禁忌六迷宮/サーシャの場合⑤
ディロロマンズ大塩湖を進むこと百日。
ついに、長い道を超えて最下層に到着……なんとそこは、『住宅街』だった。
高い天井、真っ白な壁、その中にある数々の住宅。見たことのない建築法で建てられた家で、周りには『ジドウシャ』や『バイク』などが転がっていた。
タイクーンは、震えていた。
「ぶ、文明……文明だ!! は、ハハハハハハハッ!! すごい、すごい、すごい!! まさか、禁忌六迷宮の一つ、『ディロロマンズ大塩湖』の最下層に文明があるなんて!! なんだこの四角い車輪の付いた箱は!? 見ろ、この建築法……見たことがない。一軒一軒が宝の山!! ああ、ボクの仮説は正しかった!! アッハッハッハぁぁ!!」
「お、おい、タイクーンが壊れちまった……」
「うざいですわ。レイノルド、気絶させなさい」
「そ、それはやりすぎじゃない? ね、サーシャ、どうする?」
サーシャは、興奮して走り回るタイクーンの肩を掴んだ。
「ん? ハハハハハハハッ、サーシャじゃないか。どうした? きみも興奮しているのかい?」
「違う。少し落ち着け。興奮しすぎだ、お前らしくない」
「わ、わかっている。だが、止められない。こんなものを見せつけられたらな」
「やれやれ……とにかく、おちつけ」
「あ、ああ」
ようやく落ち着いたタイクーン。
サーシャたちは、住宅街を歩きだした。
「うわ、見ろよコレ……錆びてボロボロだぜ」
「へんな形だね。車輪っぽいの付いてるけど」
「……乗り物、か? 見ろ、中に椅子がある」
サーシャは、近くの白い壁を指でなぞり、軽く舐めた。
「これは、塩だな」
「ディロロマンズ大塩湖、その名の通り塩の湖……周りの白い壁が全て、塩のようだな」
魔獣の気配はなかった。
塩だらけの住宅街。食べ物も、飲み水もない。
「ここが最下層なのかな~?」
ロビンが言う。
タイクーンは、周囲を観察する。
「恐らく、そうだろうな」
「じゃあじゃあ、財宝は!?」
「あるだろう、目の前に」
「え!?」
「この素晴らしい景色!! これこそ財宝だ!!」
「……え~」
ロビンはげんなりした。
タイクーンの言うことも正しいのかもしれない。が……ただの古い住宅街が『宝』とは思いたくない。目に見える『宝』が欲しいとロビンは思う。
すると、サーシャが言う。
「これだけ家があるんだ。今日はここで休んで、明日、調査をしよう」
「そうですわね。ほら男ども!! 野営の準備ですわ!!」
「へいへい。じゃあ……あの家にするか」
レイノルドは、近くにあった家の門を開け、ドアを掴む。
精巧な作りのドアだった。ドアノブを回すと、ガチャっと開く。
玄関が狭く、一段高くなっている。玄関の脇には入れ物があり、開けるとたくさんの靴が入っていた。
「ふむ、玄関に靴……おそらく、ここに住んでいた人間……『古代人』とでもしておくか。古代人は、ここで靴を脱いで家に入っていたようだ」
「家で靴脱いじゃうの?」
「恐らくな。玄関が一段高くなっているだろう? そして、この靴入れ……そう考えるのが自然だ」
「ま、オレらには関係ねぇけどな」
レイノルドは土足で上がり、サーシャ、ピアソラも続く。
玄関の先は、リビングになっていた。二階へ続く階段もあり、部屋もいくつかある。
「お、ソファだぜ。クンクン……塩っぽいな」
「これは何だ? ドアがある……? 中には……なんだ、これは?」
タイクーンが箱の扉を開けると、丸い鉄の入れ物があった。
円柱の鉄は、魚の絵が描かれている。ハイセがいれば『缶詰』とわかったのだが、情報が足りない。
「きゃぁぁぁぁっ!?」
「「!!」」
レイノルド、タイクーンがピアソラの叫びを聞いた。
最初にサーシャが二階へ。ロビン、レイノルドと続き、ピアソラのいる部屋へ飛び込んだ。
「ピアソラ!!」
「サーシャぁ!! そ、そこに……」
「ん……これは」
クローゼットから見えていたのは、人骨だった。
服を着た、少女の人骨だ。桃色のワンピースを着ている。
どうやら、隠れていたようだ。
「この家の住人か……ピアソラ、祈りを捧げてやってくれ」
「は、はい……」
神官であるピアソラの祈りは、死者の魂を浄化する。
祈りを捧げると、骨は粒子となって消滅した。
「ここの住人か……」
「古代人。一体、ここで何があったんだろうか」
「ねーねータイクーン。隣の部屋、本いっぱいあるよ」
「ナニィィィィィィィィ!?」
「うげっ!?」
レイノルドを突き飛ばし、タイクーンは隣の部屋へ。
サーシャたちが部屋を覗くと。
「古代の本!! くっ、読めない……だが、この文字、どこかで見たことがあるな。多少は解読できるかもしれん。文字を少しでも理解できれば、文章を理解して、わからない文字を解読することができるかもしれん。よし、さっそく……」
ブツブツブツブツと、タイクーンは羊皮紙を取り出し、メモをしながら本を読み始めた。
「ああなったら数日は動かねぇぞ」
「仕方ない。私たちで、できる探索をしよう。それに、これだけ広い住宅街だ。さらに奥へ進む道か、財宝のありかがわかるかもしれん」
「じゃ、しばらくはここでお休みだね。ここ拠点にしよう!!」
「その前に食事ですわ。お腹が減りました~……」
サーシャたちは、野営の支度を始めるのだった。
◇◇◇◇◇
食事を終え、タイクーンの口にパンを無理やり詰め込み、自由時間となった。
ピアソラとロビンは疲労から熟睡、タイクーンは解読。なので、リビングにはサーシャとレイノルドの二人となる。
「……」
「……」
互いに無言だが、レイノルドは意識をしていた。
サーシャは、剣を磨き、鎧を磨く。
普段は硬い鎧に守られているが、鎧を外すと女性的なラインがよくわかる。
レイノルドも男だ。興奮するし、触れたいとも思う。
「ハイセは……どこまで進んだだろうか」
「…………」
だは、興奮が冷めてしまう。
レイノルドは、サーシャを見る。
どこか嬉しそうな、優しい笑みをうかべている。
「な、サーシャ」
「ん?」
「お前、気付いてるのか? ハイセの名前を出す時、すごい顔してるぞ」
「なっ!?」
「はは、冗談だって。な、サーシャ……まだ、ハイセのこと気になってんのか?」
「そりゃあ、幼馴染だし」
「そうじゃねぇよ。男として、気になってんのかってこと」
「…………わからない」
いつものサーシャだったら即答していただろう。
レイノルドは、ため息を吐いた。
「まぁ……オレにもチャンス、まだあるかねぇ」
「ん?」
「こっちの話だよ」
サーシャたちは、この住宅街に二日ほど滞在し、疲れを癒した。





