同時に、プラチナの闘気が爆発的に膨れ上がった。

 バケモノ。

 ショゴスよりも、魔族よりも強大な力だった。

 サーシャの闘気がティーポットから注がれる紅茶だとしたら、クロスファルドの闘気は流れ落ちる滝の激流だ。

 大人と子供どころではない。ドラゴンとアリのようなものだ。


「参る」

「えっ」


 目の前にクロスファルドがいた。

 剣を振りかぶっている。


「!!!???」


 サーシャは剣を無意識に掲げ、闘気を全開にした。

 ゴッギャァァァァ!! と、剣が砕けそうなくらいの衝撃だった。

 すぐにサーシャは剣を構え直し、横薙ぎを防御する。


「っぐっぎ、っぁァァァァァァァァァァ!!」


 ベキベキベキと腕の骨が軋む。

 だが、防御できた。

 クロスファルドと距離が取れ、サーシャは剣を構え直す。

 クロスファルドは、少し残念そうだった。


「ふぅむ。少し、期待外れだの。それとも、我が先手を譲るとでも思ったのか?」

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……ッ」

「並みの経験者だったら『先手は譲ろう』とか言うと思うが……それは阿呆だ。どんな格下だろうと侮れば死ぬ。剣というのはそういう世界。我はお前を舐めんぞ? さぁ、全力でこい」

「……ッ」

「それとも……仲間がいないと何もできない、赤ん坊なのか?」

「違う!!」


 サーシャは黄金の闘気を全開にし、クロスファルドに斬りかかる。

 

「黄金剣、『連牙斬』!!」


 流れるような連続斬りを、クロスファルドは剣で受ける。

 届く気がしない。だが、サーシャは攻撃の手を緩めない。


「ふむ、なかなか。だが……甘い」

「っ!!」


 剣が弾かれ、胴がガラ空きになる。 

 そこにクロスファルドの横薙ぎが入るが、サーシャは跳躍して剣をキャッチ。そのまま振り下ろす。

 だが、クロスファルドは指二本で、挟むようにして剣を止めた。


「さぁ、どうする」

「うぅぅぅァァァァァァァァァァッ!!」


 サーシャの闘気が膨れ上がる。そして、一瞬だけクロスファルドの闘気を押し返した。

 ほんの、ほんの一瞬───……サーシャですら気付かない一瞬。

 クロスファルドは見た。

 サーシャの『黄金』が、『白金』に輝いたのを。


「黄金剣、『一刀陣』!!」

「ふっ……」


 サーシャが渾身の横薙ぎを放つと同時に───……サーシャの意識が途絶えた。


 ◇◇◇◇◇


 ◇◇◇◇◇


 ◇◇◇◇◇


「…………ぁ、れ」


 目を覚ますと、青空が見えた。

 身体を起こすと、アイビスがニコニコしながらサーシャを覗き込んでいる。


「起きたか、サーシャ」

「あ、あれ……?」

「頭をスパーンと叩かれて気を失っただけじゃ。まぁまぁ、善戦したの」

「え?……え?」


 どうやら、敗北したようだ。

 そして、顔を伏せる。


「負け、た……」

「クロスファルドなら帰ったぞ。用事ができたとか抜かしてな」

「……え?」

「さっきの、お前を連れて行くとかいう話、ぜ~んぶ噓じゃよ。身体が鈍ってそうなお前を見て、あいつなりに気を使ったんじゃ」

「……え」

「どうじゃ? 久しぶりに思いっきり能力を使って、さらに身体を動かして……スッキリしたじゃろ?」

「…………そういえば」


 久しぶりに、全力を出した。

 闘気も全開まで振り絞ったおかげで、気持ちのいい疲労感だけ残っていた。

 身体も限界まで酷使し、もう全然動けない。だが、意外にも心地いい。


「クロスファルドは、本当に挨拶だけしに来たんじゃよ。だが、疲れてるお前を見て、わざとお前を挑発してガス抜きさせたようじゃな。まったく面倒な男じゃ……」

「…………」

「さ、今日はもうお休みじゃな。仕事はワシが引き受けてやるから、風呂にでも入ってさっさと寝てしまうがいい」

「アイビス様、クロスファルド様は……」

「さぁの。自分のクランに帰ったんじゃないかの?」

「…………」

「ふ……まぁ、そのうち手紙でも出せ」

「……はい!!」


 この日、サーシャは疲労がすさまじく、部屋に戻るなり朝までぐっすり寝た。

 おかげで、翌日の目覚めはスッキリ。また、仕事への意欲がわく。

 最初に始めた仕事は───クラン『セイファート騎士団』への手紙を書くこと、だったそうだ。

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〇S級冒険者が歩む道 追放された少年は真の能力『武器マスター』で世界最強に至る 2巻
レーベル:GAコミック
著者:カネツキマサト
原著:さとう
その他:ひたきゆう
発売日:2025年 10月 11日
定価 748円(税込み)

【↓情報はこちらのリンクから↓】
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お読みいただき有難うございます!
月を斬る剣聖の神刃~剣は時代遅れと言われた剣聖、月を斬る夢を追い続ける~
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― 新着の感想 ―
これだけ強いのに踏破してないのは謎。これから説明回あると良いな
[一言] タイクーンは、語学教室(押しかけ)だな。 初めましてってことなんで、四賢人会議はこれから、会議の回もあると良いですね サーシャと共に重要参考人としてハイセも呼び出し決定でしょ ところで、…
[気になる点] 銀の上が金、更に白金か…また更に虹色の闘気とかあるかな? なんにせよ最強も最高もまだ先の話ってことかな でもそれだけの力を持ったマスターがいるのに、禁忌六迷宮の踏破に至ってないのは何…
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