災厄封印ゲート『イゾルデ』⑬/深度5~崖下へ~
ハイセたちは順調に深度4を進んだ。
道中、『名前のない魔獣』と戦い、時には避け、時には危機に陥り……それでも、誰も欠けることなく進み、ようやく深度4の終わりに近づいてきた。
ハイセ、サーシャ、クレア、シズカ、タイクーン、ロウェルギアの六人は、深度4『獣哭の高原』の終盤へ到達……その『位置』から見える光景に、息をのむ。
「……おい、どうなってんだ」
ハイセが言うと、ロウェルギアは跪いて言う。
「ハイセ様。これが『獣哭の高原』の終わりにして……深度5への入口です」
そこは、『崖上』だった。
奈落の底とでも言えばいいのか、大地が綺麗にくり抜かれていた。
そして、巨大な穴の中央に見えるのは大山脈。
たとえるなら陸の孤島。周りが海に囲まれていれば船を出すこともできるのだが、大地が綺麗にくり抜かれており、中央にある山脈を登るには空を飛ぶか、崖を降りて進み、山脈に向かって上るしかない。
クレアはしゃがみ、堕ちていた石を投げる。
「……うわぁ、もう見えなくなっちゃいました。闇ですよ闇、師匠みたいに真っ黒です」
ハイセは無視。
タイクーンは言う。
「ふむ……あの中央にある山脈が『ネクロファンタジア・マウンテン』に違いないようだ。この地形を見るに、円形に大地がくり抜かれているな」
「ドーナツみたいね」
わかりやすくプレセアが言うと、サーシャが腕組みをして言う。
「……ネクロファンタジア・マウンテンに行くには、空を飛んで行くか……」
そう言った瞬間、全長五十メートル以上ある巨大な『翼の生えた大蛇』が、群れで上空を横切った。
「……今のは聞かなかったことにしてくれ」
サーシャは首を振る。
地上でなら戦う選択肢もあるが、上空では戦闘力は大幅ダウン。そもそも足場がないので戦えない。
ハイセも、上空を飛ぶ『名前のない魔獣』を見て舌打ちする。
「武装ヘリで相手はできるが……群れでは厳しいな。シズカ、お前は?」
「無理。恐らく、速度に特化した魔獣相手じゃ話にならない」
「なら、答えは一つね」
プレセアが一歩前に出て、崖下を覗き込む。
「ここを降りて、あの山を目指して地上から進むしかないわ」
「それしかないだろう。というか……これが深度5か。ロウェルギア、キミはここまで来たのか?」
「ええ。ここから先、ワタクシにとっても未知の領域です。申し訳ありませんハイセ様……ワタクシ、ここからは戦いでしたお役に立てません」
「気にすんな。情報ゼロの地を手探りで進むなんてのは、冒険者にとって日常茶飯事だ。よし……タイクーン、ここから降りる方法は?」
「そうだな……」
いくつか話し合い、案が出た。
一つ目はサーシャ、クレアが闘気を纏って飛び降りて偵察し、タイクーンの魔法による補助でハイセたちも飛び降りる方法。
二つ目は、プレセアの精霊による透明化、そして風の精霊による気流操作でゆっくり下降。
三つめは、ハイセの『ヘリ』に乗っての下降……だが、この案は却下。ヘリは目立つし、下降中に魔獣に気付かれる恐れがある。
「ただ飛び降りて偵察……ってのも危険がある。できれば、団体行動は崩したくない。プレセア、お前の案で行くぞ」
ハイセが言うと、プレセアは「ええ」と頷いた。
それぞれが戦闘準備を終えると、プレセアが精霊にお願いをする……すると、ハイセたちの姿が消え、身体が風の力でふわりと持ちあがった。
「姿は見えないけど、気配はあるわ。それと、崖下までの深さがわからないから、どれくらい時間がかかるかわからないわよ」
「構わない。やってくれ」
サーシャに言われ、プレセアは「ええ」と呟き、ハイセたちはゆっくりと崖下へ下降を始めた。
◇◇◇◇◇◇
降下中。
「あのあの、プレセアさん……」
「なに?」
「私たち、今透明なんですよね……でもでも、普通に姿見えてるような」
クレアは、ハイセやサーシャを見て疑問を浮かべる……なぜなら、姿が普通に見えているから。
これまで何度か透明化したことはあったが、今思うと普通に姿は見えていた。今も、透明とは思えないくらい普通に、ゆっくりと降下している。
プレセアは言う。
「精霊同士は姿が見えるもの。精霊を纏っている私たちが互いを視認できるのは当然でしょ?」
「えーと……わかったような、わかんないような」
クレアは「???」と疑問符を浮かべている。
タイクーンも気になっているのか、自分の腕や周囲を見ていた。
「精霊か……魔法とは違う力、研究テーマにするのもありだな」
「言っておくけど、私は協力しないから。それと、勘のいい魔獣は気付くわよ」
と、プレセアが言うと……崖を這うオオトカゲがいた。
あまりにも巨大なトカゲだった。全長四十メートル以上あり、クレアは全く気付かない。思わず叫ぼうとしたらハイセが背後からクレアの口を塞ぎ、暴れないよう抱き寄せた。
タイクーンも驚き、シズカとロウェルギアは平然としている。
サーシャは剣を抜いて構え、オオトカゲに注意しながらゆっくりと降下していく。
そして、オオトカゲが見えなくなると、それぞれが息を吐いた。
「……驚いたな。私も気付かなかった」
「俺もだ。やれやれ……まだまだ魔獣の危機はあるな」
「っぷは!! 師匠、いきなり口押さえないでくださいー!!」
「声落とせ。死にたいのか」
クレアは「うぐ」と口を押える。
ロウェルギア、シズカは言う。
「深度5……フフフ、恐怖ですネェ」
「……オーバースキル保持者と言われても、魔界の深度5では一般人と変わらない」
魔族の二人にとっても未知の世界だ。
ハイセたちは、そのまま無言で数キロほど降下……そして、ようやく地上が見えて来た。
地上に降り立ち、周囲を警戒する。
「……薄暗い」
サーシャは警戒しながら言う。
背後は壁になっており、前は大きな樹木が大量に生えている。崖の真下に到着し、ここから地上ルートで『ネクロファンタジア・マウンテン』の麓まで歩かなくてはいけない。
タイクーンは言う。
「ここが、真の深度5といったところか……目算だが、ネクロファンタジア・マウンテンの麓までは数十キロ以上あるように見えた」
「……魔獣も多くいるわ。精霊が怯えている」
プレセアの手が淡く輝くと、周囲の木々がぼんやり輝いた。光の精霊が樹木の葉っぱを光らせている。
サーシャは言う。
「……ハイセ。斥候を任せていいか?」
「わかってる。シズカ、行くぞ」
「ああ」
ハイセは、このメンバーでは『斥候』の役割だ。
先に進み、周囲の状況を把握し、安全確保の仕事をするためにシズカと二人で木々の先へ。
シズカと並んで歩く。ハイセは拳銃を手にし、シズカは両手にナイフを装備。
歩きながら気付いた。
「……ハイセ。この森、妙だ」
「同じことを考えている……」
まず地面。踏み固められた土で、歩くのも走るのも踏ん張りがきくいい大地だった。
そして木々。幹が太く、どの木も二十メートル以上ある大樹ばかり。いや、大樹しかない。
一番気になったのは、あり得ないくらい『雑草』が生えていないことだった。
樹木と、地面しかない。普通は藪や雑草が生えているはずなのだが、全くない。
「……どういう大地なんだ? 木々が大きいせいで、身を隠すことができないぞ」
「木の幹に身体を隠すくらいしかできない。しかもこの木……余計な枝が全く生えていない。ハイセ、人間界にもこういう木はあるのか?」
「あるとは思うが……」
見上げると、木のてっぺんに枝が生え、葉が生えている。
得体の知れない森だった。ハイセは木に触れて言う。
「……安全と言っていいのかわからんが、とにかく先に進むしかない。シズカ、一度サーシャたちの元へ……」
『ガロロロロ……』
と……ハイセが言った瞬間、木々を縫うように巨大な『虎』が現れた。
あまりにも不気味だった。顔が三つあり、尻尾が三本ある、五十メートル以上ある『三つ首虎』だった。
ハイセ、シズカはすぐ戦闘モード。そしてハイセは言う。
「シズカ、サーシャたちを呼んでこい。こいつは俺が」
ハイセはライフルを出現させ、スピンコックで弾丸を装填し三つ首虎へ向ける。
右手にライフル、左手にハンドガンを手に、三つ首虎に向かって笑みを浮かべた。
シズカは頷き、低空飛行でサーシャたちの元へ。
それを見送ることなく、ハイセは言う。
「深度5……ここも退屈しなさそうだ」
ネクロファンタジア・マウンテンまで、あと数十キロ。
ハイセたちの戦いは、ここからが本番だった。





