第二区画『ノブナガ大聖堂』
夕食を終え、ハイセはシャワーを浴びて自室の椅子に座り、自動拳銃をテーブルに置いた。
そして、愛銃にしてメインウエポンでもある自動拳銃を手に取り、アイテムボックスから水のボトルを出して飲みながら思う。
「武器。こんなモンの、どこに崇拝する価値があるんだか」
ボトルを置き、ハイセは銃をバラバラにし、再度組み上げる。
これまでは、手元から消して再び顕現させると、弾丸も装填され、新品な状態で手元に現れる。
実際、そちらの方が便利だ。だが、銃を理解することによって使用できる銃器、兵器が増えることがわかり、ハイセは威力がある大型拳銃ではなく、使いやすい自動拳銃をメインウエポンにし、専用のホルスターに納め、暇があれば分解したり、掃除をしていた。
今、ハイセの手元にある自動拳銃は、ずっと使い込んでいるのでかなり傷が付いている。
わかっているのは、ハイセ以外の誰かが触れるか、ハイセ自身が消さない限り、この自動拳銃は永遠に残る。傷つき、錆び、使用不能になるまで、永遠に。
「……ノブナガの『黄金銃』だったか」
ハイセは目を閉じ、『黄金銃』と念じて『武器』を顕現させようとした……が、考え付く限り、『黄金銃』という名の銃器は使うことができない。
現時点で、ハイセがノブナガよりも劣っていることは間違いない。
「……『武器マスター』か。ノブナガは、どこまで使えたんだろうか」
ノブナガは、『兵器』の力で人間界と魔界の行き来をしていた。
ハイセは『武装ヘリコプター』を使うことができる。が……それで人間界と魔界の行き来ができるかどうかは不安だった。
それに、現時点で信用できるのはヘスティアだけ。移動手段が明確になるのは避けるべきでもあった。
「魔界では、人間界と行き来をする方法を探しているんだっけか……以前出会った魔族は、物資目的で人間界に来ていた。恐らく、そいつらが所属しているのは、メガラニカだろうな」
ハイセは再び水を飲む。すると、ドアがノックされた。
「あの~、師匠」
ドアを開けると、寝間着姿のクレアがいた。
「何か用か」
「あの~、ちょっとだけでいいので、お話しませんか?」
「あ?」
「その……ルクシャナさんのいびきがすごくて」
部屋割は、ハイセ、プレセアとエクリプス、ルクシャナとクレアだ。
時間は深夜。ハイセもそろそろ寝ようと思っていたが。
「……はあ。少しだけだぞ」
「やったあ」
クレアを部屋に入れ、ハイセはアイテムボックスからホットミルクを出した。
「わあ、師匠のアイテムボックスってホットミルクも入ってるんですね。なんか絶対に飲まなそう」
「追い出すぞ」
「じょ、冗談ですよー」
ふと、気付いた。
クレアはタンクトップに短パン、スリッパだけの姿。
今のハイセも、黒いタンクトップにハーフパンツとかなりラフだ。しかもクレア……下着を着けていないのか、胸の形が強調され、小さな突起も見える。
ハイセはそれを見ないようにしながら、アイテムボックスから薄手の上着を放る。
「わわ、なんですか」
「風邪ひくぞ」
「えー? あ」
と、自分の姿に気付いたのか、クレアは顔を赤くして上着を羽織る。
そして、誤魔化すように「あ、あはは」と笑い、ホットミルクを飲み始めた。
「あの、師匠……メガラニカでの用事が済んだら、レムリアに戻るんですよね」
「ああ」
「その後は……魔王インダストリーから、ゲートキーを」
「ああ。奴の出方次第では、奪って殺すことも視野に入れてる」
「うう……相変わらず、容赦のない師匠です」
クレアはホットミルクを飲む。
「そして、三つのキーを揃えて、大魔王のところへ」
「そうだ。三つのキー、ヒデヨシ、それが『ネクロファンタジア・マウンテン』への道を開く鍵だからな」
「鍵を揃えて、魔界の中心へ行って、最後の七大災厄を倒して……『ネクロファンタジア・マウンテン』を攻略する」
「……お前、何を確認してるんだ?」
「……師匠。そのあとは? 禁忌六迷宮を攻略したら……私は、どうすればいいんでしょうか」
「……それを、俺に聞くのか?」
クレアは、迷っているようだった。
ハイセは、禁忌六迷宮を攻略したら、冒険者として生きていくことを決めている。
冒険者以外にはなれないとわかっている。だが……クレアは、迷っている。
「私は、師匠と一緒にいたいです。最強の『ソードマスター』になるって夢もあるし……でも最近、本当にそれでいいのか、迷ってます」
「……」
「師匠。私は……」
「俺の元を去るなら、俺はそれでいい」
「……っ」
「お前の冒険だ。お前が決めることで、俺はお前のことを鍛えるつもりはあっても、お前の人生に口出しするつもりはない」
「……師匠」
「迷っているなら、迷い続けろ。お前の中でしっかりとした答えが出るまで……迷い続けて、歩き続けろ。それが、お前の道、S級冒険者として歩む道だ」
「……」
クレアは頷き、にっこり微笑み……ハイセの隣に移動し、腕を取る。
「えへへ。やっぱり師匠は、私の大好きな師匠です。私が歩む道を、しっかり照らしてくれます」
「……だから、何度も言わせんな。お前はくっつくな」
どうも、わざとなのか……胸を当てるように、甘えるようにくっつくクレア。
今は、シャツ一枚で下着も付けていない。柔らかな胸がハイセの素肌に触れるが、クレアは気にしていないように見えた。
「よーし!! 魔王を倒して、魔界に平和をもたらしましょう!!」
「意味わからん。ったく……」
「えへへ、師匠」
「……とにかく、明日は聖堂に行く。早く寝ろよ」
「でもでも、ルクシャナさんのいびきがうるさくて、寝れませんよー」
「じゃあ廊下で寝ろ」
「えー、ここで寝させてください。一緒にベッドでもいいですよ」
「出てけ」
結局、クレアにベッドを取られ、ハイセは椅子に座って練ることになった。
◇◇◇◇◇◇
翌日、ハイセたちは第二区にある『ノブナガ大聖堂』へ向かった。
歩きで移動中、プレセアがハイセに言う。
「……ハイセ。あなた、クレアと寝た?」
「何を想像してるかしらんが、ルクシャナのいびきがうるさくいせいで、俺のところに押しかけて来ただけだぞ」
「……本当に、クレアには甘いのね」
「……正直、否定できん」
自覚があるハイセ。クレアは、エクリプスと楽しそうに喋っている。
すると、ルクシャナが言う。
「おい見ろ。あれ」
指差した先にあったのは、なんとも巨大な『聖堂』だった。
神殿と言ってもいいかもしれない。それか城。
頭頂部には、拳銃を模したレリーフが飾られており、ハイセは何とも言えない気分になった。
「……あれが、ノブナガ大聖堂」
「その通り」
すると、ハイセたちのいる通りの路地から、メルビレドが現れた。
「いやはや、すぐに第一区へ来るかと思いきや……まさか、情報収集のためにノブナガ大聖堂へ来るとは。ああ気にせず気にせず。すぐに来いとは言ってませんので。くふふ、まあまあ、メガラニカを楽しんでから会いに来てください。では」
そう言い、ハイセたちが何かを言う前に、メルビレドは路地に消えた。
ポカンとしていると、クレアが言う。
「えーと……じゃあ、エクリプスさん、行きましょうか!!」
「そうね。ねえハイセ……あのレリーフ、ちょっと面白いわね」
「俺は何か嫌だ」
こうして、ハイセたちは『ノブナガ大聖堂』へ向かうのだった。





