再び、商業国レムリア/第三の鍵
商業国レムリアに到着。
正門前で、ハイセは仲間たちに言う。
「……確認する。インダストリーの出方次第で戦うことになる。戦闘準備」
「はい!! 武器も鎧も準備完了!!」
「私も、いつでもいけるわ」
「……私も。精霊を商業国レムリアに張り巡らせているから、何があっても対応できる」
ハイセたちの準備は完了していたが、ルクシャナは微妙そうな顔をして言う。
「一応、アタシはここ出身だし複雑な気分……悪いけど、インダストリーとは友情も愛もないけど、まあ多少の恩はあるんだよね。手は貸さないし、アンタらにも貸さない。それでいい?」
「ああ、構わない」
ハイセはベレッタを抜き、マガジンをスライドさせる。
そして、ニコニコしていたロウェルギアに言う。
「最終確認だ。ロウェルギア、お前は?」
「ハイセ様の敵は、私が滅ぼしてみせましょう」
「……よし」
うやうやしく一礼したロウェルギアに頷き、ハイセは胸元にある『生物収納アイテムボックス』からサーシャ、レイノルドを出した。
「サーシャ、これから最後の鍵を手に入れる。レイノルド、シンシアが解放されたらお前に任せる」
「わかった。この場合だけ、パーティー制度のルールを曲げよう」
「……行こうぜ。ハイセ、オレもインダストリーの出方次第では、我慢しねえぞ」
冷静なレイノルドも、ゾクリとするほど冷たい声で言う。
かなりキレているようだ。冷静な判断ができないからと待機し、頭を冷やすようにしていたはずなのだが、ここに来て怒りが再燃した。
すると、サーシャのアイテムボックスからヒジリが出てきた。
「暴れるならアタシも必要でしょ。ってかエクリプス、アンタ後でぶん殴るから」
「ふふ、ようやくお目覚めなのね。可愛いおサルさん。まあ、ご自由にどうぞ……できれば、だけど」
ピキリと、ヒジリの額に青筋が浮かぶ。
エクリプスがヒジリを眠らせたことを根深く恨んでいるようだ。が……ハイセが割り込む。
「あとにしろ。ヒジリ、暴れるなら俺の合図を待て」
「……ええ、わかった」
こうして、一行はパーティー制度のルールを曲げ、戦力を増強してレムリアに踏み込むのだった。
◇◇◇◇◇◇
レムリアに入るなり、国賓級のお出迎えだった。
専用の馬車に乗り、『楽園』への直行便でインダストリーの元へ。
案内されたのは、『楽園』最上層である、プラチナランクでもインダストリーが認めた者しか入ることの許されない特別な会食場。
そこに、高級そうなスーツを着て、髪を整えたインダストリーが出迎えた。
「ようこそ、そしておかえり──」
「ハイセ!!」
ドンドンドン!! と、ハイセがベレッタを連射。同時にサーシャがハイセの腕を掴んだせいで、弾丸はインダストリーを逸れて部屋の壁に突き刺さった。
ハイセは、インダストリーなど見ずにサーシャに言う。
「何で止めた?」
「……お前、何を」
「とりあえず、何もできないように両足を撃ち抜こうとしただけだ。ったく、邪魔するな」
マガジンを交換するハイセ。
あまりにも自然な動きだったので、インダストリーもほんの少しだけ冷や汗を流す。
ロウェルギア、エクリプスは「素敵……」と身体を震わせた。
ハイセは、ベレッタをインダストリーに向けて言う。
「シンシアを解放、ゲートキーを寄越せ。それ以外の行動は俺らに対する宣戦布告と取る」
「まあまあ、落ち着いて」
「交渉決裂」
ハイセの背に、トマホークミサイルが三発現れた。
ギョッとする一行。ハイセは一発を発射……壁に激突し、大爆発を起こす。
ハイセは、インダストリーの傍にいた魔族の両腕、両足を撃ち抜く。同時にヒジリが飛び出し、戦闘態勢にすら入っていない魔族の護衛を派手に殴り飛ばした。
ハイセは飛び出し、インダストリーに向かって走り出す。
「ま、待つんだ!! シンシア、彼女が」
「お前が何かする前に殺す。こっちには死者を蘇らせることができる能力者がいるから問題ない。お前との交渉は終わりだ」
「くっ……」
食事のテーブルをハイセが蹴飛ばすと、インダストリーは横に飛んで回避する。
恐らく、食事をしてゆっくりと話そうとしたのだろう。着飾り、髪を整え、シェフに料理を用意させ、高級な酒をいくつも用意し……だが、インダストリーは見誤った。
ハイセのことを知らなかった。まさか、ここまで見境なく攻撃をするとは、考えてもいなかったのだ。
インダストリーは、戦闘準備どころか、『楽しむ』準備もできていない。
「ハイセ、待て!!」
「サーシャ、もう諦めた方がいいわよ」
プレセアが言う。
サーシャは深いため息を吐いた。
そう、誰よりもインダストリーに対し怒りを覚えていたのは、ハイセだったのだ。
レイノルドは止める立場だが、ハイセと並んでインダストリーに向かっていた。
「シンシアを返しやがれぇぇ!!」
「くっ……」
オーバースキル『氷神』の力で、氷の壁を作ろうとする……だが、レイノルドがアイテムボックスから大盾を取り出し、盾を構え突進した。
氷の壁が砕け、レイノルドはそのままインダストリーにタックルした。
「どらああああ!!」
「うげっ!?」
インダストリーは吹っ飛び、壁に激突した。
ハイセは「ピュウ」と口笛を吹く。レイノルドがここまで怒りを見せることは珍しい。
ベレッタをクルクル回してホルスターにしまい、シム-ンの作ったナイフを抜いてインダストリーに接近……すると、サーシャもハイセの隣へ。
「なんだ、止めるのか?」
「いや。もう止めん……というか、この男は一度、痛い目にあった方がいいと思う」
後ろを見ると、満足そうに微笑むエクリプス、そして何故か号泣してパチパチ拍手をするロウェルギアがいた。
ヒジリはまだ護衛と戦っており、部屋はボロボロになっている。
ハイセ、サーシャは壁にめり込んだインダストリーに向かう。
ハイセはナイフでインダストリーの頬を叩く。
「これが最後の慈悲だ。シンシアを解放、ゲートキーを渡せ。お前と話すのはそれだけだ」
「…………わがっ、だ」
こうして、インダストリーを倒すことに成功した。
◇◇◇◇◇◇
十五分後。
ボロボロになった部屋に、ベッドに寝かされた状態のシンシアが運ばれて来た。
ハイセは、ベレッタをインダストリーの背中にグリグリ押し込んで言う。
「治せ」
「あ、ああ……解除」
シンシアに触れると、一瞬だけシンシアが青く輝いた。
そして、ゆっくりと目を開ける。
「あれ……ワタシ」
「シンシア!!」
「レイノルド……?」
「……よかった!!」
レイノルドは、シンシアの手を強く掴んで顔を伏せた。
シンシアは首を傾げつつ、自分に何かあったのを思いだすように唸っている。
ハイセはほんの少しだけ微笑み、インダストリーに言う。
「ゲートキー」
「あ、ああ……これが、『ムーンクレスト』だ。本物だ、受け取ってくれ」
ハイセは受け取り、ロウェルギアに渡す。
ロウェルギアは指でクレストをなぞり、ウンウン頷いた。
「本物ですな。間違いございません」
「よし……これで、お前との約束である『黄金銃の破壊』は完了。シンシアも解放だ」
「そう、だね」
ハイセはインダストリーの背から銃口を外し、ナイフを首に突きつけた。
「ひっ」
「楽しいか? なあ」
「あ、いや」
「お前、楽しいこと好きなんだってな。ルクシャナは『自分の命も楽しければそれでいいと差しだす』なんて言ったけど……お前にそんな覚悟はない。そういう状況に追い込まれたことがないだけ、魔王であり、オーバースキル保持者で、この国でお前に逆らう奴がいないから、そう言えるだけだ」
リネットのナイフがインダストリーの首をなぞると、薄皮が切れ僅かに血が出た。
インダストリーは何故か、スキルが使えない。
「楽しいな。ビビるお前、震えて、漏らしてる姿を見るのは楽しい……俺は今初めて、この国に来て楽しいアトラクションを体験してる」
「ぅ、ぁ」
「ハイセ、やるなら慈悲を与える必要はないぞ」
サーシャが言うと、ハイセはサーシャを見る。
「……正直、そいつを生かしておけば、今後の魔族との交流に不安が残る」
「その心配はないよ」
すると、ルクシャナが部屋に入って来た。
「そいつはアタシが見張る。見たところ……初めての『命の危機』に、心が負けちゃってるね。もう、アタシの敵じゃない。そいつが何かしようとしても、アタシが焼き尽くして止める」
「……まあ、確かにな」
インダストリーは、口をヒクヒクさせて無理やり笑おうとしているが、目がすでに負け犬の目で、身体中震え、さらに失禁していた。
ハイセはナイフを引き、インダストリーの背を押す。インダストリーはベタンと倒れ、アワアワと後ずさり。
「失せろ」
ハイセに睨まれ、漏らしながら逃げて行った。
ルクシャナは、どこか可哀想なものを見る目で言う。
「余裕そう、楽しそうなのがアイツだったけど、初めての恐怖で心バッキバキに折れちゃったわね。レムリアの運営とかに支障でるかも」
「だったら、お前が何とかしてくれ」
「え~? まあ、別にいいか。じゃあ、シンシアも手伝ってもらうから」
「え? ワタシ、いきなり言われても」
「病み上がりだし、これから中央平原に行くハイセたちと行くのはダメよ。いいでしょ、ハイセ、レイノルド」
「ああ、俺はそういうつもりだった」
「……仕方ねえな」
レイノルドは、シンシアの手を握る。
「全部終わったら迎えに来るからよ、ルクシャナと一緒にいてくれ」
「……うん、わかった」
いつの間にか、レイノルドはシンシアを大事に思うようになっていた。
ハイセは、ロウェルギアから最後のクレストを受け取る。
「よし……鍵は手に入れた。あとは……最後の鍵を手に入れるぞ」
三つの鍵、そしてノブナガの子孫であるヒデヨシの許可。
ハイセたちの魔界攻略も、佳境に入りつつあった。