禁忌六迷宮踏破パーティー
ハイセとプレセアは、馬車に乗っていた。
もちろん二人ではない。冒険者ギルドの馬車なので、ガイストもミイナも一緒だ。
ハイセは、どうも気が乗らないのか……ぼんやり外を見ている。
「あなた、そんなに行きたくないの?」
「ん……まぁな。貴族とか、あんまり関わりたくない」
「私、元王族だけど」
「元、だろ」
「……そ。今はいいってことね」
「え!? プレセアさん、王族だったんですか!?」
「元、ね」
ハイセは、チラッとプレセアを見る。
いつもの冒険者仕様ではない。元王族なので、こういうドレスなども着慣れているのだろう。ハイセのような庶民とは雰囲気が違った。
ガイストも、慣れたものか堂々としている。
ミイナは子供のように足をパタパタさせ、どこか落ち着きがない。
「ミイナ。足をバタつかせるな。淑女らしく振舞え」
「はーい。でもでも、華の十六歳なんですよ? 乙女なんですよ? パーティーなんて初めてだし……ああ、カッコいい貴族男性に声かけられたらどうしよう!! ねぇねぇハイセさん!!」
「ははは」
「……なんですかその乾いた笑い」
馬車は、ハイベルク王城のパーティー開場へ到着した。
以前、ハイセはS級冒険者の任命で来たことがある。
はしゃぐミイナをガイストがたしなめ、ハイセは馬車を降りる。すると、プレセアがジッとハイセを見た。
「なんだよ」
「あなた、私がパートナーなの忘れたのかしら」
「……あ」
本気で忘れていたハイセ。
さすがにプレセアに失礼だと思ったのか、ぎこちない動きで手を差し出す。
すると、プレセアはクスっと笑い、その手を取った。
「ありがとう」
「……作法とか、よくわからないから勘弁しろよ」
「ええ。でも、なかなか様になってるわよ?」
すると、別の馬車が到着……馬車には、クラン『セイクリッド』の紋章が描かれていた。
降りてきたのは、サーシャ。
パートナーはレイノルドだ。そして、タイクーンが降り、ロビンをエスコートする。ピアソラは「私がサーシャをエスコートしたかったのに……」とブツブツ言いながら一人で降りた。
サーシャは、レイノルドの腕を取る。
「……あ」
そして、プレセアと並んで歩く、ハイセの後ろ姿を見た。
「サーシャ」
「あ、ああ……すまない、レイノルド」
「おう。ちゃんと切り替えていけ」
「……ああ」
サーシャは深呼吸。レイノルドと並んで、会場へ向かい歩き出す。
◇◇◇◇◇◇
ハイセが会場に入ると、大きな拍手で迎えられた。
「S級冒険者『闇の化身』ハイセ様。ご来場です」
そう、司会進行役だろうか? 言うと、拍手喝采だ。
ドレスや礼服を着た紳士淑女だけじゃない。顔に傷のある、見るからに礼服を着慣れていない男や、筋肉質なドレスを着た女性などもいる。恐らく、招待された冒険者たちだろう。
ハイセは、軽く一礼して会場内へ。
その隣にサーシャとレイノルド。タイクーンたちが並ぶ。
そして、会場奥にある豪華な椅子に座る国王。そして王子クリスと王女ミュアネ。
ハイセたちは、王の前まで歩き、跪いた。
「面を上げよ」
顔を上げると、国王はにっこり笑う。
「ハイセにサーシャ、そしてその仲間たち。禁忌六迷宮の踏破という偉業……本当に驚いたぞ。おめでとう」
「「ありがたき幸せ」」
ハイセとサーシャが同時に言い、レイノルドたちは頭を下げた。
「ハイセ。お前が討伐した『ヤマタノオロチ』だったか。あの素材で作った剣と鎧は、王家に代々伝えられることになるだろう。対価として白金貨を払ってもよいが……お前はすでに大金を手にしている。よって、金貨ではなく『爵位』を与える」
「えっ……」
驚くハイセ。
もちろん、これは困惑だ。
爵位なんてもらったら、面倒なことに───……と、国王は続けた。
「ああ。爵位と言っても、貴族として領地を治めろと言っているわけじゃない。今のお前に普通の爵位なぞ重荷にしかならんからな。よって、『ハイベルク天爵』を与える」
「……あ、ありがたき幸せ」
天爵? と、ハイセはピンとこない。
爵位とは、公爵を筆頭に侯爵、伯爵、子爵、男爵ではないのか。
他の貴族を見ると……全員が、愕然としているのがわかった。
「それと、いずれは領地も与えよう。お前が冒険者を引退し、のんびり余生を過ごすに相応しい場所を用意しておこう」
「あ、ありがたき幸せ……」
正直、ここまでとは思わなかったハイセ。
討伐の証として渡したヤマタノオロチの首が、よくわからない爵位と、冒険者引退後に余生を過ごす領地に化けた。
そして、サーシャ。
「サーシャよ。そなたが献上した『虹色奇跡石』は、実に素晴らしい。ヤマタノオロチの素材と合わせることで、最高の剣と鎧になるそうだ」
「はっ」
「褒美だが……聞いた話によると、クランの加入希望が五百を超えたようだな。よし、王都郊外に領地を与える。そこに、クラン『セイクリッド』の本部を建設させよう。規模は……そうだな、冒険者チームが千、傘下に加わることを前提としようか。王都にある本部は、王都の窓口として使うがいい」
「……あ、ありがたき幸せ」
辛うじて声が出た。
レイノルド、タイクーン、ロビン、ピアソラも震えていた。
領地。クラン専用の領地なぞ、『四大クラン』以外に持っているクランはいない。
クラン『セイクリッド』が加入し『五大クラン』と言われているが、クランの規模では遠く及ばない。
今ある王都のクランホームを『王都部所』にして、訓練場やチームの派遣などは王都郊外にある『本部』から行う。
国王が、宰相ボネットに指示。ボネットは一礼し会場を出た……優秀な宰相ボネットなら、領地の手続きやハイセの爵位に関して、すぐに動くだろう。
「話はここまで。さぁさぁ皆で祝おうではないか。全員、グラスを手に!!」
国王の乾杯と共に、パーティーが始まった。
◇◇◇◇◇◇
ハイセは、プレセアと一緒にガイストの元へ。
パーティーが始まるなり、若い女性たちがハイセをジロジロ見ている。だが、プレセアがハイセの腕にしがみつくように甘えているので、誰も近づいてこない。
ハイセは、プレセアの柔らかさを意識しないように、ガイストへ聞いた。
「あの、ガイストさん」
「おお、ハイセ……いやはや、驚いたぞ。まさか『天爵』を授かるとは」
「それそれ。なんですか、その『天爵』って」
ガイストは「そうだな……」と腕組みをして考え込む。
「簡単に言うと、『屋敷や領地を持たない公爵位』だな。ハイベルク王国貴族に公爵位を持つ貴族は四家あるが、お前の爵位はその四家よりも高い。だが、天爵は一代きり。仮に、お前が結婚して子が生まれても、その子に爵位を受け継がせることはできないがな」
「なるほど……で、それがご褒美ですか。なんだかなぁ」
「馬鹿者。いいか? 陛下は先回りしたんだ。お前は禁忌六迷宮を踏破したが、S級冒険者ということに変わりはない。だから、高位貴族がお前を囲い、私物化する可能性も出てくる。お前は拒否するだろうが、貴族からの依頼というのは、そう簡単に断れん。サーシャのようなクランを興しているならともかく、な」
「……そ、そうなんですか」
「ああ。お前が『天爵』を与えられたことで、高位貴族たちはお前に対し、自由に依頼をすることができなくなった」
「そんな意図が……」
ハイセは、国王の座る椅子をチラッと見る……すると、まるで気付いていたかのようにハイセを見て、片目を閉じてグラスを揺らした。
「バルバロスめ。遊んでいるな……全く」
ガイストは苦笑していた。
王の意図がわかり、ハイセはため息を吐いた。
「じゃあ俺、これまで通りの生活しながら、依頼を受けていいんですね」
「ああ。まぁ……多少は変わるだろう。ハイセ、お前もあの宿を出て、ちゃんとした宿に泊まった方がいいかもしれんぞ」
「…………」
悩んでいると、楽団が音楽を奏で始めた。
ダンスの時間。すると、プレセアがハイセの腕を引く。
「ファーストダンスよ」
「……わかったよ」
ハイセは、プレセアと一緒にダンスを踊るため前に出た。
すると、サーシャとレイノルドも前に出る。
「…………」
「…………」
なんとなくサーシャと目が合ってしまい、ハイセはそっと目を逸らした。
 





