封印されし黒鋼の山ネクロファンタジア・マウンテン⑤/それぞれの戦い
魔界の生物は理解できない……と、ハイセは思った。
迷宮型の魔獣、イズールド。生物である以上、血は流れ、臓物は存在するはずなのだが、今現在、ハイセたちはそれを確認できていない。
ただひたすら、迷宮内を進む。
足元こそ普通の石畳だが、奇妙な脈動をし、さらに揺れる。
プレセアと二人、迷宮内を進みながらハイセは銃のマガジンを交換して言う。
「生物である以上、心臓があるはずだ」
「それを破壊して勝ち……だけど、その位置を探さないとね」
「ああ。わかってんだろ?」
「もちろん」
今、こうしている間にもプレセアは精霊を使い、ダンジョン内……いや、魔獣の体内を索敵している。
すると、ダンジョン内の石畳の亀裂、天井、壁からボタボタと透明な液体がこぼれてきた。
かなり強烈な酸の匂い……ハイセは顔をしかめる。
「強酸。いや……胃液みたいなモンか」
「絶対に触りたくないわ……」
「当り前だ。とにかく、今はお前に任せるしかない。何かわかったか?」
「広すぎて何も……あら」
と、プレセアが何かに気付いた瞬間、頭上から液体が噴射された。
ハイセがプレセアの腕を掴んで引き寄せるが、飛び散った散がプレセアの胸当てを溶かした。
ハイセはアイテムボックスから水のボトルを取り出し、プレセアに掛ける。
「おい、大丈夫か!!」
「……ええ、胸当てだけで済んだ。ありがとう」
「おう。と……」
「……あ」
胸当てだけじゃなく、衣服も少し溶けてしまったのか、胸が片方見えてしまった。プレセアは手で押さえるが、今はそれどころじゃない。
「……鼓動を感じたわ。恐らくだけど……この迷宮の中心に、心臓がある」
「わかった。案内できるか? その……」
「着替えてる時間がないのはわかってる。とにかく、すぐ行くわよ」
プレセアは胸を押さえながら、迷宮を走り出す。
微風を纏い、飛んで来る液体を全て防御する。
「まさか、こんな生物がいるなんてね。迷宮に擬態なんて……どれだけ大きいのかしら」
「森を背中に乗せた亀もいるんだ。探せばいるだろ」
走りながら軽口を叩く。
魔獣がいないのは、ここが迷宮であり、さらに魔獣の体内だから。いずれは消化され、溶けてなくなる運命だからなのだろう。
走っていると、やけに空気が生暖かくなり、四方の壁が石畳ではなく、血管の浮かんだ肉になった。
間違いなく、生物の体内。
「気持ち悪いわね……」
「気温も高い。近いぞ」
「ええ。もうすぐよ」
そして、走り続けること十分後……ついに到着した。
肉の壁、天井、足場……完全な『魔獣の体内』であり、もはや迷宮とは言えない場所。
プレセアは肉壁を指差す。
「この先に、大きな脈動がある。恐らく、心臓……」
「……待て。やるのはいい、脱出経路は」
「あるわ」
「何?」
「ある」
プレセアは、言いにくそうだった。
ハイセとしては、脱出経路がわからない限り、下手な手出しはできないと考えている。だがプレセアは「ある」としか言わない。
ハイセは強く言う。
「おい、脱出経路があるなら言え。この先にあるのか?」
「…………」
「おい、プレセア」
「…………察しなさいよ」
「あ?」
「……ああもう、最悪」
プレセアは、憎々しげにハイセに言った。
「食べたら出す、生物なら当り前でしょ」
「…………???」
「ああもう、とにかく出れるの!! お、お、お尻があるでしょ……!!」
「……ああ、そういうことか」
プレセアは耳を真っ赤にし、涙目でハイセを睨む……そこそこ長い付き合いのハイセだが、こんな顔を見たのは初めてだった。
思わず、顔を反らして笑いをこらえると、プレセアは弓矢をハイセに向けた。
「これ以上言わせるなら死ぬまで許さないから」
「わ、わかったよ。胸、胸隠せ」
「あ」
弓矢を構えることで、隠していた胸が露わになった。
プレセアは、アイテムボックスから布を出し、それを胸に巻く。
その間、ハイセはグレネードランチャーを手にし、肉壁に向かって引き金を引いた。
爆散する肉壁。そして、その先が見える。
「あれが心臓か」
「そうね。本来なら、この大迷宮で迷子になって、徐々に消化されて死を迎えるのだけれど……私がいてよかったわね」
「ああ、そりゃどうも」
どうも恨んでいるのか、微妙に当たりが強い。
イズールドの中心部にあったのは、巨大な脈動する肉の塊……心臓だった。
いくつもの肉のパイプでつながっており、そこから血液を送り出しているらしい。正直なところ、かなりグロテスクな光景だ。
「この生物、どんな形をしているのかしら」
「さぁな。だが、村一つ丸呑みできる大きさに違いないだろうな。これまでかなり彷徨ったし、マップを見ても相当な広さだ」
心臓は、直径数十メートル以上ある。
脈動音だけでも、かなり騒々しい。今はプレセアが精霊で守っているおかげか、それほどまで音が酷いわけではない。
ハイセは、グレネードランチャーではなく、ミサイルをいくつも浮かべ、右手を心臓へ向ける。
「脱出経路は?」
「……あっちの穴」
「よし。心臓を破壊したら、走るぞ」
ハイセは指をパチンと鳴らす。
大量のミサイルが一斉に発射され、心臓に命中、爆発した。
「走るぞ!!」
二人は走り出す。
心臓が破壊されたことで、大量の血液が一気に噴き出した。
ハイセはアイテムボックスから『ボート』を出し、通路に置く。
すると、大量の血液が通路を押しだすように流れ始める。二人はボートに飛び乗り、一気に進んでいく。
「まるで激流だな!! 捕まってろ!!」
「大丈夫。血液も水……水流をコントロールして、出口へ……!!」
血液に乗り、ボートは一気に進んでいく。
そして、光が見えた。
「あそこが出口よ!!」
血液に乗り、ボートが穴から飛び出した。
そして、二人はギョッとする。
なぜなら、飛び出したのは崖上。背後を見ると、巨大な『穴』が見えた……どうやら、あれが魔獣の『穴』なのだろう。
このままでは、地上に激突する。
ハイセはアイテムボックスからエアリアを呼び出した。
「エアリア、飛べ!!」
「へ? ん、なんだここ、落ちてる!?」
「いいから飛べ!!」
アイテムボックスから鎖を出し、エアリアが掴み、ハイセはプレセアを抱き寄せ鎖を掴む。
ボートが落下し、ハイセたちは上空へ。
プレセアを抱く形になったが、今はやむを得ない。
「……なんとか、出れた……のか?」
「そうみたい。あら……ハイセ、あそこ」
プレセアが上空で指差した先に、石造りの神殿のようなものが見えた。
「あれは……恐らく、『イズールド』の最深部か」
「あそこに、鍵が?」
「恐らく。エアリア、あそこに向かってくれ」
「おう。へへへ、あたいの出番あってうれしいぞ!!」
エアリアは滑空しながら、『イズールド』の最深部へ向かった。
◇◇◇◇◇◇
そこは、神殿だった。
石造りの綺麗な建物で、ドアはなく、そのまま踏み込める。
まるで、できたばかりの神殿。三人……危険はなさそうだったのでヒデヨシ、シドラも呼んで全員で神殿内を進む。
「わああ~……すごい」
「おおきいです……」
シドラ、ヒデヨシは神殿内をキョロキョロする。
ハイセ、プレセアは警戒していた。エアリアは珍しくシドラとヒデヨシの傍で守るように警戒をしている。
そして、神殿の最奥に祭壇があり、そこに一枚の透明なカードが安置されていた。
そこには文字が書かれていた。
ヒデヨシがそれを読む。
「『キー・オブ・イズールド』って書かれています。これ……鍵ですね」
「なるほどな。イズールドの鍵ってことか。つまり……これが『アーサー』に続く鍵の一つってことなんだな」
ハイセは鍵を弄び、アイテムボックスへ入れた。
すると、壁を見ていたシドラが言う。
「あの、ハイセさん。これ……地図かも」
「ん? お……本当だな」
壁には、周囲の地図が書かれていた。
ハイセはノートとペンを出し、さっそく書き写す。
書きながら、プレセアに言う。
「今日はここで野営をしよう。魔獣の気配もないし、安全だろうしな」
「わかったわ。じゃあ、ヒデヨシ、シドラ、エアリア、野営の支度をするわよ」
「「はーい!!」」
「おー!!」
こうして、ハイセたち一行は『イズールド』を踏破……鍵をゲットするのだった。





