ポイント稼ぎ
ホテル最上階に部屋を取り、それぞれの部屋へ。
サーシャたちの部屋は三人部屋だが、十人部屋と言っても疑わない広さだった。
これまでの安宿とは違い、一つの部屋に三つの個室がありベッドも別々の部屋。そして大人数で会議をしても十分なメインルーム、ピアソラが大喜びしそうな風呂場。
家具、調度品の全てが豪華で、『夢と希望と愛の楽園』の高級宿に勝るとも劣らない部屋だった。
サーシャ、ロビンは驚きはしたが、シンシアほどではなかった。
「スッゴ~~~い!! こんな部屋、生まれて初めて~~~!! わっほー!!」
シンシアはベッドにダイブしたり、風呂場に駆け込んだり、窓から外を見たり、調度品を持ち上げてはジロジロ眺めたりと落ち着かない……まるで子供だった。
すると、部屋のドアがノックされ、レイノルドとタイクーンが入って来る。
「よう、今後の」
「レイノルドぉぉぉっ!!」
「うおおっ!?」
シンシアがレイノルドに飛びつき、その胸に思い切り顔を埋めた。
「ワタシ、人生で最高の日かもっ!! こんな豪華な部屋に泊れるなんて、考えもしなかった!! みんなありがと~~~!! ワタシを冒険に連れて来てくれて~~~!!」
「そんなことより、今後の話をだな」
「そんなこと?」
ギロリとタイクーンを睨むシンシア。タイクーンは数歩下がり「し、失礼した」と謝る。
しばし、シンシアはレイノルドに抱き着いたままだったので、レイノルドは肩をポンポン叩き、頭を優しく撫でてやる。
「な、シンシア。そろそろ話をしようぜ」
「あ、うん。えへへ……なんか、感極まっちゃった」
「その気持ちわかるぜ。オレらも、一泊ありえねえ金額の宿に初めて泊った時は興奮しっぱなしだったぜ。なあ、サーシャ」
「確かにそうだな。ふふ、懐かしい」
「サーシャってば『寝床さえあればどこでもいい』とか言って素直じゃなかったよね。まだハイセもいた頃だっけ」
「お、覚えていないな。こほん……とにかく、話をしよう」
メインルームのソファに座り、サーシャはアイテムボックスからお茶のポットを出そうとした。が、シンシアが言う。
「待って待って。ね、ね、このベル鳴らすとメイドさん来るみたい。食事、おやつ、欲しい物とか何でも用意してくれるって」
テーブルにベルがあり、魔界の文字で書かれていたのをシンシアが読む。
シンシアがベルを鳴らすと、数秒でドアがノックされメイドが入って来た。
タイクーンが「廊下には誰もいなかったが……」と言うがシンシアは無視。
「お茶とおやつを人数分。おやつは甘めの……ふわっとしたお菓子でお願いね!!」
「「「かしこまりました」」」
三人のメイドが全く同じ動作で一礼。
部屋を出て数十秒後、カートを押して入って来た。
タイクーンが「一分も経過していないぞ……」と言うがシンシアは無視。
見るからに高級なポット、カップでお茶を注ぎ、綿菓子、ドーナツのような菓子をテーブルいっぱいに用意した。
「おおお、すっごいね!! ね、サーシャ!!」
「ああ、美味しそうだな」
ロビンが目を輝かせ、ドーナツを手に取って食べる。
虹色のドーナツだった。色の違うリング状の食べ物で、色が違う部位の味が違う。甘かったり、果実の味がしたり、酸味があったりと、食べるだけで面白い。
シンシアも、ふわふわの綿菓子を食べ、ロビンと顔を見合わせニッコリ笑う。
「「おいしい~!!」」
「ごくり……わ、私もいただこう」
「オレも食うか。腹減ったぜ」
「……これから話をする前に、糖分を補給しておくか」
五人はお茶の時間を楽しむのだった。
◇◇◇◇◇◇
お茶が終わり、テーブルが綺麗に片付いたところで、レイノルドがアイアンランクに変わったカードをテーブルに置いた。
「今更だけどよ、カードが一枚しかねぇから、バラバラに分かれてポイント稼ぎするってのができねえな」
「仕方ないだろう。そもそも……後で知ったことだが、ボクたち五人で受付し、カードを手に入れただろう? その時から不正防止のために、ボクたち五人以外がこのカードを使ってもポイントが貯まらないようになっている。というか……そもそも、ボクたち五人以外に、このカードは使えない」
「え、そうなの? 知らなかったよ。さっすがタイクーンだね」
「先ほど、ホテルの受付で聞いたんだ。それと、一枚のカードで登録できる人数は五名までだ。つまり、一枚のカードで何人も登録し使うことはできない」
タイクーンはカードを取り、裏面の丸いマークに触れた。
すると、カードの表面に『30000』と数字が浮かんできた。
ロビンが顔を近づけてみる。
「なにこれ、こんな機能あったの?」
「ああ。この丸い部分に触れると、ポイントが表示される。今、このカードのポイントは30000ポイントだ。ちなみに……」
タイクーンは、財布から1000ルピ紙幣を一枚入れると、ポイントが『30001』になった。
「1000ルピで1ポイントか……アイアンランクには10000ポイントで昇格できる。つまり、10000ポイント貯めるには……ロビン、答えは?」
「ひゃ、ひゃくまん!!」
「一千万だろ。おいおい、三万ってことは、ここ一か月泊まるだけで三千万かかるのかよ。特に気にしねえで支払いしちまったぜ」
「ううう、いきなり暗算できないよ」
がっくり肩を落とすロビン。レイノルドが一瞬で答え、やや呆れる。
「おいタイクーン……アイアンランクの次は何だっけ」
「次はシルバー、その次がゴールド、最後がプラチナだ」
「……アイアンが一万ポイント。金額が一千万ルピだよな。シルバーの昇格は?」
「……十万ポイントだ」
つまり、一億ルピ。
サーシャがやや引きつった顔で言う。
「……タイクーン。こちらの資金は残りいくらある?」
「あと二千万ルピはある。が……全く足りない」
「お、おいおいマジかよ。あと八千万ルピ足りねぇのかよ!?」
「それだけじゃない。ゴールド、プラチナの昇格もある……はっきり言って、桁が違うぞ」
「「「…………」」」
サーシャ、レイノルド、ロビンが黙り込む。
シンシアが静かだと思ったら、金額を聞いて目を回してしまったようだ。
サーシャは言う。
「金でポイントを稼ぐのは現実的ではないな……」
「その通り。よって、稼ぐ方法は三つに絞られた」
タイクーンが指を三本立てる。するとロビンが言う。
「一つめ!! カジノで稼ぐ!!」
「正解だ。カジノがどういうルールで運営され、どのようなポイントシステムを取っているのか不明だが、ギャンブルである以上、稼ぐことは可能……だが、運が非常に絡むこと、さらに賭けるのは金ではなくポイントとなることから、負ければポイントが減る。これ以上資金を減らすことは得策ではないから、今ある30000ポイントを使ってやるしかない……よって、この案は三番目の候補だ」
タイクーンは指を折り畳み二本にする。
レイノルドが言う。
「二つ目は、中央平原の素材だろ」
「そうだ。地図を見る限り、王都から中央平原への道はある。そこで狩りをして、素材を手に入れ、町にある換金所でポイントに変えることができる。これは現実的だ。今はパーティー制度を取っているが、ハイセをリーダーに別チームを作り、狩りをしてもらえばいい。問題は……やはり、中央平原が危険ということだ。パシフィスではハイセたちですら三日しか滞在できなかった。万全の状態で、チーム全員で挑むのがベストということもある……これは二番目の案だ」
タイクーンは、人差し指を立てる。
サーシャが言う。
「三つ目……闘技場だな」
「そうだ。ホテルのラウンジでも聞こえたが、闘技場は稼げるらしい。だが……中央平原とは違った意味で危険な場所だ。ボクら五人の中だと、サーシャに戦ってもらうしかない。チーム戦などあればいいが……見てみないとわからないな」
「タイクーン。一番、現実的なポイント稼ぎはそれだろう? だったら、私は構わない」
「……そう言うと思ったよ。よし……では、闘技場をメインに稼ぐとしよう。さっそく闘技場の下見……と」
外を見ると、すでに日が傾き始めていた。
けっこうな時間、相談をしていたようだ。
サーシャは言う。
「今日はここまでにしよう。明日、闘技場に行くことにしようか」
「やったあ!! ね、ね、サーシャ、ここのホテルのレストラン行かない? おいしいお酒とか、おいしい料理とかあるみたい!! レイノルドもタイクーンも行こうよ!!」
「酒と言われちゃ断れねえな。おいシンシア、起きろ」
「う~ん……なんかすごいお金の話を聞いたような」
「食事などなんでもいい。さっさと済ませて、ボクは部屋で魔族の本を読む」
こうして、方針は決まった。
闘技場……そこで、ポイントを稼ぎつつ、プラチナランクを目指す。
サーシャは、窓の外を見て言う。
「闘技場か。ふふ……楽しみだ」
強者との戦いに、サーシャは胸を踊らせるのだった。





