災厄封印ゲート『イゾルデ』⑨/パーティーチェンジ
深度3、極寒地帯で最も恐ろしい魔獣をやり過ごしたレイノルドたち。
その後、猛吹雪の中を歩き、エアリアをメインに魔獣を討伐し、進み続けた。
現れる魔獣は大型ばかりではない。
「うわわわ、なになになに!? か、かわいいっ!!」
真っ白なウサギに包囲され、その可愛さにロビンが目を輝かせる。
だが、ロウェルギアが叫んだ。
「お気を付けて!! このウサギは『キルホワイトラビット』です!! 獰猛で、集団で狩りをする危険魔獣の一つ!! 吹雪で見えませんが、恐らく……」
「ぬわー!? なんか、すっごいウサギに囲まれてるぞ!!」
エアリアが数メートル浮かび、周囲を見まわす。
レイノルドは盾を出しエアリアに聞く。
「数は!?」
「えと、えと……めちゃくちゃいっぱい!!」
エクリプスが黒いページを投げると、無数の蝙蝠が一斉に飛び立った。
目を閉じ、コウモリと視界を共有し、軽く舌打ちする。
「……千、二千以上のウサギに囲まれているわ。く……コウモリたちが全滅した。七千以上いるのに、あっという間に襲われて消滅……恐らく、万に近い数のウサギに囲まれているわ」
「おいおいマジか……」
すると、ヒジリがウサギの首を掴んで持ち上げていた。
「牙すっごいわね。爪も鋭いし、よく見るとツノ生えてるわ。討伐レートはBくらいかな……戦う? 数多いだけで弱いのは好きじゃないけど―」
「万単位だぞ。エアリア、オレらを連れて飛べるか?」
「ふふん、あたいも成長してる。いくぞ!!」
すると、レイノルドたちの背中に翼が生え、一気に上昇した。
上空百メートル。吹雪で全く先が見えず、前も後ろもわからない。
だが、エアリアには見えていた。
「ん? なあ魔王、あっちにでっかい森が見えるぞ!! しかも雪降ってない!!」
「おお、そこが目的地ですな。深度4の入口です……ところで、周囲に敵はいますか?」
「ん~……あ!! あっちにでかい白い鳥がいる!! しかも群れ!!」
「すぐに移動を。それは深度3の空の支配者、『ホワイトワイバーン』ですな」
「わかったぞ!! ふふん、ここはあたいの活躍の場だな!! いっくぞー!!」
エアリアは、レイノルドたちの翼を操作し、上空を一気に駆け抜ける。
「わーっ!! すっごーい!!」
「うおおおおお!? は、速いぞエアリア!?」
ロビンは興奮、レイノルドは速さに驚く。
「自分で飛ぶ必要がないのは楽でいいわね」
「フフフ、楽ちんですネェ」
「ねえねえ、ワイバーン、ワイバーンって何!? 戦いたい!!」
エクリプス、ロウェルギアはまったりと、ヒジリはワイバーンが気になるのかずっと後方を見て暴れていた。
こうして、エアリアの活躍で一気に深度3を抜け、レイノルドたちは深度4……凶悪魔獣地帯の入口へ到着するのだった。
◇◇◇◇◇◇
森の入口に到着し、深度4へと到達。
レイノルドは、第二パーティーのハイセたちを呼び出した。
「深度4に到着だ。誰も欠けることなく、無事にな」
「さすがレイノルドだ。まあ、私は心配していなかったがな」
サーシャはウンと頷き、レイノルドからアイテムボックスを受け取る。
ハイセは周囲を警戒。シズカも警戒に当たろうとしたが、エアリアが近づいてきた。
「ふふん。シズカ、深度3でのあたいの活躍、聞きたいか?」
「……気にはなるけど、今はそれどころじゃないでしょ。ここ、もう深度4なのよ」
「むー、まあいいぞ。あたいは空で活躍したからな、あとはオマエに託すぞ」
「……ええ、任せて」
そう言って、エアリアは「あー楽しかった!!」とアイテムボックスの中へ。
レイノルドも「じゃあ、頼むぜ」とアイテムボックスに入った。
そしてヒジリはハイセに言う。
「ねえハイセ。アタシ、もうちょっと戦えるけど~……」
「……ダメだ。パーティー制度のルールは守れ」
「うー」
「ふふん。ヒジリさん、あとは私にお任せください!!」
「いいなー、ねえクレア、アタシと交代する?」
「しません!! とりゃっ!!」
と、クレアはアイテムボックスをハイセから奪い、ヒジリを収納した。
ハイセは言う。
「……お前もやるようになったな」
「えへへ。師匠の弟子ですから!!」
すると、いつの間にか森の奥からプレセアが戻って来た。
「この辺りは、深度3との境界ね。魔獣の気配はないわ。でも……奥はすごく危険。精霊が怯えている」
「……でも、ハイセたちなら安心ね」
エクリプスがそう言い、ハイセに顔を向ける。
「ハイセ。パーティー制度は理解しているけど、このメンバーで対処できない場合はすぐに呼んで」
「ああ、わかった。それと……お疲れ」
「え、あ……うん」
エクリプスは嬉しそうに微笑み、ハイセの持つアイテムボックスに入った。
最後、ロビンが伸びをして言う。
「ふいい、疲れた。じゃああたしもアイテムボックスで休むね。ハイセ、サーシャ、頑張ってね!!」
ロビンがアイテムボックスに入り、第一陣はロウェルギアを除いて全員がアイテムボックスへ。
そして第二陣、深度4~5の攻略をする戦闘班。ハイセ、シズカ、サーシャ、クレア、プレセア、タイクーン、そして案内のロウェルギア。
ハイセは言う。
「サーシャ、指揮はお前に任せる。俺とシズカは斥候だ、指示を頼むぞ」
「わかった。では……これより深度4の攻略を開始する!!」
こうして、ハイセたちは深度4『危険魔獣地帯』へと踏み込んだ。
◇◇◇◇◇◇
斥候のハイセは地上、シズカは木の上、サーシャがその次、プレセア、タイクーン、ロウェルギアと並び、殿はクレアという布陣でハイセたちは進んだ。
ハイセは、木々を観察しながら進む。
「……なんだか妙な樹木だ。妙に温かい」
軽く樹木に触れると、すぐ上にいたシズカが言う。
「ここから先は、魔界の住人にとっても未知の領域だ。警戒を怠るなよ」
「わかってる。お前も──」
と、ハイセが言おうとした瞬間、ハイセは拳銃を抜き連射。
ギョッとするシズカ。だが、シズカのすぐ真横に、まるで植物の蔦のような『蜘蛛』がいた。
蔦を丁寧に細工し、蜘蛛のようにした魔獣に、シズカは目を見開く。
「な……なんだ、これは」
「警戒しろ!! クソ……俺としたことが。サーシャ!!」
「え……?」
「上だ!!」
周りの木々、枝には蔦が絡みついている。
だが、それは蔦であり、蔦でない。
プレセアがハッとした。
「嘘、精霊が気付かなかった!? 頭上、大量の『蜘蛛』がいるわ!!」
「──薙ぎ払う!!」
サーシャが闘気を見に纏い、『国崩』を連閃。
「国崩、『白華繚乱』!!」
純白の闘気が、糸のような細い刃となって飛び、ハイセたちの真上を刻んだ。
木々と蔦が切れ、緑色の血が雨のように降り注ぐ。
ロウェルギアは言う。
「これは、ワタクシも知りませんネェ……蔦のように、木々に擬態する蜘蛛の魔獣。名前の付いていない魔獣が多く存在しますが、これはその一つのようで」
「解説はいい。それより、戦闘開始だ」
タイクーンが眼鏡をクイッと上げ、クレアも双剣を抜く。
「し、師匠!! う、うしろから!!」
「っ!?」
クレアが叫んだ。
ハイセがクレアの方を見ると、『棘』が飛んで来た。
クレアは青銀の闘気を纏い、双剣で連続斬り。すると、ギィンギィンと鋼のような感触がし、剣で斬ることができなかった。
「か、硬いですっ……って、え」
すると、クレアが弾いた『棘』がモゾモゾと形状を変え、翅が生え、小さな手が生え、複眼が緑色に輝いた。
その形状は、歪で歪んでいた……が、クレアは叫ぶ。
「しし、師匠!! このトゲ、はは、は、『蜂』です!!」
巨大な、棘だらけで歪な『蜂』だった。
前足が棘になっており、大きな翅が振動して『ビィィィィン』と蜂独特の音が響く。
複雑な動きをして、クレアを狙う。
「ロウェルギア、タイクーン!! クレアの援護を頼む!!」
サーシャが叫ぶと、二人はクレアの後ろで援護を開始。
すると……サーシャの足元を、何かが横切った。
「……えっ」
それは、子犬のようなサイズの、『鼠』だった。
だが、普通のネズミではない。毛が生えておらず、まるで筋肉が剥き出しになったような、繊維の塊のような……そして、なぜか脳が剥き出しになっていた、あまりにグロテスクな『鼠』だった。
サーシャは「うっ」とのけぞる。すると、藪から得体のしれないネズミが一斉に飛びかかってきた。
「は、白帝剣!! 『白帝神話連剣』!!」
国崩ではなく、使い慣れた愛剣を抜いての連続斬り。
だが、サーシャの斬撃でもネズミを両断できず、中途半端に身体が半分になった。ネズミはそれでも生きており、サーシャに喰らいつこうとする。
すると、ハイセの銃弾がネズミの脳天を撃ち抜いた。
「くそ、入って早々、ワケわかんねーな」
「個ではない、群れで襲うタイプの魔獣だ。どうするハイセ、全滅させるか、奥へ進むか」
「決まってる」
ハイセは、マシンガンを顕現させ肩に担ぐ。
「全滅させつつ、奥へ進めばいい」
「フン……確かにな」
ハイセとサーシャは互いに頷き、襲い掛かる名前のない凶悪魔獣たちを蹴散らし始めた。