禁忌六迷宮/ハイセの場合②
クラン『巌窟王』のクランマスター、バルガンとの話を終えた翌日。
ハイセは冒険者ギルドのギルマス部屋に呼ばれた。
部屋には、ギルドマスターのシャンテと……。
「…………」
「あんた……なんか用事か?」
バルガンだった。
目を閉じ、腕を組み、ソファに座っている。
ハイセが質問するが、無言だった。
シャンテがハイセに座るように言い、バルガンの対面に座る。
「シャンテさん、すぐにでもデルマドロームの大迷宮に行きたいから、手短に頼みます」
「ああ。と言いたいが……呼んだのはバルガンなんだよ。アタシは同席するだけさ」
「はあ……で、何か?」
「口の利き方がなってないガキだな」
「あんたに言われたくないね」
ようやく口を開いたバルガン。
嫌味に嫌味で返すハイセ。
相手は、四大クランのマスター。だがハイセは一歩も引かない。
シャンテは「大したガキだ」と思いつつも、緊張していた。
「バルガン。話があるならさっさと言いな。ハイセはお前の話を聞く義理なんてない。すぐにでもデルマドロームの大迷宮に行っちまう。そうなりゃ、数か月は会えないよ」
「……一つだけ、助言してやる」
「?」
バルガンは腕組みを解き、自分のシャツをまくり上げた。
「なっ……」
シャンテが驚愕する。
バルガンの腹部には、巨大な穴が開いたような跡があった。
「過信は死を招く。オレが生きているのは奇跡……あそこは、一人で何とかなるような場所じゃない。こっちにいる魔獣と比較にならんぞ」
「…………」
「認めてやる。そうさ、オレは逃げた。四大クランのマスターとか言われているが、お前の言う臆病者だ。残りの人生、冒険者のための武器を作り、生存率を上げることだけしかできない。ガキ……過信するな。死にたくなきゃ逃げて、這いつくばってでも逃げろ」
「…………」
ハイセは、少しだけ笑った。
「訂正する。あんたは臆病者だけど、腰抜けじゃない」
「何?」
「四大クラン『巌窟王』のクランマスター、バルガンさん。あんたの助言、感謝する」
「…………」
「俺は死なない。死ぬわけにはいかない。生きて、冒険者の高みを目指す。そのためなら、逃げてでも、這いつくばってでも、生きてみせるよ」
「……生意気なガキだ」
バルガンは、少しだけ笑った。
ハイセも笑い、立ち上がる。
「じゃ、行くよ。いい話だった」
「……迷宮を攻略したら、クラン総出で祝ってやる」
「楽しみにしておく」
ハイセは軽く手を振り、部屋を出た。
シャンテは、バルガンに言う。
「あんた、不器用すぎるねぇ……今の話、昨日すればよかったのに」
「…………子供は、苦手だ」
「ハイセは子供じゃない。そう思ったから、わざわざ来たんだろう?」
「……まぁな」
ハイセなら、もしかしたら。
バルガンとシャンテはそう思い、ハイセが去ったドアを見つめた。
◇◇◇◇◇◇
デルマドロームの大迷宮。
砂漠の国ディザーラが管理する、禁忌六迷宮の一つ。
ディザーラから馬車が出ていたので乗ると、迷宮が一望できる高台へと到着した。
どうやら、観光スポットになっているらしい。高台から、多くの冒険者や観光客が、デルマドロームの大迷宮を見ては感動している。
ハイセは、高台から迷宮を眺めてみた。
「大きいな……」
砂漠にある巨大遺跡。
そんな言葉がピッタリだ。
集めた情報によると、表にある遺跡はあくまで遺跡。その地下は広大なダンジョンで、危険な魔獣が大量に住みつき、国一つでは収まりきらないほど広いらしい。
目的は一つ。
ダンジョンの『核』を持ち帰れば、迷宮は消滅する。
地下には莫大な財宝もあると噂されている。
「……よし」
ハイセは、高台の柵を乗り越えた。
「あ、あなた!! 何やってるんですか!!」
すると、馬車の添乗員に注意される。
ハイセは冒険者カードを見せて言う。
「S級冒険者『闇の化身』ハイセだ。今から、あのダンジョンに挑戦する」
「え、S級冒険者!? しかも、ハイセって……わ、わかりました。お気を付けて」
この行動が、砂漠の国ディザーラで『ハイベルク王国のハイセが禁忌六迷宮に挑んだ』という話が広まるきっかけとなる。
ハイセは、デルマドロームの大迷宮に向かい歩き出した。
◇◇◇◇◇◇
遺跡前に到着。
人は誰もいない。正面から堂々と遺跡の入口へ。
「だいぶ古い遺跡だな……」
近づいてわかったが、遺跡は石造りではない。
鉄も多く使われており、石の中から金属の棒が飛び出していた。
「なるほど。鉄で骨組みを作って、石で補強しているのか。ん? これは……」
妙な鉄の棒が落ちていた。
鉄の棒に、丸いガラスレンズが三つ並んだ箱がくっついている。
「…………どこかで」
ハイセはハッとなり、古文書を取り出しページをめくる。
そして、覚えのあるイラストが描かれたページで止まった。
「これは、そっくりだ……し、『シンゴウキ』かな?」
信号機。
ハイセの目の前にある、砂に埋もれた三つ目の何かは、古文書に書かれた『信号機』にそっくりだ。
他にも、鉄製品が大量に埋まっている。
「これは、『クルマ』で……こっちのは『バイク』かな」
妙なものがいくつも埋まっている。
入口だけでこれだ。中には、何があるのか。
ハイセは、ポツリと言った。
「デルマドロームの大迷宮……まさか、『イセカイ』に関係しているのかな」
そう呟き、ハイセは迷宮に踏み込んだ。





