大聖堂にて
『ノブナガ大聖堂』。
名前からして、ノブナガを祭るための聖堂だとわかる。
ハイセたちは、大聖堂前の広場で、広場中央にある『銃』を掲げた黄金像を眺めていた。
それを見て、エクリプスが言う。
「この『ジュウ』を掲げている人……これが、ノブナガなのかしら」
「こんな広場の中央で、黄金製で、銃を掲げてる人物なんてノブナガしかいないだろうな」
「……ねえ、なんだか既視感があるわ」
プレセアが、ハイセと黄金像を交互に見て言う。
「なんだか、ハイセに似ていない?」
「……はあ?」
「……確かにね。でも、ハイセのが素敵よ」
エクリプスが頬を染めて言うが、ハイセは微妙な顔をした。
黄金像は、ハイセがかつて『日記』で見たイラストそっくりの姿をしていた。
「テンガロンハット、スカーフ、ウエスタンコート、カウボーイブーツ……ノブナガが好きな『セイブゲキ』のスタイルだな」
「「セイブゲキ?」」
「ああ。ノブナガの世界でいう、過去の恰好らしい。俺もよくわからんけど……」
すると、クレアとルクシャナが来た。
「師匠師匠、見てください!! 私もジュウです!!」
クレアは、自動拳銃を手にしていた。
よく見ると、聖堂近くの露店で売っているようだ。ルクシャナは小さな銃のネックレスを手にし、エクリプスとプレセアに渡す。
「ジュウのアクセサリーも売ってるぞ。ここ、観光地としてはなかなか栄えてるんじゃないか?」
「へえ、なかなか凝った細工ね」
「ジュウ……ハイセの武器。ふふ、うれしい」
エクリプスはルクシャナに「ありがとう」とお礼を言い、ネックレスをハンカチで包んでポケットへ。
ハイセは、銃を見せびらかすクレアを押しのける。
「とりあえず、大聖堂を見てみるか……」
ハイセたちは、大聖堂へ向かうのだった。
◇◇◇◇◇◇
大聖堂の正門は解放されており、誰でも中に入れるようだった。
だが……入るなり、ハイセは物凄く嫌そうな顔をする。
「これはこれは。あなた方が、異国から来た方たちですね。メルビレド様からお伺いしております……ノブナガ様と同じ、人間の方々」
やって来たのは司祭だろう……だが。
ウエスタンポンチョを身に纏い、テンガロンハットをかぶり、カウボーイブーツを履く司祭など存在しない。あまりにも不釣り合いな格好に、ハイセは何も言えなかった。
だが、クレアは言う。
「すごい恰好ですねー」
「これが正装です。かつて、ノブナガ様が愛した服装を、ノブナガ教では正装としています。そして、仲間の証である……」
すると、司祭はホルスターからリボルバーを抜き、クルクル回転させて突きつけた。
「この、『ジュウ』です。選ばれし司祭のみ所持を許される『リボルバー』……お初にお目にかかります。私は『リボルバー司祭』の一人、マンソンと申します。今回、あなた方の案内を担当します」
「り、リボルバー……しさい?」
クレアが首を傾げる。
マンソンは笑顔で言う。
「司祭の称号のようなものです。我々は『ハンドガン』から始まり、『リボルバー』で教えを広め、『アサルトライフル』を目指し、『ガトリングガン』に至る……ノブナガ様の元へ近付くために、日々修行を行っております」
「……頭痛ぇ。サーシャと交代していいか?」
何を言ってるのか、ハイセには理解不能だった。
エクリプスやプレセアもポカンとしており、ルクシャナとクレアは首を傾げるだけ。
マンソンは微笑んだ。
「ふふ。すぐにわかりますよ、魔王ロウェルギア様も、間もなく礼拝に参ります……では、聖堂をご案内いたします」
「待て。ロウェルギアが来る?」
「ええ。メルビレド様は毎日のお祈りを欠かしませんので……ですが、何人たりとも、ロウェルギア様の祈りを邪魔することはできません」
「……まあいい。そいつとは、魔王城で謁見するか」
マンソンは、施設内を案内してくれた。
大聖堂中央にあるノブナガの大黄金像の前に到着する。
「でっかいですねー!!」
「ノブナガ様です。あちらに、肖像画もありますよ」
マンソンが示した方向には、巨大な絵画があった。
そして、ハイセ、エクリプス、プレセアは驚く。
「……やっぱり、似てるわね」
プレセアが言った通りだった。
眼帯をしていない、両目のあるハイセに似ていた。だが、笑顔を浮かべており、目も輝いている。
プレセアはクスっと笑う。
「綺麗なハイセ。ってところかしら」
「うるせ」
「私は、今のハイセのが好きよ」
エクリプスがほほ笑むが、ハイセは何も言わない。
肖像画をしばらく見つめていると、マンソンがいきなり銃を抜き、クルクル回転させて肖像画に突きつけた。
「ノブナガ様の手遊び。ガンスピン、ガンジャグリングと言います。ノブナガ様のために祈る儀式で行われるのですが……やってみますか?」
「はいはーい!! 私がやってみます!!」
クレアは、露店で買った銃をクルクル回すが、うまくいかないようで眉を顰める。
「ぐぬぬ、難しいです。師匠みたいに上手くいかないですね」
「……」
「おや。あなたはできるのですか?」
「……まあ」
ハイセは、手慰みでよく銃を回している。自慢するわけではないが、ガンアクションは得意だ。
すると、マンソンが言う。
「もし、私を満足させるアクションができるのなら、ノブナガ様の残した『黄金銃』を閲覧する許可を出しましょう。どうですか?」
「……いいのか?」
「ええ。問題ありません」
そもそも、ハイセたちは『黄金銃』を破壊するために来たのだ。
インダストリーが関わっている以上、ハイセたちの前に見せることは危険ではないのか、と思ったら。
「もちろん、レプリカですけどね。ですが、選ばれし者しか視界に入れることができない、高貴な『銃』です。見る価値はありますよ」
「……まあ、いいだろう」
すると、ハイセはコートの内側に手を突っ込み、リボルバーを両手に持つ。
そして、その場で高速回転させ、さらにジャグリング。銃を空中に放りキャッチしガンスピン。
「おおお……!!」
「わあ、師匠~!!」
最後に、一丁をホルスターに、もう一丁をスピンさせマンソンに突きつけた。
「どうだ、資格ありか?」
「文句など付けようございません。御見それいたしました……!!」
マンソンは深々と一礼。ハイセは頷いた。
そして、クレアは腕にしがみつく。
「ふふん。私の師匠はすごいんですよ!!」
「おっどろいた。アンタ、ほんとすごいねー」
ルクシャナも驚き、笑っていた。
ハイセはどうでもいいのか、マンソンに言う。
「とにかく、『黄金銃』を見せてくれ」
「はい。こちらでございます」
ハイセたちは、マンソンの案内で別室へ。
大聖堂の奥にある特別室。マンソンが守衛に銃を見せると扉が開いた。
「わあ~、真っ白な部屋ですねえ」
クレアの言う通り、部屋は真っ白だった。
そして、部屋の中央に祭壇があり、ケースの中に黄金の銃があった。
ハイセたちが近づく。
「こいつが『黄金銃』か……外見はリボルバーと同じだ」
黄金のリボルバー……ハイセはそう思った。
クレアたちもまじまじ見ているが、銃になじみがなく興味も薄いのか、あまり関心を示さない。
「これはあくまでレプリカ。本物は、ロウェルギア様が厳重に」
「そう!! 本物はワタクシが管理しています」
突如、聞こえてきた男の声。
全員が振り返ると、そこにいたのは 黄金のローブを身に纏い、竹箒のように逆立った金髪、側頭部からねじ曲がった二本の角、小さな丸眼鏡をかけた男だった。
天井を見上げ、歯茎を剥き出しに微笑み、眼鏡を押さえている。
「初めまして初めまして。人間の皆さん……ワタクシ、メガラニカの魔王ロウェルギアと申します。アナタですねえ? ノブナガ様と同じチカラを持つというのは」
ロウェルギアは、ハイセを見て歯茎を剝き出しに微笑む。
ハイセはすでに戦闘態勢。本物の銃を抜き、ロウェルギアに向ける。
どう見ても友好的ではない。マンソンなど、なぜここに魔王ロウェルギアがいるのか、本気で理解していないのか震え、跪いていた。
ハイセだけじゃない。エクリプスもまた魔力を漲らせ、プレセアは警戒、ルクシャナは魔王と敵対すべきか迷い、クレアはハイセの隣で剣を抜いた。
「だったら何だ」
「フフフ。まずは自己紹介しませんか? ワタクシ、アナタに興味がありますので」
こうして、何もかも予定通りに行かず、ハイセたちは『魔王』ロウェルギアと会ってしまうのだった。





