メガラニカの魔王ロウェルギア②/第二の鍵
数日後……ロウェルギアの指示で急遽、ノブナガ大聖堂に『ミサイル』が設置された。
透明な、魔法で作り出した専用ケースに台座があり、ハイセはそこに『ミサイル』を設置。
誰にも……それこそロウェルギアですら触れられぬよう、数千の魔法障壁が設置された。
そしてもう一つ。ノブナガの『黄金銃』に触れた影響なのか、ハイセも『黄金銃』を作り出せるようになった。
「やる」
「……今、なんと?」
そして、ハイセはロウェルギアの執務室で、錬成したばかりの黄金銃をテーブルに置く。
ちなみに今日はそれぞれ自由行動。ルヴィトーがクレアたちを連れ、町の案内をしている。
ハイセはロウェルギアに話があったので残り、今目の前で『黄金銃』を錬成した。
「インダストリーに言われたのは『ノブナガの黄金銃を破壊しろ』だ。俺が自分で作ったヤツならどうこう言われる心配はない」
「……な、なんと」
「この数日、お前を警戒しつつ様子を見たが……お前は本当に、俺らに協力してくれるみたいだな」
「当然でございます!! このロウェルギア、ハイセ様に永遠の忠誠を」
「待て。永遠はいい……とにかく、お前の支援に感謝する。それと、お前らが作ってる『魔導船』だったか……」
「あれは、我々魔族が、ノブナガ様が過ごした大地である人間界へ行くための船でございます」
最初は、侵略や物資の確保的な意味があるのかとハイセは考えていた。現に、これまで戦った魔族は皆好戦的だったし、侵略をにおわせていた。
だが、ロウェルギアは違った。
「ノブナガ様は、人間界での生活、そして仲間たちとの思い出を大事にされていたそうです。特に『自分と対等な力を持ったムッツリ竜騎士』、『妖艶なサキュバス』、『ロリっ子エルフ』、『ガチムチのんべえ』という方々の伝説は我々ノブナガ教の経典にも書かれています」
「そ、そうなのか」
なんとなく、誰が誰だかハイセはわかった。
深くツッコむのをやめ、一呼吸置く。
「……人間界には、ノブナガの仲間だった人たちが暮らしている。もし……お前の『魔導船』が完成して、人間界に来ることがあるなら」
ハイセは、人間界の精巧な地図を出す。
ロウェルギアは眼鏡をクイッとあげて興味深そうに地図を眺める。
「ハイベルク王国。この王国に来い。俺たちが人間界に戻ったら、この国の国王に事情を説明しておいてやる。お前たちに交流の意志があるなら、ヘスティアと話をしろ」
「ほうほうほう……なるほど。感謝します、ハイセ様」
ハイセは地図をロウェルギアに渡す。
一瞬だけ、ロウェルギアが裏切ることも考えた。人間界の精巧な地図など渡すべきではないのか……と迷った。
なので、軽く言う。
「お前らが『侵略』なんてするとは思っていない。だが……」
「ハイセ様。ワタシは貴方様に命を捧げる覚悟です……では、これを」
ロウェルギアは、奇妙な形をした筒をテーブルへ。
そして、エメラルドグリーンに透き通った宝石のような物をテーブルに置く。
筒の上部にある蓋を開け、中にある赤いスイッチを押すと、宝石が粉々に爆ぜた。
「これは、『魔結晶』という、魔力の結晶です。メガラニカにある鉱山で採掘される石で、少し細工をすれば、この起動キーひとつで粉々に砕けます」
「……」
ハイセはキーを受け取る。
「これを押すと、最も近くにある魔結晶が崩壊します。つまり……『魔導船』の核である魔結晶を破壊することができます」
「……何?」
「魔導船の核は、メガラニカで採掘された魔結晶の中でも、歴代最高の大きさです。そして、人間界には魔結晶が存在しない……つまり、このキーを人間界で押せば、魔導船は破壊されます」
「……そのキーを、俺に?」
「はい。我々に裏切りを感じたら即座に押してください。魔導船は破壊され、我々は人間界に取り残され、死ぬことになるでしょう」
ロウェルギアは、歯茎が見えるくらいニッと笑う。
「まあ、心配ございません。我々は、貴方様に忠誠を誓いましたので」
「…………わかったよ。受け取っておく」
どこまで真実かは不明だが、このキーがハイセを信じさせる決定打となった。
仮に、キーや魔結晶の話がデタラメでも、それならそれでハイセが責任をもって始末すればいい。
「それに、我々程度、貴方様が本気になれば殲滅など容易いでしょう?」
「ああ、そうだな。それに……さっきも言ったノブナガの仲間が、お前らを殺しに来るだろうな」
「はははははは!! それはいいですな」
ロウェルギアは笑い、ハイセも少しだけ微笑んだ。
すると、ドアがノックされ、クレアたちが戻って来た。
「師匠!! いやー、すごいですよここ、工場ってすごいですね。パイプがぐにゃぐにゃに繋がってて、なんかずっと見てられるような」
「ロウェルギアさま~、ただいま戻り……あいたっ」
ルヴィトーが転び、ハイセのいるテーブルに寄り掛かった瞬間、置いてあった黄金銃に触れ、塵となって消滅した。
「ぎゃあああああああああああああああああああ!! るるる、ルヴィトーおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「あれれ、なんか怒ってます~?」
「あなな、あな、アナタは何をしたのかああああああああああ!!」
「うるさいな……おい、いくらでも出してやるから騒ぐな」
ハイセは黄金銃を再び出し、クレアたちは首を傾げるのだった。
◇◇◇◇◇◇
クレアたちが戻り、場所を王城の会議室に変えた。
ロウェルギア、メルビレド、ルヴィトーの幹部三人、そしてハイセ、クレア、エクリプス、プレセア、ルクシャナの五人。
合計八名による話合いが始まった。
まず、ロウェルギアがテーブルに、六角形の、星の刻印がされた石板を置く。
「これが、ノブナガ様が残した至宝……『スタークレスト』でございます」
「感謝する」
「あ、師匠~、いきなりアイテムボックスに入れないで、よく見せてくださいよお」
クレアが腕を揺するが無視。ハイセはアイテムボックスにスタークレストをしまう。
「そしてハイセ様。貴方様の旅に、このロウェルギアが同行することをお許しください」
「わかった。俺たちは一度、インダストリーのいるレムリアに戻る。そこで、仲間のシンシアを解放してもらい、インダストリーから最後の鍵である『ムーンクレスト』を手に入れる」
ロウェルギアが頷く。
「そうですな。しかし……インダストリーめ。奴がそう簡単に鍵を渡すとは思えませんな。あやつは、楽しむことしか考えていない」
「だったら殺す。あの野郎は一度、俺らを舐めくさってるからな。出会い頭の発言次第では容赦しない」
ハイセは自動拳銃を抜き、スライドを引く。
ロウェルギア、そしてエクリプスがゾクゾクと身体を震わせた。
「ハイセ、素敵……」
「まったくもってその通り……!!」
「……あの師匠、エクリプスさんとロウェルギアさんって、もしかして」
「同類ってやつね。ふふ、ハイセってばモテるわね」
「うるせえな。ったく……」
すると、ルクシャナが言う。
「ロウェルギアは知ってると思うけど、ここの会話もインダストリーに聞かれてる。あいつ、どんな顔してるかな。まさか、ロウェルギアがハイセに忠誠を誓うなんて、思いつきもしないんじゃない?」
「だが、あいつの出した条件はクリアした」
「だよね。うーん、さらに変なこと言いだす可能性もゼロじゃないと思うけどね。まあ……ロウェルギアがハイセにヘコヘコしてるのを見るだけでも、あいつは大笑いしてるかも」
「フン!! ワタシは仕えるべき神を見つけただけだ。まったくもって失礼な!!」
プンプンするロウェルギア。
ロウェルギアは咳払いし、メルビレドとルヴィトーに言う。
「アナタたち。ワタシがいない間、工場の方を頼みますよ」
「ええ。えーと……銃の開発、研究は中断。魔導船の開発と……あと、国内の観光事業を増やすでしたっけ……いいんですか?」
「ええ!! 今度、ハイセ様たちがいらっしゃったときのために、楽しい町、楽しい国でお迎えしたいので!! ヘスティアにも連絡し、協力を仰ぎなさい!!」
「は~い。わくわくする~」
なんとも極端な国政だった。
とりあえず、工場のみ、武器のみ生産のメガラニカは変わるだろう。
クレアはハイセに言う。
「あの、師匠……メガラニカに来ればもっとこう、バトルとか、戦いとかあると思ったんですけど、なんか一番平和的に解決したような気がしますね」
「……まあ、な」
まったくもってその通り……ハイセはメガラニカで使うつもりだった『武器』や『兵器』が全てお蔵入りになったことを、少しだけ残念に思うのだった。





