禁忌六迷宮/ハイセとサーシャの場合③
「…………ぅ」
『起きたか、ハイセ』
「…………お前」
ハイセが目覚めると、民家のベッドの上だった。
だが、ボロボロの民家だ。壁が崩れ、戸棚やテーブルが倒れ、窓のガラスが散乱している。
身体を起こすと激痛がした。
「っづ……いてて」
『無茶をするな。全身打撲だ。骨は折れていないようだが』
「……お前は?」
『我も似たようなものだ。だが、我は人間ではない。この程度なら問題ない』
チョコラテが「むん」と力こぶを見せた。
鎧は砕け、兜も砕け、盾も砕け散ったチョコラテ。今は出会った時と同じ腰布だけの姿だ。
だが、部屋の隅に黒い鎧と剣が置いてあるのが見えた。
「鎧……新しいのか?」
『む? ああ、あれか。あれは我が作ったのだ。起きれるか? 外を見ろ』
身体を起こして外を見ると……すごい光景だった。
爆心地、と言えばいいのか。
乗り物が徹底的に破壊され、『カンランシャ』の残骸があちこちに飛び散っている。無事な建物が僅かしか残っておらず、悲惨な場所になっていた。
そして、眼に付いたのは……黄金の生首だった。
『確か、ヤマタノオロチ・ジュニアだったか。あの生首が六つ転がっていてな。あいつの鱗を加工して鎧兜を作った。鱗を火入れしたら真っ黒に変色してな。だが、前に使っていた鎧兜よりも、強度が高い』
「へえ……」
ハイセは、生首をアイテムボックスに収納する。
周囲を見渡すが、魔族の男はいない。
『あの男、何だったのだろうな』
「さぁ? そういえば名前も知らないや……別にいいけど」
『そうだな。で、これからどうする?』
「酷い有様だけど、この辺りを調べてみる。ダンジョンの核とか、財宝があるかも」
『それなら、あの魔族の男がいた場所の奥に、地下へ通じる道があった。離れた場所にあったせいか、あの『鉄の破壊神』の脅威には晒されなかったようだ』
「鉄の破壊神って……」
『鉄の破壊神……覚えておこう』
「……ああ、うん」
ハイセは、訂正するのが面倒なのでそのままにした。
「ってか、お前……よくそんなこと知ってるな。地下への道とか」
『お前が気を失い三日が経過したからな。ある程度の調査はした』
「三日!? う……そういや喉乾いた。腹も……」
まずすべきことは、腹ごしらえだった。
◇◇◇◇◇
「……ぅ」
「サーシャ!!」
「うわっ!?」
サーシャが目を覚ますと、顔を覗き込んでいたピアソラが抱きついてきた。
「ああ、よかったぁ……」
「ピアソラ……お前も無事で。というか、今何をしようとしていた?」
「もちろん、目覚めのキスを」
「…………」
全く悪びれないのがピアソラらしく、サーシャはピアソラから離れる。
レイノルド、タイクーン、ロビンも無事のようだ。
サーシャは、まだ重い身体を起こし、タイクーンへ聞く。
「状況は?」
「戦闘開始から丸一日が経過。魔族、ショゴス共に消滅。ここは戦闘地から先にあった倉庫のような場所で、ここを拠点に周囲の調査をしている。ボクたちの負傷もピアソラが治してくれたよ」
「そうか……」
「サーシャ、身体の調子はどうだ?」
レイノルドが覗き込む。
サーシャは頷いた。
「問題ない。やはり、タイクーンの超強化と、ピアソラの超回復を合わせた『切り札』は強力だ。タイクーン……あの場で、よく私の意図を感じてくれた。ピアソラも」
「当然だ。あの魔獣、ショゴスはサーシャの『闘気』でしか屠れないからな」
「私は、タイクーンが下心のある眼で、私の裸を凝視してきたのかと思いましたわ」
「あの状況でそんな意図があるわけないだろう。それに、ボクはキミの身体に微塵も興味がない。裸だろうと、分厚く着込んでいようとね」
「アァァァァァァン!? ンだとテメェ!?」
「そういう裏表のある性格は直した方がいい」
「キィィィィェェェェェェ!! 殺す!! テメェ殺す!!」
「まてまて落ち着けって。タイクーンも煽るな!!」
「事実を言っただけだ」
「ってかレイノルド!! あなたも私の裸を凝視してたこと、忘れませんからねェェェェェェ!?」
「オレは眼福だと思ったぜ? はっはっは」
「ギギギギギッ!! 男ってやっぱり嫌い!! ロビン、あなたもでしょ!?」
「ま、まぁあの状況じゃ仕方ないって。そりゃ恥ずかしいけど……」
全員、いつも通りだった。
サーシャはそれが嬉しく、ほっとする。
すると、ロビンがカップを手渡してきた。
「お茶、飲もう」
「ああ」
「みんな疲れてるし……少し休んでも、いいよね」
「そうだな。ダンジョンボスは倒したし、あとはこのダンジョンを閉めるだけ。禁忌六迷宮……我々の手で、ようやくクリアだ」
「クックック……本当に最高の『宝』を見つけた。禁忌六迷宮の存在意義、『七大災厄』、そして魔族……ああ、頭の中の情報を整理したい!! 財宝よりも素晴らしい財宝を、ボクは手に入れてしまった!!」
「おいタイクーン、うっせぇぞ」
「倉庫から蹴り出してしまいなさい。頭に響きますわ」
この日、サーシャたちはのんびり休憩し、翌日からの調査を再開するのだった。
◇◇◇◇◇
チョコラテの案内で、魔族の男と戦ったさらに先へ。
そこには、巨大な地下への入口があった。
あの大爆発でも、階段には亀裂の一つもない。
階段を降りると、鉄の扉があった。
扉は簡単に開く。ハイセが近づくと自動で開いたのだ。
中には……『光る鉄の箱』や、妙な配線が多くあり、ゴウンゴウンと音もした。
「なんだ、ここ……」
『そういえば……あの魔族の男、封印がどうとか言ってなかったか?』
「……覚えてない」
『む、見ろハイセ。あの扉……』
巨大な扉があった。
これまでの扉とは、規模も形状も桁違い。
技術が違うが、ハイセにもチョコラテにも感じた。これは、触れてはならないと。
「ここはやめておくか」
『あ、ああ。我も直感で理解した……これは触れてはならない』
「お、見ろ。あっちに部屋がある」
部屋の前に行くと、プレートがあった。
「えーと、『セイギョ、シツ』……? とりあえず入るか」
自動でドアが開き、中へ。
中にはベッド、光る鉄の箱、テーブルなどがあり、休憩所でもあったようだ。
休憩所には、さらに扉があった。
扉を開けると、大きな鉄の扉がある。そこには『特殊素材』と書かれている。
「金庫かな……開けてみるか」
『開けられるのか?』
「鍵付きみたいだ。残ね……あれ?」
金庫の扉が開いていた。
中には、ガラスケースに入った虹色に輝く宝玉があった。
ハイセは、それを手に取ってみる。
「見たことない宝石だ。お宝かも……まぁ、こいつがダンジョンの財宝ってことにしておく」
アイテムボックスに入れておく。
すると、チョコラテが言う。
『見ろハイセ。部屋にあったこの箱、中がとても冷えているぞ』
「ん、どれどれ」
白い箱の扉を開けると、確かに冷えていた。
中は空っぽだ。面白そうなので、使えそうな道具はアイテムボックスに入れることにした。
そして、テーブルに置かれた大きな箱と、小さなボタンがいくつも付いた板を見る。
「なんだろう、この箱……」
『ふむ、ハッケンキ? だったか? それに似ているな』
チョコラテが、板に付いている『Enter』と書かれた四角を押した。
すると、部屋に警報音が鳴り響いた。
「な、なんだ!?」
『わ、我のせいか!? す、すまんハイセ!!』
「へ、部屋を出るぞ!!」
部屋を出ると、誰かが叫んでいた。
『最終安全装置起動。最終安全装置起動。これより、『ヤマタノオロチ』の最終凍結封印を開始。凍結封印後、『ヤマタノオロチ』は地下封印シェルターにて永久凍結封印。その後、この施設は破壊されます。作業員は直ちに脱出してください。地上行きトランスポートが解放されます』
そして、ハイセたちのいる近くの床が開き、ガラスの筒のような物が現れた。
「な、なんだ、あれ……」
『凍結中。凍結中。凍結中』
『は、ハイセ……さ、寒いぞ』
「と、凍結中……って、凍らせてるのか!?」
『作業員は直ちに脱出をお願いします。作業員は直ちに脱出をお願いします』
「ええい、チョコラテ、あの筒に行くぞ!!」
『え……』
「よくわからんけど、ここはヤバい!!」
『わ、わかった!!』
ハイセとチョコラテが筒に飛び込んだ瞬間、一瞬の浮遊感がハイセを襲い、目の前が光に包まれた。





