一度、全員で
向かうべきはオウミの町。
馬車移動する前に、ハイセは一度全員をアイテムボックスから呼び出した。
場所はオウミの町近くにある森の中。近くに川が流れており、動物の気配しかない。
ハイセ、サーシャは、これまで集めた三つの鍵をテーブルに置き、これまでの反省をした。
「農業国パシフィス、産業国レムリア、工業国メガラニカ。三つの国を回り、三つの魔王と会い、三つの鍵を手にいれた。そして次……最後の鍵である、ヒデヨシに会いに行く」
サーシャが言う。
そして、ハイセも続ける。
「戦いになる可能性はゼロじゃない。一応、今回も少数精鋭で行動する……いつもなら、俺かサーシャは固定だが、今回は俺たち二人は固定。あとの二人、そして……」
ハイセはシドラを見た。
シドラはぴくっと肩を動かし、全員の視線が集まったせいか緊張で俯いてしまう。
「シドラ。お前は、俺たちと行動してくれ」
「……わ、わたし、何か、お役に?」
「ああ。お前は魔族だからな。人間の中に、一人でも魔族がいれば、警戒は緩む……これまでの旅でわかったことだ」
サーシャが言う。
これまで、シンシア、ルクシャナと魔族の同行者がいた。そのおかげで魔族から警戒されなかったこともあるのは間違いない。
ロウェルギアは、ニコニコしながらシドラに言う。
「少女。ワタクシの代わりに、誠心誠意、ハイセ様にお仕えするのだぞ」
「は、はひ」
「おいロウェルギア。そういうのはいらん。あくまで、同行するだけだ」
「失礼いたしました。ハイセ様」
ぺこりと頭を下げるロウェルギア。
ロビンは、ピアソラにヒソヒソ言う。
「ね、この人、魔王なんだよね……なんか、ハイセのこと大好きっぽいよ」
「そうですわね……何をすればこんな風に手籠めにできるのかしら」
ハイセは「そこ、うるせーぞ」とロビンたちを騙せる。
すると、ヒジリとクレアが手を上げた。
「はいはーい!! ね、そんなことより、パーティーどうすんの?」
「はいはーい!! 私、弟子の私は固定ですよね!!」
「はあ? そんな決まりないでしょ!! ってかアンタ、アタシを差し置いてずっと出てたじゃん!!」
「それはそれ、これはこれ!! です!!」
うるせえ……と、ハイセはめんどくさそうにため息を吐く。
また眠らせようかとエクリプスを見ると、ヒジリが言う。
「言っておくけど、同じ手に二度ハマるような馬鹿じゃないからね」
「同じくです。師匠、もう眠りませんからね!!」
「……」
エクリプスは肩をすくめる。
すると、最近出番のないエアリアが挙手。
「はいはーい!! あたい、あんま出番ないぞ。もっと活躍させろー!!」
「……ふむ」
ふと、ハイセは思う。
サーシャを見ると、サーシャも同じことを考えていたのか目が合った。
互いに頷き、サーシャはエアリアに言う。
「よし。ではエアリア、お前はパーティーに入れる」
「え、ほんとか!? やったー!!」
「……いざという時、お前の『スカイマスター』は役立つかもしれない。閉鎖的なダンジョンとは違って、一点突破の空中移動なら、いざという時の緊急脱出に役立つかもしれないからな」
「うむ、任せておけ!!」
と、エアリアはパーティーイン。
残り一名。ハイセはサーシャに言う。
「戦闘を考えると、前衛であるサーシャ、中衛である俺、空中担当のエアリア……遠距離、援護担当か、魔法系が欲しいな」
「ふむ。魔法となると、エクリプスかタイクーン、プレセアと言ったところか」
「……エクリプス、プレセアは前のメンバーだが、どうする?」
「ならば、タイクーンか? それか、レイノルドのような守りも考えるべきかもしれん」
「確かにな……」
そう話していると、ヒジリが割り込んできた。
「ちょっと!! アタシのこと無視しないでよ!!」
「ヒジリ。今回は遠慮してくれ、前衛は私が担当できる」
「アタシも出る~!! ずっとアイテムボックスの中飽きたの~!!」
「いてて、おい、引っ張るな、しがみつくな」
ハイセの腕を掴んでブンブン振るヒジリ。
そして、ハイセの腕をパッと離す。
「遠距離だっけ。見てて」
ヒジリは、川の傍に移動すると、腕を振り回す。
「金剛拳、『鉄塊砲』!!」
拳を突き出すと、手から拳の形をした鉄の塊が発射された。
そして、川を越えて反対岸にある木を貫通し、さらに木の裏にあった岩にめり込んだ。
驚くハイセたち。ヒジリは言う。
「連射もできる。ハイセの武器を見て、金属を飛ばして攻撃できないかなって考えてたのよ。射程は二十メートルくらいかな。威力は見ての通り」
「……驚いたな。ヒジリ」
「ふふん。サーシャ、アンタに負けるつもりはないわ。アンタも強くなってるみたいだけど、アタシだってもっと強くなってるし」
「……フフ」
サーシャは不敵に微笑み、ハイセを見た。
ハイセは頷く。
「わかった。じゃあ、四人目はヒジリだ」
「し、師匠!! 私、私も必殺技」
「お前は今回遠慮しておけ。ロウェルギア、アイテムボックスの中で、クレアの相手してやってくれ」
「かしこまりました。ハイセ様」
「え……な、なんでこの人に?」
「なんとなくだ。ロウェルギアも一人じゃ寂しいだろうし、話し相手になってやれ」
「えええ……」
こうして、オウミの町へ行くパーティーが決まるのだった。
◇◇◇◇◇◇
パーティーが決まり、その日は野営。
そして翌日、ハイセたちは馬車に乗り、オウミの町へ出発した。
「ね、アンタ……シドラだっけ」
「は、はい」
「ね、ツノ触っていい?」
「え……ど、どうぞ」
「おお~、なんだザラザラしてる。これ、硬いの?」
「は、はい。でも、折ろうと思えば折れます。一度折れたら、そのままです」
「ふーん。そういや、イーサンの頭にも断面あったっけ」
ヒジリは、シドラに構っていた。
サーシャは止めようと思ったが、ハイセは気にしていない。悪意のないヒジリのコミュニケーションは、シドラに必要なのだろうとハイセは考えている……と、サーシャは思った。
「ねえ、好きな食べ物ある?」
「えっと……辛いのが好きです」
「へー、アンタくらいの子供だと、甘いのが好きなんじゃない?」
「はい。甘いのは嫌いじゃないですけど、やっぱり辛い方が好きです」
「そっか。じゃあ、オウミの町で辛いの食べれるなら食べよっか。あ、肉もね。アタシ、肉好きだから」
「はい……ぜひ」
シドラは微笑んだ。
すると、馬車の屋根で寝ていたエアリアが車内へ。
「ふいー、天気良すぎる。つい寝ちゃうぞ」
「そういやアンタとちゃんと喋ったことなかったわね。エアリアだっけ」
「おう。オマエは序列三位のヒジリだな。オマエもチチでっかいなー、サーシャとエクリプスとどっちがデカい?」
「たぶんアタシね。邪魔くさくてしょーがないわ。アンタはぺったんこだから羨ましいわ」
「……なんかそれはそれでヤだな」
「どれどれ……」
「え、あ、あの」
「わお、アンタ十三歳だっけ……見たところ、ロビン以上、エクリプス以下……ふむ、これは巨乳の資質ね。クレアと同じくらいかな。将来楽しみねー」
「あ、あう」
話がめんどうな方になってきた。
サーシャはヒジリの間に割り込む。
「こら、そういうデリケートな話は、この子にはまだ早い」
「出たなデカチチ!! おいシドラ、ここだとデカチチに押しつぶされる。逃げるぞー」
「え、あの」
「……エアリア。そのデカチチというのはやめろ!! 待て!!」
「うわわわわっ」
「あははー!! 捕まらないぞ。いくぞシドラっ!!」
「えええええっ!?」
「あ、飛ぶのずるい!! アタシも飛びたいっ!!」
シドラを掴み、エアリアは馬車を飛び出し上空へ。
サーシャはデカチチと呼ばれキレて飛び出し、ヒジリも負けじと飛び出した。
残されたハイセは大きなため息を吐く。
「……はあ。騒がしい面子だ。でも……」
上空を見ると、エアリアと手を繋いで飛んでいるシドラが見えた。
「……まあ、いいか」
シドラが笑っているのを見て、ハイセはそのまま馬車の中で、静かに読書をするのだった。