禁忌六迷宮/ハイセとサーシャの場合②
「さぁどうした!! 出て来い!!」
魔族の男が叫ぶ。
すると、ボロボロのハイセがゆっくりと現れた。
魔族の男はニヤニヤ笑い、ハイセに向かって手を伸ばす。
「少年。貴様を殺す前に、聞きたいことがある……その『銃』はどうした?」
「……俺の能力だ」
「能力。ククク、『スキル』のことか? ああ、そういうことか。だったら、取引だ……命は助けてやるから、魔界に来い。そして、その銃を研究させろ」
「…………」
「魔族は強き『力』を欲している。七大災厄に備えるために、そして人間が魔族に牙を剝いた時のために。少年……魔界に来い」
「…………」
ハイセは無言だった。
そして……小さく笑った。
それが、魔族の男の勘に触ったのか、ハイセを睨む。
「じゃあお前に聞きたいことがある」
「……?」
「禁忌六迷宮……五つは、人間界にあるんだな?」
「……そんなことか……
地底に広がる大迷宮『デルマドロームの無限迷宮』
独自の生態系が形成される湖、『ディロロマンズ大塩湖』
謎の磁場により感覚が狂わせられる、『狂乱磁空大森林』
過去に一度だけ現れた空飛ぶ城、『ドレナ・ド・スタールの空中城』
魔界にある謎の山脈、『ネクロファンタジア・マウンテン』
そして、存在すら定かではない、伝承に存在する『神の箱庭』
魔界にあるのは、ネクロファンタジア・マウンテン。つまり……それ以外の三つは、人間界にある。」
狂乱磁空大森林、ドレナ・ド・スタールの空中城、そして神の箱庭。
ハイセは、笑っていた。
最強へ通じる道が、見えてきたのだ。
「ありがとよ。お前が俺に噓つく理由はないから、信じられる。あと三つ……そして、魔界にある最後の一つ。俺が必ず攻略してやる」
「貴様は馬鹿なのか? 教えてやる。貴様ら人間が『禁忌六迷宮』と呼ぶダンジョンは、『七大厄災』という古代を滅ぼした怪物を封印する檻なのだよ」
「関係ない。へへへ……ああ、やる気出てきた」
ハイセは、笑っていた。
魔族は、ハイセの笑いがどうにも勘に触る。
「何を目指しているのか知らんが、そんなものに意味はないぞ?」
「ある」
「……何?」
「禁忌六迷宮をクリアするのは、俺にとって『最強』へ続く道。俺が歩んだ道の先で、あいつを待つんだ」
「……意味がわからん」
ハイセは、右腕を掲げた。
「俺は約束した。あいつと……サーシャと。禁忌六迷宮をクリアした冒険者として、また会うって」
◇◇◇◇◇
ついに、サーシャの闘気が消えた。
息も絶え絶えに、剣を支えにして真っ蒼な顔をノーチェスへ向ける。
「あらあらあらぁ……限界ねぇ?」
「はっ、はっ、はっ……」
「ふふ、もう諦めたら? そっちの男の子たちと一緒に、可愛がってあげるわぁ~」
「お断り、だな……」
サーシャは、震える手で剣を向ける。
レイノルド、タイクーンもまだあきらめていない。
ピアソラは、ブツブツ何かを呟きノーチェスを睨み、ロビンもノーチェスを睨んでいる。
ノーチェスは、苦笑していた。
「ね、もう諦めなさい? どうあがいてもあなたたちは勝てないの。この状況、もうどうしようもないの」
「違う……」
「違わないわ。もう、終わったの」
「終わっていない。私は……示さなきゃいけない」
「?」
サーシャは、呼吸を整え、剣を掲げた。
「私は約束したんだ。最高のチームで、禁忌六迷宮を攻略すると!! あいつが『最強』を目指して戦っているように、私は『最高』を目指して先に進む!! あいつに負けない、私が先に進んで、あいつを待つんだ!!」
ノーチェスは首を傾げた。
サーシャが何を言っているのか理解できないのだろう。
だが、サーシャには関係ない。
「私は……」
◇◇◇◇◇
「俺は……」
◇◇◇◇◇
「「S級冒険者として、この道を進む!!」」
◇◇◇◇◇
どこかで、サーシャの声が聞こえた気がした。
ハイセは、掲げた手を強く握り締め、思い切り開いた。
「これが俺の切り札だ」
ハイセが右手を思い切り振り下ろすと同時に、チョコラテが現れハイセを担ぎ、思い切り駆け出した。
魔族の男は笑う。
「ハハハハハハハッ!! 切り札? 逃げるのが切り札とは!! もういい、ヤマタノオロチ・ジュニアよ!! あのガキを殺───」
すると、魔族の男の頭上に何かが現れた。
「へ?」
それは、鉄の塊。
巨大な、全長5メートルほどの『鉄の筒』だ。
魔族の男は知らない。
地中貫通爆弾。
ハイセの切り札にして、ハイセが使える最強の『兵器』
能力『武器マスター』が真に覚醒し使えるようになった、武器を超えた兵器。
ハイセの使える《武器》で最強なのは、ロケットランチャーとアンチマテリアルライフルだ。だが……最強の《威力》を持つ《兵器》は、この地中貫通爆弾である。
「───」
魔族の男は、何を思っただろうか。
落下する《鉄の筒》が魔族の男を押しつぶし、ヤマタノオロチ・ジュニアの身体を貫通し、地面に触れた瞬間───恐ろしい閃光、衝撃、爆音、爆風が巻き起こる。
『ぬぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅガァァァァァァァ!!』
「───っ!!」
耳を押さえ、チョコラテの盾で守り、アイテムボックスに入れておいた大量の魔獣の死骸を盾にして、頑丈そうな建物の傍で、ハイセとチョコラテは身を守っていた。
が、建物が吹き飛び、魔獣の死骸が吹き飛び、ハイセとチョコラテも吹き飛ばされた。
『お前、だけはァァァァァァァァァァァァァァァ!!』
チョコラテが、魔獣の死骸を手繰り寄せ、ハイセを掴んだ。
「───っ」
ハイセは、そのまま気を失った。
◇◇◇◇◇
「今こそ、私に力を!!」
サーシャが剣を掲げると同時に、防御を放棄したタイクーンが魔法を放つ。
「『超強化』!! っぐ、ぁ……ッ!?」
「おぉぉぉォォォォォッ!!」
触手がタイクーンを攻撃し、吹き飛ばされる。
レイノルドも、全てを受けきれず吹き飛ばされた。
だが、吹き飛ばされる直前に掛けた、タイクーンが使える最強の支援魔法がサーシャを包む。
「これは、マズいわねぇ」
ノーチェスがショゴスに命令しようとした瞬間。
「───ップ!!」
「っ!?」
ロビンが、自らの歯を噛み砕き、『必中』の力を使用し口から飛ばす。
折れた歯が刃のように鋭く、ノーチェスの眼に突き刺さった。
「ッッつぅ!? この……」
「ピアソラ!!」
「我は祈る、汝のために───『聖女の奇跡』!!」
三十日に一度だけ使える、『聖女』最高の回復術が、サーシャを癒す。
怪我、病気だけじゃない。体力、気力をも回復する奇跡。
ベストコンディションへと回復したサーシャから、黄金の闘気があふれ出す。
超強化により、全ての身体能力が十倍に。身体にかかる負担は聖女の奇跡によって打ち消される。
つまり、ノーリスクで最強のさらに上へ立った瞬間だった。
「黄金剣、奥義!!」
サーシャが剣を掲げ、闘気を全開にした。
そして、ノーチェスと、ショゴスに向けて剣を振る。
「『黄金夢想烈覇』!!」
黄金の闘気が周囲を包み込み、ショゴスとノーチェスを包み込む。
「───う、そ、ォォォォォッ!?」
ノーチェス、ショゴスだけを消滅させ、ピアソラとロビンはショゴスから解放された。
崩れ落ちる二人を、レイノルドとタイクーンが支える。
「おい、大丈夫か!?」
「ええ……っく、あなたに助けられるなんて」
「そう言うなっての。おっ、いい眺め」
「~~~っ!! この変態!! 見るなァァァァァ!!」
裸のピアソラを見るレイノルドだが、すぐにアイテムボックスから毛布を出して被せた。
「無事か?」
「うん……あいてて、奥歯折れちゃった」
「ピアソラに治してもらえ。っと……」
「あ……」
ロビンは恥ずかしそうに胸を隠す。
タイクーンは毛布を出し、ロビンにそっとかけた。
「ありがと……」
「気にするな。とりあえず、これで終わったようだな」
「うん」
「サーシャ、二人は無事だ。キミは……」
タイクーンが声をかけた瞬間、補助魔法が解けたサーシャは崩れ落ちた。
 





