おかしなところ
工業国メガラニカに向かい、四日が経過した。
馬車は順調に進んでいる。あとはメガラニカに向かい、銃をエサにしてロウェルギアと謁見するだけ。
馬車に揺られながら、ハイセは銃のマガジンから弾丸を抜つつルクシャナに聞く。
「ルクシャナ。魔王ロウェルギア側には、『オーバースキル』の保持者はいるのか?」
「いるよ。ってか、ロウェルギア自身もオーバースキル持ち」
「能力は?」
「『冥神』……闇属性の使い手。戦ったことないからわかんないけど、インダストリーと同じかそれ以上は強いと思う」
「……なるほどな」
ハイセはマガジンに弾丸を込め、再びマガジンを銃に装填する。
手慰み。暇さえあれば銃に触り、分解し、ハイセは理解を深めていく。そうすることで使用できる武器が増えていたが……最近はさっぱり増えない。
だが、理解することは悪いことではない。ハイセは暇さえあれば銃をいじっていた。
「あとは、『嵐神』と『獣神』……こいつらはマジ強い。アタシと同じくらいで、なおかつロウェルギアの崇拝者」
「……嵐と、獣ね」
エクリプスが、ハイセの作った木彫りの鳥を弄びながら言う。
穴を開け、紐を通し、魔法で劣化しないように保存し、今は首に下げている。ルクシャナに言いつつも、視線は木彫りの鳥に向いていた。
そして、猫の木彫りを弄りながらプレセアが言う。
「戦う可能性、ある?」
「さーね。でも、ヤるなら大歓迎。アンタらもでしょ?」
「俺はどっちでもいい」
「ふふ。私はハイセの望むままに」
「私、戦闘は好きじゃないし、得意じゃないわ」
なんとも静かなメンバーだった。
ルクシャナは、荷車の床にゴロンと寝転んでいう。
「アタシが知ってるのはこれで全部。あとはもう、行ってみないとわかんないわ……でも、銃とノブナガの信者はマジで関りたくない」
「……とりあえず、エサはあるんだ。主導権はこっちにある」
ハイセは、自動拳銃をクルクル回して言うのだった。
◇◇◇◇◇◇
メガラニカが近づくにつれ、周囲の景色が妙な感じになっていた。
「……ねえハイセ。街道……すごく綺麗だわ」
プレセアが言う。
指先に精霊が纏わり付いており、言われずとも周囲、先を探っているようだ。
荷車から身を乗り出し街道を確認すると、これまでとは少し違う。
「……この道、見たことあるな」
道は、綺麗に舗装されていた。
ただの舗装ではない。土の地面を平らにし、さらに『泥のような何か』を流して固め、スベスベにしたしてあった。そして道路の中央にはオレンジ色の線が引かれ、その両隣には点線が描かれている。
ちょうど、馬車が通れるサイズの道になっていた。
ハイセは思い出したように言う。
「……以前、これと似た道を見たことがある。禁忌六迷宮、『デルマドロームの大迷宮』の下層……そういえば、ノブナガの日記に書かれていたな」
ハイセは、日記を取り出しページをめくる。すると、久しぶりに読める項目があった。
◇◇◇◇◇◇
〇月〇〇日 曇りのち雨
道の舗装について意見を求められたけど……専門家じゃねぇしよくわからん。とりあえず『アスファルト舗装』とか、車が走ること想定して『二車線』とか、『中央線』とか提案してみたら、みんなすげえ驚いていた。オレの感覚じゃあフツーのことなんだけど、異世界じゃ画期的アイデアっぽい……これってある意味『チートで無双』かもしれん。はっはっは。
◇◇◇◇◇◇
日記を閉じ、ハイセは言う。
「アスファルト舗装、このオレンジの線は『中央線』で、こっちの点線は『二車線』ってやつか? エクリプス、馬車を左側の、一番左に寄せてくれ」
「ええ、わかったわ」
エクリプスは手綱を握り、馬車を右に移動させる……すると、向かい側から馬車が、右側を通って走って来た。さらに、別の馬車が別の車線を通り、馬車を追い抜いていき、そして再び車線を戻る。
「なるほど。これが『左車線通行』ってやつか」
「意味不明……ハイセ、どういうこと?」
「ノブナガの決めた……というか、ノブナガのいた世界のルールだ。馬車はこの線の左側を、追い抜く場合はその隣の斜線、オレンジの線を越えてはいけないルールらしい」
「ふーん……変なの」
「でも、理にかなっているんじゃない? 馬車同士の衝突なんて珍しくないことでしょう? でも、このルールなら衝突することはないわ」
エクリプスが言うと、プレセアは納得したのか頷く。
ハイセはルクシャナを見た。
「ルクシャナル。メガラニカでは、こういうルールがあるのか?」
「さあ? アタシ、メガラニカ行ったことないし」
「……めんどくさいことにならないといいが」
馬車は、左側を進む。
『アスファルト舗装』のおかげで揺れもなく、ウノー、サノーも走りやすそうだった。
何度か馬車とすれ違う。そして、かなり大きな荷物を載せた馬車とすれ違った。
金属製の『コンテナ』とハイセは気付き、コンテナをいくつも連結させて運ぶ馬車が通る。馬十頭で引いているのを見てハイセは言う。
「すごいな……あれ、何を運んでいるんだ?」
「メガラニカ行きなら、資材かしら……一応」
プレセアが指をならすと、黒い光がコンテナの一つに吸い込まれていった。
「マーキングよ。何が役に立つかわからないからね」
「……お前のそういうところ、かなり助けられてるな」
「……いきなり何?」
「別に」
ハイセは柄にもないことを言ったことを後悔、プレセアは少しだけ頬を染めていた。
エクリプスが少しだけムスッとするが、軽く咳払いして言う。
「こほん。ハイセ……工業国メガラニカに入るのはいいけど、全員で行動するのかしら?」
「その件は俺も考えていた。今夜、話し合おう」
「わかったわ」
そして、夕方になり街道から少し外れ、木々が生い茂る森に馬車を停めた。
食事をし、焚火をして紅茶を飲んでいると、なんとアイテムボックスからクレアが飛び出してきた。
「ふいー、やっと出て来れました!! 師匠、いきなり眠らせるなんてひどいです!!」
エクリプスを見ると、困ったように言う。
「一週間は寝たきりになる特別な魔法だったけど……あなた、どうやって目覚めたの?」
「えーと、エクリプスさんの睡眠魔法を珍しがったタイクーンさんが、解呪の魔法をいろいろ実験して目覚めました。うう、いつの間にか実験台になってました」
「ふーん。タイクーン、やはり優秀ね」
ちなみに、エクリプスの寝たきりになる魔法は、魔法そのものに栄養を込めてあるので、一週間寝たままでも餓死したりすることはない特別な魔法だった。
「タイクーンさん、ヒジリさんも起こそうとしたので止めました。えへへ、師匠、これからは一番弟子のクレアがお役に立ちますよ!!」
「……わかったからくっつくな」
クレアはハイセの隣に移動し、腕を掴んでギュッと胸を押し付ける。
こうして、賑やか担当のクレアがパーティーイン。
ハイセは、めんどうなので本題に入ることにした。
「エクリプスが日中に言った件だが……魔王ロウェルギアには、俺とルクシャナが謁見する」
「……理由は?」
「えと、なんの話ですか?」
途中参加のクレアは首を傾げるが、ハイセは説明する気がないようだ。
「念のためだ。俺と案内のルクシャナ、エクリプスを中心とした街での待機組に分ける。メガラニカは『ヤバイところ』らしいからな……人間である俺らが集まって行動するリスクは避ける」
「つまり、パーティー分断ってことね」
「ああ。メンバーがいるアイテムボックスもエクリプスに預ける。エクリプス……お前の魔法で、姿を消したり、姿を変えることはできるか?」
「可能よ。例えば」
エクリプスはクレアに向かって指をパチンと鳴らすと、クレアの肌が褐色に、髪はそのまま、頭からツノが生えてきた。
「え、え、なんですかこれ!!」
「魔族の擬態魔法。使えると思って、待機中に考えていたの。幻影だけど、魔力で作った実体のある幻影を肉体に投射しているから、まず見破れないわ」
「おお、すごいじゃん。ね、ね、その理論だと、アタシも人間になれる?」
「ええ。ツノを消して、肌の色と髪色を変えるだけなら」
ハイセは、鏡を見て驚いているクレアを見て言う。
「これは便利だな……よし。町に入る前に、お前たちはこの偽装をして町で待機。俺、ルクシャナは人間として、魔王ヘスティアの『魔王印』を使って、銃をエサに魔王に謁見する。プレセア、俺に精霊を付けておいて、俺が危険信号を発したら乗り込んでこい。エクリプス、その場合……」
「ええ。容赦しないわ。ふふ、S級冒険者序列二位『聖典魔卿』の力を見せてあげる」
「よし……とりあえず。戦いは最終手段。まずは俺がロウェルギアと話す」
「師匠!! よくわかんないですけど……弟子の私は師匠と行きますからね!!」
「ああもうわかった。くっつなっての」
ツノが生えたままのクレアがハイセにくっつくと、ツノの先がチクチク当たって地味に痛い……そんなことを想うハイセだった。





