禁忌六迷宮/ハイセとサーシャの場合①
ハイセとチョコラテは、魔族を追ってテーマパークの中心地へ。
そして、そこにいたのは……あまりにも巨大な『蛇』だった。
普通の蛇ではない。太い胴体に、頭が八つもある。しかも、蛇特有の滑らかな表皮ではなく、ゴツゴツした黄金の鱗に包まれていた。
蛇と言うより、八つ首の龍……そう表現すべきだろう。
すると、八つ首の頭の中で、一番大きな頭の上に、肩を押さえる魔族がいた。
「許さんぞ……貴様、許さんぞ!!」
ハイセに撃たれた肩を握りしめ、血走った眼でハイセを睨む。
チョコラテは「あの怒りは当然だろうな……」と呟いたが、ハイセは無視。
そのまま『RPG‐7』を具現化し、魔族の男めがけて発射。
「無駄だ!!」
「!!」
すると、頭の一つが弾頭を叩き落し、地面で爆発が起きた。
ハイセはランチャーを捨てると、魔族の男が言う。
「待て!! 殺す前に聞かせたまえ……貴様、その武器をどうした?」
「それ、答える意味あるか?」
「ぜひとも!! というか、貴様は気にならんのか!? なぜこんな地下に、我のような魔族がいるのかとか、この怪物は何なのかとか!!」
「興味ない」
『ブレなさすぎる……ハイセ、お前はとんでもない奴だな』
「ぐぬぬぬぬッ……その『銃』されあれば、我々魔族の兵器開発に光明が差すというのに……!!」
「この武器、欲しいのか? でもこれ、俺以外には使えないぞ」
アンチマテリアルライフルを具現化し、蛇の頭に向けて発射する。
だが、弾丸が表皮に弾かれた。
「……これでも貫通しないのか」
「く、ハハハハハハハッ!! 愚かなり!! この『七大災厄』の一体、『ヤマタノオロチ・ジュニア』の外皮に、物理攻撃など効かん!! さぁジュニアよ!! 封印されているお前の親に代わり、あいつを喰い殺せ!!」
『『『『『『『『シャガァァァァァァァァ!!』』』』』』』』
八つの頭が威嚇する。
とんでもない圧力にハイセですら冷や汗を流していた。
チョコラテは、盾を構え言う。
『ハイセ、どうするのだ!?』
「倒す、と言いたいけど……ヤバいな。ロケットランチャーとアンチマテリアルライフルが効かないとなると……」
『ま、まさか……さっきのが、お前の最強武器?』
「一応な。俺が使える武器で最強……どうする」
ハイセは冷や汗を流し、歯を食いしばった。
◇◇◇◇◇
サーシャは、黄金の闘気を纏い剣を振るう。
ショゴスの触手に触れたが、闘気を纏っている間は溶かされないし触れられない。だが、タイクーンとレイノルドが今度はピンチだった。
「くっそ、このネバネバ野郎……!!」
「くっ……魔法が通りにくい!!」
「レイノルド、タイクーン……っ」
「サーシャ、こっちは気にすんな!! あの女をブッた斬れ!!」
レイノルドの大盾はすでに溶かされ、皮膚も削られ血が出ている。
タイクーンは魔法で補助を行っているが、触手により何度も詠唱を中断されていた。
ピアソラ、ロビンは変わらず裸で拘束されている。
ノーチェスは、ピアソラたちの傍で一歩も動かず、クスクス笑っていた。
「ほぉ~ら、頑張れ、頑張れ♪」
「ギギギギギッ!! このアマァ!! このクソみたいなドロドロ消しやがれァァァァァ!!」
「あら悪い口。そんな子にはお仕置き~っ♪」
「ひっぐぅ!?」
ノーチェスは、拘束しているショゴスに命じる。するとピアソラの身体が跳ねた。
「うふふ。あんまり悪い口でお喋りすると……破っちゃうわよ?」
「く、く……ッ、この屈辱……あなた、絶対に……!!」
ピアソラは涙を流し、頬を染めながら怒りの表情をした。
ロビンは、歯を食いしばりノーチェスを睨む。
今、できることは何もない。それが悔しく、歯がゆかった。
「黄金剣、はぁ、はぁ……ッ」
タイクーンは気付いた。
サーシャが冷や汗を流し、肩で息をしていた。
能力の酷使による疲労だと看破する。
「サーシャ!!」
「わかっている!!」
タイクーンが叫ぶが、サーシャはそう返すだけで精一杯だ。
能力の酷使による肉体疲労。それはサーシャがよくわかっている。
ソードマスターの力は規格外だ。だが、それを使うサーシャは、鍛えているとはいえ十七歳の女の子なのだ。
これまでの戦いでは、サーシャは能力を使用する時は、オンオフを繰り返していた。
だが、これほど長く能力を使用し続けたことは、ない。
サーシャは一度、自分の限界を知るために、能力をフル仕様した状態で限界に挑戦した。
その結果。最大で二十分……動きながらの使用だと、十分が限度。オンオフを繰り返し、ピアソラに回復してもらい、能力を使わない時はタイクーンの補助魔法で、ロビンの援護、レイノルドの守りがあり、初めてサーシャは『銀の戦乙女』なのだ。
「負けられない……」
サーシャは、黄金の刃でショゴスを両断するが、ショゴスはすぐに復活。
タイクーンが気付いた。
「そうか、こいつ……常に分裂し、増えているのか!?」
「正解~! ほっておけば無限に増殖するから、私の命令で分裂はある程度で抑えているけどねぇ」
「くそ……おいタイクーン、策はねぇのかよ!?」
「…………」
タイクーンは黙り込み、サーシャを見た。
サーシャは、それだけで察した。
そして、タイクーンはピアソラを見る。
「こ、こっちを見るなって、言ったでしょう……」
熱い視線だ。
裸を凝視しているのではない。それ以外の何か。
そして、ピアソラは察した。
「…………」
ほんのわずかに、ピアソラは頷いた。
そのことに気付かず、ノーチェスは笑う。
「ほらほら頑張って~♪ あははっ、力尽きたらオモチャにしてあげる。そっちのイケメンたちも一緒に遊んであげるわぁ~♪」
戦いは、最終局面に入った。
◇◇◇◇◇
ハイセは、逃げていた。
チョコラテは盾を構え、ヤマタノオロチが放つ《牙》を何とか防御する。
『ぐっ……ハイセ、盾がもたない……ッ!!』
「クソッ!!」
ヤマタノオロチは口を開け、生えている『牙』を飛ばしてきた。
これが、毒の牙なのだ。触れたらあっという間に死ぬだろう。
チョコラテの盾も、ボロボロだ。
ハイセはガトリングを連射するが、弾丸が全て弾かれてしまう。
「ハーっハッハッハァァァ!! 手も足も出ないではないか!! さぁさぁジュニアよ、牙だけではつまらんだろう? 薙ぎ払え!!」
「『!!』」
首の一本が迫って来る。
直接的な攻撃に変わってきた。
ハイセはロケットランチャーを具現化するが───間に合わない。
『ハイセ!!』
「!!」
チョコラテが、ハイセを抱えて思い切り飛んだ。
が、ヤマタノオロチの頭に弾かれ鎧が砕け、百メートル吹き飛ばされ、民家に激突した。
「く、はぁぁぁっはっはっはっはっはっはっは!! 雑魚め、雑魚め!! まだまだ、まだまだだ!! さぁさぁ来たまえ!! 無謀な挑戦をし続けろ!! この腕の痛み、思い知るがいい!!」
魔族の男は興奮している。
百メートルほど離れた民家に激突したハイセとチョコラテは、大量のぬいぐるみがクッションになったおかげで、ダメージが少なく済んだ。
「っぐ……ぁ」
『う、っぐ……っぐは』
チョコラテが吐血。
脇腹から出血し、内蔵にもダメージがあるようだ。
ハイセも、右腕と右足に激痛が走った。折れてはいないが、酷い打撲のようだ。
「おい、しっかりしろ……!!」
『っぐ、か、カオスゴブリンの回復力を、舐めるな……死ななければ、この、程度……』
だが、立ち上がれない。
チョコラテは、ハイセを守って負傷した。
ハイセも腕と足を怪我。まともに動けないし、武器も扱えない。
敵は魔族。そして、ダンジョンボスの『ヤマタノオロチ・ジュニア』だ。
状況は最悪。
「…………お前、死ぬ覚悟あるか?」
『……え?』
「死ぬ覚悟だ」
『……ある。この命、お前と共に』
「……男の、しかも魔獣のゴブリンから聞きたいセリフじゃないな」
『は?』
ハイセは苦笑した。
そして、表情を引き締める。
「命を賭ける」
ハイセは、切り札を使う覚悟を決めた。