災厄封印ゲート『イゾルデ』⑫/休息
きっかり十分が経過した。
「……フッ」
ハイセは、拳銃の銃口に息を吹きかけ、ホルスターに納める。
サーシャも剣を鞘に納め、クレアは肩で息をしながら剣を納め、そのまま座り込んだ。
タイクーン、シズカは汗を拭い、プレセアは濡らしたハンカチを首元へ。
ロウェルギアは、歯茎が見えるくらい口元をひきつらせながらハイセに言った。
「お見事!! さすがはハイセ様……深度4の魔獣オステアンですら、意に介さぬ強さ!! ワタクシ、御見それしました」
「……楽なんかじゃない。こいつは間違いなくSSSレートの強さはあった」
オステアン。
腐肉の中で獲物を狙う骨の魔獣。その骨はバラバラに砕かれ、コアである核も両断された。コアだったものはタイクーンがしげしげと眺めながら、アイテムボックスにしまう。
そう、オステアンはハイセたちに討伐された。
腐肉を飛ばし、骨を投げつけるシンプルな攻撃をしてくる魔獣だった。だが、その規模は桁違いに大きく、腐肉は地面を腐らせ、投げつけられた骨は岩や木々を破壊した。
最終的には、ハイセの『ミサイル』が頭部に直撃して爆発した瞬間に、サーシャとクレアが腐肉の上に浮かぶ骨を渡り、核を守る骨ごと両断した。
クレアは言う。
「き、厳しかったです~……師匠、もう今日は動けませんー」
「……確かに、厳しい戦いだった」
ハイセも軽く息を吐き、プレセアに言う。
「プレセア、安全地帯を探せるか?」
「もうやっているわ。幸いなことに、この腐肉の大地には魔獣が近寄らないようね。このオステアン……深度4でも相当な強さらしいわ」
精霊に周囲を調べてもらうプレセア。そして驚いて言う。
「……驚きね。この腐肉の大地、かなり広範囲に広がってる……ん、見つけたわ。腐肉の大地の傍で、汚染されていない大地。そして、魔獣がいない小さな森……ラッキーね、小さい湖があるわ」
「よし、ではそこに向かおう。皆、行くぞ」
サーシャの指示で、全員が行動を開始した。
◇◇◇◇◇◇
クレアが「くさいですー」と文句を言いながらも、腐肉の大地伝いに安全地帯へ到着した。
深度4では珍しい、魔獣が全くいないエリアだ。
タイクーンは言う。
「恐らく、ここもオステアンの縄張りなのだろう。幸いなことい、オステアンは『待ち』の魔獣だ。腐肉に沈んで狩りをするタイプに違いない。もし、死んでいるとわかれば、この縄張りも他の魔獣たちに奪われる……今日明日程度なら、安全だ」
今日は、普通に地上での野営となった。
だが、警戒は緩めない。タイクーンが土魔法で壁を作り、その中でテントを張った。
見張りの順番を決め、夕食の支度をする。
今日は、シムーンが作った栄養満点の野菜シチュー。そして時間停止型のアイテムボックスに入れてある焼きたてパンだ。
夕食を取りながら、タイクーンは壁に貼った地図を見て言う。
「現在、深度4……ロウェルギア、深度5の境界までどのくらいだ?」
「もうすぐですネェ。ですが、ワタクシも記憶が曖昧なところがあります。なにせ、深度5は入口付近までで、そのあとは命からがら逃げ帰ったので」
モグモグとシチューを高速で食べ、おかわりをよそうロウェルギア。
クレアも負けじとシチューをおかわりし、ハイセに言う。
「師匠、深度5ってどんなところでしょうね」
「さぁな。まあ、凶悪な魔獣だらけなのは違いない」
ハイセは、シチューを食べ終えると、アイテムボックスにある小さな樽に食器を放り込む。
抱えられる大きさの樽には、洗剤と水で満たされており、旅が終わったら拠点の宿で出し、シムーンが食器を洗うというやり方だ。
クレアも、その樽に皿やスプーンを入れる。
「あ~おなかいっぱいです。あの師匠……水浴びしたいですー」
「ダメに決まってんだろ。この森の魔獣の気配はないけど、ここは深度4の危険地帯には違いない。テントで身体拭くくらいにしろ」
「ううー、いっぱい汗かいたのにぃ。サーシャさん、プレセアさん、シズカさんも水浴びしたいですよね?」
「私は遠慮しておこう。ハイセの言う通り、ここは危険地帯だ」
「私も同意見。水浴びしたい気持ちはわかるけどね」
「私はどうでもいい」
どうやら、水浴びしたいのはクレアだけだった。
仕方なくクレアは諦め、ハイセに言う。
「あ、そうだ師匠。この旅は終わったら、お願いがあります」
「なんだよ」
「えへへ。実は、フリズド王国とハイベルグ王国の近くに、『バシレウス火山』っていう大きな火山地帯があるのわかりますか?」
「……それは知ってる」
有名な火山地帯だ。
ハイベルグ王国の管理地域である火山地帯で、高難易度のダンジョンがいくつかある。高難易度のダンジョンに挑む冒険者が出かける地域で、ハイセは一度だけ行ったことがある。
だが、すぐに戻って来た……その理由は。
「あそこ、有名な温泉観光地でもあるんです。ハイベルグ王国の属国であるフリズド王国が管理している地域なんですよ」
「……で?」
「人間界に戻ったら、一緒に温泉行きたいです!! シムーンちゃん、イーサンくん、リネット。ついでにラプラスさん、あと宿屋のおじいさんと、みんなで!! 禁忌六迷宮踏破のお祝いしましょう!!」
すると、サーシャとプレセアが反応する。
ハイセは、食後の紅茶をカップに注いで言う。
「……わざわざ出かける必要ないだろ」
「でもでも、温泉で疲れを癒すのは大事ですよー……そ、その~、師匠のお背中、流しますよ?」
「いらん」
「ううー、でもでも、シムーンちゃんとかイーサンくん、リネットとかは行きたいって言うかも」
「…………」
クレアは、ハイセが双子やリネットに甘いことを知っている。名前を出せばもしかして……と思ったが、ハイセは首を振った。
「とにかく、今は深度4に集中しろ。禁忌六迷宮踏破の前に、俺らはまだ、『ネクロファンタジア・マウンテン』の入口にすら立ってないんだぞ」
「うー、師匠のケチ」
クレアは、ハイセの隣に移動し腕を取って甘える。ハイセはその行為にすっかり慣れ……いや、諦めたのか何も言わず、クレアを無視してタイクーンに言う。
「タイクーン。あとでお前の書いたマップ、俺のマップに写すから貸してくれ」
「ああ、わかった」
そして、サーシャとプレセアを見ると。
「……温泉か」
「……悪くないわね」
「おい、何考えてるか知らないけど真面目な顔しろよ」
「「っ!!」」
二人はハッとなり、照れからか顔を背けるのだった。
すると、シズカが言う。
「温泉……そういえば、オウミの町にあるわよ。ヒデヨシ様専用の天然温泉」
「え、ホントですか!?」
クレアが、ハイセの腕にしがみついたまま顔を上げた。
シズカは頷く。
「ええ。かつて、ノブナガ様が掘った温泉よ。ノブナガ様の故郷では、たくさんの温泉があったらしいわ。オウミの町にも大きな火山があるし、ノブナガ様が『もしかしたら魔界は温泉地帯かも』って、温泉開拓に力を入れたのよ」
「……初めて聞いたな。ん?」
と、ハイセはノブナガの日記帳がほんのり熱を帯びたのを確認。
もしやと思いページをめくる。
◇◇◇◇◇◇
〇月〇日 快晴
クッソ暑い。てか熱い……魔界の夏、クソやべえ。
魔界、オレの名付けたアヅチは火山地帯だ。温泉は火山地帯に湧くって聞いたような聞かないような……まあ、とりあえずいろいろ掘ってみたら、やっぱり温泉が出た!! でも、こいうのって学者が調査したりとか、成分分析必要なんだよな……入って皮膚が溶けるとか可能性ゼロじゃないし。
でもまあ、オレも五十歳超えたし、気にしない気にしない。部下の女の子たちとハーレム混浴してやったぜ!! いや~最高最高。息子や娘たちも入れたいし、オレの身体に異常出なかったらみんなで温泉だ!! 旅館とか作ったり、町にはスーパー銭湯みたいなの作るのもいいなあ。
おっと、オレ専用の温泉施設も作っちゃうぜ。魔王特権ってやつでな!!
◇◇◇◇◇◇
「…………」
どうやら、ノブナガは温泉好きだったようだ。
シズカが「どうしたの?」と言うので「別に」と日記を閉じる。
するとクレア、ハイセに顔を近付けて言う。
「師匠!! 温泉ですって!! えへへ、うれしいですね」
「入る気満々だなお前……まあ、好きにしろよ」
「言っておくけど、ノブナガ様の温泉は『混浴』よ。かつて、ノブナガ様は混浴を好まれたそうだから、その伝統は今も守られているの」
「ええええ!? しし、師匠と混浴!! ……ん~、でも師匠にハダカ見られたことあるし……まあ、タオルで隠せば大丈夫です!!」
「なんで俺が一緒の前提なんだよ。一人で入れ。てかいい加減に離れろ」
ハイセはクレアから離れ、タイクーンの隣へ。
すると、サーシャ、プレセアの様子が変だった。
「こ、混浴……は、裸」
「……どうしよう。恥ずかしいわ」
どうやら、混浴についていろいろ考えているようだ。
ハイセは嫌そうな顔をして、タイクーンとロウェルギアに言う。
「もし温泉行くことになったらどうする?」
「どうでもいい」
「ククク。ハイセ様、お背中はワタクシめにお任せを!!」
ここが深度4ということを忘れそうになりながら、夜は静かに更けていく。





