禁忌六迷宮/ハイセの場合③
デルマドロームの大迷宮。
ハイセは、大型拳銃を二丁腰に差し、背中にはグレネードランチャーを背負い、右手にショットガンを持ち、第一階層を歩いていた。
第一階層は、妙に硬い地面と、いくつも窓がある建物の通りだ。
地面には白い斑模様が描かれ、ボロボロの『ジドウシャ』や『バイク』が放置され、至る所に『シンゴウキ』が立っていた。
「妙なダンジョンだな……」
敵の気配はない。
一度入ると二度と出て来れないダンジョンなので、情報がほとんどない。
バルガンと和解した時に、少しでも話を聞けばよかったと、ハイセは後悔する。
シャキッ! と、ショットガンに弾を込めて進む。
「あれ? あれは……『イセカイ』の文字か」
小さな看板があった。
看板を読むと、『アイスクリームハウス』と書かれている。
「あいす、クリーム? なんだそれ?」
屋台なのか。
車輪付きの荷台のようなモノだ。
ハイセには理解できない。だが、古文書のページをめくってみると、ノブナガの記述が読めるようになっていた。
「なになに……『アイスが食べたい。こちらの材料でいろいろ考えたけどダメだった。バニラエッセンスとか無理に決まってるだろうが。ってか、異世界でマヨネーズとかどうやって作るんだよ。異世界転移系の主人公とか専門知識あるヤツ多すぎ。ご都合展開もいい加減にしろ』……ぜんぜんわからん。こいつも苦労してたのかな」
古文書を閉じ、歩きだす。
遺跡の地下に降りたので、下を目指せばいい。
すると、ジドウシャの影から黒いゴブリンが飛び出してきた。
『キキキッ、キキキッ!!』
「ブラックゴブリン……」
討伐レートBの、危険魔獣だ。
通常のゴブリンよりも大きく、手にはジドウシャのドアを加工したような鉄の剣を持っている。
数は五。だが、ハイセは冷静だった。
『キキキッ!! キブッ』
ドウン!! と、ショットガンが火を噴く。
ブラックゴブリンの頭部が破裂した。ハイセはショットガンを連射して三体を屠り、弾切れになったショットガンを捨て、腰の大型拳銃を抜いてゴブリン二体を始末した。
「一階層でこれか……気合入れないとな」
ハイセは大型拳銃のマガジンを交換し、慎重に先へ進んだ。
◇◇◇◇◇
半日後。
ハイセは五階層まで進んだ。
ダンジョン内の景色も変わりない。古文書を読んでわかったが、この道は『ドウロ』といい、近くの建物は『ビル』というらしい。
ビルのドアは全て施錠されていて開かない。
だが、六階層へ向かおうと階段を下りると、入口の傍に小さな小屋があった。
「……」
ハイセは大型拳銃を構え、小屋周辺を調べる。
この小屋は物置小屋らしい。引き戸を開けると、中にはシートが敷いてあった。
そして、野営の跡も。このダンジョンを攻略しにきたパーティーが残した物らしい。
ハイセは、アイテムボックスから『魔獣避け』と『探知魔石』を取り出し、小屋の周りに魔石を置き、魔獣避けを撒く。
魔獣避けは、人間にはわからないが強烈なにおいを発する液体だ。
探知魔石は、小屋の近くに置くことで、その魔石周辺を魔獣が通ると、小屋の中にある魔石に反応して警告音が鳴るという仕組みだ。
どちらも、ダンジョン挑戦では必要不可欠な物である。
「……ふぅ」
ハイセは、ここで野営することに決めた。
アイテムボックスから折り畳み式の簡易テントを出し、折り畳み椅子とテーブルを出す。
ランプを付け、屋台で買った野菜スープや肉串、パンを出して食べ始めた。
「初日は五階層まで。上出来だな」
ハイセはソロだ。
なので、夜警も一人……というか、できない。
体力回復が何より重要なので、食事を終えたらすぐに寝る。
探知魔石を耳元に置き、テントに入り目を閉じた。
「大丈夫。俺ならできる……」
全てが初めてのダンジョンだ。
いくらハイセでも、やはり緊張している。
「明日は十階層まで。焦らず、確実に……」
ブツブツ言い、ハイセは眠りに落ちた。





