表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
S級冒険者が歩む道~パーティーを追放された少年は真の能力『武器マスター』に覚醒し、やがて世界最強へ至る~  作者: さとう
第二十八章 ネクロファンタジア・マウンテン

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

421/422

災厄封印ゲート『イゾルデ』⑩/深度4~名前のない魔獣~

 ハイセたちは、走りながら魔獣の相手をし、森を進んだ。


「ひぃ、ひぃ……ぼ、ボクの体力、もつのだろうか、ひぃぃ」


 走り始めてニ十分……走りっぱなし、魔法での援護、周囲の観察、そして植物採集をしながらの移動でタイクーンは限界が近かった。そもそも、深度4の地形をメモしつつ、見慣れない植物を採取という『余計なこと』をしなければまだ走れるだろうが、タイクーンの学者性分がどうしても抑えきれなかった。

 サーシャは、目の前に現れた巨大な『シカ』と対峙する。


「くそ、本当に数が多い。ハイセ、走りながらの戦闘は想像以上に体力を使う!!」

「わかってる。なんとか森から出ないと……」

「……任せて」


 すると、シズカが急上昇。

 大量の黒鳥がシズカを追う。

 ハイセは援護しようとしたが、頭上が木々で見えにくいのと、射程から離れつつあるシズカを見て舌打ちした。

 クレアも、サーシャと同じシカと対峙する。

 枯れた枝のような大きなツノ、骨と皮だけのようにやせ細っているが、その殺意は全く衰えていない。


「せ、青銀剣、『青の波動(ブルー・インパクト)』!!」


 闘気を刀身に纏わせ、一気に接近して両断しようとしたが、枯れ枝のようなツノで受け止められた。

 

「うええええ!? 師匠、こいつ強いですー!!」

「クレア!! ツノはオリハルコン以上に硬い。狙うのは──」


 サーシャはツノと鍔迫り合いしていたが、一瞬で離れて真横へ移動。胴体を両断した。


「胴体を斬れ!!」

「わ、わかりましたぁ!! とりゃあああ!!」


 クレアはサーシャの指示に従う。

 すると、木々の隙間を縫うように、キラキラした翅を持つ『蚊』が飛んで来た。

 とんでもない大きさだった。一メートル以上ある緑色の『蚊』だ。

 プレセアは矢を番え、『風の精霊』を鏃に載せて放つ。

 だが、プレセアの矢は輝く翅に弾かれてしまった。


「嘘!?」

「離れてください」


 ロウェルギアは、人差し指を蚊に向け、黒い玉を放つ。


「『黒玉(ブラックボール)』」


 ポポポポ!! と、黒玉が蚊に命中する……が、全て翅で弾かれる。

 雷も、同じように弾かれた。


「ほほう。どうやら、魔力を弾く翅のようですネェ」

「落ち着いてる場合じゃないでしょう!!」


 珍しく、プレセアが怒鳴る。

 ハイセがプレセアの前に出ると、散弾銃を連射。

 散弾が、蚊の羽を弾き飛ばし、身体も引き裂いた。


「物理が効くな。ここは任せろ」


 ハイセが散弾銃を肩に担いで蚊を迎え撃つ。

 クレアは、森の奥からさらにやってきた枯れ枝のツノを持つシカを見て言う。


「師匠ぉぉ~!! もう数が半端ないですぅ~!!」

「泣き言は後にしろ。今は、とにかく倒しまくれ。どうしても無理なら、ヒジリと交換していいぞ」

「むー!! まだまだいけます。師匠、終わったらいっぱい甘えさせてもらいますからね!!」

「意味わからん。プレセア、タイクーン、ロウェルギアはサーシャとクレアの援護を」


 戦いが終わる気配はない。

 それからしばらく戦闘を続けていると、傷を負ったシズカが着地した。


「森の出口、見つけたわ!! 案内する……っ!!」

「お前……その傷」

「あとにして。さあ、ついてきて!!」


 再びシズカが飛び、サーシャが言う。


「全員、シズカに続け!! 襲って来る魔獣だけ対処、あとは全て無視しろ!!」


 サーシャたちは、低空で飛ぶシズカを追い、走り出すのだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 走り、戦い、逃げること二時間が経過。

 ハイセ、サーシャ以外の体力が限界に近付いた頃、ようやく森の出口に出た。

 そして、その先に広がる光景を見て、ハイセもサーシャも足を止める。

 森の魔獣ですら、森の出口に近づくと追って来るのをやめ、森の奥へ引き返した……魔獣は理解しているのだ。森の方が安全だと。


「……これは」

「なるほど。これが深度4……ロウェルギア、お前はここまで踏み込んだのか?」

「ええ。ハイセ様、未熟とはいえ『魔王』であるワタクシが、ここで引き返した理由、おわかりでしょうか」


 そこは、生きとし生けるものすべてが沈黙を強いられる大地だった。

 陽は昇れど、光は地に届かない。濃密な瘴気が空を覆い、木々はねじれ、枝の先に黒ずんだ果実のような屍骸を吊るしている……名前のない魔獣の習性だろうか。


 地を這うのは、血を吸い尽くした灰色の苔だ。

 その上を、名前のない魔獣がく横切る。

 聞こえるのは、風でも鳥でもない――骨と牙が擦れ合う、鈍く湿った音。

 強烈なニオイがした。それが腐臭と気付くのはすぐだった。その腐臭がまた新たな魔獣を呼び、絶え間なく大地を肥やしていく。


 夜とも昼とも知れぬ薄闇の下、黒く濁った沼が無数に広がる。

 呻くような風が吹けば、どこからともなく低い嘆きがこだまする。

 誰が名付けたか、この地を人々はこう呼ぶ。


「深度4――ワタクシは『獣哭の荒原(じゅうこくのこうげん)』と名付けました」


 そこに足を踏み入れる者は、もはや冒険者でも、魔族の探索者でもない。

 ただのエサ……それくらい、恐ろしさしか感じない大地だった。

 ハイセは仲間たちに言う。


「見ての通り、ここを超えないと先に進めない。アイテムボックスに避難するなら、今ここで言え」

「ハイセの言う通りだ。どうする」


 誰も、何も言わない。

 その沈黙は覚悟ができていないからではない。とっくに覚悟は決まり、先へ進むための沈黙だ。

 サーシャは頷く。


「よし……プレセア、周囲を探索して魔獣の気配を確認してくれ。上空はもちろん、地中もだ。確認後、アイテムボックスにいるエクリプスに地中に空間を作ってもらう。そこを、本日の宿とする」


 サーシャの指示で、今日は『獣哭の荒原』入口で野営をすることになった。


 ◇◇◇◇◇◇


 地中。

 そこは、この深度4でも比較的安全な隠れ場所だ。

 エクリプスの地魔法で大地を掘り固めた空間は、快適とは言えないが広かった。

 天井には呼吸ができるように穴を空け、煙突のようにしてある。外から見ると草で覆われているのでカモフラージュも完璧だ。

 室内は、魔法によるライトが設置されているので非常に明るい。そこに、各々がテントを張り休んでいた。

 現在、アイテムボックスから出て来たピアソラが、全員の傷を治療する。


「ああ、サーシャ……こんなに傷付いて」

「私は問題ない。それより、シズカ……上空でかなり無茶をしたようだな」


 シズカの治療はすでに終え、現在はベッドで寝ている。

 正直、かなり危険な状態だった。


「身体中、魔獣につつかれたようでしたわ。内臓も傷付いていましたし、もう少し遅ければ死んでいた可能性もありますわ。まあ、わたくしなら死んでも蘇生できますけど!!」


 ピアソラが胸を張る。ちなみに蘇生できるのは一人だけ。しかも時間経過次第では蘇生できないという制約もあった。

 サーシャの治療を終え、ピアソラはプレセア、クレア、タイクーン、ロウェルギアと治療。最後はハイセの元へ。


「さ、治療しますわ。怪我はしていますの?」

「……ん」


 ハイセは、左腕を出した。

 魔獣の接近を許し、左腕で攻撃を受け流した時による傷だった。

 手首から肘にかけてごっそり抉れ、黒い血が出ていた。

 ピアソラは言う。


「おばか!! なぜ最初に言わないの!? もう……」


 ピアソラの叫びに全員が驚く……それは、心配から出た怒りの声だったので、いつもの険悪さからくる叫びではないとすぐに理解した。

 ピアソラは、ハイセの腕を取り、治癒の光を当てる。


「あなたなら、自分の怪我がどれだけ重いかすぐ理解できると思いますけど」

「……死んでも、蘇生してくれるんだろ?」

「それとこれとは別ですわ。いい? 次からは、ちゃんと言いなさい。わたくしが必ず治しますわ」

「……ああ、感謝するよ」


 ハイセは素直に礼を言うと、ピアソラは頬を染めそっぽ向いた。

 治療を終えると、他にも怪我をしていないか、ハイセに質問責めする。ハイセはめんどうくさそうだったが、ピアソラの問いに答えていた。

 その様子を、プレセアが見ていた。


「いつの間にか、仲良しね……」


 すると、クレアが間に割り込む。


「師匠、ピアソラさんと仲直りして、すっごく仲良しになりましたね!! えへへ、私、師匠が皆さんと仲良しでうれしいですっ!!」

「…………」


 どこまでも純粋なクレアに、プレセアは何も言えないのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
〇S級冒険者が歩む道 追放された少年は真の能力『武器マスター』で世界最強に至る 2巻
レーベル:GAコミック
著者:カネツキマサト
原著:さとう
その他:ひたきゆう
発売日:2025年 10月 11日
定価 748円(税込み)

【↓情報はこちらのリンクから↓】
eqwkhbr532l99iqc5noef2fe91vi_s3m_k1_sg_3ve7.jpg

お読みいただき有難うございます!
月を斬る剣聖の神刃~剣は時代遅れと言われた剣聖、月を斬る夢を追い続ける~
連載中です!
気に入ってくれた方は『ブックマーク』『評価』『感想』をいただけると嬉しいです

― 新着の感想 ―
[一言] ここから先の戦闘はハイセの兵器がないと厳しいのではなかろうか。サーシャ&クレアのソードマスターをもってしても闘いぶりには限度がある。 戦車を具現化させた勢いで、無人戦闘機や攻撃用ドローン(モ…
獣哭の荒原の語りは、緊迫感があり、情景もよく伝わってとても良いと思ったのですが、地の文の語りの最後の “誰が名付けたか、人々はこう呼ぶ” からの、ロウェルギアの “私が獣哭の荒原と名付けた” は、ナレ…
『セイクリッド』のメンバーであるタイクーン、探究に熱中するあまり体を鍛えずスタミナに問題があり今回は足手纏いでしたね。何だか情けなかったです。サーシャも口では大丈夫と言っても、やはり仲間の助力が必要不…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ