新装備と準備
クラン『セイクリッド』にある、『セイクリッド』専用の会議室。
現在、サーシャとレイノルドが、目を輝かせてテーブルにある物を見た。
「「おお……!!」」
互いに声が揃う。
そして、『セイクリッド』専属のドワーフ鍛冶師ダンバンが、得意げに胸を張った。
「ワシの最高傑作と言っても過言じゃないのぉ。くくく、伝説の石である『虹色奇跡石』を使った剣と盾じゃ」
「素晴らしい……ダンバン、感謝するぞ」
サーシャは、透き通った虹色の刀身のロングソードを手に取る。
軽く振ると、虹色の軌跡がとても美しい。
レイノルドも、大盾を左手に持ち、右手の籠手に丸盾をカチッとつける。軽く振って気付いた。
「これ、今までの盾の半分くらいの重さだぞ……強度とか」
「大馬鹿モン。強度は今までの盾の約二十倍。ドラゴンのブレス程度じゃ傷一つ付かん。物理、魔法ともにほぼ無効化できる代物じゃ。サーシャの剣も同等のモンじゃぞ」
「マジか……すっげぇな」
「素晴らしい」
「『虹の夫婦盾』と、『虹聖剣ナナツサヤ』じゃ。大事に扱うんじゃぞ……まぁ、折れることはないだろうがな。がっはっは!!」
レイノルドは、盾を見せつけながらダンバンに言う。
「ありがとな、ダンバンのおっさん」
「礼を言うのはこっちじゃ。まさか、セブンスターライトに触れることができ、尚且つ加工までできるとは。正直、もう悔いはないと言っても過言じゃないぞ」
「おいおい、死ぬのは困るぜ? 今夜一杯付き合ってもらうんだからよ」
「ほ、それなら話は別じゃの」
レイノルドとダンバンは「ガハハ!」と笑い合う。
サーシャは、鞘に剣を収める。
「ダンバン。ところで、今まで使っていた剣は……」
「ああ、折れちまった剣か。あれはもう直せんからな……」
「……そうか」
「最後まで聞け。その剣の柄と鞘は、お前さんが愛用した剣から加工したモンだ。普通は、折れた剣はそのまま供養するんだが……余計な世話だったかの?」
「……ダンバン、あなたは最高の鍛冶師だ」
「がっはっは!! くすぐったいからやめろ。ささ、レイノルドよ、飲みに行くぞ。駆け出しで金のないお前たちの面倒を見てきたワシに、お前たちの成長っぷりを聞かせてくれや」
「いいぜ。おいサーシャ、お前も付き合えよ」
「ああ。もちろん」
サーシャ、レイノルド、ダンバンの三人は、行きつけの居酒屋へ向かった。
◇◇◇◇◇◇
居酒屋でダンバンと飲み、数時間後に別れた。
レイノルドとサーシャは、二人で夜風を浴びながらクランホームへ向かって歩く。
チラリと、レイノルドはサーシャを見た。
「ふぅ……久しぶりに、飲みすぎたかな」
街灯の明かりで、綺麗な銀髪がキラキラ輝き、ほんのり色づいた頬が色っぽい。
ピアソラが選んだ私服は、やや胸元が開いている。首筋から胸元にかけて見える白い肌が美しい。
酔っているな……と、レイノルドは自制する。
「な、サーシャ。明日は王城でパーティーだよな」
「ああ。正式な報告はタイクーンが済ませたから、純粋にパーティーだけだ」
「ハイセも来るのかね」
「ああ。ガイストさんがキツく言ったようだぞ。ふふっ、ああいう堅苦しいパーティーは、好きじゃないみたいだからな」
「…………」
サーシャは、クスっと笑う。
ハイセのことになると、サーシャは素の笑顔を見せる。
それがレイノルドには、面白くなかった。
「な、サーシャ。約束、覚えてるか?」
「え?」
「何でも頼みを聞いてくれるってヤツ。ピアソラの頼みは聞いたのか?」
「いや、まだだ。タイクーンが『王城の図書館に入りたい』というのは、明日頼む予定だが。ロビンの『ハイセをパーティーに招待したい』も、明日ハイセに頼むつもりだ」
「……オレも、頼んでいいか?」
「ああ、何でもいいぞ」
レイノルドは立ち止まり、真面目に言う。
「忙しいのが終わったらでいい。一緒に、メシ食おうぜ」
「え? それでいいのか?」
「ああ。今度は、二人でな」
「二人……あ、ああ。構わない」
「おう。約束だぜ」
レイノルドはニカッと笑い、歩き出す。
鈍感なサーシャだが……なんとなく、なんとなく気付いてしまった。
もしかしたら、レイノルドは……と。
◇◇◇◇◇◇
翌日の午前中。
ハイセは、ガイストに呼ばれてギルマス部屋へ。
「今日はパーティーだ。ハイセ、支度するぞ」
「あの……俺、逃げるとでも思われてるんですかね」
「ああ」
「そ、即答……いや、パーティーとか嫌いですけど、今回はサボりませんから」
「駄目だ。さ、行くぞ」
「え、どこへ」
「着替えにだ」
ハイセは、ガイストと一緒に、ギルドから近い服屋へ。
ガイストの馴染みらしく、店に入ると支配人が駆け寄って来た。そして、「こいつに合う服を。これからパーティーなんだ」と言い、ガイストはギルマス用の冒険者カード(メタルブラック仕様)を出した。
すると、女性店員が五名ほど来て、ハイセの身体サイズを計る。
「うわ!? あの、ちょっ」
「髪のセットも頼む。それと、眼帯も新しいのに。パーティーは夜からだ。急がなくていい。ああ、金はいくらかけても構わん」
「あの、ガイストさん、それくらい自分で」
「いいから気にするな。ワシからのお祝いだ」
「ガイストさん、なんか楽しんでません!? って、おいズボン!? ちょっ!?」
ハイセはあっという間に服を脱がされ、下着だけの姿になり、いくつもの礼服を合わせられた。
服が決まり、新しい眼帯やアクセサリーも決まる。
着替えを終え、髪のセットや化粧を終え、ようやく解放される。
「ふむ……よく似合っているぞ」
「か、カッコいいです、ハイセさん!!」
「……へえ」
仕立て部屋から出ると、ガイスト以外にもう二人……なぜか、ミイナとプレセアがいた。
二人とも、ドレスを着て化粧をしている。
「……なんでお前らが」
「ふっふっふ。ご説明しましょう!!」
「今回のパーティーは、お前とサーシャの禁忌六迷宮踏破の記念パーティーだ。各国から貴族も大勢やって来る。お前がソロだと知れると、多くの貴族令嬢たちが殺到する。そのための防衛策だ」
「あ、あたしが言いたかったのにぃ~」
「と、言うわけで……彼女に依頼をした」
ハイセの前に立ったのは、ドレスを着たプレセアだ。
肩が剥き出しになったドレスだ。緑を基調としており、エルフの伝統的な衣装らしい。
ハイセが禁忌六迷宮に挑んで半年の間に、ショートヘアだった髪は、肩よりも長く伸びている。その髪をまとめ、エメラルドを加工した髪留めで止めていた。
薄く化粧もしており、相当な美少女として仕上がっている。
「俺、頼んでませんけど」
最初の一言がそれだった。
プレセアはムッとして、ハイセの足を踏む。
「いって!?」
「……依頼料はもうもらったから。あなた、恩師が気を利かせたのに、無視するつもり?」
「……むぅ」
「ハイセ。婚約者のいない未婚の貴族令嬢を甘く見るな。今のお前は、貴族よりも価値の高い結婚相手だぞ?」
「え、俺が?」
「そりゃそうだろう。お前は無頓着だから言っておくが……お前の持つ総資産は、王族の年間予算数十年分だ。ミイナも言ったが、人生二十回くらい遊んで暮らせるほどの額だ。そりゃあ、玉の輿を狙う令嬢も出てくるだろうな」
「…………」
「ふっふっふ。ハイセさ~ん、あたしならいつでもオッケーですよん。資産管理ならお任せですー」
ミイナがそう言うと、ハイセはガイストに聞いた。
「そういや、なんでミイナがここに?」
「あたしの求婚スルー……うう、ハイセさんの眼中にないぃ」
「ワシの付き人としてパーティーに参加させようと思ってな。こういうのも、いい経験になる」
「なるほど……って、おい」
すると、ハイセの腕を取るプレセア。胸を腕に押し付けているのは気のせいじゃない。
プレセアは、無表情のまま言う。
「ちゃんとエスコートしてね」
「……はぁ~」
こうして、ハイセのパーティー準備は整った。