オウミの町~ようやく町中へ~
ハイセ、サーシャ、ヒジリ、エアリア、そしてシドラの五人は、ようやくオウミの町へ。
先ほどまで、町の外にある大橋で戦いがあったのだが、誰も気にしていない。
けっこうな騒ぎになったのに、何もなかったように町の人は普通にしていた。
「……おかしいな。けっこう騒いだのに、町の守衛みたいなのも出てこなかったぞ」
「確かに……」
ハイセ、サーシャが周囲を確認する。
「どことなく、アズマを感じさせる雰囲気だな」
「ああ。町並みも、人々の衣類も、そんな感じだ」
オウミの町は、木造がメインの建物が多く、二階建て以上の建物が少ない。
道幅も広く、多くの露店や一般的な商店が並び、どう見ても観光の町。
エアリアはキョロキョロすると、ふよふよ浮かんでハイセの背中に飛びついた。
「なあなあ、お腹減ったぞ!!」
「……待て。まだ不用意に……ってかくっつくな」
「お腹減ったー!! なあ、オマエも減っただろ?」
「え、あ……はい」
いきなり話を振られ、シドラは思わず返事をする。
ヒジリもウンウン頷き、シドラと肩を組む。
「こんな子供がお腹空いてるって言ってんのよ? 我慢させるなんて可哀想じゃん。ってわけで、肉!! アタシも血ぃ流したせいで補充しなきゃなのよねー」
「ハイセ。肉はともかく……気配を探っても危険な感じはしない。むしろ、我々のことなど、誰も気にしていないぞ」
「……ったく。仕方ないな」
ハイセたちは町に入り、食事処を探すことにした。
◇◇◇◇◇◇
町の中央通りを歩き、肉の匂いがするとヒジリが勝手に入った店へ。
焼肉屋……テーブルに鉄板が置かれ、自分で焼くスタイルの焼肉店だ。
人間界にも普通にある焼肉店で、周りに魔族や亜人族がいること以外、人間界と全く変わらない光景である。
五人は座り、ヒジリは普通に「肉、いっぱい!!」と注文。
鉄板には魔法で火を入れ、フォークやアズマで使った箸、湯のみ、取り皿に、焼肉のタレと普通に出てくる。
サーシャは言う。
「……アズマの文化と同じなのか?」
「かもな。これだけで、人間界との繋がりを感じる……アズマが魔界の文化を真似たのか、人間界が真似たのか……これだけ共通していると、繋がりがないわけない」
焼肉屋だけでも、かなり情報があった。
店員が肉が大量に乗った皿を魔法で浮かべ、ハイセたちのテーブルに並べた。
トカゲ亜人の定員だった。ハイセは質問する。
「質問していいか?」
「はいはい、どうぞ~」
「さっき、入口の大橋で戦いがあったんだが……守衛どころか、住人も誰も気にしていなかった。そういうモンなのか?」
すでにヒジリは肉を焼き始めている。エアリアも、ヒジリに負けじと肉を焼く。
シドラはゴクリと喉を鳴らして自分用に小さな肉を焼き、サーシャはハイセと定員と肉皿をチラチラ見ていた。
定員はクスっと微笑む。
「ああ、ベンケイ様とヨシツネ様ね。あの方々が大橋の前で戦うのはよくあることだから」
「……よくある?」
「ええ。大魔王ヒデヨシ様の両腕だからね。ここから『オオエド』に行くには町を通るしかないでしょう? 一般的な観光客は『オオエド城』の見える展望台までしか行かないけど、そうじゃない人はオオエド城に行こうとするのよ……だから、大橋ではベンケイ様が、こっそり入ろうとする人はヨシツネ様が監視するのよ」
「へえ……信頼されてるんだな」
「そりゃそうよ。ヒデヨシ様、魔界の大魔王だけど、その命を狙う人も多いらしいから」
ハイセは水を飲み、口を潤して言う。
「ベンケイと、ヨシツネか。二人は強いのか?」
「そりゃもう。三大魔王様より強いって話。すごいわよねぇ……『オーバースキル』保持者でもないのに、純粋な力だけでヒデヨシ様の守護者になるなんてねえ」
ベンケイ、ヨシツネはオーバースキル保持者ではない。
ハイセはシドラを見る……オーバースキル『岩神』の保持者。
肉を焼き、美味しそうに食べる姿は子供にしか見えない。
「ハイセ、考えることが多いのはわかるが……」
「腹減ったなら食えばいいだろ」
「う、うむ。すまん……私もお腹が減ってる」
サーシャも、肉を焼き始めた。
ハイセは定員に質問する。
「この町、普通に観光できるんだな」
「そりゃそうよ。魔界の象徴ともいえる『オオエド』が見えるんだから。魔族にとっても、一度は見なきゃねぇ」
「……ヒデヨシってどんな人物だ?」
「んん~、難しいわね。というか、お姿を見た人なんてほとんどいないわ。ベンケイ様、ヨシツネ様がお仕えしている以上、いることはいるみたいだけど……けっこう前、パレードとかあったけど、その時もずっと魔法障壁の中にいたから」
「なるほどな……ありがとう」
「いえいえ。あら、お肉の追加かしら?」
「アタシ、大盛で!!」
「あたいも!!」
「わ、私もだ!!」
「えと……わたしも」
ハイセ以外、全員が肉の皿を完食していた。
ハイセはため息を吐き、自分用の皿の肉を焼き始めるのだった。
◇◇◇◇◇◇
宿を取り、それぞれ部屋を取る。
今日はベンケイとの戦いもあったので、早めに休むことになった。
食事は宿で、外出はしないを徹底し、ハイセは自室で読書をする。すると、ドアがノックされた。
「やっほー」
「……何か用事か?」
「んーん。暇だから来た」
「サーシャとか、エアリアとかいるだろ」
「サーシャはシドラに人間界の文字教えてる。エアリアはお腹いっぱいなのか爆睡。アタシはお風呂でも行こうかなーって思ったけど、アンタとイチャイチャするチャンスかもって思って」
「……帰れ」
ハイセは「まずい」と思った。
現状、ハイセでは『武器』を使わないとヒジリには勝てない。『寝技』に持ち込まれたら負ける。
ヒジリがそのことに気付くのはまずい。そう思い追い返そうとしたが、ヒジリが入って来た。
「おじゃまー」
「おい、こら」
「いいじゃん。アタシ、あんまり出番なくてヒマだったし。ねーねーお話しよ、イチャイチャしよ?」
「……俺は読書で忙しいんだ。お前も本くらい読め」
「えー……ねえねえ、アタシとお話しようよ。ね?」
「……ったく」
ハイセは諦める。あまりしつこく追い返そうとすれば、ヒジリは何か勘づくかもしれない。
ヒジリはベッドに飛び込み、ブーツを脱ぎ、ジャケットを脱ぐ。
胸に巻いたサラシ、短パンだけの恰好になり、うつ伏せで足をバタバタさせた。
「ね、ハイセ。あのベンケイってのと再戦する機会あったら、アタシやるから」
「……その時は任せる。現状、確率は五分五分くらい。お前が喧嘩売らなきゃ機会はないかもな」
「じゃあやる。ふふん」
仰向けになり、足をバタバタさせる。
落ち着きのないやつ……とハイセは思う。
「明日は町を散策して、ヒデヨシについて、それとベンケイ、ヨシツネについても情報を集めるぞ。それと……観光地みたいだしな、買い物とかできるかもな」
「やった!! ね、明日は何食べる?」
「……まだ晩飯も食ってないのに、明日何食うかなんて決められねぇよ」
「確かにね。んふふ、なんかこうやって他愛ない話するの、すっごい好き」
「…………」
「ね、ハイセ」
「……なんだ」
「魔界から帰ったらさ、一緒に住みたい」
「は?」
ヒジリは立ち上がり、ハイセの傍に来た。
「アタシさ……やっぱりハイセのこと、好き」
「お、おい」
「アンタは? アタシのこと、意識しない?」
「…………」
ヒジリは前屈みになり、ハイセに顔を近づける。
整った顔立ち、ぱっちりした瞳、薄紫色の髪からは不思議と甘い香りがした。
ハイセは目を逸らすと、ヒジリは嬉しそうに言う。
「意識してるじゃん。ふふふん」
「……もういいだろ。今は、そういう感情に振り回される時じゃない。ヒジリ……お前の気持ちは理解したつもりだ」
「うん。まあ、時間あるし今日じゃなくていいや。それに……アンタのこと、まだ倒してないしね」
ヒジリはブーツを履き、ジャケットを掴んでドアの前へ。
そして、ハイセに言う。
「安心してよ。アタシ、『寝技』はまだ使わないから。ふふん、じゃーまた夜にね」
ヒジリは出て行った。
ハイセはしばしドアを見つめ、大きなため息を吐くのだった。





