メガラニカに向かって
ウノー、サノーが引く馬車は順調に進んでいた。
もう、産業国レムリアは見えない。真っすぐに伸びる街道を、馬車はひたすら進む。
車内にいるのは、ハイセ、エクリプス、プレセア、ルクシャナの四人。
ウノー、サノーは頭がいい。御者は特に必要ないので、四人は馬車で自分の時間を過ごしていた。
ルクシャナは、三人を見る。
「ねー、なんか会話ないの?」
ハイセは、リネットからもらったナイフで、木を削って何かを彫刻していた。
プレセアは、指先に黒い光を宿し、弄んでいた。
エクリプスは、ハイセの傍に座り、本を読んでいた。
三人はルクシャナを見て言う。
「まだ初日だ。特に会話する必要ないだろ」
「私は、ハイセの傍にいれたら十分」
「私も、会話する必要性を感じないわ。外は精霊に見張らせているし」
基本的に、この三人は静かなタイプだ。
ルクシャナは退屈なので、車内に寝転がって言う。
「アタシは退屈よ。たぶん、メガラニカでは戦闘になる。なんかこう……アタシに聞きたいことないの? 工業国メガラニカについてとか」
「いずれ聞く。でも今は、まだ冷静になれていない……考えることも多いし、今は心を落ち着かせるまで、待ってくれ」
「はいはい。意外と繊細なのね」
ルクシャナは欠伸をすると、なぜかプレセアの傍へ。
指先に灯った炎が気になるのか、ジッと見ている。
「何?」
「この光、すっごい綺麗ね。あなた、どういう能力?」
「『精霊使役』の能力よ。魔界の闇精霊とお話してるの」
「へえ、そんな力あるんだ。ね、私も会話できる?」
「それは無理。でも……」
プレセアが命じると、ルクシャナの周囲に黒い光がいくつも集まり、クルクルと旋回する。
ルクシャナは「あはは」と笑い、光に触れようと手を伸ばしていた。
「平和なもんだ……」
ハイセは、木彫りの小鳥を彫り終えた。
器用なこともあり、そのクオリティは高い。
そして、それをエクリプスに。
「え、く、くれるの?」
「いらないなら捨てていい」
「い、いるわ。ありがとう……大事にする」
ハイセは頷き、別の作品を彫り始めた。
すると、プレセアがハイセの隣に座る。
「私、猫の木彫りが欲しいわ」
「なにリクエストしてんだよ……ったく」
結局、ハイセはネコの木彫りを作り、プレセアに渡すのだった。
◇◇◇◇◇◇
その日の夜、ハイセたちは焚火を囲い、これからの話をすることにした。
食事はハイセの出した肉串、シム-ンの作った栄養たっぷりの野菜スープだ。
ルクシャナは「うまい、おかわり!!」と三杯もおかわり。シム-ンがいれば喜んだろうとハイセは思いつつ、おかわりをよそう。
そして、食後……ハイセはルクシャナに言う。
「メガラニカの魔王ロウェルギアって、どんな奴だ?」
「狂人よ。初代大魔王ノブナガの崇拝者でね……子孫ってこともあり、その崇拝っぷりは常軌を逸してる。そもそも、メガラニカの始まりは『銃』の研究から始まって、兵器開発になったって聞くわ」
ルクシャナが「つまんない国」と肩をすくめる。
そしてプレセア。
「魔導武器だったかしら……それ、強いの?」
「ええ。アタシは趣味じゃないけど、魔族の魔力を吸収して奇跡を放つ武器。パシフィスやレムリアでは、一般人が持つことは禁止されてる。持つ条件が『ノブナガ教』に入信することなんてアホじゃん?」
「……なんだ、それ」
「初代大魔王ノブナガを崇める宗教よ。現在の大魔王ヒデヨシは無関係……ロウェルギアのやつ、ヒデヨシ様を大魔王と認めていないのよね」
「……歪んでいるわね」
エクリプスが紅茶を飲みながら言う。
ルクシャナも「ほんとよね」とウンウン頷いた。
「メガラニカでは、観光とか期待しない方がいいわよ。あそこ、魔導武器開発の施設ばかりだし、住んでる人の全員が施設で働いてる。あるのは……デカい教会、工場、研究所、わずかな商店ばかりね」
「……退屈そうなところだ」
ハイセがつまらなそうに言う。
そして、プレセアも言う。
「で、そのロウェルギアが管理している『銃』を破壊しないと、シンシアの命がないのよね」
「そーみたいね。でも、ノブナガの残した最後の『銃』は、厳重に管理されてて、ロウェルギアとその側近しか見ることできないって聞いたわ。お披露目が数十年に一度あるとかないとか……」
「とにかく、魔王ロウェルギアに謁見するしかないだろ。そのための材料はある」
ハイセは自動拳銃を召喚しクルクル回す。
ロウェルギアに会うための材料としては最高だった。
「……」
「プレセア。どうしたの?」
プレセアは、現在いる森の奥を見ていた。
「……見られているわ。と言っても、人じゃない……精霊?」
「何? お前以外の『精霊使役』使いがいるのか?」
「厳密には違う。どうやら、魔族のスキルによって使役されているみたいね」
「それ、インダストリーの監視よ。ロウェルギアの『銃』を壊す瞬間を、あいつが逃すはずないもんね。どっかで見てること間違いないわ」
「……最悪な野郎だな」
ハイセは舌打ちする。
「とにかく、工業国メガラニカに向かうしかない。そのあとは、俺の銃で『交渉』する」
「……どういう交渉? あなたが言うと不穏しかないわ」
プレセアがジト目でハイセを見るが、ハイセは何も言わなかった。
エクリプスが言う。
「さて、水浴びでもしましょうか。プレセア、ルクシャナ、あなたたちもどう?」
「お願いするわ」
「そーね。おねがい」
エクリプスが土魔法で四方に壁を作り、魔法でお湯を出し、三人でシャワーを浴び始める。
「すっご!! エクリプス、アンタって器用なのねー」
「ふふ。私がいる限り、衣食住で困ることはないからね」
「……」
「あれ、プレセアなんで黙ってんの?」
「……別に」
プレセアの視線が、エクリプスとルクシャナの胸に向いていた。
エクリプスは知っていたが、ルクシャナも大きい……なんとなく居づらいプレセア。
一方、ハイセは少し離れたところで、焚火に当たりながらランプの明かりで本を読んでいた。
「メガラニカまで一週間……いろいろ、考えておかないとな」
魔王ロウェルギア。恐らく、一筋縄ではいかない。





