メガラニカの魔王ロウェルギア①/心酔
ハイセたちは、マンソンに案内され、大聖堂内にある貴賓室へ。
部屋は全てが黄金色に輝いていた。カーペットは金糸で編まれた最高級品、シャンデリアやテーブル、椅子や調度品も黄金製。ソファーは金糸で編まれた特別製で、座るとものすごく沈んだ。
クレアはハイセの隣に座り、ハイセの腕にしがみついて言う。
「師匠、なんだか全然予定通りいかないですね……ここで魔王様に会うなんて思いませんでした」
「……かもな。だが、好都合だ」
ハイセの隣に座るエクリプスも頷く。
「でもハイセ。いいの? 魔王本人と謁見するのは予定通りだけど……こちらの準備ができていないわ」
「かもな。最悪、戦闘になる可能性もある」
「……ハイセ。あなた、最初からそれを考えてた?」
エクリプスの隣に座るプレセアが言うと、ハイセは「さあな」と言う。
そして、クレアの隣に座るルクシャナが言った。
「やるなら大歓迎。と言いたいけど……魔王ロウェルギアは間違いなく強いよ。インダストリーもだけど、魔王ってのはその国で最も強い魔族って意味でもあるからね」
「問題ない。その気になれば、いくらでもやりようはある」
ハイセの方が不気味だった。
すると、ドアが開きロウェルギアが入って来る。
黄金のローブを纏い、不気味なまでにニコニコしながら両手をポンと合わせ開く。
「いやはや、実にいいお天気で。人間の皆さんとお話するには最高の日ですな!!」
ロウェルギアは、ハイセたちの前に座る。
するとメイドが、黄金のカップに紅茶を注ぎ全員へ配った。よく見ると紅茶の色も黄金である……得体が知れないので、ハイセたちは誰も手を付けない。
「さて!! 人間の皆さん」
「待て」
ロウェルギアが何かを言おうとしたが、ハイセが止めた。
「お前が会話の主導権を握るんじゃねぇよ。こっちの要求をまずは聞いてもらおうか」
「黄金銃の破壊」
ロウェルギアが、間髪入れずに答えた。
ロウェルギアの表情は変わらない。
「インダストリーから聞きました。アナタ方は……我ら『ノブナガ教』の至宝である『黄金銃』を破壊するために来た、とか」
「そうしないと、俺らの目的が達成できないんだよ。それにもう一つ用事はある」
ハイセは、ロウェルギアに向かって手を差し出す。
「ネクロファンタジア・マウンテンに通じるゲートキーを貸せ」
「…………」
ロウェルギアは、まだニコニコしているが、どこか張り付けたような笑みだった。
一方、顔色の悪いクレアはボソボソ言う。
「し、師匠……なんか、こっちが悪役としか思えない態度なんですけど」
「それがハイセじゃない」
「んん、やっぱりハイセは素敵……!!」
プレセア、エクリプスは慣れているのか平然としている。
ロウェルギアは、眼鏡をクイッと上げた。
「条件次第、というところですな」
「言え」
「まず……黄金銃の代わりとなる『武器』を、ノブナガ様と同じ『能力』を持つアナタ様に生み出してもらうことは可能ですかな?」
「モノによる」
「そしてもう一つ。ネクロファンタジア・マウンテン……魔王が持つ三つのゲートキーと、大魔王ヒデヨシの認証がなければ開かないノブナガが作りしゲートの先にあるモノがなんなのか」
ロウェルギアは急に立ち上がり、目をギラギラに輝かせて言う。
「ネクロファンタジア・マウンテン。このワタクシにも同行の許可を!!!!!!」
「「「「え」」」」
ロウェルギアは、ハイセたちの仲間になりたい。間違いなくそう言った。
「ワタクシは見てみたいのです!! ノブナガ様がゲートの先に何を残したのか? 災厄だけではない何かがきっとある。ワタクシはそう思っています!! だが……ワタクシの持つゲートキーだけでは、ゲートを開くことができない。というか……このワタクシですら、深度5の先にあるゲートまでたどり着くのに命懸けでした。ですが……アナタ方なら、可能。ヘスティアを懐柔し、インダストリーの条件を間もなくクリアし、そしてワタクシのキーを手に入れ、ヒデヨシの認証を突破した時……ノブナガ様が最後に残したモノを、見ることができる!!」
「「「「「…………」」」」」
ぜーはーぜーはーと、肩で息をして一気に喋ったロウェルギア。
ハイセたちは無言だった。それくらい、衝撃だった。
するとロウェルギアは、胸元から透明なケースを取り出しテーブルへ。
それは、黄金に輝くリボルバーだった。
「これが、本物の『黄金銃』……ノブナガ様が残した、最後の銃です」
「……本物だな」
ハイセにはわかる。
目の前にある黄金銃は、『武器マスター』によって生まれた銃だ。
クレアたちには、レプリカとの区別が付いていないようだが。
ルクシャナが言う。
「で、ハイセに何を作ってもらうんだ?」
「ククク……そんなの、決まってるじゃあないですか」
ロウェルギアは立ち上がり、両手を広げ、ゆっくりと頭上で合わせる。
クレアが「おおおー」とその動きを見て声を出したが、エクリプスとプレセアは白けている。
ロウェルギアは言う。
「ずばり……『ミサイル』です!!」
「「「「「…………」」」」」
ミサイル。
ハイセはため息を吐き、指をパチンと鳴らす……すると、背後に六メートルほどの物体が召喚された。
「こいつか?」
「ッッッッッ!!!!!!」
正解のようだ。
ハイセはルクシャナに言う。
「ルクシャナ、触れてみろ」
「え? ああ、うん……おお」
ルクシャナがミサイルに触れると、一瞬で霧のように消えた。
「こいつは、俺が敵と認識した物体に命中すると爆発する。銃弾にも言えることだが……他者が触れると今みたいに消える。こいつでいいんだな?」
「ええ、ええ、ええ、ええ、ええ!! うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
ロウェルギアは絶叫した。あまりにうるさいので、全員が耳を塞ぐ。
「ご存じですかな!? この『ミサイル』は、ノブナガ様が使用した武器で最も威力のある、あの『七大災厄』の一体を屠った武器!! 銃を遥かに超える威力!! 芸術品のようなスタイル!! 何もかもが芸術、ドリーム、最高!! オオオオオオオオオオオオオオオ!!」
「め、めちゃくちゃ言ってますけど……師匠」
「放っておけ。なんなんだこいつは」
「ねえハイセ……この人、本当に仲間になるの?」
「……私、ちょっとお付き合いしたくないわね」
エクリプスとプレセアはイヤそうに顔をしかめる。
ルクシャナが言う。
「まー、とにかく条件は整った感じ? ハイセ、その黄金銃だけど」
「ああ。壊す……おいロウェルギア、いいな?」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
ロウェルギアは聞いていない。
ハイセはルクシャナを見ると、ルクシャナは一瞬で剣を抜いてケースを破壊。宙に浮いた銃をハイセが掴む……が。
「……俺が掴んでも消えないな。『武器マスター』の武器は、同じ能力者なら触れても消えないのか……はは。ん……?」
ふと、ハイセの胸の奥が熱くなった。
久しぶりの間隔だった。ハイセは苦笑する。
「ロウェルギア」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお……あ、はい?」
ハイセに言われ、ようやくロウェルギアが戻って来た。
そして、黄金銃を手にし、ガンスピン、ジャグリングをする。
「こいつは破壊する。その前に……ノブナガの銃を撃たせてくれ」
「う、撃てるのですね!? み、見たい、見せて下さい!!」
ロウェルギアはバタバタと部屋を出ると、一分経たずに戻って来た。
手には的があり、それを自分の手で壁にくっつけていく。
「ささ、どうぞ!!」
ハイセは、弾薬を込めてシリンダーを回転させる。
銃を回転させ、ハイセは的に銃口を向ける。
そして、引金を連続で引く……銃の破裂音が室内に響き渡り、六発全てが的のど真ん中に命中。的には穴が一つしか空いておらず、弾丸は壁を突き破って外にまで飛び出して行ったようだ。
「いい銃だ。壊すのは惜しいが……ロウェルギア」
ハイセは、黄金銃をロウェルギアに差し出した。
「お前が触れろ」
「……あぁぁ」
光栄……と言わんばかりにロウェルギアは跪いた。
後光がハイセから見えた。
ロウェルギアは、銃を撃つハイセの姿にノブナガを重ねて見てしまった。
ハイセが差し出した銃にロウェルギアは降れると、黄金銃は塵となって消えた……が、ロウェルギアはもう銃を見ていなかった。
「ハイセ様」
「ああ。ん……さ、様?」
「ワタクシ、決めました。メガラニカの魔王ロウェルギア、アナタ様に絶対の忠誠を誓います」
「……なんでそうなる。とにかく、ミサイルを安置する場所を用意しておけ」
「はっ!!」
ロウェルギアは部屋を出て行った。
代わりに、何人もの魔族が入って来る。
「ハイセ様。我々、貴方様に仕えるようご命令を受けました。ご足労をかけますが、宿への移動をお願いします」
「あ、ああ」
「な、なんか待遇が変わりましたねー」
「……プレセア、どう思う?」
「どうもこうも、ロウェルギアはハイセに惚れた、ってところでしょ」
何もかも予定通りに行かない。しかも、予想外のことばかり起きた。
ハイセたちはロウェルギアの用意した超高級宿へ移動することに。
部屋を出る時、ルクシャナは呟いた。
「インダストリー、見てる? どーやら、あんたの予想通りにはならなかったみたい」
ルクシャナは、インダストリーがこの状況をどんな顔で見ているのか、考えるだけで笑いが込み上げてくるのだった。





